デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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随分と間が空きましたが


第三話 『十香』

「精霊とASTの連中はどうなっている?」

 

フラクシナスのブリッジへと転送された士道は開口一番に琴里へと尋ねる。

 

「精霊は2‐4の教室に転移した状態で、ASTも屋外に展開したままで動かないわねー」

 

チュッパチャプスを右手で弄びながら答える琴里。

 

「もともとASTスーツは屋内での運用は向いてないからねー」

 

「だろうな…」

 

モニターに映るリアルタイム映像を見ながら呟く士道。

だがこの状態が長く続くとも思えない。

 

「まっ、こんな状態がそれほど長く続くとは思えないし…。

士道、さっそくだけど精霊をデレさせに行ってもらうわよ」

 

「少し待て、俺に考えがある」

 

急かす琴里を士道にそう言うと笑みを小さく浮かべた。

 

『まさか食べ物で釣ろうなんてね…考えが浅はかすぎるわ』

 

「うるせーよ」

 

ステルス迷彩が施されたインカムにから聞こえてくる琴里の声にバスケットを左手に持った士道は返す。

士道が手に持っているバスケットには先ほどラタトスクにある厨房を拝借して作ってきたチキンサンドとリンゴジュース入りの水筒が入っている。

 

『くれぐれも精霊の機嫌を損ねて死なないように気をつけなさい。

まっ、士道の場合は一度ぐらい死んでも直ぐにニューゲームできるから問題はないけど…』

 

「言ってろ…でっ?精霊の方は?」

 

『変わらずに2‐4にいるわ』

 

インカム越しの琴里の言葉に士道は神代高校の裏側、壁が削られた場所から校舎内へと侵入、階段を駆け上がると教室の前へと辿り着く。

教室の扉や窓は閉まっていて中の様子を窺う事は出来ない。

士道は何度か深呼吸を繰り返すと意を消して教室の扉を開ける。

夕陽に赤く染まった教室にその少女はいた。

不思議なドレスを身に纏っとった少女が机の上に片膝を立てるようにして座っている。

夕陽を背にしたその少女の姿はどこか幻想的で見るもの思考を奪う程であった。

思わず、少女の姿に見惚れる士道。

 

『いつまでも見とれていないで声をかけなさい』

インカムから聞こえる琴里の声に士道は我に返る。

瞬間、少女と目が合った。

 

「お前は―何者だ?」

 

鬱々とした表情を浮かべる少女は腕を振り上げている。

手のひらの上には黒い光の球が形作られている。

 

「と、とりあえず落ち着け!俺は五河士道!ここの生徒だ!敵対する意志は無い!」

 

士道は両手を上げてそう言うと少女へと歩を進める。

 

「止まれ!私からそちらに行く」

 

少女はそう言うと士道へとゆっくりと寄ってくる。

 

「んっ?おまえ…前に一度、会ったことがあるな…?」

 

「あ…っ、ああ、確か―今月の10日に街で…」

 

「思い出したぞ、なにやらおかしな事を言ってた奴だ」

 

納得したように小さく手を打つ少女。

ほんの少しだけ少女の目から険しさが消えるのを看取って士道は一息を吐こうとする。

だが…。

 

「がっ…」

 

一瞬後、士道は少女に顔を掴まれてその体を持ち上げられていた。

所謂、アイアンクローをかけられた状態だ。

 

「…確か、私を殺すつもりはないと言ってたか?

見え透いた嘘を。

何が狙いだ?

油断させておいて後ろから襲うつもりだったのか?」

 

「……っ」

 

少女への恐怖や痛みよりも先に少女が士道の言葉を―殺しに来たのでは無いというセリフを微塵も信じることが出来ない。

信じることが出来ないような環境に晒されていた事に強く憤りを覚えていた。

 

「人間は…お前を殺そうとする奴らばかりじゃ無いんだ」

 

その言葉に少女は目を丸くして指導から手を離し、小さく唇を開く。

 

「…そうなのか?」

 

「ああ、そうだとも」

 

「私が会った人間達は皆私は死なねばならないって言ってたぞ」

 

「そんなわけがあるか!」

 

思わず、士道は声を荒げて叫んでいた。

 

「で、では聞くが。私を殺すつもりがないならお前は一体何をしに現れたんだ?」

 

自分を否定しない士道の言葉に狼狽した様子で少女は問いかける。

 

「君に会うためだ」

 

