デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第五十話『或守インストール』 前編

 

 

 

「ちょっと士道。

朝ご飯まだなの?」

 

「もう少しでできるから待て」

 

不機嫌そうに言う黒琴里に士道は調理をしながら言う。

 

五河家のリビングには、朝から皆が揃って朝食ができるのを待っている。

だが、人数が人数だけに用意するだけでも骨が折れる。

 

「……士道。

卵を焼き終えました」

「運ぶぐらいは手伝わせてね、士道。鞠亜ちゃん」

 

だがそれも鞠亜と凛音が手伝ってくれているおかげでなんとか終わりそうである。

 

「おお、待っていたぞ!」

 

「十香さんは本当に食べることがお好きなんですのね。

感心してしまいますわ」

 

「うむ。そんなに褒められると照れるのだ」

「そ、それは……褒めているのでしょうか……」

 

「十香ちゃんも喜んでいるみたいだし、いいんじゃないかなー?」

出来上がった食事を前に嬉しそうな十香とそれを見て呆れる狂三。

 

「くく……暁の太陽の陽光と共に、輝く太陽の似姿……日輪はその熱にとけるかのようだ」

 

「首肯。目玉焼きが半熟でとても美味しそうです」

 

半熟の卵焼きを評する八舞姉妹。

 

「おお、そうか。

卵は鞠亜が焼いたんだ。

良かったな鞠亜」

 

「……はい。嬉しいです」

 

「士道の料理は、いつでも最高。

フランスの有名な格付けで言えば、七つ星に相当する」

 

「ミ○ュランは最高で三つ星だぞ。

七つ星じゃ、胸に傷がある人と同じだろう」

折紙の誉め言葉に士道が苦笑する。

 

「それよりー、速く食べないと、せっかくダーリンと鞠亜ちゃんが作ったご飯、冷めちゃいますよぉ」

 

「それは良くないですね。

ご飯は、美味しいときに食べるべきです」

 

 

「確かに鞠亜の言う通りだな」

 

「私もおなかぺこぺこ…」

 

鞠亜の言葉に士道が頷き、七罪がお腹を押さえる。

 

「うむ!いただきまーす」

 

そして十香が合掌すると共に皆が朝食を食べ始めたー。

 

 

「ふー、今日も美味しかったぞ!

ごちそうさまだ!」

 

「だーりん、今日も美味しかったですー。

じゃあ、朝ご飯も食べましたし~……今日は、私とデートですねぇ~」

 

「む?なぜ美九となのだ!

シドは、私とデェトするのだ!」

 

「たっ、たまには……わたしとも……そのっ」

 

「そうだよー!

四糸乃ともデートしようよ、士道くーん!」

 

「今日は私とデートしてほしいんだよ!士道くん!!」

 

「ふふ、それでしたら、わたくしと、他の子とはできないような、お・と・な、のデートでも、いかがでして?」

 

「くくく……、士道は我ら八舞と契約を交わした身、享楽の宴も共に開くのが相応しかろう」

 

「首肯。鞠亜とばかりデートしてずるい、そろそろ自分も構って欲しい……と、耶具矢も昨晩言っていました」

「いいい、言ってないし!?」

 

「ねぇ、士道。そろそろ私も構ってほしいなー」

 

「士道、そろそろ私もデートしたい」

 

「昨日は集団行動だった。

本日のデートは、私と士道で行うべき」

 

「おにーちゃーん、たまには私とお出かけもいいんじゃない?」

 

朝食後…士道は皆からデートの誘いを受けていた。

 

「とりあえずみんな落ち着け。

そうやって自分の意見を主張するより前に重要な事があるだろう?」

 

「大切なこと?」

 

「ああ…鞠亜…もうそろそろ答えが出そうなんじゃないのか?」

 

首を傾げる十香に鞠亜へと話題をふる士道。

「何故わかったのですか?」

 

驚いたように鞠亜が目を見開く。

 

「何となく…そんな気がしたんだよ」

 

 

先日、鞠亜と別れてから…彼女とデートも終わりに近づいて来ているようなそんな予感がしていたのだ。

 

「私からもお願いします。

今日だけ……わがままを言わせて下さい。

一生の、お願いです」

「うむ。鞠亜の真剣な顔を見ていたら何も言えないな」

 

「私も認める。

でも明日からは譲らない」

 

「行ってあげて…ください」

 

「士道くん、鞠亜ちゃんを頼んだんだよ」

 

