「気持ちいい朝だな…」
清々しい気分で目覚めた士道は起き上がり小く延びをするとそう呟く。
「おーい!おにーちゃ…
ってあれー?起きてるー!」
それと同時にノックもせずに部屋に入ってきた琴里が驚いたように目を見開く。
「おはよう、琴里。
早いな」
「おはよーおにーちゃん。
たまには起こしてあげよーと思ってたのにー」
「それは残念だったな。
というか琴里、今日は朝から元気だな」
「だって、今日はみんなで遊びに行くんでしょ?」
琴里の言うように今日は昨日とは違う面子で遊園地へと向かうことになっているのである。
「琴里は準備万端って感じだな。
そういや今朝は鞠亜がいないな」
「もう下に降りてるのだー」
「そうか……鞠亜も楽しみにしているってところかな…」
鞠亜も遊園地に行ったことが無い言っていたからそれもまた無理からぬ事だろう。
「おにーちゃん、もしかして或守が一緒に寝てなくて寂しいとかー?
へんたーい!!」
「何でそうなる!
いいから!飯食って出かけるぞ!!」
「はーい!!」
からかう琴里をそう言って部屋から追い出すと指導は服を着替え始めた―。
「おはようございます、士道」
顔を洗い、ダイニングへと入ると鞠亜が朝食の準備を整えておいてくれていた。
「おはよう、鞠亜。
今日は早起きだな」
「せっかくのお出かけですから。
朝食の準備は終わってますのでよければ食べてください」
「ありがとう。
早速いただくよ」
「みなさんのお弁当も作りました。
向こうでいい時間になったら、食べましょう」
「おお、弁当まで作ってくれたのか。本当に準備万端って感じだな」
顔にこそ出てはいないが鞠亜も凄く楽しみにしているようである。
「確か今日行くメンバーは俺、琴里、四糸乃、夕弦、折紙、夕弦、七罪、凛音、鞠亜の八人で合ってたよな?」
「はい、それで合ってます。
あとそろそろ外で待ちましょう。
その方がスムーズに合流出来ます」
「了解ー」
本日、遊園地へと向かうメンバーについて確認する士道に鞠亜がそう答えた。
「遊園地に着いたら何か乗りたいものはあるか?」
「……いくつか候補をかんがえたのですが、これで決定というまではいきませんでした。
強いていうならば……せうですね、全部です」
「全部!?
休日だから混んで……って、そこはなんとかならなくもないか。
ゲームの世界だしな」
「遊園地は人が多く、込むものだと認識しています。
これをなんとかしてしまって、遊園地を楽しめるのでしょうか」
「確かに、鞠亜の言うことも一理あるか…」
「それでは今のままで問題はありませんね?」
「ああ、順番を待つうちに期待もボルテージも高まるからな…」
「それはとてもたのしみです」
『鞠亜には他のみんなと同じように楽しんで欲しいからな…』
士道がそんな事を考えていると…隣の精霊用住居から右手によしのんを装着した四糸乃が現れる。
「あの、おはようございます……」
「やあやあ、お待たせしちゃったかなー?」
「おはよう四糸乃、それによしのん」
「四糸乃ったらぁ、昨日は興奮してなかなか眠れなかったんだよー、ね?」
「う、あの、その…」
よしのんの言葉に四糸乃が顔を赤くして言いよどむ。
「今日は皆で目一杯楽しもう」
「は、はい……頑張ります」
「うん、頑張ろうね。
四ー糸乃。いろんなトラブルもあるかもだしねー」
よしのんの悪巧み的な言葉が聞こえたがとりあえず聞かなかった事にする士道。
「ところで、夕弦は耶倶矢と別れを惜しんでいるんだろうが…。
七罪と凛音、折紙は…」
「あー、七罪ちゃんと凛音ちゃんはねー」
「お待たせー」
よしのんが何かを言おうとしてきた所でマンションから七罪と凛音が姿を現す。
「おはよう。
七罪、凛音」
「おはよう」
「おはよう、士道。
ごめんね、昨日は少し七罪ちゃんと話し込んじゃって…」
何を話していたのかは大方予想はつく。
年頃の女の子が夜更けまでする話といえば恋バナと相場は決まっている。
「さて…あとは」
「あとは夕弦のみということになる」
「お…折紙」
唐突に現れた折紙に驚く士道。
