デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第三十一話 『誘宵美九の暴走』

天宮スクエアセントラルステージには、一日日の出演者たちが勢揃いしていた。

皆緊張した面持ちで息を呑みながら、司会者の声を待っている。

それもそのはず。今は全てのステージ、および投票が終了し、上位校の発表が行われている最中なのである。

 

『ステージ部門第三位ー仙城大付属高校!』

 

スピーカーから校名が発表された瞬間、辺りから歓声と拍手が溢れ、ステージにいた仙城大付の出演者が喜びの声を上げる。

士道たちの前にジャズを演奏したグループである。

士道は手を拍手をする。

三位に選ばれるということは、どうやら相当に上手かったようだ。士道の感想が曖昧なのは単純な理由である、緊張していたために耳に残っていなかったのである。

 

『第二位!』

 

と、歓声を抑えるようにアナウンスが再度響き渡った。

実際、観客たちが注目しているのもここから先だったのだろう。

拍手と声と指笛で溢れかえっていた会場がと静かになる。

皆の脳裏には、二つの高校の名が浮かんでいるのだろう。

常勝竜胆寺の現役アイドル誘宵美九が見せた圧巻のステージか。

最後の最後で奇跡を起こして見せた来禅のステージか。

精霊の持つオーラとでもいうのだろうか。

誰の目から見ても、その二つは別格だった。

司会者も若干緊張した様子で間をおくと、すうっと息を吸ってから続けてきた。

 

『一歩及ばず! 来禅高校!』

 

「つっ………」

 

スピーカーからその名が響き、ステージに設えられた大型モニタに結果が表示された瞬間、一瞬、時間が止まったようにさえ感じた。

一拍おいて鳴り響いた拍手と歓声と幾分かのざわめきの中目を開くと、唇を至めた美九の顔が視界に入る。

 

それはそうだろう。

 

士道たちが二位ということは-

 

『そして、ステージ部門第一位の栄冠を手にしたのは!』

 

アナウンスが響き渡り、同時に美九にスポットライトが集約された。

 

『やはり強かった! 王者・竜胆寺女学院ッ!!!』

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーッ!!!』

 

 

大歓声が、会場の空気を激しく振動させた。

 

「し、シドー…」

 

十香がモニタに表示された順位に視線をやりながら不安げに声を発しきた。

 

「ま、負けてしまった…のか…? わ、私が、歌ったから……」

 

「! 違う! 十香のせいなんかじゃない!…それに!」

 

士道が首を横に振り言葉を次ごうとする、十香の今にも泣いてしまいそうな顔は晴れなかった。

まるで、士道の言葉が聞こえていないかのようでさえある。

 

「ふふ、ふふふふ……」

 

十香が弱々しい声を響かせていると、背後から、美九の含み笑いが聞こえてきた。

 

「美九…!」

 

「ほら、ね。私の言った通りだったでしょう?

仲間なんかに期待しすぎるからこんなことになるんですよー」

 

未だ続く司会者のアナウンスをBGMに、美九がにやにやと笑いながら近づいてくる。

そして士道の眼前まで歩みを寄せてきた美九は、士道のあごを持ち上げた。

 

「何にせよ、約束は約束ですよー。士織さんと、士織さんが霊力を封印したという精霊さ>ん五人、今日から全員私のものです」

 

「おいおい、気が早いなー

お前は確か総合成績で一位を取ったらと言ったんじゃないのか?」

 

「はいっ?」

 

士道の言葉に美九が目を丸くする。

同時に司会者が今までで一番大きな声を張つ上げた。

 

『ーと、いうわけで! 天央祭一日目の総合一位は、来禅高校に決定いたしましたぁぁああああッ!』

 

「へ?」

 

美九が、呆然と目を丸くする。

司会者の話をまるで聞いていなかったのである。

そんな彼女の疑問に答えるように、司会者が言葉を続けていく。

 

『なんとも意外な結果になりました。

ステージ部門では他を寄せ付けない圧倒的なパフォーマンスで一位をかっさらった竜胆寺ですが、どうやら今年は展示部門や模擬店部門が振るわなかったようですね』

 

「え……? え……?」

 

美九が、意味がわからないといった様子で顔を左右に振る。

 

『その隙を、ステージ部門二位につけた来禅が衝いたというわけですね。

特に模擬店部門のメイドカフェの得票数が凄まじい!