「しっかり、鞠亜さんを満足させてあげてくださいね」

 

「くく…我が眷属を任せたぞ、鞠亜」

 

「同意。鞠亜は大事なことを全うしようとしている風に見えますから」

 

「確かに、大事な勝負をするときの目をしていますねー。

だから、今日は……じゃなくて、今日も鞠亜ちゃんをちゃんとエスコートして上げてください」

 

「士道、鞠亜ちゃんのことをお願いね」

 

「お姫様を満足させて…あげて」

 

「……頑張りなさい、士道」

 

「おう、行ってくるぜ」

 

「みなさん、ありがとうございます。

私のわがままを……許してくれて」

 

皆にを言うと鞠亜は士道と共に五河家を後にしたー。

 

 

「それで?今日はどこへ行くんだ?」

 

鞠亜と共に商店街を歩きながら士道は尋ねる。

 

「……遠くに行ったり、特別な場所に行く必要はありません。

わたしは、この街で……ただ普通に士道と過ごしたいです」

 

「了解、それじゃあ行こうか?」

 

「はい!」

 

そう言って士道が差し出した手を鞠亜がつかみ、二人は散策を開始したー。

 

「あれを見てください、あれは屋台ですよね?」

 

そう言って鞠亜が指さしたのは大判焼きの屋台である。

 

「大判焼きか…食べてみるか?」

 

「はい。

興味があります。

……ても、私はまたまだ知らないことばかりですね。

特に食べ物に顕著です」

 

「確かに、そうかもな。

なら。大判焼きも半分にして、いろんなものを半分に分けて食べよう」

 

「はい、そうしましょう。

二人でわければ、いつもよりたくさんのもなを食べることができますね。

この前の喫茶店と同じです」

 

「ああ……そうだな。

琴里なんかは食べたい分だけを食べたら俺に渡してくるし」

 

「なるほど、琴里らしいですね。

 

では、そうと決まれば行きましょう、士道」

 

「服は少し前に見にきたな…」

 

次に鞠亜が足を止めのは洋服屋のショーウィンドーの前だ。

 

「はい。

そういえば買ってもらった服をあれっきり着れていませんでしたね。

せっかく可愛い服を買ってもらったんですから、今日も着てくれば良かったです」

 

「確かに…それは少し残念だな」

 

残念そうに言う鞠亜に士道は頷き、次の店へと移動を開始した―。

 

「ここは女性が多いですね…」

 

次に鞠亜が目をつけたのはファンシーショップである。

 

「あー、女の子はかわいいものが好きだからなー」

 

「確かに……なんだが、見ていると楽しくなってくる気がします

 

「何か買うか?」

 

「……いえ、やめておきます…。

 

今日は他に欲しいものがありますから…」

 

 

『……なるほどな…』

朝、鞠亜とのデートが終わりへと近づいていると感じていたため、鞠亜が欲しいものが何となく予想が出来た。

『だが…それをやると鞠亜は…どうなるんだろう?』

 

「さぁ、士道。

ほかのところに行きましょう。

時間はそんなにないですよ?」

 

そんな思考を遮るかのように歩き出す鞠亜を士道は追いかけたー。

 

「随分と回ったが本当に何も買わなくて良かったのか?」

 

「はい、士道。

見ているだけでも、とても楽しかったです」

二人で商店街を散策し、休憩のために立ち寄った喫茶店で尋ねた士道に笑顔で答える鞠亜。

 

「まっ、気持ちはわかるがな」

 

「士道も楽しかったですか?」

 

「ああ。こうして見てると、普段は売っているのに気づかないかともあるんだなぁ…と感じる」

 

「何に使うのかわからなかったり、誰が買うのかわからないものもたくさんありますね」

「意外なお店に、お得なものが置いてあったりな。

 

そういうのって、新しい発見がいっぱいで、楽しいとは思わないか?」

 

「はい、わたしも同じ意見です。

でも、士道も同じだったとは意外です」

 

「そうか?」

 

「私にとっては新しい情報ばかりでしたが、士道にとっては、経験したことのあることばかりだと思います」

 

「確かにそうだが…。

でも、いつも回りを注意して見ている訳じゃないからな…。

気づいこともあるんだよな…」

 

「なんだか、嬉しいです。

士道と同じ気持ちを、私は共有しています。

今まで…こんな気持ちはありませんでしたから」

 

「……そういえば最近すっかり忘れていたな…」

 

「忘れていた?」

 

「鞠亜が特別だって事をだよ…。

俺にとって鞠亜は普通の女の子になっていたんだよな…」

 

「普通の女の子ですか?」

 

「おう、むしろ、他のみんなよりもずっと常識的だ」

 

「わたしが…普通の女の子……」

 

「鞠亜?」

 

感慨深けに言う鞠亜に声をかける士道。

 

「いえ。何でもありません」

 

「……そうか…それでこの後はどうする?