「おはようございます、鳶一折紙。
今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
そんな折紙に驚きもせず接する鞠亜に士道はあることを思い出す。
「折紙、少し良いか?」
「何?」
どこか興奮したような様子で士道に顔を近づける折り紙。
「少し頼みたいことがあるんだが…」
「わかった」
「まだ何も言ってないんだがな…」
何も言っていないのに頷く折紙に苦笑を浮かべる士道。
「士道は今日、或守鞠亜を楽しませたいと思っている。
それで、私にも協力を求めたい。
違う?」
「流石だな…」
「私は士道の彼女なのだからこの程度の洞察は当然といえる」
感心する士道に自信げたっぶりに答える折紙。
『彼女』のところが妙に力を入れて言ったような気もするがとりあえず気にしないようにする。
「そういい事だからよろしく頼む」
「任された。
遊園地に関しては、入念なシュミレートヲしている。
それを応用すれば、今回の件はたやすい」
「それを聞いて安心しても大丈夫なんだよな?」
折紙のことを信用していないわけでは無いが一抹の不安を抱く士道。
「謝罪。遅れて申し訳ありません」
そこに精霊用マンションから出てきた夕弦が謝罪の言葉を口にする。
「反省。本当は耶具矢もつれてきたかったのですが、昨日は夕弦が留守番したのだから私だけ二日連続じゃ不公平、と譲りませんでした」
「はは、その辺りの筋を通すのは耶具矢らしいな。
――それじゃ、出発するか」
「おー!しゅっぱつしんこー!」
「おー!」
夕弦の言葉に苦笑しつつ士道が出発の合図を出す。
それにノリノリで答える琴里と鞠亜であった。
「夕弦、少し良いか?」
「設問。なんでしょう、士道」
家を出てしばらくしたところで士道は夕弦に話しかける。
「鞠亜……今日みたいにみんなで出かけた経験がほとんどないからさ。
仲良くしてやってほしいな、と思って」
「理解。ですがそれは余計なお世話だと思います」
「余計なお世話?」
「肯定。そんな事をせずとも、鞠亜は夕弦たちと仲良く過ごせます」
「…だと、いいんだがな」
「微笑。士道は過保護ですね。
大丈夫です。
お任せください」
「そこまで言うなら任せた」
「承諾。遊園地をどれだけ深く楽しめるか……これは、耶具矢と夕弦も勝負したことです。
勝者は夕弦でした。
……つまり、なんの問題もないということです」
逆にそう言われると少しばかり不安が残る。
『っというかどうやってその勝負の勝敗を決めるんだ?』
などと疑問に思う士道である。
「肯定。夕弦もちゃんと鞠亜と友人になりたいです。
それにほら、四糸乃も七罪も頑張ってますよ」
夕弦の言葉に四糸乃達の方へと視線を向ける。
「ま、鞠亜さん。
一緒に、生きましょう。
……お話、しながら」
「私も…鞠亜と…話したい」
「はい、四糸乃、七罪。
私もお話、したいです」
「私も混ぜてー」
「確かに…心配するだけ無駄だったようだな」
凛音も混ざって談笑をする四人の姿に士道はそう呟いた。
「ここが…遊園地…」
五河を出発して三十分…遊園地へと到着し、鞠亜が目を見開いて呟く。
「どうだ、実際に見ると驚くだろ?」
「指摘。なぜか士道が偉そうです」
「ほっとけ」
「人がたくさんいて、とても賑やかですね。
たくさんの笑顔が溢れていて、わたしも笑顔になってしまいそうです」
「それは良いことなんだ、鞠亜。
笑顔でいれば、誰かが笑顔になる。
自分の嬉しさや楽しさをわけてやれるんだ」
「では、たくさん笑った方がみなさんにとっても、いいことなんですね」
「あの……私もそう、思います……。
士道さんが笑ってくれていると私も嬉しく、なりますから……」
「……四糸乃の言うこと、わかります。
わたしも同じです」
「……え?あ、その……」
「もー、鞠亜ちゃんてば四糸乃と同じーなんて、もしかして士道くんのこと――」
「― ―よしのんっ!」
鞠亜の言葉に何かを言おうとするよしのん。
そんなよしのんを慌てて止める四糸乃。
「……?
