デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第十三話『進撃の妹達』

「おお、ここが兄様の家でいやがりますかっ!」

 

五河家の前に辿り着くと、短めのポニーテールを振りながら某武偵学園ものの武偵殺しを思い出させるような口調で宣う。

自称・士道の妹、嵩宮真那。

胡散臭い事は確かなのだが真那について何かが頭の中に引っかかっているような気がしてならなかったのと。

路上で士道に抱きついたあと、その場で泣きながら、自分がどれだけあいたかったかと切々と語り出したため、仕方なく連れてきたのだ。

無論、琴里にも許可は獲てある。

っというより真那を五河家に連れてくるように言ったのは他でもって無く琴里なのである。

 

「しかし驚いたぞ。

シドーにもう一人妹がいるとはな………」

 

と、十香が、真那をまじまじと見つめて言う。

 

「俺には全く記憶に無いがな…」

 

「そうなのか?だがシドーに良く似ていると思うのだが………」

 

「当然です!妹でいやがりますから!」

 

十香の言葉に真那が自信満々と言った表情でそう言った。

だが真那はすぐに複雑そうな表情で士道と十香を見る。

 

「しかし兄様…。

真那はあまり感心しねーです」

 

「ん?何をだ?」

 

「決まってやがります!

鳶一義姉様と言うものがありながら、他の女性と関係を持つなど………」

 

っと士道の問いに真那がそう答える。

 

「ちょっと待てぃ!!」

 

自分のこめかみを押さえながら士道はそう叫びを上げる。

 

「?どうかしやがりましたか」

 

「つっこみどころが多すぎるわ!

っと言うかお前、折紙と知り合いだったのか?」

 

「ええ、まあ。

ひょんなことから」

ごまかすように目を泳がせながら真那は言う。

 

どこで接点を持ったねかは非常に気になるが、今は 非常に気になるところだが、今はもっと突っ込むべきところがある。

 

「その義姉様ってのは何だ?」

 

「いや…私もその呼び方に抵抗がなくはねーですが、将来的にそうなるからと………」

 

「そんな予定は一切ございません」

 

「そ、そうなのですか?」

 

スッパリと言い切った士道に真那は困惑した表情を浮かべる。

 

「しっ、しかし兄様には女たらし疑惑が…」

 

「女たらし?なんだそれは?」

 

十香が首を傾げて食いついてくる。

 

「それは―」

 

士道が弁明に入る前に、真那が十香に向かって声を発する。

 

「単刀直入に伺います。

十香さんに桜さんでしたよね?

あなた方は兄様とお付き合いしていやがられるのですか?」

 

「ちょっと待て、真那」

 

士道は顔を赤くして二人の間に話って入ろうとする。

だがそんな士道を無視して、真那は十香と桜に目を向ける。

 

「………十香さん、桜さん?兄様とデートなどをしやがったことは?」

 

と真那が士道の脇から顔を出して、十香と桜に質問を投げる。

 

「おお、あるぞ!」

 

「あるよー」

 

二人の言葉に真那は士道を睨む。

 

「…………」

嘘では無いために否定できない。

士道は冷や汗を浮かべて後ずさる。

と、真那が頬を朱に染めて恐る恐るといった様子で、再度確認する。

 

「お二人ともまさか…きっ、キスも既に」

 

「ん、したぞ?」

 

「うん、したけど」

 

「……っ!!」

 

二人があっさりと答えると真那が目を見開く。

 

「ふ、不潔です!

兄様の変態ジゴロ!」

 

「シドー、ジゴロとは何だ?」

 

十香が興味津々といった様子で問いかける。

そんな十香に士道は「女たらしの事だ」と答えると十香の背を押して隣のマンションの前に移動させた。

 

「ぬ、シドー、なぜ押すのだ?」

 

「少し話、兄妹水入らずで話したいことがあるんだ。

桜と一緒に一旦、自分の部屋に戻ってくれるか?」

 

「うむ、心得た!

