デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第十六話『修学旅行』

 

「あっちー」

 

降り注ぐ陽光に士道は目を細める。

伊豆諸島或美島…。

そこに士道達、来禅高校二年生の面々の姿があった。

本来、来禅高校の修学旅行は沖縄を訪れる予定であったのだが、宿泊予定だった宿が急に崩落したのである。

困り果てていた所、クロストラベルと言う旅行会社が学校側に接触してきたのだ。

観光PRのためにランダムで学校を選び、島に招致しているとのことで、パンフレット用の写真を撮ることを条件に修学旅行の費用は全て会社が出してくれるとの事だった。

なんか色々ときな臭い匂いがする気もしなくもないが折角の修学旅行だ、楽しまねば損だ。

 

「お、おお…!」

 

士道の後ろから十香のそんな声が聞こえて士道はそちらを向く。

見れば、空港から外へ出た十香が目を丸くしてしている。

だが、それも無理からぬ事である。

何しろ今、彼女の視界には首を動かさないと把握できない程の大海が広がっていた。

 

「こ、これが海か!」

 

叫び、その大きさを測るかのように、両手を広げる。

当たり前だが、彼女のその小さな両腕に収まる程、大海は狭くは無い。

更に興奮した様子で彼女は肩を震わせる。

「本当、元気だな…」

 

そういえば、十香は直に海を見るのは初めてかもしれない。

士道はそんな十香のややオーバーな所作に苦笑をしながら肩をすくめた。

或美島。

伊豆諸島と小笠原諸島の中間あたりに位置する島だ。

三十年前に起きた空間震の際に島の北部が削り取られ、近年新たな観光地として再開発が成された、ある意味士道達の暮らす天宮市と似た来歴を持つ場所であった。

 

「んー…」

十香ほどでないにしろ、士道もこんな絶景を目の前に何も感じぬほど乏しい感性ではない。

 

『良かったですねマスター』

 

っと首に下げた『オーディン』からそんな声を漏らす。

 

『確かに、一時はどうなるかと思ったな…』

苦笑を漏らしながら未だに興奮気味に手をブンブン振る十香と、空港の出入り口から出てきた折紙を一瞥する。

飛行機の座席は、幸か不幸か三列になっていたため、士道を真ん中に置いて左右にそれぞれ十香、折紙が座ることで合意したのだ。

だが、相変わらずと言って良いのか、飛行機内で色々と騒ぐ二人に士道の精神はいささか疲労気味だ。

 

 

「ぬ…?」

 

ふと、はしゃいでいた十香が、妙な声を出して辺りを見回りだした。

 

「?どうした、十香」

 

「……いや、誰かに見られている気がしてな」

 

『ああ…なる程』

 

言われて見れば何処からか視線のような物を感じなくも無い。

 

士道が不審に思った瞬間、シャッターを切る音と共に二人をフラッシュの光が包む。

 

「うぉっ!」

 

突然のことに思わず声を上げて目をつむる。

チカチカする目を細めながら光の方角を見ると大きなカメラを構えた女性が立っていた。

明らかに東洋人とは違う目鼻立ちと、白い肌が特徴的で淡い色の金髪の少女だ。

 

「む…何なのだ?」

 

十香が不機嫌そうに尋ねると、少女がカメラを下ろして視線を向けてきた。

 

「失礼。

クロストラベルから派遣されて参りました随行カメラマンのエレン・メイザースと申します。

今日より三日間、皆さんの旅行記録をつけさせていただきます。

―無遠慮な撮影、申し訳ありません。

気分を害されたようでしたら謝罪させていただきます」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

手を振りながらやんわりとした口調で士道は言う。

旅行写真を撮るためにカメラマンが随行するとは聞いていたが、まさか外国人―しかも、士道達と年の変わらない少女とは思わなかった。

 

「お邪魔しました。

では」

 

と、士道と十香が物珍しげにその要望を見ていると、エレンがもう一度お辞儀をして、皆の方に歩いていった。

 

「何だったのだ?あやつは」

 

腕組みをしながら十香が不思議そうに首を傾げる。

 

「さてな…だが、誰かに見られてる気がするってのは正解だったわけだ」

 

「うむ」

 

士道の言葉に頷く十香、実を言えばまだ視線の方を感じていなくは無いがとりあえずは無視することにした。

「んっ…?」

 

それと同時に士道は声を上げる。

 

つい先ほどまで晴れ渡っていた空に灰色の雲が渦巻き始めたのである。

そして段々と、驚くべき速さで周りの様子は様変わりしていく。

時間に換算すれば一分程度。

そんな僅かな時間で士道達のいる世界は一変してしまった。

地鳴りのような風音が周囲から響き、辺りに生えた木々を揺らす。

アメリカのハリケーンのような暴風だ。

近くのゴミ箱が転げたのか空き缶や新聞社が視界を横切る。

士道は転倒しないように十香の肩を掴むと姿勢を低くさせる。

 

それと同時に再度周囲を見回す。

幸いにもクラスメートたちは移動したらしく姿はない。

 

『マスター』

 

『ああ…』

 

《オーディン》の声に士道は頷く。

風が強まり始めた辺りから霊力を感じるようになったからだ。

 

『とりあえず十香を避難させるのが先決だ』

 

士道がそう思った瞬間。

 

「シドー!危ない!」

そう言いながら十香が士道の体を突き飛ばす。

次の瞬間、金属製のゴミ箱が飛んできて十香の頭にヒットする。

「ぎゅぷッ!?」

 

などとコミカルな声を発して、十香がその場に倒れ伏す。

 

「お、おい、十香!十香!」

 

慌てて叫び、肩を揺するも十香は完全に目を回して気絶していた。

 

「仕方ない…」

 

