デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

38 / 96
第三十九話 『十二枚の写真』

「ああ!くそ!これは一体どういう事だっ!!」

 

七罪と遭遇した翌日。

 

士道は叫びながら来禅高校の校内を走り回っていた。

 

別に、急に天啓が降りてきたとか足が勝手に動き出したとかそういう理由ではない。

 

その理由は彼の後ろに迫る女子達が原因であった。

 

「待ちなさい!五河士道!!」

 

「自分がした罪を悔い改めなさい!!!」

 

「痛覚をもって産まれたことを後悔させてくれるっ!」

 

「見損なったぞ!シドー!自分の侵した罪を認めるどころか逃げるとは!」

 

「シドー君!大人しくするんだよ!!」

 

「士道。溜まったいるなら私で発散してくれればいいのに…」

 

「士道!大人しく我のパンツを返すがいい!」

 

「士道、私だけがずぶ濡れでは不公平です…」

 

「五河くん!責任とって私と結婚しなさーい!」

 

口々に責め立てる彼女達に追われているからである。

 

彼女達が言うには

「五河くんにいきなり胸を揉まれた」(亜衣談)

 

「五河くんにお嫁にいけなくされてしまいました…」(珠恵談)

 

「士道にパンツを盗まれた」(耶倶矢談)

「士道にバケツで水を掛けられた」(夕弦談)

 

と士道にセクハラ紛いの事をしたとの理由で追いかけてきているのであった。

何もされてない十香と桜が追ってきているのは士道が亜衣に行った(らしい)セクハラを認めずに逃げ出したからである。

 

証言してくれるのが《オーディン》ぐらいしかいないため亜衣麻衣美衣や珠恵に弁解ができないも辛いところである。

『十香が日直一緒に登校できなかったのは辛いな…。

それに折紙も弁明してくれても良いものを……余計に話をややこしくしてるし……』

 

苦笑を浮かべながら士道は後ろを振り返る。

 

逃走開始から時間は十分を過ぎようとしており、体力がつきたのか亜衣麻衣美衣と珠恵の姿は見えない。

 

現在、士道を追ってきているのは十香、折紙、桜、八舞姉妹の五人であった。

 

『マスター、今ならまだ許してもらえる可能性があります。

早急に彼女達に謝罪してください』

 

『いや!お前!!朝から俺と一緒だったよね!?一緒だったよね!?』

 

『冗談です』

 

感情豊かになってきた相棒に対して苦笑をうかべつつ士道は窓を素早く開け放つと身を宙へと放り出す。

 

 それと同時に士道が見つけたのは向かいの校舎で笑みを浮かべるひとりの少年の姿を見つける。

 

「あれは…まさか!!」

 

『ええ…間違いありません』

 

目を見開いた士道と共に《オーディン》が驚いたような声を上げる。

そう、信じがたいことではあるが士道が見つけたのは五河士道であったのだ。

 

「あの野郎!!」

 

地面に着地すると同時に疑似霊装を展開、士道は走り出す。

『マスター、何人かの生徒に見られています』

 

『………』

 

後から目撃者の記憶を消さなければならない苦労を考えるとため息が出る。

だが、今は自分の無実を証明するのが先である。

 

そうしてどれくらい走ったのだろうか…。

 

士道は『もう一人の士道』に導かれるようにして校内を走り回り―最終的に、屋上の扉の前までやってきていた。

そして、ドアノブにてをかけると一気に扉を開け放った。

薄暗い視界から一瞬にして開放感のある青空へと変わる。

だが、そんな事を気にしている余裕などなく士道は屋上へと足を踏み出し、声を上げる。

「出てこいよ!七罪!!」

 

「あら?気づいていたの?」

 

後ろから聞こえてきた声に振り返る。

 

すると、今し方士道の出てきた塔屋の上に腰掛けた士道と同じ顔の少年が、悠然と腰掛けていた。

 

