『魔力をかなり使ったな…』
士道は全身を蝕む疲労感の中、先ほど狂三と別れた公園のベンチにたどり着いた。
そこまで大した距離では無いとはいえ、士道は十香と狂三と折紙の間を三十周以上しているのである。
いくら《オーディン》を経由して身体強化を使っても魔力の消費は激しいものであった。
「あれ?」
ふと、士道はそれに気づく。
『どうしたの、士道』
「狂三がいない…」
そう、そのベンチに狂三の姿が無かったのだ。
『ちょっとカメラ班、狂三の動きはどうなっているの?』
っと、インカム越しに琴里が非難するような声が聞こえる。
流石に、雷華一人で三人の様子を捉えるのは難しいらしくフラクシナスからも三人の様子を観測していたのである。
『え、映像が途絶えています。
カメラに何かがあったのかと………』
『なんですって?』
と、琴里が言った瞬間。
『司令!微弱ですが、付近に霊力反応が!』
不意にインカムの向こうから、別のクルーと思しき男性の声が響いてきた。
『どこ?』
『ベンチ裏の林です!
この反応は間違いありません、時崎狂三です!』
「……っ!?」
士道は顔を上げてベンチ裏の林を見る。
『ふむ、何かあったのかしら?
士道、向かってみてくれる?』
「あ、ああ…」
不穏な言葉に頷くと、念のため疑似霊装を展開させ、士道は林へと入っていき、百メートル程度進んだ所でそれを見つける。
地面に転がるエアガンのようなもの。
小さく鳴き声を上げる猫。
そして真っ赤な鮮血に濡れた地面。
そして腹部に大きな穴の開いた男の死体。
そんな異常な状態であるのに関わらず、士道は冷静に考える。
『男たちが…エアガンで猫を撃っている所を発見してキレた…って所か?』
「―あら?」
っという声に士道は視線を上げる。
「…士道さん。
もう来てしまいましたの?」
赤と黒の霊装を纏った狂三が士道を見ながら言ってくる。
左手にはどこから持ってきたのか、古式の短銃が握られている。
と―そこで士道はもう一つの事柄に気づく。
林の奥に、男が一人、全身を震わせながらへたりこんでいることに。
若い男だ。
何故か腹部に、血で同心円が描かれていて、的当ての的のようになっている。
「ひ―ッ、ひ―ッ」
男は今にも死にそうな呼吸をしながら士道に視線を向ける。
「た…っ、助け…」
「あらあら」
狂三はクスクスと笑いながら男の方に顔を戻すと銃口を男へと向ける。
いつものような可愛らしい微笑ではなく、聞いているだけで歯の根が鳴るような不気味な笑い声だ。
「何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟が無いなんて、おかしいと思いませんこと?
命に銃口を向けるということは、こういうことですのよ?」
「…、や、め」
息も絶え絶えといった調子で男が声を発しようとした瞬間。
狂三が、躊躇いなく引き金を引いた。
瞬間、銃口から漆黒の銃弾が黒い奇跡を描きながら、男の腹に描かれていた的の中央へと吸い込まれる。
「ひぐ―ッ」
男の身体が大きく、跳ねる、それきり何も声を発しなくなった。
「100点ですわね」
短く息を吐き、銃をその場に落とす。
するとそれは、するとそれは狂三の影の中に消える。
「お待たせしましたわ、士道さん」
狂三が、士道な方を振り返ってくる。
『―道!士道!逃げなさい!すぐに!』
インカムから琴里が叫んでいるが士道はそれを無視して狂三を睨みつけ口を開く。
「何故…殺す…必要があった?」
そう言葉を紡ぐ士道に狂三はゆっくりと距離を詰めるとそっと顔に手を這わせて顔を近づける。
「殺したかったから殺した…ではいけませんでしょうか?」
『つっ…!』
耳元に囁くように狂三が呟いた言葉に士道は言葉をショックを受ける。
それと同時に士道は全身に奇妙な感覚を包んだ。
経験したことが無い、不思議な感覚。
まるで士道を包む空気が粘度の高い液体になり、意志を持って士道の身体を撫で回しているような奇妙な感じがした。
そして、次の瞬間。
「―っ」
短い息を伴って、狂三の身体が後方へと吹き飛んだ。
木へとその華奢な肢体は叩きつけられて、細かいヒビが入る。
「無事ですか?兄様」
声がする方を見るとワイヤリングスーツを身にまとった真那が士道を守るように背を向けて立っていた。
