デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第十八話『浴場にて』

時は過ぎて夕刻。

日が落ちて昼間の蒸し暑さは少しは改善されていた。

それに合わすように、昼間に響いていた蝉の声が次第にキリギリスのそれへと変わっていく。

あのあと十香が目を覚ますのを待ってから旅館へと移動した一行は、部屋に荷物を運び込み、夕食を済ませ自由時間を謳歌していた。

そう―士道をのぞいて…。

 

「はぁ…」

 

片手にバスタオルと浴衣などを持ち、溜め息をつく。

入浴時間より少し早いが入浴して気分転換でもしよう思ったのだがやはり口から出てくるのはため息だ。

それも仕方ないことではあった。

未封印状態の精霊が二人も現れて士道に絡んできたのだから…。

狂三のように好戦的な性格でないのが唯一の救いではあるがそれでも不安は残る。

 

「どうにか…しないとな…」

 

『マスター、頑張って下さい』

 

渋面を作りながら呻く士道にドックタグ状態のオーディンがフォローを入れる。

 

『まっ…あんまり深く考えていても仕方ない…風呂でも入るか…』

 

そう考えて浴場へ向かおうとしてそれに気づき口を開く。

 

「何してるんだ、耶倶矢、夕弦」

 

士道が言うと後方の通路奥から二人が歩み出してくる。

 

「くく…我が尾行に気づくとはやりおるわ。流石と言っておこう」

 

「指摘。隠れ方がお粗末だっただけでは」

 

「……っ!ゆ、夕弦に言われたくないし!

あんたよりは上手く隠れてたし!」

 

「反論。耶倶矢が夕弦よりも上手く隠れられる道理がありません」

 

……士道の場合は例え相手が密偵や忍者であろうと確実に見つけられる自信があったが、それは言わないでおく。

 

「それで?二人とも風呂か?」

 

「ああ、貴様の身体は常闇の穢れを蓄積しすぎた。その身を浄化することを許す」

 

「風呂に入って汗を流せってか?」

 

「賞賛。耶倶矢の言わんとする事が良く分かりますね」

 

ある程度二人と接していれば中二病として同類の耶倶矢の言わんとしている事はわかっていた。

多少というかかなりというか嫌な予感もしなくはないが士道は男湯の方へ入り脱衣場で服を脱ぐとタオルを携えて湯気で曇った引き戸を開ける。

 

「おお…すげぇなこりゃ」

 

そして、目の前に広がる絶景に思わず感嘆の声が漏らす。

岩で作られた巨大な浴槽に微かに褐色ががった湯が満たされ、濃密な湯気を立ち上らせていた。

そして、浴槽のすぐ先には海が広がり、静かな細波の音を響かせていた。

しかも入浴時間まで早いために士道以外の人はない、貸し切り状態だった。

 

「あぁー………」

 

っと年寄りじみた声が喉から漏れ出る。

両手両足を伸ばすと、少し暑いくらいの湯が全身に染み渡る。

と、その時だった。

ガラリと音が鳴り、浴室の引き戸が開いたのだ。

 

『やっぱりかい!』

 

入り口に目をやり士道がそう突っ込みを入れた。

浴場へと歩いて来たのは言うまでもなく身体にバスタオルを巻きつけた耶倶矢と夕弦である。

 

「はあー」

 

こめかみを押さえてため息をつく。

だがそんな士道のことなどどこ吹く風。

二人はそのまま湯船に足を浸し、士道の隣まで歩いてきた。

薄いバスタオルが湯気で肌に張り付き、二人の体のラインがくっきりと浮かび上がっている。

流石の士道も顔を赤くすると、身体を深く湯に沈ませる。

 

「く、くくく………ど、どうだ。流石の貴様も我が色香の前にひれ伏さざるを得まい」

 

その言葉に、対面するような格好で立っていた夕弦が小馬鹿にしたように言う。

 

「嘲笑。色香(笑)。

耶倶矢にそのようなものが備わっていたとは初耳です」

 

「…ふん、すぐに吠え面をかかせてくれるわ。そこな士道を我が魅力の虜にしてな!」

 

「応戦。望むところです」

 

そう言って二人はそのまま士道を挟むように湯船に入ってきた。

本当はバスタオルを巻いたまま入浴するのはマナー違反なのだが、今突っ込むべきはそれではない。

 

「おい…男湯だぞここは?」

 

「くく…何を言っているのだ、士道」

 

「否定。大丈夫です。心配はいりません」

 

「まさか…お前ら…」

 

更に嫌な予感を加速させる士道。

 

『マスター』

 

オーディンの声と同時に士道は更衣室から人の気配が近づいてくるのに気づいた。

再び戸が開く音がして、誰かが浴場へと入ってきたのだ。

 

「とりゃー!」

 

入浴客はそのまま早足になると元気の良い、そして聞き覚えのある声と共に、勢いよく湯船に飛び込んできた。

そして、先に入っていた士道と目が合う。

聞き覚えのある、凛とした声音。夜色の長い髪、美しいボディーライン。

そう、その姿は―

紛れもない、夜刀神十香のものだった。

 

「ん?」

 

そこで十香も先客に気づいたらしい。キョトンとした様子で士道を見る。

 

「………………」

 

そして、慌てた様子で両手を動かし、胸元と下腹を覆い隠す。

 

「な、なななななななななななぜこんなところにいるのだシドー。

私は皆に教わった通り、赤い方に入ったぞ!」

 

「とりあえず、落ち着け十香、深呼吸」

 

「すー、はー、すー、はー」

 

狼狽する十香を士道は何とかして落ち着かせるとある程度事情を話した…。

 

 

「なるほど…大体の事情は理解したが少々不味いことになったぞ…」

 

「へっ…」

 

十香が入ってきた事に少々、狼狽していたのか士道は更衣室からやってくる人の気配に気づのが遅れたのだ。

 

「吉野桜―なんてけしからん身体」

 

「ちょっと…折紙ちゃんダメだってー」

 

などと姦しい声を響かせながら女子の御一行様が入ってきたのだ。

 

『オーディン、桜の能力を使ってここから逃げるぞ』

 

『了解、術式展開までに少々時間を下さい』

 

そう念話でオーディンと会話すると慌てて湯船に身を沈めて岩陰に隠れる。

 

「やー、広いじゃなーい!海すぐそこじゃーん!」

 

「わー、おっきいお風呂なんだよー」

 

「あ、五河君の親戚の八舞姉妹。

もう入ってたんだはやーい」

 

「あれ、鳶一さんお風呂に入らないの?」

 

「―先に頭と身体を洗う」

 

「あーなる程ー」

 

女子達の甲高い声が聞こえてくる。

このままではみつかるのもそう時間はかからないだろう。

 

『まだかオーディン!』

 

『あと三十秒時間をください』

 

近づいてくる女子の気配に焦る士道。

もし見つかれば良くて袋叩き、悪ければ場合性犯罪のレッテルをはられて残りの高校生活を後ろ指を指されて生活しなればいけなくなる可能性も考えられる。

最悪の場合警察沙汰になることすら考えられた。

 

『いや…目撃者全員の記憶を弄ればなんとか…』

 

などと物騒な事を考え出したやさき。

 

『術式展開完了―』

 

っというオーディンの声が脳内に響き、光の屈折率を操作、姿を消した士道は何とか脱出する事に成功したのだった。

 

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