「どういう…つもり?」
士道の隣を歩きながら七罪が怪訝な表情をしながら尋ねる。
場所は変わって天宮市内の商店街。
士道は七罪と共に買い出しに向かっていた。
「疑り深いな、別に他意なんてないさ」
七罪の言葉に肩をすくめながら答える。
無論、逃げられるリスクを犯してでも士道が七罪をデートに誘ったのには理由がある。
七罪のリハビリである。
彼女が『自分が可愛い』と信じられるようにするために第三者からの評価をダイレクトに伝える必要があるのだ。
そんな理由もあって士道が選んだ方法が七罪と共に外出する事であった。
無論、七罪の性格を鑑みてそれでも尚、他人を疑ってかかる可能性もある。
「それに…こんなもので本当に…他人が考えてることがわかるの?」
言いながら七罪が‐ドッグタグ状態の《オーディン》を摘まむ。
『周囲の人間の表情や顔の筋肉から相手の心中を読み取る事が可能です』
士道が今回、七罪とデートするに際して彼女へと渡したものだ。
《オーディン》には自分たちに視線を向けた相手の思考を七罪と士道に伝えるように指示してある。
七罪の脳内にも同じように声が響いているのか何かを考えるよう仕草をする。
「あんたが私を騙したりしてなければだけどね?」
『安心してください、私は一人格であると同時にマスターの道具です。
故にマスターが嘘偽り無くと申されたらそのままあなたへと他人の思考を伝えます』
「大体、今俺が考えてることだって伝わってるだろ?」
士道がそう問うと七罪が少しだけ呆れたように返答する。
「…こんな時にまで夕飯の献立を考えてるとは思わなかったわ…」
「ははは…」
乾いた笑いを漏らしながら士道は八百屋の前に立ち止まる。
「よう士道ちゃん!また、可愛い娘連れてるね!!!!」
それと同時に店主が威勢良く発した『可愛い』の一言に七罪が顔を赤くする。
店主が思ってることが発した言葉と全く同じだったから余計に気恥ずかしいのだろう。
そんな様子を見ながら士道は商品を選び、代金を店主へと手渡す。
「よし、可愛いお嬢ちゃんのために今日はいろいろとオマケしておくからね」
再び、店主が発した『可愛い』の一言に七罪が顔を更に赤くする。
そんな七罪の様子を満足そうに見て士道は七罪と共に買い物を再開した―。
士道と七罪が買い物を再開するのと同時刻である。
雷華がその異常事態に気づいたのは―。
普段、彼女がカメラを拝借している人工衛星の数機が急速に高度をを下げ始めたのである。
一体、どうしたことかと思いを使い情報を集める。
「マジ…?」
情報を集め、導かれた結果に目を驚愕に見開いて雷華はそう呟いたー。
「―バカみたい…」
「ん?」
八百屋での買い物の後、井戸端会議中のおばちゃん連中に七罪と一緒に歩いてるところをからかわれたり。
他の店での買い物をしようとしても、先程の八百屋同様に茶化されたり。
その度に慌てたようにオロオロする七罪がものすごく愛らしく見えたりしたのだ。
そして、現在。
一時、購入した食材を五河家に持って帰ろうとする帰り道、七罪がポツリと呟き士道が聞き返す。
「他人を疑ってばかりいた私がバカみたいだって言ったのよ」
「だが、それは仕方ないことだろ」
七罪の呟きに士道が答える。
「今まで、誰も自分を認めてくれなけりゃ、そりゃ精神的に歪んじまうよな…。
実際に十香達もそうだったしな…」
「えっ…?」
驚いたように目を見開く七罪。
だが、それも当たり前と言えた。
今の天真爛漫な十香を見てそんな事を想像しろという方が難しいだろう。
「まっ、詳しい話はそのうち話してやる…」
言いながら士道は背筋がヒリヒリするような感覚を覚える。
『魔力を感知しました、結界が展開された模様です』
ほぼ同時に士道と七罪の頭の中に《オーディン》のそんな言葉が響いた。
士道が七罪を連れて商店街で買い物をしている最中、その男は双眼鏡を覗きながら右耳に装着したインカムで何処かと連絡を取っていた。
「こちら―、目標を確認した」
『了解、ではそちらの方をよろしくお願いします』
インカムから何者がそう答えると同時に男は気配を感じ、後ろを向く、そこには魔法使いー相良苺とサルバトーレ・ドニの姿があった。
「ふむ…随分と物騒な気配を感じて来てみれば……やはりお主か…」
男に睨むような視線を向ける苺。
浅黒い肌に刈り上げた髪。
顎には無精髭を生やしたスーツ姿の男だ。
男の名は衛宮切嗣、《協会》に所属しないフリーランスの魔法使いであり、魔法を使った殺しを請け負っている。
「《協会》の魔法使いが僕に何の用だい?」
取り出したタバコに火をつけながら切嗣は二人に問う。
「一応、僕達は《ラタトスク》側についてるからねー。
邪魔されると面倒なんだよー。
このまま何もしないで引き下がってくれるとありがたいんだけどねー」
「悪いが、僕もウェスコット氏から君達を足止めしろと依頼を受けているからね。
引くわけにはいかないよ」
切嗣が言うと同時に懐から中折れ式の大型拳銃を取り出す。
直後に銃声が響き、三人の魔法使いの戦闘が始まった。
結界により人気が無くなった商店街。
士道は魔術師、エレン・メイザースと相対していた。
「しかし、魔法とは便利ですね…こうも簡単に人払いが出きるとは…」
言いながらエレンはレーザー・ブレードを構える。
「しかし、わかりませんね?
