デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第十四話『トリプルデート』

『スケジュールを確認するわよ』

 

っとインカムから聞こえてくる琴里の声に士道は頷く。

 

『午前十時に十香と落ち合い、東天宮の水族館。

途中に理由をつけて抜け出す。

外へ出たら〈フラクシナス〉で回収。

十時三十分に改札前に狂三と合流、移動。

十一時には駅前に戻り鳶一と合流…だったな』

 

考えるだけで疲れそうなタイムテーブルであるが何とかこなすしかあるまい。

結局、士道は十香と折紙からの誘いを断ることが出来ずに、トリプルブッキングデートを強行することになってしまった。

本来ならば狂三の合流を第一に考えるべきだが約束を反故するわけにはいかない。

『さて…そろそろ時間よ。

―私たちの戦争を始めましょう』

 

「おう」

 

既に士道は、天宮駅東口を出てすぐの場所にある犬の銅像前に立っていた。

正式名称は別にあるが、あまりにも渋谷駅前の忠犬とそっくりなために、近隣住民から親しみと嘲りを込めてそう呼ばれている。

とはいえ、駅を出てすぐという場所の為に本家同様に待ち受けスポットとして機能していた。

周辺には士道以外にも、結構な数の人間がいる。

そして、その人の波を割るようにして、聞き慣れた十香の声が士道の鼓膜に届く。

 

「シドー!」

 

声の方に振り向き、目をやる。

そこには眩しいほどの満面の笑みを浮かべた十香が立っていた。

装いは、いつもの制服ではなく。

薄手のチュニックとショートパンツの組み合わせだ。

これがまた誂えたように似合っている。

 

「ふむ…」

 

『十香から、何を着ていけば良いかと尋ねられたのだ。

悪くないだろ』

 

悪くないどころかとてもイイ。

一瞬ではあるが目が釘付けにされた。

 

「シドー?」

 

「すまん、余りも似合ってたから一瞬、見とれてしまった。

可愛いぞ十香。」

 

「な………っ」

 

士道の言葉に十香は顔を真っ赤にする。

あたふたと手や首を動かして、踵を返して歩き出す。

 

「い、いいから行くぞ!」

 

「おう、って場所は解るか?」

 

士道がそう言うと十香が明日を止める。

どうやら場所にわかってないらしい。

 

「確か、水族館は天宮クインテットだったな…」

言って、十香の進んでいる方向とは逆の道を指差す。

すると十香は身体を回転させて、士道の後ろにピッタリと張り付く。

先に進めとの事だろう。

士道が苦笑すると歩みを進める。

と、そこで。

 

「…………ッ!」

 

視界の端に見覚えがある人影が映る。

士道の目に異常なければそれは折紙だった気がする。

待ち合わせまでの時間は十一時だが今は十時五分。

随分と気が早いと思いながら士道は歩を進める。

四糸乃の霊力を吸収した際に会得した認識阻害の魔法を発動させているとはいえヒヤヒヤしながら折紙の視界を脱げる。

 

「そういえばシドー

水族館とは何なのだ?」

 

「魚が泳いでるのを見て楽しむんだよ。

まっ、百聞は一見にしかずだ。

とりあえず行こう」

 

「む……うむ、そ、そうだな」

 

頷く十香を引き連れて、道沿いを進む。

程なくして、二人は目的地の天宮クインテットへとたどり着く。

昨年に完成したばかりの複合商業施設だ。

直ぐ近くに同グループが経営するホテルや室内遊園地、映画館、ショッピングモールが並んだ天宮市の新たな観光地だ。

平日にもかかわらずそこには数多くの人影が見受けられた。

 

「十香、はぐれるなよ」

 

「う、うむ」

 

言いながら十香の手を繋ぎ、水族館へと向かう。

受付でチケットを手渡し、薄暗い館内へと足を踏み入れる。

すると

 

「な………っ、なんだこれはっ!」

 

繋いでいる手が震えると同時に十香が館内に響き渡るような声を発する。

周囲にいた客が一斉に士道と十香に視線を注ぐ。

 

「十香。

ここでは静かに」

 

しーっと唇に人差し指を当てるようなジェスチャーを士道は取る。

 

「!う、うむ…すまん。

だがシドー、これは………凄いぞ」

 

少し小声になり、十香は顔を上げる。

館内は一面ガラス張りになっていて大小無数の魚たちが泳ぎ回っていた。

士道ですら思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどのスケールだ。

十香が驚くのも無理はない。

 