どうしたのでしょうか?」
「四糸乃とよしのんの間ではいつもの事だ」
「提案。ここで話をしているより、せっかく来たのですからアトラクションに向かいましょう。
正直、時間はいくらあっても足りないくらいだと思います」
「はいはーい!私もさんせー!遊びまくるのだー」
「そうだよ、せっかくの遊園地なんだし楽しまなくちゃ損だよ」
「いろいろとアトラクションがあって目移りしそう」
「よし。それじゃ、まずどこへ行こうか?」
「そうですね。まずは……ホラーハウスはどうでしょうか?」
「ええ!!
ホラーハウスかー……。
わ、私は急用を思い出したからここで待ってる!」
鞠亜の提案に琴里が声を上げる。
『そういえば琴里は昔から怖いものが苦手だったしな…』
「琴里はホラーハウスは嫌ですか?」
「そっ、そんな事は無いけど…」
『鞠亜、察してやれ。
琴里はこういう怖いのが苦手なんだ』
『なるほど、そうでしたか…私としたことが気づきませんでした…』
鞠亜の問いに言いよどむ琴里。
そこに士道が念話で助け船を出す。
「ごめん、私も残る…。
驚かされるのは慣れないから」
と七罪が手を挙げて言う。
だいぶん人に慣れてきた彼女ではあるがまだドッキリのように驚かされるということには慣れていないのだ。
「提案。夕弦も残ります。
琴里と七罪の二人だけでは心配です」
「いいのか、夕弦?」
「同意。
夕弦をこの程度で怖がらせようとは笑止千万。
夕弦が行ってはむしろ場の空気が盛り下がってしまうかもしれないと考慮してのことです」
「それはそれでどうかと思うがな……」
『そういえば…』
夕弦の言葉に苦笑しながら士道は思い出す。
琴里以外にもホラーハウスが苦手な人物がいることに…。
―折紙である。
「夕弦……その認識では必ず損をする」
だが折紙は顔にはそんなところを出さずに夕弦へと助言する。
「疑問。マスター折紙、それはどう言うことですか?」
「ホラーハウス……通称お化け屋敷の真髄は、男女が暗がりに放り込まれるところにある」
「暗いところ……少し、怖いです……」
「よしのんも折紙ちゃんの言ってることわかるなー。
怖い、暗いときたら、合法的にくっつくチャンスじゃなーい?」
「失念。恋愛的な思考ができていませんでした……。
さすがはマスター折紙」
「なるほどー、そう考えれば怖くない…かな?」
「士道と一緒…くっつけるチャンス…」
折紙の言葉に活気づく女子たち。
そこで士道はあることに気づく。
「ところで折紙…お前…震えてないか?」
「これは…武者震い…」
「さいですか…。
それで…夕弦はどうする?
やっぱり一緒に来るか?」
「否定。
夕弦は七罪や琴里とゆっくり話をしたい気分です。
早いですがアイスでも食べますか、琴里、七罪?」
「もちろん!!」
「おー、食べる!
じゃあ、おにーちゃんたちはパーッと行ってくると良いのだ!」
「ありがとうな三人とも。
じゃあここで待っていてくれ」
「承知。任せておいてください」
七罪と琴里を夕弦に任せると士道は鞠亜達と共にホラーハウスへと入っていったー。
body
「思った以上に暗いな…鞠亜、どこだ?」
「ここです。ホラーハウスというだけありますね。
室内の荒土と温度を下げ、恐怖を演出しているようです」
と怖がるどころか興味津々といったた表情で頷く鞠亜。
「四糸乃は大丈夫か?」
「……は、はい!なんとか……大丈夫、です。
でも士道さん……手を握っても、いいですか?」
「手?ああ、いいぞ。
暗いし危ないからな」
不安げな四糸乃の手を握る士道。
「よしよし、さすがだね四糸乃。
さり気なく手を繋ぐなんで」
「ち、違うよ、よしのん……これは、前がよく見えないからで………」
「士道。わたしとも、手を繋いでくれませんか?」
「ん?ああいいぞ」
鞠亜の言葉に士道は左手を出して、彼女の手を握る。
「はい。ありがとうございます」
「士道…」
礼を述べる鞠亜と共に上着の裾を掴む折紙。
「折紙?」
「やっぱり少し怖い、士道の服の裾を掴ませてもらう…」
「士道…私も服掴んじゃだめ…かな?」
折紙の言葉に士道が頷くと、凛音が手を小さく上げて言う。
「了解。
少しだけ歩きにくいが……まぁ仕方ない。
進むぞ」
『しかし…暗いな』