映画でも観るか?」

 

「いえ、今日はいいです。

他のいけるところに行きましょう。

良いですか?」

 

「本当にそれでいいか?」

 

「はい。士道と、この街を回るのが今回のデートの目的です」

 

「了解、それじゃあ。色々と散策しみてよう」

 

そう言って士道は鞠亜の手を握り、散策を再会した。

 

 

「士道、猫です」

 

商店街をあらかた散策し終えた二人は住宅街へと足を運んでいた。

そこで鞠亜が一匹の猫を見つけたのだ。

白い、毛並みの良い鋸だ。

首輪をしているところから飼い猫であることがわかる。

 

「首輪がついてるから…飼い猫だろうな…」

 

「にゃーうっ」

 

「士道、近寄ってきましたよ」

 

人に慣れているのか猫は二人に近寄ってくる。

 

「にゃー……。んみゃーぅっ……」

 

「どうしてあげればいいなでしょうか?」

 

すり寄ってくる猫に困惑した表情を浮かべる鞠亜。

 

「撫でてやると良いと思うぞ」

 

「撫でる……わかりました、やってみます。

よしよし……」

 

「みゃー……ん……。

んー……にゃぁ……」

猫は鞠亜に撫でられると、満足そうに鳴く。

そして、尻尾を悠々と振って去っていった。

「あれで本当に良かったのでしょうか?」

 

「大丈夫だと思うぞ。

満足げな顔をしていたからな」

 

「良かったです」

 

 

 

「こんなところ。普段は来ないから新鮮だよな」

 

「なんだか、探検みたいですね」

 

再び、住宅街を散策しながら士道の言葉に鞠亜が答える。

 

「確かにそうかもしれないな」

 

「士道、楽しそうですね。

士道が楽しそうだと、わたしも楽しいです。

この先をずっと行くと。士道の知らない景色が見えるんですね」

 

 

「おう。ちゃんと通ったことがないからな。

鞠亜は解るのか?」

 

「はい、地図はすべて把握していますが……その景色を実際に見たことはありません」

 

「なら、一緒に見に行こう」

 

「はい。見に行きましょう。

見たことのない、二人だけの景色を」

 

そうして、士道と鞠亜は、住み慣れた町のあちこちを見て回ったのである。

 

 

「すっかり、日が暮れてしまいましたね」

 

「ああ、星がよく見える」

 

街を散策していると既に日は落ちて、暗くなっていた。

 

「はい……こうしているだけでとても落ち着きます」

 

 

「そういえば鞠亜は星を見るのが好きだったな…」

「はい。いつまでも、見ていたくなります」

 

「今度はみんなで星を見に集まっても良いかもな。

望遠鏡を持ってさ」

 

 

士道の言葉に鞠亜は寂しげに微笑む。

士道にもその理由は解る。

 

デートの終わりが近いということは鞠亜の霊力を封印しなければならないということである。

だがそれをするということは鞠亜の存在が消えてしまうのではないかと考える。

 

そんな士道の考えていることがわかるのか鞠亜は士道の前に立つ。

 

「士道、今日は楽しかったです」

 

「おう、俺も楽しかった」

 

「ねぇ、士道……?

最後に一つだけ……わがままを言ってもいいですか?」

 

「ああ、いいぜ…」

 

「そうですか。

でも、士道にとっては……多分かんたんなことです。

それは、デートの最後にすること、ですから…。

士道……私とキスをしてください…」

 

「つっ……!