士道はぐったりした十香を背負うと疑似霊装を展開して空港横の資料館へと歩き始めた。

瞬間。

 

「あ…?」

 

士道は眉を潜める。

荒れ狂う空の中心。

―そこに二つの人影らしきものが見えたからだ。

 

言うまでもなく精霊である。

 

『さて…どうするか?』

 

このまま精霊を攻略するか、十香を安全な場所へと移すか悩む士道。

 

だが、ほんの少し考えていた間に上空で激突を繰り返していた二つの影が、一際大きな衝撃波と共にぶつかり合いう。

されと同時に今まで以上の暴風がその場に吹き荒れた。

 

「つっ!」

 

身体強化の魔法を使用した状態で吹き飛ばされないように足を踏ん張る。

同時に上空で激突した二つの影がお互いに弾き飛ばされるように地面へと落下する。

ちょうど、士道を挟むように右と左に。

 

それと同時に先ほどまで吹き荒れていた大嵐が弱まる。

地上に落ちてきた二体の精霊の周りが台風の目のように無風状態になっているようであった。

 

「く、くくくく…」

 

っと、右手から、長い髪を結い上げた少女が、不敵に笑いながら歩み寄る。

年齢は士道たちと変わらない。

橙色の髪に、水銀色の瞳。

整った顔立ちは今、嘲笑が浮かべられている。

だが、何よりも大きな特徴はその服装だった。

闇色の街灯と身体の各所にベルトで締め付けた拘束服に似たような服を着ており、右手右足っ首に千切れた鎖を伸ばした錠が施されている。

 

「―――やるではないか、夕弦ー

さすがは我が半身ー。

我と二十五勝二十五負四十九敗の戦績を分けただけはある。

だが―それも今日までだ」

 

芝居ががった妙な言葉遣いの少女。

今度はそれに応じるように、左側から人影が歩み出る。

 

「反論。この百戦目を制するのは、耶倶矢ではなく夕弦です」

 

こちらの少女は長い髪を三つ編みにしている。

耶倶矢と呼ばれた少女と瓜二つの顔つきだが、目は半眼でどこか気怠そうだ。

夕弦と呼ばれた少女の服装もまた、多少デザインが異なるが耶倶矢と似たような拘束服を身につけている。

だが、錠や鎖の位置は首に左手、左足と逆だ。

 

「ふん、ほざきおる。

いい加減、真なる八舞に相応しき精霊は我と認めてはどうだ?」

 

「否定。生き残るのは夕弦です。

耶倶矢に八舞の名は相応しくありません」

 

「ふ…無駄なあがきよ。

次の一撃、我が旋風司りし漆黒の魔槍‐シュトゥルム・ランツェ‐に刺し貫かれるが良い!」

 

「要求。夕弦は耶倶矢にシュトゥルム・ランツェについての説明を求めます」

 

「ふ………我が旋風司りし漆黒の魔槍‐シュトゥルム・ランツェ‐に、断りに縛られた器など存在しない。

有形にして無形。

可視にして不可視。

ただ刺し貫くために作られし概念武装よ」

 

「要約。

つまり特に意味はないということですか」

 

「違うし!意味あるし!理解できない夕弦が馬鹿なんだし!」

 

「請願。それでは夕弦にもりかいできるような説明を頭がよい耶倶矢ならば可能なはずです」

 

「と、当然だ。

だが悲しいかな我が漆黒の脳細胞は、貴様が理解できぬ高次へと昇ってしまったのだ」

 

「理解。つまりできないということですね」

 

「く、貴様…あまり我を怒らせぬ方が」

 

「嘲笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)」

「わっ、笑うなぁぁぁ!」

 

耶倶矢が顔を赤くして叫ぶと両腕を広げる。

同時に右手首から伸びた鎖が鳴り、周囲に荒れ狂っていた嵐が強さを増す。

夕弦もまた応じるように構える。

 

「漆黒に沈め!はぁぁッ!」

 

「突進。えいや!」

 

裂帛の気合いと、気の抜けた声と共に同時に地を蹴る。

 

「待ちやがれぇぇぇぇ!」

 

耶倶矢と夕弦、二人の精霊が走り出すと同時に士道は叫びを上げた。

 

意識を失っている十香が至近距離で精霊の激突に巻き込まれれば確実に命を落とすと考えたからだ。

 

「「……!?」」

 

士道の叫びに二人がその場に静止する。

 

「何だ、地獄の底から響く亡者共の叫びに似た…」

 

「報告。耶倶矢、あれを見てください」

 

夕弦が士道を指差し、耶倶矢が眉を潜める。

今まで士道と十香の存在に気づいてなかったようだ。

 

「人間だと?

まさか。我らが決闘の場に足を踏み入れるとは、何者だ?」

 

「驚嘆。驚きを禁じ得ません」

 

「お前ら!決闘だかなんだか知らないが姉妹喧嘩なら人に迷惑がかからない方法でやりやがれ!!」

 

怪訝そうな視線を浴びせる二体の精霊に士道はやけくそ気味に叫ぶ。

気性や性格が解らない精霊に対して軽はずみな行動だとは思ってはいる。

だが、一度口にしてしまった言葉は納めることができない。

 

「貴様…我らの運命を定める神聖なる決闘によくも水入りしてくれたな。

どうやって落とし前をつけるつもりだ?」

 

案の定というべきか耶倶矢が士道へと喰ってかかる。

 

「制止。耶倶矢、脅迫はだめです」

 

「わかっておる、夕弦よ?

我と貴様の勝負でまだ勝敗を決していないものがあると思わぬか?」

 

「疑問。勝敗を決していないものとは?」

 

夕弦が首を傾げると、耶倶矢が小さく含み笑いを漏らし、士道を一瞥する。

何故だか解らないがその表情に士道はとても嫌な予感を感じた―。

 

 

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