「この間見たのお前とASTとの戦闘。

そして亜衣麻衣美衣や十香達の話から推測したまでだ。

お前の天使は人や物の姿形、性質を変える事が出来る。

それを応用すれば俺になりすますことが出来るだろうとな…」

 

「正解。

よくできました。

流石…魔法使いと言ったところかな?」

 

楽しげに笑いながら宣う七罪に士道は続ける。

 

「なるほど…昨日の去り際に言っていたように俺の人生をおしまいにしにきた訳か…」

 

そう士道が言った瞬間に『もう一人の士道』―七罪が表情を消して士道を睨みつける。

七罪の鋭い視線に背筋に悪寒が走る。

 

「……二十点」

 

「へっ?」

 

「言ったでしょう?

私の秘密を知ったからにはただじゃ済まさないって。

こんな嫌がらせでは済まないんだから……!!」

 

『秘密と言ってもそれらしきものは見てない筈…なんだけどなあ…』

 

などと思ってはみるが余計に事態がややこしくなる可能性があるために言わないでいた。

 

「私の秘密を知る者は、この世にそんざいしてはいけないだから!!

でも、大丈夫。

だって、ほら、ここには士道くんが二人いるんだもの。

ねぇ?

同じ人間が二人いるなんておかしいわよねぇ?

一人にしないと駄目よねぇ?」

 

「なるほど…俺になり変わるつもりか?…だがそう上手くいくかな?」

 

士道がそう呟くと同時に屋上に至るドアが勢いよい開かれて十香と折紙が顔を出してきた。

 

「この、貴様は別のところに行くがいい!

シドーは私が見つけ出すのだ!」

 

「それはこちらの台詞。

あなたなどに任せておけない。

早く教室に戻るべき」

 

二人して士道を探していたらしく、互いに睨み合い、押し合いながら屋上へと出てきた。

 

そこで二人はW士道を発見したからか、身体の動きを止め、信じられないものを見たような顔をして目を丸くしている。

 

「し、シドーが二人?」

 

「どういうこと?」

 

怪訝そうに眉をひそめながら十香と折紙が言い、士道と七罪が化けた士道の顔を交互に見比べる。

同じ顔の人間が二人もいるのだからそれめまた当然の行動とも言えた。

 

だが、これは皆に悪さをしたのが本物の士道である事を証明する好機といえた。

 

「十香、折紙、聞いてくれ…こいつは」

 

「こいつは偽物だ。

俺に化けて皆に悪戯をしたのはこいつだ」

 

士道の言葉を遮るように七罪が化けた士道が声を発した。

 

「騙されるな! 俺が本物だ!」

 

「何を言ってやがる!俺が本物だ!」

 

士道と七罪が化けた士道、二人ともが同じ口調、同じ声で言うと十香も折紙もどちらが本物の士道かわからず困惑したように眉を潜めていた。

 

だが、士道に出来ることは二人を信じて訴えかけることしかできない。

 

「十香、折紙、信じてくれ。

俺が本物の五河士道だ」

 

「騙されるな! 頼む!信じてくれ!」

 

七罪が化けた士道も必死に声を上げる。

その姿は士道から見ても士道にしか見えなかった。

 

「むう……これは、どちらかが偽物というわけか」

 

「不可解な状況。しかし」

 

十香と折紙がしばらくの間、二人の士道を見比べると、それぞれが人差し指を差して―

 

「お前が、偽物だ」

「あなたが、偽物」

 

全く同時に七罪が化けた士道へ指を突きつけたのである。

 

「な…!?」

 

こうも迷いなく真贋を見極められると分かってなかったのか七罪が化けた士道が驚愕の表情を浮かべた。

 

「な、何言ってるんだ二人とも。俺は―」

 

七罪が往生際悪く言葉を続けようとするが十香と折紙は考えを変えるつもりは無いと言うように首を振り、士道の元へと寄ってくる。

「…なんで、分かっての? 