何故こちらの提示した条件を呑まないのですか?」
「呑めるわけないだろ…!」
エレンを睨みつけながら言葉を返す。
結界が張られた直後、CR‐ユニットを装着したエレンが士道の前に現れてある条件を提示してきたのだ。
曰く、士道と十香達の身の安全と引き換えに七罪を渡せと言うものだった。
当然の事ながらそのような条件を士道が呑める筈も無い。
「なる程…ならば仕方がありません…実力行使させて頂きます」
言って、エレンが手のレーザー・ブレードを士道に向けて振り下ろそうとする。
士道もまたカウンター狙いの一撃を繰りだそうと拳を突き出す。
瞬間ー。
「《贋造魔女》!!」
「なっ!!」
エレンが驚愕の表情を浮かべる中、七罪が《贋造魔女》を発動させる。
どうやらエレンはこの間に負わせた七罪の傷がまだ癒えていないと思ってらしい。
子供のような姿になったエレンの鳩尾に士道の拳が直撃した―。
「つっ!」
轟音と共に切嗣が撃ち出した銃弾を避けると同時にドニが剣を繰り出す。
だが、その刀身が切嗣に届くよりも早く再装填された銃弾が襲う。
「《復元する世界》!」
銃弾がドニの身体を穿つよりも早く苺が発動させた《復元する世界》により彼女の隣へと呼び戻す。
「やりにくいね…」
ドニが新たに剣を投影しながら切嗣を睨む。
切嗣の攻撃は自身の魔力を練り込んだ銃と銃弾によるもので掠っただけでも相手の魔力を暴走させるものである。
しかも、その銃弾の装填速度が異常に速いのだ。
更に相手の魔法からも魔力を浸食、暴走させるため迂闊に投擲もできないのだ。
だが、倒せないという訳では無い。
『切嗣が銃を撃つよりも早く、攻撃を繰り出す……!!』
そんな事を考えながらドニは苺と頷き合い、次のアクションを起こすべく魔力を練る。
だがー
「残念だが…どうやら君たちの相手をしている暇がなくなったらしい…」
そこで切嗣は言うと拳銃を懐にしまい、煙草を地面に捨てる。
同時に結界が解除され空間振警報が鳴り響く。
その後、二人が《ラタトスク》の施設を出るときに装着してきたインカムにその知らせが届いた。
「ふふ…ざまぁ…」
不適な笑みを浮かべて気絶する七罪。
それと同時にエレンの姿が元に戻る。
「よもや…この私がまた膝をつくとは思いませんでした…」
腹部を押さえてうずくまるエレン。
士道が繰り出したカウンターはエレンを昏倒させるには至らず、危機的状況は変わらない。
「私の誇りを傷つけた罪、その命で贖いなさい」
言いながら、エレンがレーザー・ブレイドを振り上げる。
「くっ…」
士道は歯噛みしながら七罪を抱き寄せる。
エレンがレーザー・ブレイドを振り下ろそうとした瞬間ー
「はい、私です。
何かありましたか」
士道と七罪から視線を外さぬまま、エレンが右耳を押さえる。
恐らく、インカムに通信が入ったのだろう。
「………何ですって?」
そこからどのような情報がもたらされたのか、急に表情を険しくする。
「……ええ、ええ。
わかりました。
こちらで対応します」
そこまで言うとエレンは耳から手を離し、士道を一瞥する。
「運のいい人達です」
そう言い残すとエレンはスラスターを吹かして飛び立っていった。
エレンが飛び立つと同時に結界が解除され、空間振警報が鳴り響く。
『―ど、士道、聞こえる!!』
そしてインカムに切羽詰まった様子の琴里の声が響いた。