肩には盾のような、羽のようなパーツが装着されている。
「間一髪でした。
大事ねーですか?」
「真那?何で…」
何で此処に?と言おうとした士道だが、それよりもさきに真那が自分の装いを見て気まずげに後頭部を掻く。
「そりゃ………驚きやがりますよね。
実はちょっと訳ありでして」
と、前方から木片が地面に落ちる音が聞こえる。
「…、とりあえず話はあとです」
真那が言うと同時に、狂三が立ち上がり、唇を動かす。
「あらあら………私と士道さんの逢瀬を邪魔するなんて、マナー違反がすぎませんこと?」
「うるせーです。人の兄様を狙いやがるなんて、どんな了見ですか?」
真那の言葉に、狂三は驚いたように目を開いた。
「真那さんと士道さんはご兄妹でいらっしゃいますの?」
「………ふん、貴様には関係ねーです。」
真那は吐き捨てるように言うと、小さく首を回した。
その動作に合わせて、肩のパーツが前を向いて可変し、先端部が手のように五つに五つに別れる。
そして左右合計十の先端部に光が灯る。
「とっととくたばりやがってください、〈ナイトメア〉」
その言葉と共に真那が指を鳴らすと両肩のパーツから十条の光線が迸り、狂三に向かって伸びていく。
狂三は身を捻ると、光線を華麗にかわしていく。
「うふふ、危ないですわね」
「―ち」
真那が鬱陶しげに舌打ちをして指を動かす。
すると狂三に避けられた光線が急に進路を変えて、再び狂三に向かっていく。
「狂三!」
士道は叫びを上げ、残る魔力を使って走り出した。
通常は、光の速さで発射される光線を避けるのは不可能。
だがしかし、士道にはそのための魔法の力がある。
それ故に士道は意識を集中させてその魔法の名を口にする。
「《魔力瞬間換装‐フリューゲル・ブリッツ》!」
そう士道が口にした瞬間、彼の足は一瞬であるが光の速さを超え、狂三の身体を抱き抱えるとそのまま光線を回避する。
《魔力瞬間換装‐フリューゲル・ブリッツ》―。
簡単に言えば身体強化の重ねがけである。
だがその効果は凄まじく、一秒に満たない瞬間限定だが身体能力を極限まで高める事が可能だ。
「「なっ!」」
この士道の行動に目を円くしたのは言うまでもなく狂三と真那の二人である。
「………!」
目を見開いて絶句してする真那。
狂三もまた、驚いたような表情で士道を見ている。
「士道さん…何故私を…」
貯蔵プールにある魔力も使い果たしたのか疑似霊装が解除されていくのを感じながら狂三を地面に下ろし、口を開く。
「当たり前だ!!俺はお前に殺し、殺される毎日なんて送って欲しくはないんだ!!
俺はお前に穏やかな生活を送って欲しいだけなんだよ!!」
「そっ…そんなこと許されるわけが…」
っと、士道が狂三を説得し始めた所で横から真那が口を挟もうとする。
「今、狂三と俺が話してんだ!!横から口出しするんじゃねぇ!!!」
「つっ!!!」
だがその真那を士道は怒声一つで黙らせると言葉を続ける。
「確かにお前の今までやってきたことは許されることじゃねぇよ。
一生かけて償わせなきゃならねぇ!
だが、お前がどんなに間違っていようとも…。
狂三!俺がお前を救っちゃいけない理由にならない!」
「つ―」
狂三が、一歩後ずさる。
士道はそれを追うように、一歩足を前に踏み出した。
「わ、わたくし…わたくしは―」
狂三が錯乱したように目を泳がせて、声を発する。
「―駄目、ですわよ。
そんな言葉に惑わされちゃ」
どこからともなく響いた声に士道は訝しげに眉を潜めた。
士道の鼓膜を震わせたその声は狂三のものだったからだ。
「ぎーッ!?」
と、士道の思考を遮るように前方の狂三が苦しげな声を響かせる。
狂三の胸から一本の腕が生えていた。
いつの間にか何者かが狂三の後方に現れ―狂三の胸を貫いたのだ。
「わ、たく、し、は」
「はいはい、わかりましたわ。
ですから―」
狂三の胸から、手が引き抜かれる。
瞬間、狂三が纏っていた霊装が溶け、彼女の白い肌が露わになった。
「―もう、お休みなさい」
「ぐっッ」
小さな断末魔を残して狂三の体が崩れおれる。
そして、一度体がビクンと跳ね―それきり、動かなくなった。
士道はその人物を見ながら小さく呟く。
「狂三…」
そう、狂三の胸を貫いたのは時崎狂三であった。
「あまり驚かれないのですね?」
「以前も、言ったろ?