訓練の成果か、はたまた自分はここぞと言うときには強いのか少女への言葉は淀みなく出てくる。

 

「私に?何のために?」

 

きょとんとした顔で少女は言う。

 

「お前と愛し合うためだ!」

 

そう言った瞬間、少女は手を抜き手にすると横薙ぎに振り抜く。

その瞬間に斬撃が士道のすぐ上を通り抜けて教室の壁を大きく切り裂く。

 

「…冗談はいらない」

 

ひどく憂鬱そうな顔で少女は呟く。

自分が愛されるなんて微塵も思って無いような、世界に絶望した表情だ。

そんな少女の様子に士道は思わず口を開いていた。

 

「俺は…ッ、お前と話をするために…ここに来たッ」

 

少女は士道の言葉に意味がわからないといった様子で眉をひそめる。

 

「……どういう意味だ?」

 

「そのままだ。俺は、お前と話がしたい。

内容なんて何でも良い。

気に入らないなら無視してくれても構わない。

でも、一つだけわかって欲しい。

俺は―」

 

『士道、落ち着きなさい』

 

琴里が諫めるように言うが士道は止めない。

今までこの少女には、手を差し伸べる人間はいなかったのだ。

誰かがたった一言声をかけてあげれば少女は世界に絶望せずにいられたのかも知れないのに…だがその一言をかける人間が誰一人としていなかったのだ。

士道には、両親や友人、そして琴里がいる。

だが、彼女には誰もいない。

ならば―その言葉を告げるのは士道しかいない。

 

「俺は―おまえを、否定しない」

 

「……っ」

 

一言一言を区切るように言った士道に少女は士道から目を逸らす。

そしてしばしの間黙ったあと、小さく口を開く。

 

「…シドー。シドーと言ったな」

 

「―ああ」

 

「本当に、お前は私を否定しないのか?」

 

「本当だ」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当だ」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当だ」

 

士道が間髪入れずに答えると、少女は髪をかき、鼻をすするような音を立ててから、顔の向きを戻す。

 

「―ふん、誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 

眉を寄せて口をへの字に結んで言う少女。

だが少女の口調や素振りから警戒心や不信感が薄れているように士道は思う。

 

「だがまあ…あれだ

どんな腹があるかは知らんがまともに会話しようという人間は初めてだからな…この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる。

うむ、情報超大事」

 

そう言う少女の様子に士道はファーストコンタクトに成功した事を確信する。

 

「ところでシドー、それは何だ?」

 

興味深げに少女が指差すのは士道がフラクシナスの厨房で作って来たチキンサンドの入ったバスケットだ。

 

「ああ…そうだった…お前と仲良くなったら一緒に話をしながら食おうと思ってたんだ」

 

「食い物か!?」

 

どこか興奮した様子で顔を近づける少女。

 

「おっ、おう」

 

そんな少女の様子に狼狽しながらも彼女にチキンサンドを手渡す。

少女はおずおずとそれを受け取ると一口かじる。

 

「これは…」

 

それと同時に少女の目が大きく見開く。

 

「旨い!超旨いぞ!!シドー!!!」

 

感動した様子でチキンサンドをがっつく少女。

 

「おい、そんなにがっつくと…」

 

「むぐっ!」

 

喉に詰まるぞ…っと言おうとしたが既に遅かったようである。

 

「全く…」

 

苦笑を浮かべながら バスケットの中から水筒を取り出すとキャップを開けて少女に手渡す。

 

「ふぅ…」

 

水筒のリンゴジュースを飲み干すと少女は息を吐いた。

 

 

 

「さて、飯も喰ったし何を話そうか…」

 

少女の名を呼ぼうして名を知らぬ事に気づく。

 

「そう言えば前に会ったときに名前が無いとか言ってたな?」

 

「ああ、だがこうして会話を交わす相手がいるのだからな…名は必要だな…シドー、お前は私の事を何と呼びたい?」

 

「それは俺が君の名付け親になってくれと言うことか?」

 

「うむ、そう言うことになるな」

 

「ふむ…」

 

少女がワクワクとした様子で士道を見ている。

 

「――十香」

 

考えること数秒、士道が口にした名はそれだった。

 

『今月十日に出会ったから十香ね…安直ねー』

 

インカムから琴里の小馬鹿にしたような声がするが当然のように無視する。

 

「それで―――十香とはどう書くのだ?」

 

「ああ、それはな…」

 

士道は黒板の方へと歩くチョークを手に取り、『十香』と書く。

 

「ふむ…」

 