桜、行くぞ」

 

「うん、士道君またねー」

 

っと、士道の言葉に頷くと手を振りながらマンションへと桜と共に入って行く。

 

「随分と好かれていやがるようですね?」

 

真那が半眼を作りながらそう言うが士道は聞こえぬ振りをしながら、五河家の門をくぐる。

そして、ドアノブに手をかけて玄関を開ける。

とー

 

「―おかえり、おにーちゃん」

 

玄関で待ちかまえていた私服の琴里が『おにーちゃん』の部分に力を込めて言った。

客人をもてなすために、《フラクシナス》で先回りしていたのだ。

 

「おう、ただいま」

 

そんな琴里に小さく手を上げて返す。

琴里はワザとらしく、士道の左隣の真那に視線をやって声を上げる。

 

「そちらの方は?」

 

「ああ、ちょっとそこで出会ってな。

なんでも」

 

定形通りの質問に答えようとする士道。

その言葉を真那が引き継ぐ。

 

「お家の方でいらっしゃいやがりますか!?うちの兄様がお世話になっていやがります!

あっ、申し遅れやがりました。

私、嵩宮真那と申します!兄様の妹です!」

 

満面の笑みで言う真那に琴里が怪訝な表情を浮かべる。

 

「まあ、とりあえず入って。

詳しい話を聞きかせてちょうだい」

 

「はい!」

 

真那が元気よく返事をして、琴里のあとをついていった。

 

『やっかいな事になりそうですね…』

 

『ああ…嫌な予感しかしない…』

 

頭に響く《オーディン》の声に士道は答えると、靴を脱いでリビングへと向かった。

すると既にテーブルには茶と茶菓子が用意されており、向かい合ったソファにそれぞれ琴里と真那が腰掛けている。

 

「―さて、と。じゃあ話を聞きたいんだけど」

 

「はい!」

 

琴里の言葉に、真那が元気よく返事をする。

「真那、っていったかしら。

あなたは……自分が士道の妹だと言うのよね」

 

「その通りです」

 

真那が深々と頷く。

琴里は咥えていたチュッパチャプスの棒をピンと立てながら真那の反応をうかがうように言葉を続ける。

 

「私は五河琴里。

私も、士道の妹なのだけれど」

 

「………?」

 

琴里の言葉に真那は一瞬首を傾げ―

 

「ということはまさか、姉様………!?」

 

「違うわっ!」

 

「あ、これは失礼。

―ごめんね琴里。

お姉ちゃんてっきり」

 

「妹でもないわよ!?」

 

琴里が司令官モードでは珍しく大声をを出す。

士道が目をやると、琴里は小さく咳払いをした。

 

「いやはは、てっきり私の記憶にねー姉妹がいやがるのかと思いました」

「まったく…」

 

篭手がため息混じりに頭をかく。

随分とペースを乱されているようだった。

琴里が半眼を作り真那を睨めつける。

普通に考えて、突然「私はあなたの妹です」

なんて言われても信じられる筈がない。

だが士道に関してはそるはあり得ないとは言い切れないのだ。

少なくとも、士道には琴里以外に妹がいたという記憶がない。

だが―士道は、この五河家の本当の息子ではない。

幼少期に実の母親に捨てられて以来、五河家の子供として育てられられた。

故に、真那の言葉を完全に嘘や妄言だと決めつけられなかったのだ。

それにしても、士道でさえ記憶が曖昧な幼少期に離れ離れになったことを、年下の真那が覚えているというのも些か信じがたいものがあるが。

 

「すまん、俺は君の事を覚えて無いんだが………」

 

「無理もねーです。

実は私も昔の記憶がすぱっとねーんです」

 

申し訳無さそうに答えた士道に、真那は手元に置かれた紅茶を一口飲んでからそう答えた。

 

「昔のってどれぐらいだ?」

 

「そうですね、ここ二、三年の事は覚えてやがるんですが、それ以前は…」

 

「二、三年って………じゃあ何で士道が自分の兄だなんてわかるのよ」

 

琴里が問うと、真那が胸元から銀色のロケットを取り出し、中に収められたら色あせた写真を見せる。

写真には真那とみられる少女と士道そっくりの少年が写っている。

 

「………」

 

士道は驚きの表情を見せる。

一方、琴里は怪訝な表情だ。

 

「ちょっと待ってよ。

これ、士道が10歳くらいじゃない?

その頃にはもう、家に来てたはずでしょ?」

 

「む?確かにそうか」

 

言われて頬をかく。

だが、写真の男の子が士道にしか見えないのもまた、事実だ。

「そうなのですか?不思議ですねぇ」

 

「不思議って………他人の空似なんじゃないの?

