「あいっ…」
全身の痛みに士道は覚醒する。
吹き飛ばされた時に全身を強く打ったようだ。
「病院…じゃねぇよな?どこだよ?ここは?」
そう言いながら身体を起こす。
「目が醒めたかね?」
そう言いながら自動ドアから室内へと入って来たのは白衣を着た女性だ。
目の周りにはクマのようなものがあり、寝不足のようにも見える。
「あんたは?」
「私は村雨令音、ここラタトスクで解析管をやっている。
詳しい話は司令が話すから付いてきてくれ」
そう言うと歩き出す令音、それに対して無言でついていく。
「ようこそ空中艦フラクシナスへ、歓迎するわ士道」
「兄に対して呼び捨てとは不遜な妹だな…おい!」
どこぞの次元航行艦のブリッジみたいな場所で士道を出迎えたのは彼のよく知る人物であった。
そう彼の妹である琴里だ。
いつもの彼女が身に纏う雰囲気と違うものがあるがとりあえず気にしないでおくことにしてする。
『フラクシナスにラタトスクね…元ネタは北欧神話か…中二病丸出しだな…』
場違いにもそんな事を考える士道。
「とりあえずは状況を説明するけど良いわね?魔法使い」
「ちょっと待て、琴里?
何故お前は俺に魔法を使える事を…」
知っている…そう言い掛けて士道は先ほど琴里が言った事を思い出す。
「なる程…上空で俺が魔法を使っている所を見てた訳だ…
あと、ここの位置ファミレスの真上だろ?」
「へぇー、良く解ったわねー」
感心しながら琴里は制服のポケットからスティックキャンディーを取り出して口に咥える。
「携帯のGPS情報がこの位置だったのと、お前が空中艦って言ったのでピンと来た」
「本当…話が早くて助かるわ
さて本題に戻すわね…神無月!」
「はいっ!」
琴里の横に立つ金髪の男性が返事をすると同時に機器を操作。
それと同時に空間に映像が投射される。
映像に映っているのは先程、士道の前に現れた黒髪ドレスの少女だ。
「精霊―異世界から現れるらしい空間震の元凶よ」
次に表示されたのはフライトユニットっと一体になったパワードスーツを身につけた少女達の姿だ。
「でっ、こいつがAST…陸自の対精霊の特殊部隊。
こいつらが着ているパワードスーツには顕現装置ってい言う科学的な手段で『魔法』を再現する技術が使われているわ…
ここまでで質問はある?」
「ふむっ…」っと士道は顎に手を当てて考える。
「これは俺の個人的な好奇心なんだが顕現装置について教えてくれるか?
科学的に使う魔法ってのに興味が湧いた」
「まぁ…良いわ、もともと顕現装置が作られたのは30年前。
コンピューターを使っによる高速演算…それによって物理法則を無理やりねじ曲げる事で顕現装置は魔法を発動させるわけよ。
ちなみに空間震や戦闘で壊れた建物を修理もこの顕現装置を使った陸自の災害復興部隊ね。」
ため息を吐きながら士道にASTの魔法について説明する琴里。
「でっ、ASTが装置しているパワードスーツがCR‐ユニット。
顕現装置を戦術的運用するための装備の総称。
防護服であるワイヤリングスーツと武装が小型のデバイスに収納されていて、起動と同時に瞬時に装着することが可能。
装着すると同時に装着者の数メートル範囲に随意領域という見えない領域を形成するの。
随意領域はその名の通り、使用者の思い通りになる空間で顕現装置が魔法の装置たる所以…ざっとこんな所ね…」
『なるほど…確かに魔法だな…』
琴里の説明にそんな感想を抱く士道。
魔法のはあらゆる奇跡を可能とさせることを目的としている。
ならば限定的でこそあれ顕現装置の作り出す随意領域も確かに魔法と呼べるものだ。
「それで?お前たちラタトスクの目的は精霊との共存か?」
「へぇ?何でそう思うの?」
「そんなもん考えなくともわかる。
殲滅が目的なら陸自に任せておけば足りるだろう?