変身は完璧だった筈なのに……。

なんでそんな風に自信を持って俺を指させるんだ?」

 

七罪が問いかけると、十香と折紙は一瞬視線を合わせてから順に口を開く。

 

「なんでと言ってもな…なんとなくだ。

確かに士道そっくりではあるが本物と並び立つと、何か匂いが違う気がしたのだ。」

 

「あなた一人しかこの場にいなかったなら私は騙されていた。

事実、先ほどまで私はあなたを士道だと思っていた。

しかし、士道が二人いてどちらかが本物という条件では別。

長い間、士道を見てきた私の目は誤魔化しきれない」

 

十香がぼやっと、折紙が捲くし立てるように言うと、士道に化けた七罪は信じられないものを見るような顔で二人を見る。

 

「な、何なの……なんなのよこの娘たち…! どうかしてるわ!」

 

「こいつらにはお前のなりすましは通じねぇよ」

 

士道が自信あり気に言うと七罪はその驚愕の表情を士道に向ける。

 

先月、天宮祭の折りに士道が女子生徒に完璧に化けていたにも関わらず見破った二人ならばもしかしてと思っていたのだ。

だが、その情報を知らぬ七罪は忌々しげに歯噛みすると右手を掲げる。

すると虚空より箒型の天使が現れ、その手に握られたかと思うと、箒の先端が放射状に開き、太陽光の光を反射するように輝きを放つ。

せして次の瞬間には七罪が淡く発光し―その姿が昨日に見た長身の美女へと変貌する。

 

「なっ……!」

 

「……………」

 

十香と折紙が驚愕に目を見開き、身構える。

だが、七罪はそんな二人など眼中に無いと言わんばかりに悔しそうに歯ぎしりし、頭をかいた。

 

「あり得ない…あり得ない…あり得ないィィィッ!」

 

「な……」

 

「秘密を知られた挙げ句、私の完璧な変装まで見破られたっていうの……?

嘘よ……こんなの嘘!

絶対……絶対に認めないんだから……ッ!」

 

七罪は憎々しげに叫ぶと士道達に指を向けてきた。

 

「このままじゃ済まさない……! 絶対に一泡吹かせてやるんだから!」

 

そして士道達に敵意剥き出しの視線を向けてそう言うと、軽やかな動作で箒に跨がると、屋上を蹴って、空へと飛んでいく。

 

「あ―お、おい!」

 

慌てて声を上げて追いすがるも、時すでに遅し。

 

士道に一瞥する事もなく、七罪の姿は小さくなっていった。

 

本来ならば七罪の好感度を上げて、霊力を封印しなければならないのであるが、全く進展の無い状態で終わってしまったのだ。

 

とはいえ、想定外の出来事ではあった。

 

いきなり向こうから現れ、士道に成り代わろうとしたのだ。

 

かなりのイレギュラーであるが、今後の対策を立てるために琴里に報告する必要がある。

 

だが、今はそれよりも先にやらなければならないことがあるようだ。

 

「シドー」

 

「士道」

 

七罪が消えるまで油断なく上方に視線をやっていた十香と折り紙が、同時に士道の名を呼び、振り向いてくる。

 

「何だ、二人とも?」

 

何となく、次に二人が発する言葉を予測しながら士道は問いかける。

 

「あやつは一体何者なのだ?」

 

「あの女は誰?どういう関係?」

 

ほぼ予想通りの問いかけを二人が発してくる。

士道は七罪の事をどう説明すべきか、思考を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

「あー…」

士道はぼやくように喉を震わせつつ、ソファーの手すりに足を投げ出す。

 

10月22日、土曜日。

七罪が―士道に化けて学校に潜り込んでから五日が経ったにも関わらず、あれから一度も士道の前に姿を現してはいない。

 

空間震も起きてなければ、《フラクシナス》の観測装置に引っかかった形跡も無いのだ。

 