審査の際に物議を醸したという話ですが、実行委員の熱心なプッシュが功を奏した形になりますね!』

 

「はは…」

 

士道は力無く笑った。

まさか、こんな場面で亜衣麻衣美衣に助けられるだなんて、思いもしなかった。

 

「シドー!」

 

十香が表情を変えて飛びついてきた。

それと同時に八舞姉妹が左右から同じように首に手を回してきて、なんだかもう大変なことになる。

 

「かかか! 当然だな! 我らの手にかかれぱこの程のこと造作も無いものよ!」

 

「同調。その通りです。夕弦たちに敵はいません」

 

『 それでは、今から表彰を行います。

代表者は前に出てきてください』

 

司会者がそう言い、三組の出演者を前方に出る。

がー

 

「…ふざけないでください。

何です、これー」

 

そこで震えた美九の声が聞こえてきた。

 

「おかしいでしょう…?

私が負けるはずないじゃないですかー……」

 

『あ、あの、誘宵さん?』

 

司会者の呼びかけにも答えず、美九はふらふらとした足取りで前方へと歩いていった。

「私は-誘宵美九なんですよ? 私は…私は…ッ」

 

「…美九」

 

士道は興奮した心拍を押さえるように胸に手を置いてから、静かな声で呼びかけ、美九の方へ歩いていった。

だが、そこで美九がビクッと身体を震わせる。

 

「やめてよ……わ、私は勝ったもん……ちゃんと勝ったもん! あの子たちが……あの子たちがちゃんとしてないから!」

 

「……そんなこと言うもんじゃないぞ。

竜胆寺の生徒だって、一生懸命やったはずだ」

 

「し、知らない! そんなの知らないです! 私は……私は勝ったのに…!」

 

「あー…」

 

美九の言葉に、士道は少し恥ずかしそうに頽をかいた。

それから、自分で臭いと自覚しつつも、その言葉を発する。

 

「なんつーか…仲間のおかげ……ってやつなんじゃないか?」

 

「……な、かま……」

 

美九の言葉に士道はうなずいた。

「ああ、俺たちは確かに、歌ではおまえに勝てななかった。

でも、メイドカフェや他の出展物を用意してくれた生徒たちが、俺たちに足りない部分を塀めてくれたんだよ」

 

「な、何よ…それ。ふざけないでください……仲間……?

ははっ、人間風情が、そんな役に立つはずないじゃないですか……」

 

「でも、そんな人間風情でも、頑張ればおまえに勝てるんだ」

 

美九が声を詰まらせる。

士道は言葉を続けた。

 

「な。

人間って……面白いだろ。

だから美九、おまえもー」

 

「…ます」

 

「え?」

 

美九の言葉が聞き取れず、聞き返す。

 

「仲間…絆…教えてあげますよ!

そんなもの私の前では無意味だってー」

 

すると俯かせていたいた顔をバッと上げ、両手を大きく広げる。

 

「破軍歌姫―ガブリエル―!」

 

美九が会場全域に響き渡るような絶叫を上げたかと思うと、次の瞬間、美九の足下の空間に放射状の波紋が広がっていく。

美九の声に呼応するように、その波紋の中心部から、何か巨大な金属塊のようなものがステージ上にせり上がってくる。

 

聖堂に設えられている巨大なパイプオルガンを思わせるフォルム。

美九が天使を顕現させたのだ。

 

その異様な存在に観客達が気付いたらしい。

辺りをどよめきが包んでいく。

だが、美九はそんなものにはまったく構わず右手を左から右へと一閃させた。

すると、彼女の手の軌跡を描くように、ぼんやりとした輝きを放つ光の帯がそこに現れる。

否、それを帯というのは語弊があるかもしれなかった。

美九の身体を囲うように曲線を描いたそれには細かな線が幾つも走っており、ピアノかオルガンの鍵盤のようになっていたのである。

 

『美九の能力は洗脳…っと言うことは天使の能力は…』

 

 

士道が天使の能力について思案を巡らせていると…。

 

「歌え、詠え、誑え―破軍歌姫―!」

 

「くっ…」

 