「これが全て魚か…」

 

「ああ、そうだ。綺麗なもんだろ?」

 

「う、うむ。

とても綺麗だ………」

 

言いながら十香と士道の繋いでいた手がほどける。

そのままフラフラと十香は歩いていき、大きなガラスの壁に両手をつける。

その目の前を、小さな魚の大群が横切る。

 

「おお…」

 

十香が目を円くして、魚群を目で追う。

その姿が妙に可愛くて士道は思わず頬が緩むのを感じた。

 

「し、シドー、もっと奥まで行ってみよう!」

 

「ああそうだな…」

 

その時、右耳に装着していたインカムから警戒なアラーム音が響く。

狂三との待ち合わせ時間である。

 

『士道…時間よ』

 

「あいってっ!」

琴里の合図と共に士道は横腹を押さえてうずくまる。

 

「シドー?どうしたのだ?」

 

そんな士道に怪訝な表情を浮かべて十香が近づいてくる。

 

「ああ…すまん。

苺さんとの修業時代に出来た腹の傷が疼く…。

すまんが先に行っててくれるか?」

 

「う、うむ」

 

士道の言葉に十香が心底心配したような表情で見つめてくる。

 

「大丈夫。

できるだけ早く戻るから、魚でも見ててくれ!」

 

言って、腹を押さえて歩き出す。

角を曲がって、十香の視界から外れた辺りで姿勢を直し、全速力で走り出した。

 

 

 

「待たせたな………」

 

士道が天宮駅の東口改札前にたどり着いた時には、既にそこに狂三の姿はあった。

喪服のような漆黒のゴスロリ風衣装だ。

 

「いいえ、わたくしも今来たところですわ」

 

言って狂三がにっこりと微笑む。

 

「すまん、少し遅れた」

 

「うふふ、そんなに急がれなくても大丈夫でしたのに」

 

事実、士道が遅れた時間は一分程度だ。

《フラクシナス》を通ってショートカットした後、身体強化を使って飛ばしてきたのだから。

 

『―さ、今日はこれが本番よ。

しっかりね』

 

琴里の言葉に士道は軽くインカムを小突いて了解を示した。

 と、狂三が頭を下げてくる。

 

「今日はお誘い頂きありがとうございます。

とても嬉しいですわ。

――それで、まずはどちらへ行かれますの」

 

「おう、それはだな…」

士道は昨日に考えていた場所へと案内した―。

 

「わぁ―」

 

っと嬉しそうな表情を浮かべて狂三はその衣装を身に纏い、くるりと一回転する。

現在の狂三の装いは黒の生地に赤の染料で朝顔が描かれた浴衣である。

彼女の艶やか黒髪と相まって彼女の妖艶さをより一層に引き出していた。

 

「まだ、夏までは早いけどな………」

っと士道は苦笑を浮かべる。

 

「ですが、凄く嬉しいですわ」

両手を合わせて言う狂三に思わず、心臓が跳ね上がりそうになる。

 

『やばい…可愛いすぎる』

 

十香や四糸乃、桜、雷香…。

彼女達とはまた違う可愛らしさに思わず言葉を失う。

 

「士道さん?」

 

そんな士道を狂三は疑問に思ったのか声をかける。

 

「すまん…その狂三があまりにも可愛いかったから見惚れていたんだ…」

頬を掻きながらながら言う士道に狂三が頬を赤くする。

っと、そこで琴里からインカムに通信が入る。

『士道、時間よ。

………本当ならば狂三に注力しなければならないのだけれど、待ち合わせに遅れて探し回られても面倒だわ。

鳶一折紙の下へ向かってちょうだい』

 

『了解―』

 

そう言うと士道は先ほど、十香にしたのと同じような言い訳をしつその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってすまん折紙」

 

時間丁度に到着した士道に折紙はいつもの如き無表情で士道を見つめて口を開く。

 

「問題ない。私も今来たところ」

 

色々と突っ込みたい衝動を士道は我慢する。

 

「でっ?今日はどこへ行くんだ?」

 

「映画。

チケットを先に渡しておくから無くさないで」

 

そう言いながら折紙がチケットを一枚、士道に手渡す。

場所は恐らく、ここから一番ちかい天宮クインテットだろう。

いくら認識阻害を使っているとはいえ、精神がすり減りそうな気分である。

だが、嘆いてもいられないとばかりに士道は折紙に向き合う。

 

