デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第十九話『クロスカウンター・ハート』

日が明けて、修学旅行二日目。

士道は或美島北端の赤流海岸へとやってきていた。

三十年前の空間震で島が削られてできた海岸は上空から見るとなだらかな弧を描いてるらしく、観光ガイドなどでは格好良く三日月海岸とも呼ばれているらしい。

 

「………」

 

だが、現在、そこに観光客の姿はない。

士道の攻略を行うためにクラスメートが邪魔になる可能性が高いとの事でわざわざ令音が昨日のうちに手配したらしい。

 

「すげぇな…こりゃ」

 

空は晴れ渡り、強い太陽の光に透明な水に反射して、士道は目を細める。

 

「どちらにしても、そう気楽には遊んでられないわな…」

 

息を吐きながらそう、一人ごちる。

それに合わせたように右耳に装着したインカムから令音の眠たげな声が響いてくる。

 

『…シン、耶倶矢と夕弦が着替え終えたようだ』

 

令音の言葉に士道は頷き「はい」と答える。

 

『…昨日に説明したとおり、二人にはインカムを渡してある。

海水浴をしたことがないそうでね。こちらからいろいろ指示をしようと思う。

…それで彼女らへのアドバイスと君との会話が混線してしまうのを防ぐため、一度回線を閉じることになる…大丈夫だね?』

 

「まっ、なんとかやってみます…少々不安は残りますが」

 

昨日の出来事を思い起こし、苦笑する。

 

『…まあ、昨日はいろいろと大変だったようだが今日からある程度セーブするよ。

では、作戦開始だ。

彼女らの水着姿を褒めるのを忘れずにね』

 

その言葉を最後に、通信が途絶える。

と、それと同時に背後から二人分の声が聞こえてきた。

 

「くく………こんな所に隠れていたか」

 

「発見。見つけました、士道」

 

特徴的な語調。

確認するまでもなく士道はゆっくりと振り向いた。

そこには予想通り、耶倶矢と夕弦が立っていた。

耶倶矢は白のレースに飾られた黒のビキニを、夕弦は逆に白地に黒のレースがついたビキニを身に纏っている。

二人とも恐ろしいほどに似合っていた。

恐らく、普通に浜辺を歩いていたら思わず声をかける男もいるだろう。

 

「二人とも似合ってるじゃないか。すげぇ綺麗だよ」

 

そう士道が二人を褒めると耶倶矢が驚いたように顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトンとして自分の装いを見下ろした。

だがすぐにハットした様子で耶倶矢が腕組みをする。

 

「く、くくく………そ、そうであろうそうであろう。だが勘違いするなよ。

 

この程度の衣服では我の魅力の前に霞んでしまうわ」

 

「謝辞。ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

次いで、夕弦が素直に首肯する。

と、そこで。

 

「…………ん?」

 

「確認。はい」

 

不意に耶倶矢と夕弦が眉を動かしたかと思うと、二人がそれぞれ耳に手を当てる。

よく見れば彼女らの耳には士道が使っているのと同じ機種のインカムを見受けることができた。

 

「くく………なるほど、承知した」

 

「了承。理解しました」

 

士道は二人がインカムに気を取られている様子がなんとなくおかしく思えて苦笑する。

ほどなくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、士道に向き直ってくる。

 

「士道よ。常闇に身を置く我にはこの天からの光は少々堪える。

我が身に、聖光を阻む穢れの加護を施すことを許すぞ」

 

「へ……?」

 

「請願。日焼け止めというのを塗ってください」

 

そう言いながら夕弦がフラクシナス側が用意したらしい日焼け止めローションを手渡してくる。

 

「いいだろう、かつてゴッドハンドと言われた俺の腕を見せてやろう!!」

 

それに対して士道は笑みを浮かべてどこか厨二病的な口調で言い放った。

 

 

 

 

「まさしく…ゴッド…ハンド…」

 

「戦慄…神の腕です…」

 

数分後…フラクシナス側が用意したビニールシートの上でグッタリとした様子で倒れている。

士道が指圧、マッサージを織り交ぜた絶妙な指裁きで二人の背中にローションを塗ったからである。

この技術は修業時代に苺の元で身につけたものである。

絶頂に達した二人にどや顔の士道はピクリと眉を動かす。

一瞬、インカムから令音の声が聞こえてきたかと思ったが違う。

 

「―シドー!」

 

「士道君ー!」

 

「っ、桜!?十香!?」

 

聞き覚えのある声に名を呼ばれ、士道は弾かれるように振り返る。

見ると水上バイクに乗った十香が後ろに桜を載せて迫ってきていた。

しかも桜が何かを叫んでいるようだった。

 

「士道君―!止めてー!」

 

