デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第二十一話『激突』

その日の夕食は、味がしなかった。

別に旅館の料理の味が薄かったとかそういうことではない。

別の事に気を取られていたからだ。

即ち―昼間の八舞姉妹からの告白である。

―もう一人の自分を生かすために、自分の消滅を選ぶ。

それを聞いたとき、士道は一瞬彼女達の考えを理解できなかった。

だが、たとえば―。

士道が命を投げ出さねば琴里が死んでしまうとしたら…。

自分は躊躇うことなく首を縦に振るだろう。

 

「――ドー」

 

故に、夕弦に生き残って欲しいという耶倶矢の気持ちも、耶倶矢に生き残って欲しいと願う夕弦の気持ちも、痛いほどに理解できる。

 

それどころか、耶倶矢と夕弦が互いをこんなにも思い合っている事がわかって士道は嬉しかったのかもしれない。

 

それでも…

 

「おい、シドー!」

 

「まったく、ようやく気づいたかシドー」

そう言っていつの間にかそこにいた浴衣姿の十香が頬を膨らませる。

 

「と、十香……いつからそこに?」

 

「随分前から隣を歩いていたぞ」

 

士道が言うと、十香はジッと士道の顔を見つめてくる。

 

「ん……何だ?」

 

「いや」

 

十香は視線を少し逸らすと、小さく唇の端を上げ、士道の手をきゅっと握ってきた。

 

「シドー、よかったら、少し外へ行かないか?」

 

「え……?」

 

「夜の海をな―見てみたいのだ」

 

言って、士道の手を引いてくる。

 

「ちょ、ちょっと………」

 

士道は慌てて足を踏ん張り、十香の進行を止める。

 

「いや、まずいだろ勝手に外に出ちゃ。

そろそろ先生も見回りに来るだろうし……」

すると十香は唇を突き出すようにしながら小さく息を吐いた。

 

「………すまん、シドー。 少し嘘をついた」

 

「え?」

 

「その……なんだ、せっかく修学旅行に来たとのに、あまり話せてないだろう?

 だから――シドーと二人でお話がしたかったのだ」

 

「……っ」

 

「駄目………だろうか」

 

言って、上目遣いで士道を見てくる。

 

「……いや、そんなことはない」

 

この状況でノーと 言える士道ではなく、頬をかきながらそう言った次の瞬間士道は、満面の笑みを浮かべた十香に引っ張られていった。

 

夜の浜辺にはまるで人影がなく、日中の喧騒が嘘のように静まり返ったいる。

十香と士道はゆっくりとした歩調で海岸沿いの防波堤付近を歩きながら、会話をしていた。

 

「―でな、昨日の夜は亜衣、麻衣、美衣たちと枕投げをしていたのだ」

 

「はは……そんなことをしていたのかよ」

 

「うむ。亜衣達からは修学旅行の夜には好きな男子の元へ夜這いに行くものだと聞いたのでな。

鳶一折紙とどちらがシドーの元へ行くか決めるための勝負だったのだが、途中からつい熱が入ってしまってな、互いに疲れて眠るまでやってしまった」

 

「………そ、そうか」

 

士道は力無く苦笑した。

もし早くに決着がついたり、どちらかの体力が残っていたら昨日は大変な事になっていたかもしれない。

 

とはいえ…さして意味のない会話を交わしているだけだというのに、気分が楽になってきた。

 

と、少し歩みを進めたところで、不意に十香が振り返る。

 

「それで――シドー。 一体、何があったのだ?」

 

言われて、士道は心臓が跳ねるのを感じた。

 

「……っ、何っ、て」

 

「いや、具体的にはわからんのだが…何かあったのだろう?」

 

「な、なんでそう思うんだ?」

 

士道が問うと、十香が「んー……」と人差し指をあごに触れさせた。

 

「なんとなく、シドーが悩んでいる感じがしてな。

何でもないならそれでよいが…」

 

「…………」

 

十香の言葉に士道は大きく息を吐く。

 

「もしかして、十香。そのために俺を連れだしてくれたのか?」

「いや…その、なんだ。

私がシドーと話をしたかったのも事実だぞ?」

 

十香がほんのりと頬を染めながら言ってくる。

そんな姿がたまらなく愛おしくて―そして、ありがたくて、士道は思わず頬を緩めていた。

 

「……なあ、十香。聞いてくれるか?」

 

「む? うむ、何でも聞くぞ」

 

十香がうなずいてくる。

それを確認すると士道はゆったりと話し始めた。

 

「耶倶矢と夕弦がいるだろ?

嘘みたいな話なんだがな、実はあいつらが――」

 

魅力勝負云々のことは上手くぼかしながら、あの二人が精霊であり、争いあっていること、そして……負けた方は命を失ってしまうことを説明する。

最初は頷いていた十香だったが、すぐに驚いたような顔になっていた。

 

「なんと…そんなことが……」

 

「ああ。 それで本題はここからなんだけどな。

実は昨日の昼、耶倶矢に、『夕弦を選べ』って言われたんだ」

 

「何……? そんな馬鹿な、それでは耶倶矢は――」

 

そう言いかけて、十香は小さく首をふった。

 

「いや……しかし、そうか。

私も、私が死なねばシドーが死んでしまうと言われたなら……そうするかもしれない」

 

「十香……」

 

士道が言うと、十香はハッとした様子で肩を揺らした。

 

「な、何でもない!続けてくれ!」

 

「あ、ああ………」

 

頷き、頬をかきながら話を続ける。

 

「それで…な、実はそのあとすぐ、夕弦にも同じ事を言われたんだ。

『耶倶矢を選んでくれ』って、な」

 