だが鞠亜…」

 

 

言いよどむ士道を鞠亜はじっと見つめる。

 

 

鞠亜のその言葉を想定していたと言えども躊躇する、士道。

 

そんな士道をじっと見つめて鞠亜は口を開く。

 

「お願いします、士道……。

わたしからの最後のおねがいです」

 

―鞠亜とキスがしたい―

意志とは無関係に頭の中に浮かび上がる欲求。

それを理性で押さえつけようとする。

 

「士道は私とキスをするのが嫌ですか?」

 

うっすらと涙を目に浮かべて言う鞠亜。

 

『涙は女の武器と言うが反則だろ…』

 

そう心の中でつぶやくと鞠亜の言葉に首を横に振り、答える。

 

「嫌なわけがないだろう…。

だがこれは何か違うような気がするんだ…」

 

何かが頭の中て引っかかっているような感覚を覚える士道。

 

「違い…ません」

 

だが、そんな士道の言葉を無視して鞠亜は目を瞑り、顔を近づける。

 

 

『参ったな…んっ?』

 

近づいてくる鞠亜の顔、そこで士道の耳に声のようなものが飛び込んでくる。

 

『士道の鼓動が聞こえます

士道の髪の匂い……同じですね』

 

目の前の鞠亜が口を動かしている様子はない。

 

『…となると心の声か…』

 

鞠亜の肩に手を置くと少しだけ、震えているのがわかる。

 

どこかぼんやりとした意識のまま鞠亜の唇に視線を向けると再び、鞠亜の心の声が頭に響いてきた。

 

『そう、私はこんなにも……士道のあ―』

 

 

「あ……あ、あ、あ……!

ああ………っ!!!

 

 

これは、いったい……?

わたしの力、が…ああ…!」

 

叫びを上げ、倒れる鞠亜。

 

「おい!鞠亜!!」

 

 

「やれやれ、随分待たされたわ。

でも、ようやく……この時が来た」

 

そう言って士道達の前に現れたのは鞠奈である。

 

「鞠奈…どういう事だ…」

 

「どういう事……決まっているじゃない…私がその子からもう半分の管理者権限を奪う時を待ってたんだよ。

 

何回も何回も君達の茶番に付き合いながら。

その子が愛の答えに辿り着くのを」

 

「はぁ、はぁ」

 

鞠奈を睨む士道…。

 

そこで鞠亜が苦しげに息をするのを確認する。

 

「鞠亜!?

大丈夫か!?」

 

「はい……わたし自身に大きな影響はありません。

ですが、私の保持する権限に干渉を受け、そのほとんどが奪われてしまいました」

 

「大変だったわ……私が正確にはこの体の持ち主である或巣鞠奈の人格プログラムに私が侵入したところで、もう一人のシステム管理者或巣鞠亜に〈フラクシナス〉のメインコンピューターに強固なプロテクトがかけられて、わたしはこの世界に閉じ込められちゃったのよ…。

まぁ…詳しいことは直に連絡してくるであろう武御原雷華に聞くと良いわ。

 

それで話が少しずれちゃったけれど。

そんな私を解放してくれたのはキミ!五河士道なのさ…。

でもね、もうその子も五河士道も必要ない。

この世界と一緒に消えてしまえばいい!!」

 

「待て!鞠奈!!」

 

叫ぶ鞠奈を追いかけようとする士道。

 

だが、そこで身体に凄まじい重圧がかかり膝をつく。

 

「ざぁんねんでした」

 

「っつぐ…これは…体が…重い……!!」

 

「……っ……はぁ……。

これは、何か権限以外に影響が…」

 

動けない二人を後目に鞠亜は姿を消す。

 

『五河士道、聞こえるかい?』

 

「雷華か!!」

 

それと同時に士道の視界の端に雷華の顔が映る。

 

『すまない、どうやら鞠奈の調整中にウィルスが混入したらしい。

気づいた時には既に遅かった……』

 

「ちょっと待て、雷華…お前のPCに潜入出来る人間なんているのか?」

 

雷華の天使《電脳女帝》はありとあらゆる電子機器の制御する事が可能である。

 

そんな彼女の作ったプログラムに介入する事は可能なのだろうかと考える。

 

『残念ながら鞠亜と鞠奈、二人にボクの霊力の殆どを分け与えたからねー。

顕現装置を使えばハッキングする事は可能なんだよ…』

 

「なるほど…それで、フラクシナスの状況はどうなってる?」

 

『かなり悪いね…。

鞠奈にそっちの世界を掌握されているだけじゃなくて、フラクシスのメインコンピューターに侵入し、現実の〈フラクシス〉の機能の大部分も同時に掌握されているんだよ』

 

「…なるほど…制御は取り戻せそうか?」

 

『フラクシス内部でも頑張っているみたいだからね…時間はかかるだろうが何とかやってみるさ』

 

「なら、俺の方も鞠奈を何とか止める術を模索してみる」

 

「方法なら…あります…」

 

肩で息をしながら鞠亜が口を開く。

 