確かに………似てはいるけど…」

 

「いえ、間違いねーです。兄様は兄様です」

「………なんでそう言い切れるのよ?」

 

琴里が問うと真那は自信ありげに胸を叩いた。

 

「そこは兄妹の絆で!」

 

「………」

 

琴里は話にならないと言った調子で肩をすくめ、安堵したように吐息を漏らした。

しかし真那は、感慨深げに目を伏せて言葉を続けた。

 

「いや、自分でも驚いてやがるのです。

兄様を見たとき、こう、ビビッときたのです」

 

「何それ?安い一目惚れじゃあるまいし」

 

「はっ、これは一目惚れでしたか。

―琴里さん、お兄さんを私に下さい」

 

「やるかッ!」

 

琴里は反射的に叫んだ後、はっとした様子で咳払いをした。

 

「とにかく、よ。

そんな理由で妹だなんて言われても困るわ。

第一、士道はもう家の家族なの。

それを今更連れて行こうだなんて―」

 

「そんなつもりはねーですよ?」

 

「え?」

 

あっさりと答えた真那に、琴里が目を丸くする。

 

「兄様を家族として受け入れてくれやがったこの家の方々には、感謝の言葉もねーです。

兄様が幸せにくらしているのならば、それだけで真那は十分ですー

それにこんなに可愛いらしい義妹さんがいやがるようですし」

 

いって、真那がにっと笑う。

琴里は頬を染め、居心地悪そうに目を逸らした。

 

「な、何よ、そんなこと言ったって―」

 

「まあ、もちろん」

 

っ真那が琴里の言葉の途中で口を開く。

「実の妹にはかなわねーですけども」

 

「………」

 

瞬間、空気にヒビが入るような音が聞こえた気がした。

琴里は真那の言葉に顔の筋肉を収縮させながら、やたら引きつった笑みを浮かべている。

 

「へぇ…そうかしら?」

 

「いや、そりゃそーでしょう。

血に勝る縁はねーですから」

 

「でも、遠くの親戚より近くの他人とも言うわよね」

 

琴里が言った瞬間、今度は始終にこやかだった真那のこめかみが小さく動いた。

そして一拍おいたあと、テーブルに手を突く。

 

「でもほら? やっぱり最後の最後は、血を分けた妹に落ちて来やがると言うか。三つ子の魂百までって言いやがりますし」

 

「でもあれよね、義理であろうと、なんだかんだで一緒の時間を長く過ごしてるのって大きいわよね」

 

などと二人は際限ない口喧嘩を開始する。

 

『はぁ…』

 

っと心の中で大きくため息をつくと士道は二人を止めるために口を開く。

 

「二人とも…」

 

何か怖いものを士道から感じたのか士道を見る。

そのまま口を開き低くドスの利いた声で言ったのだ。

 

「少し…頭冷やそうか?」

 

「「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」」

 

どこぞの空戦魔導師のように言った士道の表情が余程恐ろしいものだったのか二人はリビングの隅に退避してお互いに抱き合いながらガタガタと震えるのであった。

 

 

 

「あっ、そろそろ戻りやがらないと…」

 

先ほどの士道の言葉に震えていた真那と琴里であったが、今は大分落ち着いている。

 

「ん?何か約束があったのか?」

 

「いやいや、私寮で生活してやがるんですよ。

今から戻らないと門限に間に合いやがらないのでー」

 

その言葉に士道は時計を見ると既に七時を回ろうかと言うところだ。

士道の方もそろそろ夕飯の準備をしないと十香達もお腹を空かせてるだろう。

 

「おう、また何時でも来いよー」

 

「………」

 

「はい、ありがとう御座います兄様ー」

士道の言葉に笑顔を浮かべて去っていく真那。

そんな彼女に琴里は少し睨むような視線を向けていたが先ほどの士道の恫喝が利いたのが何も言わずに去りゆく真那を見つめていた。

 

 

 

 

 

聞き慣れたチャイム音と共にクラスメイトたちが自分の席へと戻っていく。

 

「んっ?」

 

そんな中、早めに席についていた士道は疑問の声を上げる。

チャイムが鳴ったのに狂三の姿が教室になかったからだ。

十香も同じことを思ったのか辺りを見回している。

 

「狂三のやつ、転校二日目で遅刻とは」

 

と、十香がそう言うと。

 

「―時崎狂三はもう学校には来ない」

 

「―ッ!」

 

士道の左隣から折紙が述べた言葉に士道は言葉を無くす。

それは即ちASTによって排除されたと言うことにだ。

 

「ぬ?どういう意味だ?」

 

折紙の言葉に十香が首を傾げる。

そこで教室の扉が開き、出席簿を両手で抱えるように持ったタマちゃんが入ってくる。

すぐさまに学級委員が、起立と礼の号令をかける。

 

「……」

 

折紙の言葉をきにかかるが、号令をむしするわけにもいかない。

士道は皆と一緒に礼をして着席をする。

 

「はい、皆さんおはよぉございます。

じゃあ出席とりますね」

 

言ってタマちゃんが出席簿を開き、生徒の名前を読み上げていく。

 

「時崎さーん」

 

そしてタマちゃんが、狂三の苗字を呼ぶ。

だが、返事は無い。

 

「あれ、時崎さんお休みですか?