そう思いながら歩みを進める士道。
「きゃっ!」
「ひぃぃっ!!」
「つっ!!」
「ひゃあぁぁっ!!」
『なかなか手の混んだ演出だな…』
以前入った苺作のホラーハウスに比べるとそれほどではないがそれでもなかなかの完成度である。
ホラーハウスのクオリティにおっかなびっくりしながらも特に何事も無く一同は外へと出る。
「視認。出てきたようですね」
「すまん、少し時間がかかっちまった」
ホラーハウスから出た所で待っていた夕弦に謝罪する士道。
「否定。問題ありません。
琴里や七罪と話をしながら、ゆっくりしていましたから。
ソフトクリームも美味でした」
「そうそう!ソフトクリーム、すっごくおいしかったー」
「うん、美味しかった」
「それは良かった。
それじゃ、次は二人も一緒に行ける場所に行こうな」
「提案。ではあれはどうでしょう?」
そう言って夕弦が指さしたのはコーヒーカップである。
「本当に大きなコーヒーカップに見えますね」
「そういうもんだからな。
カップの中の椅子に座って回るんだ」
「それは知っています。
ただ、単純に何故コーヒーカップのがいけんにしたのかが気になりますが」
「外国ではティーカップっていうみたいだし、よくわからんな。
小人な感じを出したかったとかかな?」
「なるほど。そういうものですか」
「ねぇねぇ、士道くん士道くん」
士道の言葉に納得する鞠亜。
そこに声を上げたのはよしのんだ。
「ん?どうした、よしのん?」
「あの、士道さん……その、私……」
「正直に言っちゃえばいいんだよー、四ー糸乃。
四糸乃は目が回って酔いそうだから、ここで見てるってさ」
「なるほど、これは苦手だときついな。
さっきも騒がしかったし……四糸乃は休んでてくれ。
一人で大丈夫か?」
「私が残るよー、実は回転系のマシンは目が回るから苦手なんだー」
「それならも私残ることにする。
五人で行ってくるといい」
そう言って手を挙げたのは折紙と凛音である。
「二人とも良いのか?」
「問題ない。
それに、たまには引くことも大事」
「そうそう、五人で楽しんできてよー」
「おう…すまんな」
凛音と折紙に礼を言うと五人はコーヒーカップへと向かったー。
士道、鞠亜、琴里、夕弦、七罪の五人がカップの中へと収まると音楽と共に遊具の床面がゆっくりと回り始めた。
「夕弦はこういうのに乗った事はあるのか?」
「回想。耶具矢との戦いを思い出します。
音楽が止むまでにどれだけ回転させられるかを競いました」
「何となくわかる。
子供の頃とか、限界までやりたくなったからな…」
「でもそれってめちゃくちゃ酔わない?」
「同意、七罪の言うとおり。
乗り終わったあと、両者ともに三半規管への影響が大きすぎたため、明確な決着にはなりませんでした」
「だろうな…」
夕弦な回答に苦笑いをする士道。
「士道、床が音楽に合わせて回っていて……。
まるで、踊っているようですね」
「意外と楽しいだろ?
だがな、鞠亜。
夕弦もさっき少し触れていたが、神髄はここからだ。
真ん中のテーブルを回すとな……」
「あっ……」
回わり始めるカップに鞠亜が驚いように目を見開く。
「なるほど。
こうしてカップが回るのですね」
「一見たいしたことないんだけど、面白いだろ?」
「はい。とても単純な機構ですが、うまく工夫されています」
「…なんか予想外の所で関心してるよな…?」
「ふふ…大丈夫です。
単純に楽しいですから」
「なら良かった」
「ねぇねえ、お兄ちゃん……
だんだん目が回ってきたよー」
悲鳴を上げる琴里。
どうやら調子に乗って回転のスピードを上げ過ぎたようであった―。
「お疲れ様、士道が楽しめたようで何より」
「お疲れ様ー」
「おう。ありがとな、助かったよ。
じゃあ次は折紙と凛音が行きたいところをきめてくれ」
「なら。遊園地と言えばあれは外せない」
「確かにあれは鉄板だよねー」
二人の会話から士道は折紙と凛音が選んだアトラクションを推測する。
「なるほど…ジェットコースターか…」
「……ここのジェットコースターって、せごいって評判らしいです……」
「わたしも興味があります」
「さて…ジェットコースターまでやってきたわけだが……」
「すごい人の列ですね。