「鞠亜!?もう大丈夫なのか!?」

 

「〈フラクシス〉のシステムの九割が掌握されたため、わたし自身をシステムから一時的に独立させました。

これで、わたしは或巣鞠奈の影響を逃れるはずです」

 

「わかった。

もう大丈夫なんだな」

 

「はい、心配をおかけしました。

今回のことは、全て私の責任です。

わたしがこうならなければ、こんな事態にならなかったはずです」

 

「何でそうなる!鞠亜の責任なんて……」

 

『いや、それはどちらかといえばボクの落ち度の方が大きい』

 

落ち込む鞠亜にそう謝る雷華。

 

『言っただろう?鞠亜と鞠奈は〈フラクシス〉に蓄えられていた士道と精霊達とのデートのデータを元に生み出したって……』

 

「ああ、それがどうしたんだ?」

 

『もともと、フラクシスには高度な知能を持つ管理AIが搭載されていいてね……。

本来ならばキミのデート時に支援を目的に使われるつもりだったんだけどね…。

けれども…士道の成長が著しくて結局使われる事がなかった…。

でもせっかく生まれてきたのに使われないままでいるなんて可愛そうだろ?

それを、ボクが〈電子女帝〉を使って姿を与えたのさ。

もし仮にどちらかの霊力が暴走した時に備え、権限を二つに分割してね』

 

「鞠亜と鞠奈がAI…」

 

「はい……先程権限を奪われた際、開かれたロックにより情報が開示されました。

わたしは、この艦の管理用AI。

〈フラクシナス〉という、艦そのもといえるでしょう」

 

『……鞠奈がウイルスに感染した状態でシステムに侵入。

そこで鞠亜は最もプロテクトが強固であるエリア---

このVRシステムに、鞠奈を閉じ込めた。

……そこから先は鞠奈が語っていたとおりだ』

 

「なら…鞠亜が、愛を知りたいって言っていたのは……」

 

『……記憶がシステムによりロックされた際、その世界の目的である『愛の育成』だけが、目的として残ったか……。

……あるいはもっと根元的な理由かもしれない。

 

そもそも〈フラクシナス〉AIの最大の目的は、さっき言ったように士道と精霊のデートをサポートすること。

 

精霊の精神状態を観測し、そのシチュエーションに合った選択肢を提示するというもの。

 

つまるところ――〈フラクシナス〉のAIは、愛を育むために生まれた人工知能と言っても過言ではないわけだ』

 

「……なるほど、だからこそ鞠亜は、『愛とは何か』を知りたがっていたわけか……」

 

 

『……恐らく、その感情が何のためであるかも思い出せないのに。

‐‐‐‐他ならぬ、キミのために』

 

「……つっ!!」

 

『だが。今回はそれこそが大きな隙となってしまったようだ…』

 

 

そこまで、雷華が話した所で鞠亜が瞑っていた口を開く。

 

「はい……〈フラクシナス〉のプロテクトは、わたしが無意識下で作動し続けていました。

ですが、それを解除する方法があったのです」

 

「それが…愛を知ると言うことか…」

 

「はい、ですがそれは諸刃の剣でした。

心を許し、無防備になったわたしは、無意識下で行っていたプロテクトを解除してしまったのです」

 

「それなら、この責任は雷華や鞠亜のせいってわけじゃない。

俺のせいでもあるんじゃないか!」

 

「いいえ、わたしの責任です。

士道を現実に戻す方法は他にもあったはずです……。

なのにわたしは自分の欲求のためにそれを探そうとしなかった。

責められるべきは私です」

 

「そんなの、納得できるか!」

 

「できるてきないではありません!事実がそうなんです!!」

 

「…二人とも今は言い争っている暇はない。

こうしている間にもフラクシナスの状態が悪い方へ進んでる…」

 

言い合う鞠亜と士道。

そこに雷華からの通信が切迫した状況を伝える。

 

「何があった?」

 

 

『……先ほど、〈フラクシナス〉の主砲が起動した。

チャージ完了までは時間があるけど……これが地上に放たれた場合----真下にある都市の殆どが消滅する』

 

「何か方法は無いのか!」

 

 

『一応、こちらもフラクシナスのプロテクト解除を行っているが時間が足りない…。

相良苺やサルバトーレ・ドニに連絡がつけば少しは時間が稼げるんだけれど…。

今のところ希望があるとすれば士道…君だけだ』

 

「なるほど…」

 