欠席するときにはちゃんと連絡を入れてくださいって言っておいたのに」

 

タマちゃんが頬を膨らせながら、出席簿にペンを走らせようとする。

と、その瞬間。

 

「―はい」

 

教室の後方から、よく通る声が響いた。

 

「狂三?」

 

後ろを見て、目を見開く。

そう、教室後部の扉を静かに開き、そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべながらちいさく手を上げた狂三だった。

 

「もう、時崎さん。

遅刻ですよ」

 

「申し訳ありませんわ。

登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

 

「え?だ、大丈夫ですか?保健室に行きます………?」

 

「いえ、今はもう大丈夫ですわ。

ご心配をおかけしてすみません」

 

狂三は頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席に歩いていった。

 

「…」

 

士道は無言で折紙の方を見る。

折紙が微かに眉根を寄せて、狂三の事を凝視していたからである。

表情にはそこまで劇的な変化があるわけではない。

だが―士道には何となくわかる。

折紙は間違いなく驚愕している。

先日、一緒にお化け屋敷に行った時のように恐怖に似た感情を抱いている。

まるで―幽霊でも見たように。

『AST隊員である折紙が狂三の死を目撃していない筈がない。

だからこそ、狂三が来ないと断言したのだろう』

 

『ですが時崎狂三は実際に学校へと五体満足で登校してきています』

 

《オーディン》と念話で情報を整理しながら士道はホームルームが終わるのを待つ。

恐らく、《フラクシナス》でも狂三の死は確認されているだろう。

っとなれば恐らく、ホームルームが終わった辺りで電話がかかるはずだ。

 

「―はい、じゃあ連絡事項は以上です」

 

そんな事を考えてる内にタマちゃんがホームルームを終えて教室を出て行く。

それと同時にポケットに入れていた携帯電話が着信音を響かせ始める。

 

「おう、琴里だな」

 

士道は画面を確認せずに携帯に出ると教室を出て廊下を歩き始める。

恐らく、琴里が話す内容は狂三の事だろう。

ならば、その当人がいる場所で話をするのはマズいと感じたからだ。

 

『士道、大変な事になったわ』

 

「狂三の事だろ?今日、折紙から聞いた…」

 

そのまま男子トイレの個室へと入り携帯越しの琴里にそう答える。

 

『なら話は早いわね…。

まさかこんな事態が起こるんてね』

 

「残念な事に事態はそう単純に片付けられる物では無い」

 

『単純って、あんた…』

 

電話越しに、何か文句を言いかけた琴里に士道は言葉を継ぐ。

 

「時崎狂三は五体満足に学校へ登校してきたんだよ」

 

『……見せたいものあるから昼休みになったら物理準備室へ向かって』

 

士道も琴里達と今後の事について話すつもりだった。

故に―士道は琴里の言葉に頷いたのであった。

 

 

午後十二時二十分。

四時間目の授業終了を告げるチャイムが鳴ると士道は十香に一言断りを入れていた物理準備室へと向かった。

断りを入れる際に十香が寂しそうな声で士道の名を呼んだりしたので罪悪感を覚えたが士道は身体強化の魔法を使用して物理準備室へとたどり着いた。

恐らく、時間にして一分どころか10秒も経っていないだろう。

扉をノックすると、まるで、待ち構えていたかのように扉が開いた。

 

「来たわね」

 

中学校の制服姿の琴里が扉から顔を出す。

黙って来たのか胸には来賓許可証が無く、足元も中学校の上履きだ。

 

『まっ、放課後ならまだしも、こんな時間に中学生がいるのも問題だしな』

 

っと心の中で呟きながら物理準備室の奥へと顔を向ける。

部屋の奥にある回転椅子には《ラタトスク》解析官兼都立来禅高校物理教師であるところの村雨令音が座っていた。

 

「………ん、来たね、シン」

 