でっ?どうやって精霊と対話の道に進む気だ?」
士道の言葉に琴里は笑みを浮かべる。
「そんなのは決まっているわ…精霊に恋をさせれば良いのよ。
士道、それがあんたの役目ね」
『お前も…私を殺すのか?』
先ほど出会った名無しの精霊…。
そう言った彼女の悲しげな目を思い出した士道は精霊との交渉役を躊躇無く引き受けたのであった。
「おはよう、お兄ちゃん♪起きて直ぐで悪いんだけど携帯の着信履歴にあった美咲って誰?」
「なにこのヤンデレシチュエーション!」
テレビ画面の中で愛らしい女の子が挨拶と同時に包丁を主人公の首筋に突きつけているのを見て士道は叫ぶ。
色々と書類をサインて解放された翌日、士道は学校の物理準備室で令音と琴里に見られながらギャルゲーをプレーしていた。
『恋してリトル・マイ・シドー』。
流通している恋愛シュミレーションゲーム『恋して、リトル・マイ・シスター』を士道専用に再プラグラミングした士道専用のギャルゲーだ。
恋愛経験皆無の士道にはうってつけの代物ではあるが経過は今一つであった。
「士道、最低でもこのゲームをクリア出来ないと精霊との対話は出来ないわよ」
「司令の言う通りだシン、男を見せたまえ」
シンと言うのは令音がつけたあだ名だ。
彼女は人の名前を覚えるのが苦手らしく最初はシンジ、シキっと呼んでいたが最終的にこの愛称に落ち着いたのだ。
そんな感じでテキストを送ると画面に選択肢が表示される。
①『たっ、タダの友達だよ』っとごまかす。
②『安心しろ!!美咲は男だ!』っと嘘をつく。
③『ごめんなさい、浮気してました』と素直に謝る。
「いやいや、これ!どれを選んでも殺されるんじゃないのか!?」
「そうとは限らないはよ士道。
あんたの選択次第よ」
「だああ!!もう!!」
半ばヤケになりながら士道が選んだ選択肢は③である。
「そっか…素直に答えてくれてありがとうお兄ちゃん。
今すぐに別れるように電話して金輪際浮気をしないって私に約束してね?絶対の絶対だからね?」
その言葉と共にゲームは進行していく。
「へぇ…やるじゃない士道」
「うむ…シンはやればできる子だ」
「じっ、寿命が縮むかと思ったぞ…」
などと呟きながら士道は次のキャラの攻略へと乗り出した。
失敗すれば中二病時代の恥ずかしいな遺産をネット上で大公開すると言われて躍起になってギャルゲー攻略に勤しむ事十日…。
全キャラの後略をした士道の訓練は第二段階へと移行しており。
実際の女性を口説く事になったのだが…。
「あのー、五河君?」
口説く相手と言うのが士道達のクラスの担任である珠恵なのである。
だがいくら訓練とはいえ実際に女性に告白しようとすると緊張してしまう。
『さっさと…何か言いなさいよスカタン!!』
インカム越しに琴里が怒鳴るが告白するときに緊張するなと言う方が無理な話だ。
『ふむ…完全に緊張しているようだな…。
シン、私の言葉をそのまま言いたまえ』
インカムから聞こえる令音のセリフを士道は口にする。
「先生、俺、最近学校に来るのが凄く楽しみなんです」
「そうなんですか、それはいい事ですねぇ」
「―だって先生がいるから」
「…えっ?」
「先生、俺は、俺は………!」
「だ、駄目ですよぅ。気持ちは嬉しいですけど、私は先生ですから」
頬を赤らめながらまんざらでもない様子の珠恵。
『…ふむ…もう一息か…
確か彼女は二十九だったか―』
令音はインカム越しにそう呟くと言葉を継ぐ。
「先生、俺は、本気で先生と結婚したいと思っているんです!」
その言葉を聞いた珠恵の様子が一変する。
「……本気ですか?」
「えっ?」
鼻息を荒くしながら珠恵は士道に詰め寄る。
「本当に結婚してくれるんですか?
私五河くんが結婚できる年齢になったら三十超えてるんですけど構わないですか?両親に挨拶してくれるんですか?高校を卒業したら――」
三十路前の珠恵にとって結婚は大事なことらしい。
『士道、もう十分データは取れたは適当に言い訳つけて離脱しなさい』
「いや…問題ない」
そう言いながら士道は珠恵の肩を掴んで目を見る。
「先生、俺の目を見てください」
そう言った士道の目を見る珠恵。
「あれっ?五河くん?私?」
先ほどまでの興奮はどこへやらと言った様子で珠恵はキョロキョロと周りを見る。
「先生?大丈夫ですか?さっきふらふらしてて倒れそうでしたよ?」
「あれっ?すいません、何か急に眠気みたいなのが襲って来たみたいで…」
小さく笑みを浮かべながら去っていく珠恵を見送る士道。
『呆れたわ…あんた記憶操作まで出来るの?』
「うん、まあな…おっ?」
そう言いながら士道はあることに気づく。
鳶一である、先生にでも頼まれたのか顔が隠れる程の量のプリントを抱えている。
『ちょうど良いわ士道同年代のデータも…』
「鳶一、半分持つぜ」
「ん、ありがとう」
琴里が何かを言う前に既に士道は鳶一のプリントを半分持っている。
『流石だな、シン、見事なフラグの立てっぷりだ』
「ところで鳶一、こないだの事なんだが…」
「あれは精霊…私が殺すべき相手…」
鳶一の横を歩きながら士道は十日前の事を尋ねてみる。
「何故殺す必要がある?」
「五年前…私の両親は精霊のせいで死んだ…」
普段は無表情なその顔に士道は悲しみの色が含まれているような気がした。
「五河くんは何で?」
「うん…あー、俺の愚妹がー」
あの場所にいたのと問うてくる鳶一に答えようとする士道。
その瞬間。
辺り一帯に響き渡る警報音。
それと同時に鳶一が走り出す。
精霊と戦うために…。
『士道!一旦戻りなさい!!』
「琴里!!出現場所はどこだかわかるか?」
インカムに向けて叫ぶ士道に琴里は答える。
「出現場所は―――あんたがいる来禅高校よ」
その言葉と共に士道はフラクシナスへと収容された。
2話目UPー