雷華の言葉に頷く士道。

 

「士道…?一体どうするつもりですか?」

 

不安げな表情で鞠亜が見つめる中、士道は答える。

 

「デートして、デレさせれば良いだけだ」っとー。

 

 

 

 

 

『空間の構成に問題が生じてる。

あまり猶予がないと考えた方がいい』

 

「恐らく、鞠奈がこの世界を消そうとしているのでしょう。

じぶんを閉じ込めておく檻などもういらないと」

 

もし消滅すれば、士道達の意識も消滅する可能性がある。

 

「ったく…あの阿呆が…」

 

言いながら、鞠亜と士道は走るスピードを早める―そこに。

 

「士道、それに鞠亜も…!!」

 

 

「琴理!無事か!!」

 

「……令音、《フラクシナス》の管理顕現の状況は変わってないのね?」

 

『残念ながら先ほどと同じ状態だ。

既に九割方押さえられている。

小細工で時間稼ぎをしているが、そう長くは持たないだろうね』

 

士道が雷華と連絡を取り合っていたように、琴理も令音と連絡を取り合っていたらしく、令音の顔が空中に投射される。

 

「それじゃあ目的地まで急ぐしかないわね。

そこまでたどり着ければ……なんとかなるわ」

 

『……そう、電脳世界のコアブロックた。

人工精霊は現実世界で活動できない。

なら〈フラクシナス〉を操作するのに最も適した場所はそこしかない』

 

「ええ…鞠奈…は必ずマザールームにいます」

 

「わかるのか?」

 

「はい、微かに……ですが。

もう一度システムに接続できれば確実に……」

 

『……それはさすがにリスクが大きすぎる』

鞠亜の言葉に雷華が首を横に振る。

 

『……この世界で戦うために、鞠亜の力は必要だ。

この世界で唯一鞠奈の干渉を受けないのが精霊達の霊力。

その力の再現は鞠亜にかかっている』

 

「はい、その領域はシステム内でわたしが令音に繋いでいます。

私が存在しているうちは、現実と同様に再現できるはずです」

 

『……再現するといっても、現実のものとはもちろん違う。

今の電脳世界は、いわば鞠奈の支配する領域だ。

相手は一人ではなく、世界そのものだと心得ておいてくれ』

 

「世界…そのもの…

そういう‐‐さっき、鞠奈を止めようとした時、急に動けなくなったな…。

この世界が鞠奈の固有結界になったと考えるべきかな……」

 

令音の言葉に士道は先ほど鞠奈に自分や鞠亜の動きを止められたことを思い出す。

 

「それ、詳しく話して。

現状、敵のデーターがあまりに少ないわ」

 

「……プレイヤーへの干渉ですね。

プラグ発生のため、行動を意図に制御できます」

 

「なるほどね……ゲーム的に考えればいいわけか。

さすがギャルゲーの中ね」

 

「はい。この世界において、設定は大きな縛りです。

直接的に力を使わなくても、設定を追加・制限するだけで、かなりの行動を縛れます」

 

「なるほどな……簡単にはいかないわけね…」

 

「はい。

それを打ち破るには、必ず私の力が必要になります。

 

例え、私が果てようとも、いろいろなことを教えてくれた皆さんに……士道に、少しでも恩を返します」

 

「…鞠亜」

 

決意に満ちた表情で言った鞠亜に、鞠奈と差し違えるつもりではと心配する士道。

 

「ですから、途中で気が変わったというのは絶対に駄目ですよ?

この世界で過ごし、私がもらえるもの………。

それは、データだけでは得られない、実感、感情、絆。

目に見えないけれど、形あるもの。

わたしは……みなさんが好きだから、助けたい。それだけなんです」

 

「その気持ちは、必ずみんなに届く。

だから、頑張ろう」

 

「じゃあ、みんな行くわよ。

令音、十香達の方はどう?」

 

「……ああ、霊装と天使の顕現は終わっている。

ピンポイントだが、彼女たちをそこに転送しよう」

 

「上出来よ。

あとは目的を果たせばいいのよね。

令音、雷華、〈フラクシナス〉は頼むわよ」

『ああ、任された』

 

『了解ー』

 

 

 

『ストップ、そこからマザールームへのルートへのルートに入れそうだ』

 

十香達と合流し、指示に従って街の中を走る士道は令音の言葉に足を止める。

空間の裂け目のようなものが出来ている。

 

『…そこから先ははっきりとした道は無い』

 