いつものごとく名前と全く関係ないあだ名で士道を呼び、令音が自分な隣の椅子を指差す。

隣に座れと言うことだろう。

士道はその指示に従い、椅子に腰掛ける。

次いで琴里が、士道を挟むように隣に座る。

………二ヶ月前のギャルゲー訓練と完全に同じ配置だ。

 

「それで?見せたいものって?」

 

士道が問うと、琴里が令音の机の上のディスプレイを示した。

それに合わせて、令音が手元に見覚えがある画面が写し出された。

アニメチックな美少女と共に、画面上部に、『恋してマイ・リトル・シドー2~愛、恐れていますか~』とタイトルロゴが表示される。

言うまでもなく二ヶ月前にプレーしたギャルゲーの続編だ。

 

「………」

 

士道は半眼になって令音を見る。

 

「………ああ、間違えた。

こっちだ」

 

無言の士道に令音が再びマウスを操作した。

それと同時に動画ソフトの起動画面に切り替わる。

 

「昨日、雷華が人工衛星をハッキングしてる際に偶然見つけたものだ」

 

令音がそう言うと同時に狭い路地裏に、なぜか狂三と、ポニーテールの少女が向かい合って立っている。

士道の記憶が間違いでなければ少女の装いは嵩宮真那なそれだった。

更に動画を良く見ると折紙達―ASTの影も見ることが出来た。

 

『だが何故、真那が…』

 

そう思う士道だが既に予想はついていた。

だが、それを認める事が怖かったのだ。

妹―嵩宮真那が精霊と相対する者。

即ち―魔導師であることを認めるのを。

彼女が精霊を傷つける所を見たくはなかった…。

だが…しかし、画面の中で真那はその身白い機械の鎧を身に纏っていた。

他のAST隊員のものとは少し形状が異なるが間違いなくワイヤリングスーツだ。

それに応ずるように狂三が両手を広げると、足下の影が這い上がり霊装を形づくる。 深い闇を思わせる黒血のような赤い光の膜で彩られたゴシックロリータ衣装だ。

髪は左右付近等に括られており、時計長針と短針を思わせた。

霊装を展開した、狂三が右手を頭上に掲げる。

すると再び、影が彼女の身体を這い上がり、右手に収束していく。

だが、そこで狂三の身体が宙に舞った。

真那が両肩のユニットから光を放ち、狂三の腹を撃ち抜いたのだ。

―――狂三が身を震わせる。

だが、画面の中の彼女の表情は恐怖に怯えていると言うよりも、甲高い哄笑を上げているようだった。

あとは、数秒で片が付いた。

狂三が反撃を使用とする度に、真那の攻撃が狂三の身体に突き刺さる。

そのたびに、それほど広くない路地に鮮血が撒かれる。

そして―地面に仰向けに横たわり、動かなくなった狂三の首に、真那が光の刃を突き立てた。

真那に攻撃を与える暇すらなく。

狂三の命は摘み取られた。

余りにも凄惨な光景に士道は眉を潜め、画面を見る。

―画面の中の真那はは一仕事終えたと言った様子で首を回す。

それと同時に身に纏っていたCR‐ユニットが消え去り先ほどまでの装いに戻った。

まるで慣れているとばかりに狂三の死に無関心の真那に士道は憤りに似た感覚を覚える

「見ての通りだ。昨日、時崎狂三はAST~嵩宮真那に殺害された。

完全に、完璧に、一部の疑いを抱く余地すらなく、その存在を消しつぶされた」

 

「だが、狂三は今日、普通に学校へ来ていた」

 

士道の言葉に令音と琴里が同時に腕組みをした。

 

「………ああ、我々もそこがわからないんだ」

 

「士道から狂三の事を聞いたときはとうとう頭がおかしくなったかと思ったわ」

 

琴里が冗談めかして言う。

だが士道はそれに反応を示す余裕もなかった。

顎に当てて必死に考えを巡らせるもわからない。

「《オーディン》はどう思う?」

 

『不明、情報が少なすぎます』

令音の言葉に《オーディン》が答える。

「こんな時に苺さんがいてくれたらなぁ…」

 

 

「苺?誰よそれは?」

顎に手を当てながら呟いた士道に琴里が尋ねる。

 

「ああ、俺の魔法の使い方を教えてくれた師匠だ。

今は行方不明事件を調査してて連絡が付かんし…考えていても仕方ない。

明日はちょうど開校記念日で学校が休みからな。

狂三をデートに誘おうと思う」

 

「ふむ…殊勝な心がけだな」

 

っと令音が感心したように言う。

 