どうやら動かしたは良いが止め方がわからないようであった。

みるみるうちに水上バイクが近づいてきて入れのがわかる。

距離にしてみれば浜まで十メートル。

士道は迷わずに身体強化の魔法を行使すると水上バイクの進行方向に立ちふさがる。

 

「士道!?」

 

「あの水上バイクを止めるつもりですか!?」

 

耶倶矢と夕弦が焦ったような表情を浮かべる。

水上との距離は一メートルを切っている。

士道は足に力を込めると水上バイクの車体を両手で掴み、停止させた。

 

 

 

十香と桜は水上バイクから降りると八舞姉妹に手を振る。

ちなみに二人の装いは先月に士道が買ってあげた水着だ。

十香がダークカラーのビキニ。

桜が白地に桜の柄をあしらったビキニと下にはショートパレオを巻いている。

 

「向かってくる箱船を素手で止めるとは…」

 

「士道…あなたは何者なのです?」

 

一方、素手で水上バイクを止めた士道に目を円くしながら驚いている耶倶矢と夕弦。

 

「そういえば俺が魔法使いであることを二人にはまだ話してなかったな―」

 

「くく…やはり力を持つものは力を持つものに引かれる」

 

「なんと…士道があの世界に数人しかいないと言われている…」

 

どうやら二人とも世界中を暴れ回っている時に魔法使いについての噂を耳にしたらしい。

どごでその噂を耳ににしたのか非常に気になるところではある。

 

「ふむ…私からも説明しておいた方がよかったかな」

 

などと眠たげな声で言ったのはは水着の上にパーカーを羽織った令音であった。

 

「!令音さん…?」

 

士道は訝しげに眉を細めた。

令音は今、インカムを通して耶倶矢と夕弦にアドバイスを出していた筈である。

耶倶矢と夕弦も同じ疑問を抱いたのか不思議そうに令音を見つめ、耳のインカムを触れている。

 

「さて…人数が増えたのだしな…このままビーチバレーでもどうかね?」

 

言って、浜辺の奥の方を指差す。

耶倶矢と夕弦は最初怪訝そうにしていたものの、すぐ方針変更を読み取ったらしかった。

 

「ふん、まぁ良かろう。何をしようとも我が優位に変わりはないのだからな」

 

「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です」

 

二人はそう言って目を見合わせると、別に競争でもないのに、同時に走っていった。

 

「おお!」

 

と、十香もそれに触発されたように駆けだしていく。

桜もまたそんな十香の後を「十香ちゃん待ってよぅー」等と言いながら走っていく。

 

「…で、令音さん。

何でいきなり出てきたんです?

だいたい予想つきますが…」

 

「…ああ。十香と桜が現れるというイレギュラーが起こってしまったからね。

プランBに移行させてもらったよ。

〈ラタトスク〉の機関員を使えるなら何とかなったかもしれないが私一人ではさすがに限界がある」

 

「プランB、ですか」

 

「…ああ、一緒のチームで共に戦うことによって彼女達と君との結束、仲間意識を高めようとする作戦だ」

 

なる程…と士道は一人ごちる恐らく、チーム分けのくじに何らかの細工がしてあるのだろうと考える。

事実、その通りでチーム分けは耶倶矢、夕弦、士道のAチーム。

十香、桜、令音のBチーム。

となった。

耶倶矢と夕弦が若干不満そうだったが士道が仲を取り持つことで何とか二人は落ち着いた。

 

「よし!ではいくぞっ!」

 

十香が元気よく声を上げ、向こうのコート端からサーブを放つ。

 

「ぬおっ!」

 

猛スピードでボールがネットを突き破り、そのまま弾丸のように延びてくる。

士道は咄嗟に体を横に移動させる。

間一髪、先程まで士道がいた場所を刺し貫くと異音を立てながらコマのように踊ってようやく停止した。

 

「令音!今のは何点だ!?」

 

「…恐らくだが、君は何か別の競技と勘違いをしている」

 

そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を上げた。

 

「くく……やるではないか。

どうやら我も本気を―」

 

「いや、出さなくても良いからな!?」

 

このような球の応酬をされていたら魔法でも防御しきれないと。士道は首を振った。

 

「ふん、つまらん。まあいい、次は我々のサーブだな?」

 

言って。耶倶矢が地面を抉ったボールに手を伸ばす。

そして綺麗なフォームで相手コートにボールを放ったら。

 

「令音さん」

 

そのボールを桜がレシーブする。

 

「胸で負けても勝負には勝つ…」

 

その際にピンク色のビキニに包まれた凄まじい胸が震えるのを見て夕弦が呟いた気がするがとりあえず試合に集中する。

向こうのコートでは既に令音が上げたトスをネットを越える勢いでジャンプした十香がスパイクを放とうとしていた所である。

士道が身体強化の魔法を使用すると同時に十香がスパイクを放つ。

 