「わたしが先導できると思います。

鞠奈の存在を近くに感じます」

 

『…それは助かる。

向こうもこちらの動きに気づいてるだろう。

気をつくてくれ』

 

 

「了解です」

 

令音の言葉に士道達は空間の裂け目へと突入する。

 

 

 

「こちらです」

 

空間内は地面の感触こそあれど、油断していると自分がどこを向いているかわからなくなりそうになる。

正直、鞠亜のナビなしでは迷いそうである。

 

「方向感覚も距離感も実際の感覚とは異なります。

視界に囚われずに進んでください。

確実に近づいています」

 

そう鞠亜が言うと同時に背筋がピリピリとするような感覚を覚える。

 

「--シドー、来るぞ!」

 

士道がその感覚を覚えると共に十香が〈塵殺公〉を構えて叫ぶ。

 

「……あれ、往生際が悪いね、五河士道。

しつこい男は女の子に嫌われる……そうじゃなかった?」

 

 

「鞠奈!こんな事は止めろ!!

こんな事をしても誰も喜んだりしない」

 

「……そんなことはないよ。

私は知ってる。

この世界を破壊したとしても自分の理想を掲げる人を知ってる。

だから、これは私にとって必要な犠牲というだけ」

 

「だからって、それが大勢の人を犠牲にして良い理由にはならない」

 

「キミの偽善は、もう私には必要がないんだよ、五河士道。

そのまま絶望して、消滅するのを待っていれば良かったのに」

 

「ふざけるな、鞠奈!

士道も、私たちもここで終わったりなどしない!

こい!決着をつけてやる!」

 

〈塵殺公〉を鞠奈へと向けて十香は叫ぶ。

 

「決着?それって、キミたちが、ここで消滅するってことかな」

 

「くっく……愚かな。

たった一人で我らを相手にするつもりか?」

「警告。

耶倶矢、それは負ける側のセリフです。

センスが欠落していると言わざるを得ません」

 

「う、うぐ……だ、だって、普通に考えたらそういう状況じゃん!

こっちが完全に有利でしょ?」

 

「否定。

こういう状態はだいたいトラブルが起こるものです」

 

「ふふ……あはははは!

随分と察しがいいね、〈ベルセルク〉!

わたしはキミたちのことも全て知っている!」

 

「霊装、天使……この世界で霊力によって再現されたそれは、強力な武器となる。

だけど、そるになんの対策もしていないなんてあるわけ無いでしょう」

 

話す鞠奈の隣に鞠奈が現れ、その言葉を引き継ぐ。

 

「これは……分身か?」

 

「どう?どう?どうかな?

もちろん、この世界での私はこんなことをしなくても戦える。

けど、流石に全員の相手は遊びにしては面倒だから」

 

そう鞠奈が話すうちに彼女たちの数は数十体に増えていた。

 

『狂三の分身より能力は劣るはずだがこの数は流石に……』

 

「そう、限界なんてない。

いくらでも、私の複製体を作れる」

「本当に、勝てるのかなぁ?」

 

「……鞠亜」

「はい、なんでしょう十香」

「あな中に鞠奈の本体はいるか?」

 

「……いえ、恐らくいません。

ここにいるのは、すべて複製体です」

 

十香の問い答える鞠亜。

 

「なーんだ。それじゃあ、楽勝じゃないですかぁ」

 

「脳天気だねぇ……〈歌姫〉」

 

「だってー、よく考えてみてくださいよぉ。

本当に限度なく複製を作り出せるなら、わざわざ本体が隠れる必要ありませんよねー。

それでも身を隠すってことは、私たちに負ける可能性があるって思ってるんじゃないですカー?」

 

「ええ、そのとおりですわ。

まぁ、元から時間稼ぎとしか考えてないのかもしれませんけど」

 

「そういうこと。残念だったわね、鞠奈!」

「ふ……それはどうかなッ!」

 

美九達の挑発に声を上げる鞠奈。

 

「むきになってるのがその証拠じゃない……。

それじゃ士道、鞠亜をつれて先へ行きなさい」

 

「おう!鞠亜、道案内を頼むぞ!!」

 

琴理の言葉に士道は鞠亜と共に走り出した―。

 

 

「とは言ったもののあいつら本当に大丈夫かね……」

 

走りながら士道が呟く。

 

「確かに、劣化はしていますが、複製体も精霊としての戦闘力を持っています。

それに、みなさんも全力は出せないはずです…。

……心配ですか?」

 