少女は小さくうなってから、士道の真似をするように黒板を指でなぞる。

 

ふと見ると少女の指が伝わった後が綺麗に削られて、『十香』と文字が記されていた、

 

「シドー」

 

「なんだ?」

 

「十香。私の…名だ素敵だろう?」

 

「ああ…十香…」

 

気恥ずかしいような気がしながら士道は少女は少女の名を呼ぶ。

士道がその名を呼ぶと、十香は満足げに微笑む。

 

「やっと…笑ったな…」

 

十香の笑顔に士道は小さく呟く。

その瞬間に校舎を凄まじい爆音と振動が襲う。

 

「ASTか!」

 

舌打ちをしながら士道は床に伏せる。

 

「十香をいぶり出す気か!」

 

『もしくは校舎ごと潰して精霊が隠れる場所を無くすつもりか…』

 

いくら校舎を魔法で直せるとしても無茶苦茶だ。

そんなことを思いながら士道は十香を見る。

とても悲しげな表情でボロボロに窓の外を見ている。

無論、十香の体には銃弾どころか窓ガラスの破片すら当たっていない。

 

「十香!」

 

思わず、士道は十香の名を呼んでいた。

 

「早く逃げろ、シドー。

私といては同胞に討たれる事になるぞ」

 

外から士道に視線を移して十香はそう叫ぶ。

確かに、本来ならば逃げるべきなのかもしれない。

だが―――。

 

「逃げるかよ…こんな所でー」

 

『上出来よ―士道』

 

琴里の声を聞きながら士道は十香の足下へと座り込んだ。

何故、十香の足下に座り込んだかと問われれば魔法使いとしての感としか言えない。

 

「なっ―」

 

十香が目を見開いて驚いている。

 

「何をしている?早く―」

 

「知ったことかよ!今は俺とのお話タイムだろ!!あんな連中なんかは無視しろ!

―この世界の事を知りたいんだろ?俺が教えられる事なら何でも教えてやる!!」

 

「………!」

 

十香は一瞬驚いた表情を浮かべながら士道の向かいに座った。

 

『やっぱりか…』

 

雨のように降り注ぐおびただしい量の銃弾は二人を避けるように校舎を貫通する。

二人の周囲に魔術によって作られた防御フィールドが形成されているのが士道の魔法使いとしての知識が告げている。

そんなことを考えながらも士道は十香との会話を続ける。

会話な内容自体は他愛も無い物で、十香の質問に答え。

時々、士道が十香に質問するという物だった。

それでも十香は満足そうに笑みを見せる。

そうやって十香と話をしばらく続けていると不意にインカムからクイズに正解した時のような軽快な電子音が響く。

 

『士道、精霊の機嫌がかなり良いみたいよ!一歩踏み込むなら今よ!!!』

 

一歩踏み込むとは即ちデートに誘えと言う事だ。

 

「なあ…十香、今度…今度俺と…デートしてくれないか?」

 

「デェトとは何だ?」

 

「一緒に遊びに行ったり食事に行くことだ」

 

「うむ!それは楽しそうだ」

 

楽しそうに笑みを浮かべる十香、後は日時と待ち合わせ場所を決めれば上出来だ。

 

『士道!ASTが動いたわ!』

 

インカム越しに琴里が叫び声を上げる。

 

「ちっ!」

 

小さく舌打ちをする士道。

それと同時に折紙が教室の外から教室内へと突入してくる。

 

「また貴様か!」

 

表情を険しくした十香がそちらに手を広げる。

それから一拍も置かずに、折紙は手にした機械から光の刃を出現させて十香へ襲いかかる。

 

「―無粋!」

 

十香は一喝するように叫び、光の刃を受け止めていた手を折紙ごと振り払う。

吹き飛ばされながらも姿勢を立て直し武器を構える折紙。

その様子を見た十香は自分の足元に踵を突き立てる。

 

「〈塵殺公-サンダルフォン-〉!」

 

瞬間に、教室の床が隆起して玉座があらわれる。

 

『士道、離脱よ!一旦、〈フラクシナス〉で拾うから二人から出来るだけ離れて!』

 

「了解!!」

 

士道はそう叫ぶとなけしの魔力を使い、走り校舎から大きく跳ぶ。

瞬間に無重力に自分の身体が包まれるのを感じながら、士道は〈フラクシナス〉に回収された。

 

 

 




第三話upです
 十香編は次回完結、次はもう少し早くupできたらなー
 
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