修羅場を切り抜けてきたから大抵の事には驚かない。」
実際はハラワタが煮えくり返りそうな程であるが士道は平静を装って士道は言った。
「まぁ…そういう事にしておきましょう。
それにしても…この子にも困ったものですね」
狂三が小さく唇を吊り上げて笑みを浮かべると血に濡れた右手を払う。
それと同時に影から現れた無数の手が生えて、狂三の死体を影の中に引きずり込んでいった。
「あんなに狼狽えて。
―まだ、この頃のわたくしは若すぎたかもしれませんわね
もう怠っこいのは止めてアナタの力をいただきますわよ士道さん。
あっ、でもその前に邪魔されるも面倒ですし…」
そう言うと狂三は地面にかかとを突き立てる。
十香が《塵殺公》を呼ぶ時と同じ動作である。
それと同時に円を描くような狂三の影が広がっていき、世界が黒く染まった。
『固有結界ですマスター』
っと言う《オーディン》の声と共に士道は全身を襲う倦怠感と虚脱感にマトモに動くことすらままならない。
命を吸い取られているような感覚だ。
「これは《時喰みの城》
結界内にいる方の『時間』を吸い上げる結界ですわ」
「『時間』…なるほど寿命か…」
士道がそう言うと、狂三は優雅な仕草で髪をかきあげる。
その動作により常に前髪で隠されていた左目が露わになる。
狂三の左目には明らかに異様な者が映されていた。
無機質な金色に、数字と針。
そう、狂三の左目は時計そのものだったのである。
更におかしな事に、その時計の針が逆方向に回転していた。
狂三は薄ら寒くなるような笑みを浮かべながら口を開く。
「流石は士道さん!聡明ですわ!!
わたくしの天使は威力は素晴らしいですが、その反面。
わたくしの時間を大量に消費しますの。
そして、消費した時間を補給するのがこの《時喰みの城》ですの。
本来の目的とは違いますが邪魔されては嫌ですからね。
っと…わたくしとしたことが長話が過ぎましたわね」
大仰な動作で言う狂三に士道はこの場を切り抜けようと策を練る。
たが狂三の能力が、士道が考えているものだとすれば殆どの戦術や戦略が意味を成さなくなる。
ならば今、士道が出きることは援軍が来るまでの時間稼ぎのみである。
「狂三、お前の目的は俺の中にある精霊の力と魔法使いとしての能力だな?」
「あら?なぜそう思うんですの?」
士道の問いに狂三は首を傾げる。
「お前がさっき、言ったろ?