士道の言葉に十香が目を丸くする。

 

「なんと……それでは耶倶矢と夕弦は」

 

「ああ……お互い、相手を生かしたがっているんだ。

 

たとえ自分が自分でなくなったとしても、耶倶矢は夕弦に、夕弦は耶倶矢に、生き残って欲しいと思っているんだ。

それで―なんていうか、どうしたらいいかわからなくなっているのさ」

 

士道が言うと、十香は黙り込み何かを思案するように黙り込む。

数秒後、十香は神妙な顔つきで口を動かし始めた。

 

「なあ……シドー。私は思うのだが―」

 

と―その瞬間。

前方から地面を踏みしめるような音がして、士道は顔を上げる。

 

そしてそこに浴衣を着た少女の姿を認め、身体を強ばらせる。

―そう。八舞耶倶矢が、そこにたっていたのである。

 

「か、耶倶矢……!?

なんでここに………」

 

「今の……何?」

 

問いには答えず、耶倶矢が静かな―しかし激しい怒りに彩られた声音を発している。

 

「夕弦が……私を? は? 意味わかんない。 何言ってんの?」

 

独り言を呟くように言いながら、耶倶矢が奥歯を噛みしめ、拳を握る。

するとそれに会わせるようにして、周囲に冷たい風が渦巻いていた。

 

「耶倶矢、落ち着―」

 

焦りに心臓を締め付けられながら士道は口を開く。

だが、耶倶矢はそんな言葉などまるで聞いていないようだった。

ただ拳を握りしめて、全身を小刻みに震わせている。

そして―それに次いで。

「………ッ!? 夕弦!?」

背後からの足音に士道が振り返ると、そこには、耶倶矢と同じように顔を俯かせた夕弦の姿があった。

 

「復唱―要求。

耶倶矢が………夕弦を選べと? そう言ったのですか?」

 

「夕弦、話を―」

 

「「ふざけるな……ッ!」」

 

瞬間、二人が怒号にも近い声を吐くと同時に二人から凄まじい風圧が発せられた。

 

「つッ……!?」

 

「く―!」

 

「ふぁぁぁ!?」

 

二人のすぐ近くにいた士道と十香は、突然の風に背から地面に叩きつけられれそうになる。

どうにか姿勢を立て直して十香を受け止める。

先ほど桜の声が聞こえたような気がするが今は気にしている余裕はない。

二人の方に視線を戻すと凄まじい風の奔流が耶倶矢と夕弦の身体にまとわりつき、身につけた衣装を光の粒子へと変えていく。

そして、それと入れ替わるようにして、全身を締め付ける拘束衣が出現し、首と手足に錠がかけられる。

‐霊装。精霊を守る絶対なる鎧である。

 

それに次いで耶倶矢が右手を、夕弦が左手を、それぞれ前に掲げる。

 

すると耶倶矢の右肩に、無機質な翼が出現。

そこを起点にするように、右腕に金属のような光沢を持った手甲が構築され―最後にその手に、彼女の背丈を上回る巨大な槍が現れる。

 

「《颶風騎士・穿つ者‐ラファエル・エルレエム》!!」

 

それとまったく同時に、夕弦の左肩にも無機質な翼が生えた。

そして左腕を鎧が覆っていき、その手の中に、先端に菱形の刃がついた紐のようなものが握られる。

それはまるでダウジングに用いられるペンデュラムのように見えた。

 

「呼応。《颶風騎士・縛める者‐エルナハシュ》」

 

耶倶矢が槍を構え、夕弦がペンデュラムの先端についた刃を宙に浮かせる。

士道は顔を青くする。

二人が今し方顕現されたのは、間違いなく『天使』だ。

精霊が誇る最強の武器であった。

 

一瞬のうちに様々な思考が頭の中を走る。

『ふざけるな』。

二人が発したその言葉の意味。

それは二人の秘密を漏らした士道に向けられたものなのか―それとも、士道と二人で話をしていた十香に向けられたものなのか。

 

だが、正解はどちらでもないようだったー

 

耶倶矢と夕弦は互いを刺すような視線で睨みつけ、忌々しげに口を開く。

 

「………ふざけたことをしてくれんじゃないの、夕弦。 私を選べですって?」

 

「反論。耶倶矢こそ、なんのつもりですか。

夕弦はそんなこと、頼んだ覚えはありません」

その言葉とともに、辺りに渦巻く風が強さを増していく。

 

「―駄目ね。やっぱり、駄目。

この決闘方法なら穏便に決着がつくと思ったけど、あんたの阿呆さを計算に入れ忘れたわ」

 

「同意。耶倶矢の馬鹿さ加減には愛想が尽きます。

―結局こうなるのです。

二人で始めた決闘を、誰かの手で終わらせてもらおうだなんて、都合の良すぎたのです」

 

言って、二人が槍を、ペンデュラムを構える。

 

「そうね。やっぱり、最後は私たちでやるしかないみたいね。

ちょうどいいわ。

今生涯最高潮にあんたにムカついてるし」

 

「応戦。

夕弦もです。耶倶矢の浅はかさに苛立ちと怒りを隠しきれません」

 

「―決闘方法は」

 

「当然。知れたことです」

 

耶倶矢と夕弦は、再び同時に口を開いた。

 

「「―倒れた方が、勝ち」」

 

それが示すのはただ一つ。

 

どちらかが倒れるまで止むことのない―闘争。

 

「やめ―」

 

士道の制止の声も聞かず、二人は凄まじい風圧を伴って激突した。

 

 

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