それだけ人気の乗り物ということでしょうか」
長蛇の列に鞠亜が目を見開く。
「そういうことだろうな…」
「おー、楽しみだねー」
「ドキドキ…します…」
「大丈夫~? 四糸乃~。
これすっごい高いよー、速いよー」
「大丈夫か?四糸乃?」
「はい、大丈夫…です」
「しかし…」
並ぶ人の列を見て士道は呟く。
「人が並びすぎてて、最後尾の位置がわからないな……。
一体どのくらい待つのやら」
「士道、こっち。
最後尾はこの位置という案内板がある」
「確認。現在位置から乗車までおよそ六十分とありますね」
「一時間待ちか…」
「驚愕。短い映画が一本視聴できてしまいますね……」
「どうする、おにいーちゃん。
今日は止めにするか?」
「せっかく来たんだしな。
一時間ぐらい待とう。
とあえず長期戦になるだろうから並ぼうー」
『しかし…』
改めて列に並ぶとその人の多さを実感する。
よく見てみれば、周りの人もスマホををいじったり、ゲーム機を取り出している。
『よくよく考えれば一時間って長いよなー。
たまにカップルでデートへ行く場合、遊園地は鬼門って聞けけど、確かにただ一時間待ってるってなかなか辛いものがあるよな…』
などと考えていた士道は鞠亜が辺りをキョロキョロしてるのを気づく。
「……鞠亜はさっきから何をしてるんだ。
興味深いものでもあったのか?」
「人間観察…とでも言えばいいのでしょうか?」
「人間観察?」
「はい。年齢、性別、同行者の人数……それぞれの行動を観察するのは、とても興味深いです」
「なるほど…確かにそうかもな…」
「この遊園地に遊びに来ている人たちにも、それぞれに全く異なる背景があります」
「確かにそうだよな。
親子連れとカップルでも待ち方が全然違うし。
こうして見るとおもしろいものだよな…」
とても、士道達以外がNPCだとは思えない。
「あそこのグループはさっきからクジを引いています」
そう言って鞠亜が指さす方向では大学生らしきグループがくじを引いてるのが見える。
「なるほど。
ジェットコースターの席順を決めてるんだな。
意中の相手と隣に座れるかで盛り上がってるんだ」
「あちらの親子連れは何かを先ほどから覗きこんでますね」
「デジカメかな。
今日撮った写真を見返しているのかも。
……みんな待ち時間を思い思いに楽しんでるんだなー」
「はい、とても興味深いです」
「俺も少し回りを見てみようかな」
先程まで若干退屈に感じていた士道であるが見方一つ変えれば楽しく思えるのである。
『あれ…?』
そこで士道は夕弦と折紙、凛音の三人がいないことに気づく。
『三人ともどこに行ったんだ?』
そんな事を考えていると何かを抱えて走ってくる三人の姿が見えた。
「帰還。すみません、士道。
ただいま戻りました」
「なるほど三人とも買い出しに行ってたのか…」
フードコートの袋が三人の手にぶら下がっているのを見て士道が呟く。
「一時間は長いからねー。
小腹がすくと思って買ってきたんだー」
「なるほど。三人ともありがとう」
「できたぞ、おニーちゃん」
士道が三人へ礼を言うとそこで琴里が声を上げる。
「なんか静かだと思ったら、お前は何をしてたんだ?」
「ふっふーん。二人の話を聞いて四糸乃と七罪とでクジを作っていたのだ。
これでどういうペアで座るかを決められるぞ」
「うっ、うまくできたと思います…」
「我ながら力作だと思うわ」
「それじゃあ引いてみるか」
「問題ない。たとえ運に身を任せようとも、士道の隣に座るのは私」
「挑戦。そうはいきません。マスター折紙。
運命のくじを手にするのはこの夕弦です」
「士道の隣は私と決まってるの!」
「士道の隣になりますように、士道の隣になりますように、士道のとなりになりますように」
「わ、私も負けません」
「がんばれ、四糸乃!おー!」
「わははー、みんながんばるのだー」
自信満々の夕弦、折紙七罪の三人に祈る凛音。
意気込む四糸乃とそれを応援するよしのん。
そして笑いながら皆を応援する琴里。
そこで琴里が何かを隠すのを士道ははっきりと目撃する。
「待て琴里、今何か隠しただろ。
見せてみろ」
「ぎ、ぎくう。
か、隠してなんていないぞ。
おにーちゃん……」