「……こう何もないと、逆に気持ちが悪いな」

 

自宅リビングのソファーに寝っ転がりながら、士道は額に手を置いて吐息する。

 

と、天井を眺めながらそんな事を考えていると急にお腹の辺りに何かが重いものがのしかかってくるのを感じた。

 

こんな事をする人物は士道の知る中で一人しかいない。

―即ち、士道の妹、五河琴里である。

 

「……おい琴里、義理とは兄貴に対してそういう行動はどうかと思うが?」

 

腹の方に視点を落とすと案の定チュパチャップスのを咥える琴里の姿があった。

 

「精霊に狙われている状況にも関わらず、気を抜きまくってる士道が悪いのよ」

 

「ぐ…」

 

そう言われると何も返す言葉は無いと士道は黙り込む。

 

「あの精霊―七罪が何を考えているかわからないけど、このまま何もないなんてこと考えにくいわ。

きっと何らかの方法を用いて士道に接触してくるはずよ。

 

こちらからコンタクトする方法が無い以上、私たちはそのタイミングで七罪の好感度を上げないとならない。

その辺りはわかってるでしょう?」

 

「ああ、無論だ」

 

士道や琴里達《ラタトスク》の目的は精霊の能力を平和的に封印する事である。

 

それ故に、今回のように何らかの理由で精霊に敵意を持たれる事は、本来なら絶対に避けなければならないのである。

 

しかも七罪の場合は何故士道を目の敵にするのか全くわかっていないのだ。

先ず、七罪との接触を契機にその原因を探る必要があった。

 

士道の真剣な表情を見てか、琴里は手にしていた封筒を掲げた。

 

「ようやく顔に覇気が戻ってきたわね。

―ほら、これ。

朝ポストに入ってたわ」

 

「ん?」

 

不思議そうに首を捻りながら受け取ると、中に何かが入っているのか厚みと重さがあるのがわかった。

 

表に「五河士道様」とだけ書かれた白い洋封書だ。

他に住所や郵便番号がなく、切手も無い。

恐らく五河家のポストに直接投函されたのだろう。

 

「七罪からか?」

 

会話の流れから察した士道に琴里が頷く。

 

「ええ。ラブレターよ」

 

「どちらかと言えば挑戦状だろう」と苦笑しながら裏を見ると、ご丁寧にも蝋で封緘されており、その下に七罪の名が記してあった。

 

「ちゃんと中身は調べたのか?」

 

封書をテーブルに置いてソファーに座り直しながら尋ねる。

 

「ええ、ちゃんと《フラクシナス》で外部から調べさせてもらったわ」

 

『霊力の類も感じられませんから大丈夫でしょう』

 

琴里と《オーディン》の言葉に封蝋を剥がして、中身を取り出した。

 

「…これは」

 

「写真……みたいね」

 

士道の手元を覗き込んだ琴里が怪訝そうに言う。

 

「ああ…しかも被写体はお前だな…」

 

士道が言うとおりその写真には、白いリボンで髪を括り、中学の制服を着た琴里の姿が納められていた。

だだし目線が合っておらず、距離も遠い。

素人が見ても盗撮したものと見て取れた。

封書に納められていた写真は全部で十二枚あったがそれら全てが士道に近しい人物の全身像が写されていた。

 

十香。折紙。四糸乃。桜。耶倶矢。夕弦。美九。亜衣。麻衣。美衣。タマちゃん先生。

 

全て、本人たちに気づかれぬように撮られた盗撮写真だった。

 

「一体何をさせたいんだ七罪は…」

 

士道が眉をひそめる。

 

「他には何か入ってないの?」

 

琴里の言葉に封筒を取ると、中にもう一枚、カードのようなものが入っていることがわかった。

それを取り出し、テーブルの上に置く。

そこには、短い文章が記されていた。

 

『この中に、私がいる。

誰が私か、当てられる?

誰も、いなくなる前に。

       七罪』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。