この結界は中にいる者の『時間』を吸い上げると。
『時間』とは寿命と、もう一つの意味があるんでは無いかと考えたんだ」
そこまで、話した所で士道は真奈を見る。
《時喰みの城》の影響で顕現装置が上手く働かないのか苦しそうな表情を浮かべている。
士道は再び、真奈から狂三と視線を合わせて話を続ける。
「『時間』のもう一つの意味とは即ち―。
記憶や、経験、身に付けてきた技術や能力ではないか?と。
まっ、これはあくまでも俺の憶測だがな…」
「ああ…やはり士道さんは素晴らしいですわ…わたくしの思惑をこうも完璧に読まれるなんて」
士道の言葉に狂三は悦に入ったような表情を浮かべるて体をくねらせる。
「もっとお話したいのですが…。
そろそろあなたの力…いただきますわよ、士道さん」
言いながら狂三が士道へと右手を伸ばしてくる。
そして、ひんやりと冷たい手が士道の頬を撫でた瞬間、
『ふむ…なかなかに難儀しておるようじゃのー
士道ー』
士道の頭に念話でそんな声が響くとほぼ同時に起こった。
薄い氷が割れるような音ととも狂三の《時編みの城》に小さな微々が入り、そこに大人が一人通ることができるほどの穴が開いたのだ。
「なっ!」
狂三が驚きに目を見開く。
世界そのものを作り出す、固有結界。
その固有結界の作り手以外の者がそこに干渉するのは不可能に近い。
だが、士道の知る人物でそのようなチートじみた技を使える人間を一人知っている。
即ち―。
「行方不明事件を追っておったら精霊と遭遇するとはのー」
っと、穴から現れた和装ゴスロリに三角帽子、黒マントと言う出で立ちの小柄な女性が呟く。
その人物とは言うまでもなく魔法使いであり、士道の師であるところの―相良苺であった。
「士道、なかなかにやっかいな事に巻き込まれているようじゃな…」
「苺さん…何で精霊の事を知ってるんですか?」
尋ねる士道に苺は半眼になって口を開く。
何となく、苺が助けに来ることは予想はしていたが彼女が精霊の事を知ってるのは予想外だ。
「お主?《協会》の情報収集能力をバカにしておるじゃろ?」
《協会》―世界に数百人しかいない魔法使い同士の情報交換を行ったり、模擬戦を行うことで互いの力量を高め合う事を目的とした機関である。
士道も修行時代に一度だけ結社に顔を出したことはあるがどうも締まらない…頼りないようなメンバーが多かった印象がある。
「まぁ…良い。
それよりも士道、援軍を連れてきたぞ!」
苺の言葉に士道は彼女が先ほど開けた穴を見る。
「シドー!」
「士道」
「士道くん!」
霊力が逆流したのかその身に霊装を纏った十香と桜。
ワイヤリングスーツを身に纏った折紙が結界内へと侵入してきたのだ。
「折紙、十香…なんで」
「アナタを探していた所で夜刀神十香、陽野宮桜を発見、合流した。
その後に公園裏の雑木林で無理やり結界をこじ開けようとしていた相良苺を見つけこの場に至った」
何故、ここにと疑問に思う士道…その疑問に明瞭かつ、簡潔に答えたのは折紙だ。
正直、ありがたい増援であるが…。
「あら、あらあら、呼んでもいないゲストがいっぱいいらっしゃいますのねぇ。
ですが…この《時喰みの城》内部にいるものは誰であれ『時間』を喰われますのよ!」
そう、狂三の《時喰みの城》は内部の者の『時間』を喰らう結界だ。
その効果は外部から内部へと入ってきたものであろうと例外ではない。
だが―。
「はっ、はっ、はっ、ワシも舐められたのぉ。
敵陣に飛び込むと言うのに何の準備もしていないと思ったら大間違いじゃぞ!」
「なっ!?」
苺の言葉に十香達を見て目を見開く狂三。
十香達に士道や摩耶のように倦怠感と虚脱感を覚えた様子は無い。
「《復元する世界 術式固定‐ダ・カーポ アインハルト‐》…」
士道は息を乱れさせながら呟く。
苺が使用するは魔法は《復元する世界‐ダ・カーポ‐》と呼ばれる対象を24時間前の状態へと巻き戻す魔法の応用を主としている。
狂三の《時喰みの城》に穴を開けたのもこの応用だ。
《復元する世界》を使って《時喰みの城》の展開された空間に歪みを生じさせ、無理矢理に穴を開けたのである。
《復元する世界 術式固定はその応用で24時間前の状態に巻き戻し続ける魔法だ。
故に、狂三がいくら十香達の『時』を喰らおうとも《復元する世界・術式固定》が時間を巻き戻す為、狂三の結界は無無力化される。
これに加え、士道達は数で狂三を圧倒しておる。
現在も、士道が呼び出した《塵殺公‐サンダルフォン‐》を手に十香が折紙と共に狂三へと攻撃を仕掛けている。
狂三の方も天使《刻々帝》を展開させて十香や折紙、長短二丁のマスケット銃を用いて応戦する。
時折、《刻々帝》の効果か十香や折紙の体が制止したりするが苺の魔法により一瞬後には動き出す。
更に桜が霊力弾を放って狂三に反撃する隙を与えない。
加えて先ほど苺の魔法によって完全回復した真奈が戦線に復帰した事により状況は圧倒的に見えた。
だが、狂三がその端正な顔に浮かべる笑みが士道に違和感に似た何を覚えさせていた。
「苺さん…」
「うむ…ワシも少しばかり気になるものがあるのじゃ
あの狂三とか言う精霊の能力がワシと同種ならば………」
「いい加減に諦めてコーフクしろ狂三!!!」
っと、そこまで苺が言いかけた所で言いかけた所で十香の声が結界内に響いた。
十香達が狂三へとそれぞれの獲物を向けている。
だが、相変わらず狂三はその顔に薄ら笑いを浮かべたまま口を開く。
「ふふ…甘いですわよ士道さん…策を弄してわたくしを追い詰めた積もりでしょうが、実は追い詰められたのはあなた方ですのよ!