「左手に何か持ってるのが見え見えだ。
……それは当たりくじだろ?」
「こ、これはその……ほら、もしクジをなくした時のために……」
「琴里、せっかく作ったきじなのですから、ちゃんと使った方がいいのどはないでしょう?」
「うーん。そうだよね…ごめんなさい」
「よし、じゃあ…開けるか」
「確認。ではよろしいですか。
せーの、と夕弦が合図を出します。
せーの!」
夕弦の出した合図とともに各々がクジを開いたー。
Message body
「はいどうぞ、楽しんでいって下さいね」
係員の指示に従い席につく一同。
結局のところ座る順番は折紙と夕弦、四糸乃と琴里、七罪と凛音、そして鞠亜と士道が共に座ることになったのだ。
そして士道達を載せたコースターはゆっくりとで動き始める。
「このコースター、先ほど見ていたものよりだいぶ遅いのでは内でしょうか?」
「ジェットコースターは最初からあの速さじゃなくてだな…。
まぁ、説明するよりも実際に体験した方が良いだろうな。
ほら、ここから加速を開始するぞ」
「なるほど、少しずつ速くなっていくということでしょうか?」
「いや、そんな温いものじゃないぜ。
鞠亜、心の準備をしておいたほうがいい」
「心の準備、ですか?それはいったい…」
鞠亜の言葉を遮るように、車両は急斜面を下り始める。
あっという間に視界が開けて、全身が空中へ放り出されるような感覚を覚える。
「四糸乃…大丈夫?」
「は…はい…琴里…さん」
「なかなかのGがかかっている…」
「同意。あまり口を開くと舌を噛みそうです」
「うにゃぁぁぁぁ!」
「ひゃあぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
互いを心配する琴里と四糸乃。
冷静な夕弦と折紙。
悲鳴を上げる七罪と凛音につられてか悲鳴を上げる鞠亜。
「うぉぉぉぉ」
それに触発されて声上げる士道。
「いゃぁぁぁ」
「……っ……うっつ!ひゃああああぁぁぁぁ!」
「………っきゃあ」
「きゃぁぁぁぁ!」
「うにゃぁぁぁぁ!」
「ひゃあぁぁぁぁ!!」
気づけば皆が声を上げていた。
怖いのか楽しいかよくわからないままに皆で悲鳴を上げた。
『昇ってから降りるのは一緒であるはずなねに、どうしてこうもやみつきになるんだろうな。
ジェットコースターってのは』
そう考えるうちにジェットコースターはスタート地点へと戻って来ていた。
「ふふ…楽しかったです」
「ああ、楽しかった。
なんか久々に叫んだ気がする―。」
「とても良い経験でした。
遠慮なく越えを出せる場所……カラオケとはまた違う感じで新鮮でした」
「ああ、そうだな…」
「まだジェットコースターの醍醐味は終わってないぞ」
余韻に浸る士道と鞠亜に琴里が告げる。
「それはどう言うことですか、琴里?」
琴里の言葉に首を傾げる鞠亜。
「あれだよ!あれ」
そう言って琴里が指さしたのはジェットコースターから降りてすぐのところにある一台の機械である。
「成る程写真か…」
「乗っているときの隠し撮りみたいなやつだよねー」
「成る程…気になります」
「なら見に行くか?」
「はい!」
「見事に顔が引きつっているな」
写真を見ながら苦笑を浮かべる士道。
「でも、とても良い写真だど思います」
「よし、記念に買おう」
「いいんですか?」
「おう!もちろん…みんなの分も買っておくか?」
その士道の提案に皆が頷く―。
「ほら、無くすなよ」
「はい、ありがとうこざいます」
写真を手渡す士道に笑顔で礼を述べる鞠亜。
待ち時間こそ長かったが、鞠亜をが喜んでくれて良かったて思う士道である。
「さて、次はどうする?
ちょっと休憩するか?
それとも次のアトラクション行くか?」
「今ので時間も押してしまいましたし、次のアトラクションに行きませんか?」
そうして、士道達は日が暮れるまで遊園地で遊び倒したのである。
「ふふ…今日もとてめ楽しかったです」
そう言って鞠亜が士道に笑みを向ける。
「そうだな、また行こう。
今度は違うメンバーで行くのも良いかもな」
「はい…」
気を使ってくれたのか琴里達は疲れたと言って先に家に帰っている。
『これはもう少し鞠亜をエスコートしろってことだよな…』
「どうする、鞠亜?