十分に訓練された軍隊でもこうはいくまい。

まるでマネキン工場にでも紛れ込んだかのような気分だった。

 

「美九、てめぇ!」

 

叫び、美九の方に視線をやる。

 

「ふふふ、仲間…でしたよね…美しいですね素晴らしいですね」

 

美九は壊れた人形のように笑った。

 

「こんなに、壊れやすいなんて」

 

言って美九が再び光の鍵盤纂くと、その音に呼応するように観客たちが休めの姿勢をとった。

 

「ふふふふふ、これで、あなたのお仲間さんは、ぜンーんぶ私のものですよ。

ねえ、士織さん、あなたの言う絆とやらは、私の指一つでどうにでもなってしまうんですね」

 

「くそ!」

 

士道が吐き捨てるように叫ぶと、美九は楽しげに微笑み鍵盤を指で叩いた。

すると、ステージ上にいた出演者たちが士道の背後に回り、士道の両腕を拘束してくる。

 

「この、放せー!」

 

もがくも、出演者達はびくともしなかった。

そんな様子を満足げに眺め、美九が光の鍵盤を割って士道の方へ悠然と足を進めてくる。

「もう勝敗なんて関係ないです。

約束なんて関係ないです。

この世に、私の思い通りにならないことなんてあっちゃいけないんですからぁ」

言いながら妖しげに微笑むと、美九は士道の身体に指を這わせてきた。

 

「つっ……!」

 

「ふふっ、士織さんも、精霊さんも、みんな、みんな私のものでー」

 

熱っぽく語りながら士道の身体に触れていた美九は、士道の下腹に触れたところでその動作を止めた。

 

「 ん?……んん?」

 

そして首を傾げるとその場から一歩後退し、何やら今まで士道に触れさせていた手を開いたり握ったりする。

 

「今の感触……い、いや、そんなまさか……」

 

訝しげな表情を浮かべる美九に士道は溜め息をつく。

 

「悪いな美九…俺は…男だ…」

 

いつの間にか士道から逃げるように遠くに立っていた美九が、世界が終わったような顔を作り、ぷるぷる震える指と戦慄に見開かれた目を士道に向けてきていたからだ。

 

「し......ッ、ししし士織……さん、あなた……お、おおおおおおおオト……」

 

美九の目がぐりんぐりん揺れ、顔が真っ青になっていく。

 

『逃げるなら…今だ!』

 

錯乱する美九を尻目に士道は己の肩を外し、羽交い締めから離脱、走り出す。

 

「シドー、一体何が起こっているのだ?」

 

士道が舞台から降りて身体強化を用いてその場から離脱しようとした瞬間、戸惑ったような表情で十香が舞台上から問う。

 

「みんなが美九に洗脳された!ここから逃げるぞ!!」

 

「う、うぬ…」

 

「許さない!絶対に許さないぃぃ! この私を騙したことを……ッ!」

 

背後から美九の怒声を聞きながら士道は十香を連れてその場を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

身体強化の魔法を用いて天宮スクエアから放れ、最初にデートした時に来た高台へと士道と十香は来ていた。

 

そこで士道は十香に改めて、状況を説明する。

 

美九の展開した天使によって天宮スクエアにいた全員が洗脳されてしまったこと。

その全員に四糸乃や八舞姉妹、モニターでライブの様子を見ていた琴里達、フラクシナスのクルー達も含まれているだろう事を伝えた。

 

「どうするのだ?士道?」

 

 

彼女が無事だったのはタンバリンの演奏のリズムを取るためにイヤーモニターを両耳にしていたからとのことである。

たかが、タンバリンにそこまでする必要があるのかと思ったが、とりあえずは結果オーライである。

不安げに言う十香に士道は顎に手を当てて策を練る。

だが、その思考は中断される事となる。

 

斬撃が二人のいた場所に飛来したからだ。

 

『マスター!』

 

《オーディン》の声が士道の脳内に響き、霊装を限定解除した十香と共に回避する。

 

「ようやく、見つけました」

 

 

斬撃を放った人物ー魔術師エレン・メイザースが静かな口調でそう言う。

 

「な……おまえが何故こんなところに……」

 

十香が苦々しく顔を盃め、塵殺公を構える。

 

「―目標、夜刀神十香に五河士道…の反応がある女生徒を発見、これより捕獲に移ります」

 