さぁ…おいでなさい!わたくし達!!」
『な……!?』
狂三の言葉に十香、折紙、真那、桜の四人が驚きの声を上げる。
狂三のその言葉と共に幾本もの白い腕が姿したからである。
しかも、それだけではなく。
徐々にその手の持ち主が地面の上に姿を現したのだ。
すなわち―霊装を纏った狂三が…。
「くすくす」
「あらあらあら」
「驚きまして?」
「うふふ」
「士道さん」
「さあ、どうしますのぉ?」
「あははははッ」
無数の狂三が、思い思いの笑いを、声を発した。
「こ、これは…」
真那が声を発すると、銃を握った狂三が両手を広げてん口を開く。
「いかがでして?
これはわたくしの過去。
わたくしの履歴。
様々な時間軸の私たちですわ。
っといってもこの『わたくしたち』は写し身ですのでわたくし程の力はございませんの」
狂三はそこまで言うと優雅にストップを踏み一回転する。
「さあ―終わりにしましょう」
その言葉を合図に狂三達が士道達に一斉に銃を向ける。
「くひひひっ…
知ってますのよ。
相良苺…あなたの魔法の弱点、自分自身の魔力は回復できないのでございましょう?」
そう、苺の《復元する世界》は万能ではない。
自信の魔力を回復する事は出来ず。
時を巻き戻す度に魔力を消費する。
即ち、《時喰みの城》に突入てから段階で苺の魔力は消費し続けていることになる。
更に時間を巻き戻している対象が傷を追えば癒すために余計に魔力を喰らうと言う、非常に燃費の悪いものだ。
「あなたに中どれだけの魔力があるかはわかりませんがこれだけの人数から攻撃を受ければ流石に無くなるでしょう?」
だが…士道も苺もそのような事態は想定済みであり、それなりの作戦は考えている。
「やっぱりそういう事か…」
「じゃの~」
そんな事を言いながら銃口を向けられた士道と苺から百メートル程離れた場所に現れたのは士道と苺だ。
『なっ!』
当事者である二人を除く、その場に居合わせた全員が声を上げる。
《そこにあっていないもの‐クロス・ミラージュ‐》…光の屈折率を操ることで自分達の姿を消して実体を持つ幻を見せる魔法で、桜の日光を司る力を応用したものだ。
「士道!準備は良いか!!」
「っつ!何をしようと無駄な足掻きですわ!」
苺の声に士道は頷く。
それと同時に狂三が叫び、幻の士道と苺から狂三達が銃口を向けてくる。
だが、狂三達が引き金を弾くよりも早く士道と苺はその魔法の名を口にする。
「「《魔力共鳴‐ユニゾン‐!》」」
その言の葉を口にすると同時に士道は自分の体内を苺の魔力が凄まじい勢いで駆け巡っていくのを感じた。
魔力共鳴‐ユニゾン‐》‐強い絆で結ばれた魔法使いが互い魔力を循環、共鳴、共有させることで単独では発動不可能な魔法を発動させる事を可能とする奇跡だ。
更に士道と苺は続いて虚空に手を上げるとその再び口を開く。
「「《復元する世界 蘇りし記憶‐ダ・カーポ カーテンコール》!!!」」
苺と士道がその名を叫んだ瞬間―絶対的な破壊の力が二人の手の中に顕現する。
「なっ?【最後の険】だと!?」
それを見た十香が目を見開いて叫ぶ。
十香が言った通り、士道と桜、二人が手に持つのは十香の最強の武装…【最後の剣】である。
人間では持つのも困難なその大剣を二人で軽々と持っている。
これこそが《魔力共鳴》を行うことにより発動可能な苺の魔法。
《復元する世界 蘇りし記憶》である。
大量の魔力を消費することで術者の記憶の中にある魔法や技を一時的に再現するものだ。