どこかによって帰るか?」
そう考えながら士道は鞠亜を誘う。
「士道……
今日は少し、一人の時間をもらってよろしいでしょうか?」
「ん……なにか考え事とかか?」
「はい。少し整理したいかとがあります。
いいでしょうか?」
「ああ、わかった。
だが、あまり遅くならないようにしろよ」
「心配してくれてありがとうございます。
ですが平気です何か脅威があるわけではないですし」
「了解。
何かあったら連絡しろよ」
「はい。
では士道……また後で」
そう言って走り去る鞠亜の姿が見えなくなるまで見送る。
『さて、せっかくだから少しだけ散歩して…
あれは…鞠奈?』
散歩して帰ろうと思った矢先に士道は歩道の脇にた立ち何かを見つめる鞠奈を発見する。
『何してるんだ…あいつ?』
鞠奈は士道の存在に気づかずに横断歩道をを渡り始める。
『あれは…』
そこで初めて鞠奈の反対側からおばあちゃんが横断歩道を渡っていることに気づく。
だが、持っていた荷物が重かったらしく、途中で立ち往生していたのだ。
「ああもう……私の目の前でこういうことされると困るわ」
そんなことを言うと鞠奈はおばあちゃんに近寄り、勝手に荷物だけ持って歩道を渡っていく。
「おばあちゃんを置いてくんかい!」
っと等と突っ込みを入れるとすぐさまおばあちゃんに駆け寄る。
「大丈夫ですか?
よければ手を引きますから」
そう言うとおばあちゃんは頷き、士道の手を握る。
「荷物は向こうで彼女が見てますから。
さあ、どうぞ」
荷物を受けて取ったおばあちゃんは士道達に礼を言うと駅の方に向かって歩いていった―。
「あのおばあちゃんのことを助けてやろうと思ったんだろ?
意外と優しいところもあるじゃないか」
「…目の前で死なれても寝覚めが悪くなるだけ。
NPCであっても血はしぶくしね」
鞠奈は先ほどおばあちゃんからお礼を言われたにも関わらず不機嫌そうな顔のままだった。
「いいことしたのに、そんな顔をするなよ」
「別に好きで助けたわけじゃないわよ。
以前、五河士道がずいぶん怒っていたのを思い出しただけ」
『あれ? 俺……鞠奈を怒った事があったか……?』
そこまで考えて士道は鞠亜と同じくこの鞠奈もフラクシナスの膨大なデータに繋がっていることを思い出す。
以前、フラクシナスで『恋してマイリトルシドー』をプレーした時にそのような選択肢を選んだ気がするのだ。
だがそれでも何かが引っかかるような気がしてならないのだ。
「五河士道が理解する必要はないわ。
話は終わり。いい?」
「…よくない」
「……え?」
士道からの返答がよそうがいだったのか目を丸くする鞠奈。
士道はそんな鞠奈の頭に手を置くと優しく撫でる。
「な、何をするの!?」
「いや、良いことをしたんだから褒めてやるのが普通だろ?」
「だから、そういうわけじゃ」
「それでも、だ」
「やめて。何度も言うけれど、そういい目的でやったわけじゃない。
勘違いもいいところだわ」
そう言って鞠奈が士道の手を振り払う。
だが、士道はかまわずに鞠奈の頭を撫でながら言う。
「なら勘違いでも構わないさ。
俺が褒めたいだけなんだから」
「……そう、勝手にすれば。
でもどうして褒めたいの?わたしには理解できないわ」
「良いことをするば誰かが褒める。
これは当たり前のことだ」
そんなこんなで鞠奈の頭を撫でること十数秒。
再び鞠奈が士道の手を振り払う。
「気は済んだでしょ。
わたしは五河士道に用なんかないから」
「その言い方は少し傷つくぞ」
首をすくめる士道を無視して歩き出す鞠奈。
「ああ、一つあった。聞きたいこと」
数歩、歩いたところでそう言って士道の方を向きなおる。
「なんだ?」
「一番最初に子供を褒めてくれるのは誰?」
「…親…だな」
鞠奈の質問に少しだけ考えて答える士道。
「そう…そうよね。
だから私はこうしているんだもの」
「……何を言っている?」
「なんでもない。
それじゃあね、五河士道」
どことなく寂しそうな表情を見せて鞠奈の姿は消えたー