「狂三の事は折紙を通して真那にも伝わってるでしょうからね…。

自称とはいえ自分の妹ですからね。

その手をこれ以上汚してほしくないんですよ。

だから…」

 

次に狂三が殺される前に。

次に真那が殺す前に。

 

『―狂三をデレさせる』

そう、自分の心に強く誓う士道であった。

 

 

 

帰りのホームルームの後、士道は席を立ち、狂三の元へて赴く。

その際、右に十香のもじもじした視線を、左に折紙の絶対零度の視線を向けられた気がするが、無視して足を進める。

 

「狂三、少し良いか?」

 

そう言ってから、廊下の方を指で示し、歩き出すと狂三は大人しくあとをついてきた。

ひとけの無い場所へと歩いてから、狂三と向き直る。

「ああ、いきなりで悪いが狂三………明日、暇か?」

 

「?ええ、大丈夫ですけど?」

 

「もし、良かったらだけどこの辺りを案内しようか………?」

 

「え?それって………」

 

「平たく言うと…デートだな」

 

士道がそう言った瞬間、狂三が顔を明るくした。

 

「本当ですの!?」

 

「あ、ああ…どうかな?」

 

「もちろん。光栄ですわ」

 

「なら、明日の十時半に、天宮駅の改札前で待ち合わせな」

 

「ええ、楽しみにしてますわ!」

 

狂三が満面の笑みで言ってくる。

士道は「また明日な」と軽く手を上げて、教室へと戻っていった。

と、教室のドアを開けると、そこに折紙が立っていた。

 

「……い………っ!?」

 

「―彼女と何を話していたの?」

 

鋭い視線で士道を見つめて、静かで抑揚のない声で問うてくる。

 

「な、何でもない」

 

「答えて。これは非常に―」

 

これ以上、しつこくつき纏われては厄介と判断した士道は折紙の脇をすり抜けて自分の机まで走り鞄を手に取る。

 

「すまん!先を急ぐからまたな折紙!十香!帰るぞ!」

 

「ぬ?う、うむ!」

 

言って、追求を受ける前に逃げ去る。

十香も何とか反応して士道のあとについてきた。

しばらく走り、折紙が追ってきていないことを確認してから速度を緩める。

 

「いきなりどうしたのだ、シドー」

 

「いや…急がせてすまん…帰ろう」

 

「ん、うむ…」

 

十香が、どこか歯切れ悪く頷く。

不思議に思わなくもないが、あえて追求する程のことでは無いだろう…。

士道は廊下を進むと、昇降口で靴に履き替えて、学校の敷地を出て行った。

と、その道中。

 

「あ、ああああああああのだなシドー!」

 

珍しく何も喋らずにいた十香が、妙に落ち着かない様子で声をかけてきた。

 

「ん?どうした、十香?」

 

「っ、あ、ああ。

そのだな」

 

そこで十香は鞄の中に手を突っ込み、何やらチケットらしきものを二枚、取り出した。

 

「し、シドー、もしよかったら………なのだが、あ、明日………デェトに行かない…か?」

恥ずかしそうにチケットを差し出す十香。

 

明日は狂三との先約があるのだがここで無碍にするのは男が廃る。

 

「OKー」

 

そう言いながらチケットを掴み取る。

 

「お、おお!」

 

すると十香が顔を明るくて走っていく。

その途中で士道の方を振り向くと。

 

「明日!朝十時に駅のパチ公前で待ち合わせだ!良いな!!」

 

っと叫ぶと目にも止まらない速さで走り去って行った。

 

「さて…なかなかに大変なことになりそうだな…」

 

そう言いいながら〈フラクシナス〉のサポートを頼むべく携帯を取り出した。

そこで携帯電話が震え始める。

画面を見ると見知らぬ番号からの着信だ。

少々不審に思いながらも電話に出ると、電話口から静かな声が聞こえてきた。

 

『もしもし』

 

「その声は折紙か?」

 

『そう』

 

折紙が短く肯定を示す。

士道は頬に一筋の汗を垂らした。

 

「俺、お前に番号教えたか?」

 

折紙は答えずに、しばしの無言の後、言葉を続ける。

 

『明日の午前十一時。

天宮駅前広場の噴水前で待っている』

 

「へっ?」

 

『デート、絶対に来て』

 

それだけ言うと、電話は切られてしまった。

 

『前途多難ですね…マスター』

 

などと言う《オーディン》に頭が痛くなるのを感じながら士道は電話をかけ始めた。

相手は言うまでもなく琴里である

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