「なっ!十香さん達まで巻き込むつもりですの!!」
目を見開いて叫ぶ狂三。
「そんな訳はなかろう」
そんな狂三の言葉に苺はニヤリと笑みを浮かべる。
次の瞬間―青白い光と共に十香、折紙、桜、真那の四人が士道達の後ろへ出現する。
「ぬ?」
「……」
「ほえっ?」
「これは…?」
突然の事に四人は驚いたような表情を見せている。
《復元する世界》には対象を24時間以内の状態に戻す以外にはにもうひとつ、効果がある。
24時間以内に逢った人物を自分の任意の場所へ呼び出すというものだ。
十香達が士道と苺の後ろに現れたのもこの効果だ。
「「はぁぁぁ!!」」
十香達が後ろに現れると同時に裂帛の声と共に苺と士道は《最後の剣》を振り下ろす。
肉を潰すような嫌な感触に顔をしかめながら士道は狂三を見る。
「あはぁ…
今のは死ぬかと思いましたわ…」
「当たり前だ、お前を殺さないように計算して振り下ろしたんだがらな」
先決を溢れさせる左肩を抑えながら狂三は言う、そこから先は無く《最後の剣》によって斬り飛ばされたようだ。
「ふふ…甘いですわねぇ…士道さん。
その甘さ故に最後のチャンスを逃してしまいましたねぇ。
《刻々帝》‐【四の弾】」
っと笑みを浮かべながら唱えると、展開している時計型の天使の『Ⅳ』の数字から影のようなものが漏れ―一瞬のうちに、狂三の握る短銃へと吸い込まれる。
そのまま、短銃の銃口を自分の顎に押し当てて、引き金を引く。
銃声と共に狂三の頭が大きく揺れる。
そこで狂三が大きく目を見開いているように士道は思った。
「時が巻き戻らない…どういうことですの?」
どうやら先ほど狂三が自分に撃ち込んだ弾は時間を巻き戻し、傷を回復する類の物らしく驚愕した表情を浮かべている。
「傷を追ったお主が、己の傷を回復するのは目に見えておったからのー
悪いがお主の腕を切り落とした後に《復元する世界 術式固定》をかけさせてもらった」
「つっ…どこにそんなそんな魔力が…」
忌々しげに狂三は苺を睨みつける。
実際に《復元する世界 蘇りし記憶》を使った為に苺には《復元する世界 術式固定》を使用する為に必要な程、魔力は残っていない。
そんな狂三に苺は笑みを浮かべると言葉を紡ぐ。
「別にワシの魔力を使わずとも士道の魔力を使えば問題ないじゃろう」
っと、どや顔で苺は言う。
そう、士道と苺は《魔力共鳴》により互いの魔力を共有している。
故に、《復元する世界 術式固定》を狂三に使用した時に用いた魔力は士道のものであった。
「ああ…やはり良いですわ…士道さんに相良さん…。
お二人ともわたくしの予想を遥かに超えた行動をなされますのねぇ。
でも…わたくしはここでやられる訳にも、士道さんに能力を差し上げる訳にもいきませんの…。
わたくしには目的がございますのでね…。
ここで失礼させていただきますわ」
そう言い残して狂三は今、そこにたのが幻だったかのように消える。
隣界へ消失したのだ。
それと同時に結界が消えて公園の林の中へと風景が移り変わる。
「つっ!」
緊張がほどけたせいか、はたまた限界以上に魔力を使用した反動で士道は地面に膝をつく。
「シドー!」
「士道」
「士道くん」
「兄様!」
心配したように駆け寄ってくる十香達の声を聞きながら士道は思う。
『その手を血で汚してまで成し遂げたい目的って何だよ…』
そんな事を考えながら士道の意識は深く沈んでいった。
こうして書いてみると解りますが苺さんの能力がかなりチートですねー