『ぐっ!』

 

身体強化をしていても尚、十香の一撃は重くボールは明後日の方向へと飛んでいく。

 

「すまん!」

 

「大丈夫だ!」

 

「私がアシストします!」

 

謝る士道の後ろで耶倶矢と夕弦の声が響く。

どうやらボールを拾うために滑り込んだらしい。

だが、二人同時に同じ位置に走り込んだからか、二人は頭をぶつけてその場に倒れ込む。

その間に、ボールはコート内をバウンドし、砂の上を転がってしいった。

 

「なっ、何をしているのだ夕弦!」

 

「反論。こちらの台詞です。邪魔しないでください」

 

耶倶矢と夕弦が額を抑えながら睨み合う。

 

「…………よし十香、今のは一点だ」

 

「おお!本当か!」

 

対して、反対のコートは賑やかであった。

十香と桜、令音がハイタッチをしている。

だがそんなものを気にも留めずに、言い合いを続ける。

 

「今のはどう考えても我の領分ぞ。出過ぎた真似をするでない!」

 

「反論。うすのろな耶倶矢では間に合わないかと思いました」

 

「な、なんだと貴様っ!」

 

「応戦。なんですか」

 

「二人とも、落ち着けって………」

 

士道が二人の間に割って入ると同時に、向こうのコートで令音が十香と桜に耳打ちをする。

 

「ふっ、なんだ、耶倶矢と夕弦も大したことがないでは無いか!」

 

「てんで、期待はずれだよー」

 

っとふんぞり返るように桜と十香が耶倶矢と夕弦を見下ろして見え透いた挑発を仕掛ける。

 

そんな挑発に二人はピクリと反応すし静かに目を細くした。

 

「………ねぇ夕弦」

 

「返答。何でしょう?」

 

「………やっちゃう?」

 

「同調。やっちゃいます」

 

二人が視線を交じらせ合う。

だが次のサーバーの令音は落ち着いた様子でボールを取ると、美しいフォームでコートの隅にボールを放ってきた。

 

「夕弦!」

 

「応答。わかっています」

 

だが、夕弦がすんでのところで滑り込むと、その完璧に近いサーブをレシーブする。

そしてそのボールを耶倶矢が打ち上げて相手コートに戻す。

先ほどの醜態が嘘のように思える綺麗な連携プレーだ。

しかし、相手チームも簡単にはいかない。

迫り来るボールを桜が打ち上げる。

 

「村雨先生!」

 

「…ああ、わかっている」

 

それに次いで、令音がそのボールを軽くトスしたー

先ほどと完全に同じパターンだ。

士道は脚と腕に魔力を集中させると相手のコートに気を張っている。

そしてまたも、十香が高く飛び上がる。

 

「おおっ!」

叫びながら上空から鋭いアタックを放ってくる。

 

「士道!止めろ!」

 

耶倶矢の声に士道は弾道から落下予測地点を予測。

手を顔の前で合わせて十香のボールを取ると勢いを殺し高く打ち上げる。

 

「賞賛。ナイスです」

 

そんな士道の耳に聞こえてきたのは夕弦の声だった。

 

「設営。耶倶矢」

 

「おうとも!」

 

夕弦がその場に片膝をつき両手を組み合わせて手の平を上に向ける。

そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を乗せると同時、夕弦が耶倶矢の身体を軽々と空に放り投げた。

 

「な…!」

 

「ふぇぇ…」

 

十香と桜の声が相手コートから聞こえてくる瞬間―

 

「―はあぁぁぁぁぁッ!」

 

天高く舞い上がった耶倶矢が上空のボールを叩き落とし、文字通り矢のような一撃が決まったのであった。

 

「よっし!同点!見たかこらぁぁぁッ!」

 

いつもの口調を忘れた調子で、耶倶矢が空中でガッツポーズを取る。

そして地面に立つと自然に夕弦とハイタッチを交わした。

 

「いぃぃやっほぉう!」

 

「歓喜。いやっほー」

 

「やー!今のは完璧だったね夕弦。びゅーいんったよびゅーいん!」

 

「肯定。見事な一撃でした。さすが耶倶矢です」

 

「いやいや、あれは夕弦がー」

 

と、そこで二人は肩を揺らし、目を逸らした。

 

「ふん…調子に乗るなよ下賤。我が足に踏まれたことを光栄に思え」

 

「不快。手に臭いが付きました。くさいです。

くさやと納豆とシュールストレミングをミックスしたような臭いがします」

 

「そ、そこまで臭くないわー!」

 

と、思い出したかのように喧嘩を始める二人に絆のような物を士道は確かに感じていた。

 

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