言うとエレンが一直線に士道と十香の方に向かってきた。

十香が息を詰まらせ、士道の腕を掴む。

 

「! 逃げるのだ、シドー!」

 

そのまま、士道の身体を高台下へと放り投げた。

 

「つっ!」

 

士道の身体は、軽々とに放り投げられた。

 

 

 

 

 

魔法を使って地面に着地すると士道は高台を見上げる。

いくら霊力を限定解除した十香とはいえ、あんな状況で無事に済むはずがなかった。

 

ー士道が上体を起こしきったところで、視線の先、高台から何かが飛び出していくのが見て取れた。

 

「あれは……!」

 

その姿を見て、思わず目を見開く。

白金のCR-ユニットを纏った金髪の少女が、霊装を解除した十香を抱いて空を飛んでいたのだから。

 

 

「十香……」

 

十香は意識を失っているのか、ぐったりとしたまま動こうとしなかった。

そんな十香を抱いたエレンは、辺りの状況を確認するようにぐるりと首を回すと、そのまま十香を連れてどこかへと消えていってしまった。

あとに残された士道は、数瞬の間呆然と、エレンの消えた空を見つめていた。

 

「十香あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

叫ぶもーその声は、空しく虚空に響き渡るだけだった。

十香が、さらわれた。

こんなにも、あっさりと。

自分には、何もできなかった。

その事実が、士道の無力感をさらに強くした。

 

 

 

それから、どれくらい時間が経っただろうか。

 

 

夕日が沈みきり、辺りに闇が満ち始めた頃。

十香の手によって逃げ延びた士道は、天宮市の外れにある廃ビルの中の一室に身を潜めていた。

メイド服姿は目立ちすぎるため、既に桜の能力による幻覚は解除してある。

 

棚の上に置いた携帯電話に目をやると。

ワンセグ状態の画面には、天宮市で起こった原因不明の大暴動を生中継で放送しているニュース番組が映し出されている。

街の中を歩き回る何万人もの市民の姿が、ヘリからの空撮映像で捉えられていた。

 

コメンテーターがしきりに持論を展開し、暴動の原因を究明しようとしていたが、それ

も用をなしていない。

誰にも想像できないだろう。この数万人の人間たちが、美九の命令によって士道を捜し回っているだけなどとは。

「………… 」

 

画面を睨みながら、士道は歯噛みした。

 

ーあきらかに、人の数が増えている。

 

どうやら美九はステージの観客だけでは飽きたらず、どんどん尖兵を増やしているらしかった。

破軍歌姫にどれだけの力があるのかわからないが、これでは見つかるのは時間の問題だろう。

 

「くそ……っ」

 

『……………』

忌々しげにうめき、現在は沈黙しているオーディンを見る。

 

消費した魔力の回復に専念しているらしく、ビルに逃げ込んでからは沈黙を続けている。

 

「こんなことしてる場合じゃないのに……俺はーッ」

 

今解決せねばならないのは美九の問題だけではなかった。

DEMの魔術師にさらわれてしまった十香を一刻も早く取り戻さねばならないのである。

 

DEMという会社のことを、士道はそこまでよく知っているわけではない。

 

だが、精霊を殺すことを至上目的とし、各国の軍や警察組織に顕現装置を提供している組織が、十香を丁重にもてなすなどとは考えられなかった。

しかも頼みの綱であるフラクシナスとの連絡手段であるインカムも隠れている場所が特定される可能性があるために逃げる途中で捨ててきたのだ。

 

「…これからどうするか……」

 

士道は苦悩に満ちた顔を作ると、再び拳を床に打ち付けた。

―問題は山積みだ。

士道を狙う美九。

美九に洗脳された可能性が高い四糸乃、耶倶矢、夕弦。

天宮市を埋める人の群れ。

そしてー十香をさらっていったDEMインダストリー。

それら全てに対応するためには、何もかもが不足していた。

時間が足りない。

 

設備が足りない。

戦力が足りない。

 

「俺は―!」

 

そして、士道が全身に蟠る無力感を声にして零した瞬間。

 

人の気配に気づきその方向を見る。

 

「やっぱり…君の言った場所にいたねー」

そこにいたのは魔法使い―サルバトーレ・ドニであった。

 

 

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