「じゃあ、行くか?」

 

士道がそう言うと折紙は頷く。

そのまま二人は並んで歩き始める。

 

「……」

だが不意に折紙が無言で士道の腕に自分の腕を絡ませて、身を寄せてきたために士道は思わず硬直する。

 

「何故、腕を組む?」

 

「駄目?」

 

っと、いつもの無表情な瞳が上目遣いに士道を見つめる。

 

「駄目…ではないが…」

 

歩く度に柔らかい感触が腕に当たり、目を泳がせる。

妙に時間が長く感じながら十香と同じルートを辿り、天宮クインテットの敷地内へと到着する。

と、同時に折紙が水族館の方向へと歩き始める。

 

『チケットに書かれていた上映時間までまだ時間があるために、水族館の隣のレストランで食事をするものかと…』

 

っと言う《オーディン》からの声を聞きながら士道は折紙と店へと入る。

既に席を予約していたらしく、折紙が名を告げると窓際へと案内された。

料理の方も既に予約をいれてあるらしく、ウエイターは飲み物の注文だけを取って去っていった。

 

「なあ折紙、今日は何で俺をデートに誘ったんだ?」

 

ウエイターが立ち去るのを確認した士道は折紙に尋ねる。

 

「今日は、出来るだけ一人にならないで欲しかった」

 

「狂三の事があるからか?」

 

士道の言葉に折紙は頷く。

 

「時崎狂三は今までに一万人以上の人間を殺している

これ以上、彼女に関わるとアナタも危険…」

 

「…つっ。

だがそれは敵意の感情ばかりを向けられたからだろ」

 

狂三が空間振以外で人を殺している事に士道が抱いた感情は驚きでもなければ怒りでも無い悲しみの感情だ……。

もし…十香に敵意の感情ばかりを向けられていたら、狂三のようになっていたかもしれない。

もし…士道が狂三ともっと早く出会っていたら…。

そんなIFばかりを考えてしまう。

 

「お待たせしました」

 

と、そこでウエイターが料理を運んできて、慣れた手つきでテーブルの上に置き、簡単な料理の説明をしてから、伝票を置いて去っていく。

 

「って、これから食事するときに話す内容じゃないな食おう」

 

 

その言葉に折紙は頷き、二人は料理を口にし始めた。

出された料理は魚介類がふんだんに入ったペスカトーレで味はかなり良かった。

 

『士道、十香が不安がっているは。

一旦戻ったあげて。

そこからなら歩いていけるわよね?』

そして、料理を食べ終えた後に、右耳のインカムから聞こえた琴里の声にインカムを小突くと、先ほどと同様の言い訳をしてその場を跡にした。

 

入り口で半券を提示し、水族館へ再入場すると、入り口から近いエリアに、十香を見つける事ができた。

不安そうな表情で誰かを捜すようにしきりに辺りを見回している。

 

「十香!」

 

士道が近づき、声をかけると、十香は曇っていた表情を明るくした。

 

「シドー!だ、大丈夫だったか?」

 

「おう、なんとかな」

 

士道そう言うと十香は心の底から安心したように息をついた。

そんな十香の姿に良心が痛むのを感じる士道。

と、そこで十香のお腹が可愛らしい音を立てた。

 

「ぬ…むう」

 

十香が恥ずかしそうに顔を伏せる。

そんな彼女に士道は思わず苦笑を浮かべる。

どうやらお腹が減ったらしい。

だが、それも無理はない。

既に時間は昼時なのだ。

 

「十香、ここのチケットの半券があれば再入場できるみたいだし、何か食べにいくか?」

 

「うむ!」

 

士道の言葉に十香は首肯する。

 

「十香は何か食べたいものとかあるか?」

 

「ん、シドーは何が食べたいのだ?」

 

「そうだな…」

今し方、料理を食べたといえまだまだ、胃袋はまだまだ空きはある。

が…恐らく狂三との食事も取らねばならぬだろうし出来れば軽いものを取りたいと考える。

 

「じゃあ…サ…」

 

「シドーいい匂いがするぞ!」

 

サンドイッチでも食べようと言いかけた十香は鼻をひくつかせて走り出す。

結局、十香任せの昼食になりそうだと苦笑する士道であった。

 




狂三編は次回、最終話ですー
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