「まっ、それは少しは心配さ…だが俺はあいつらの事を信じてるからな…」

 

「……はい、私も信じてます。

こっちです!急ぎましょう!」

 

「ああ!」

 

 

 

「くっ…思ったよりも進行スピードが早い!!」

 

 

士道と鞠亜が十香達と別れてマザールームへと向かっていたその時、雷華もまたフラクシナスの制御を取り戻すべく奮闘していた。

 

だが、霊力の大半を消費した今の状態では進行を遅らせるのがやっとという状態である。

『……何か…方法は…』

 

焦る気持ちで作業をしつつ自分に打てる手を模索する。

 

『いや…待てよ…』

 

直ぐにその方法を思いつきコンソールを操作する手を止め、令音に連絡を取る。

 

『雷華か…?どうした…?』

 

「うん…令音…あのさ…もし…もしだけと…ボクが…ボクが死んだら…士道は…悲しんでくれるかな?」

 

『それは当たり前だが…どうするつもりだ雷華…?』

 

雷華の言葉に何か感じることがあったのか令音が問うてくる。

 

「フラクシナスの制御を取り戻すための方法がある」

 

令音の言葉に自分の考えた方法を雷華は話し出した―。

 

 

「くっ……数が減らないぞ! 面倒な!」

 

「大口を叩いた割に、大したことないのかな?

……もう、諦めてしまえば良いのに」

 

「舐めるなっ!

まだまだ、小手調べだ。

〈塵殺公〉!!」

 

挑発する、鞠奈に〈塵殺公〉を振るう十香。

だが、どういうわけか振るった剣は空振りする。

 

「避けた……!?

違う、私が何かの術にかかっているのか?」

「なるほど……そこまで頭は回らないみたいだね、〈プリンセス〉は」

 

「なぜ当たらない……?

まるで空間が歪んでいるような…」

 

「もう終わり?

なら、今度はこっちの番にしようか」

 

鞠奈がそう言うと十香の周囲にいる複製が一斉に弾ける。

 

「くっ…」

 

「ふふ……全て、壊れてしまえばいい」

 

続けざまに複製が一斉に飛びかかってくるが、今度は辛うじて振り切ることに成功する。

 

「くあぁぁぁ……!

…くうぅっ!」

 

それでも爆風が十香の身体を激しく殴りつけ、苦悶の声を上げる。

「振り切ったか。

そこはさすがというべきかな」

 

「こんな攻撃、大したことは無い!」

 

「その霊装‐‐〈神威霊装・十番〉は、ずいぶんと頑丈みたいだけど……でも……うん、そろそろかな?」

 

「そろそろ?

 

何を言って……

ぬ……なんだ、これは……体が、重い……っ!?」

 

自分にかかる重力がいきなり倍になったような感覚に十香はひざを突く。

 

「複製体を媒介に周辺の空間を私の領域として浸食する。

それは、君達の霊装や天使も含まれる」

 

「浸食だと……!?

ええい、何を言っているかわからんぞ!

ようするに当たらなければいいのであろう!」

 

「できるものならね。

でも私は‐‐‐」

 

「いっぱい、いるんだよ?」

 

 

「……くぅ、体が重い……なんと厄介な……」

 

複製が笑みを浮かべ、十香は渋面を作る。

 

「じゃあ、そろそろおしまい」

 

「まずい、このままでは……!」

 

一斉に十香へと飛びかかる複製。

 

しかし、それらは見えない壁に阻まれる。

折紙が顕現装置によって発生させた随意領域である。

 

「……!?

止められたら……くっ!」

 

「夜刀神刀香。

一度霊装と天使を解除。

もう一度顕現させて、それで大丈夫」

 

「うむ、やってみよう。

おお、軽くなった!

……た、助かったぞ、鳶一折紙」

 

折紙の指示に従い、霊装を一時解除、再展開する。

 

すると先ほどまで感じていた身体の重さが嘘のように無くなる。

 

「士道のところに行くには、早くあれを片付けなければならない。

私はただ任務を遂行しただけ。

 

あなたを助けたわけではない」

 

「む……そうか、しかし、礼は言っておく。

 

貴様に助けられるのは癪に障るが……

今は、こいつらを抑えなければシドーが困る」

 

「全く…面倒だね…」

折紙の言葉に複製が苦笑する。

 

「士道を守るため。しかたなく夜刀神十香を支援する」

 

「く、気にくわないかやつだ!

だがこの場は二人で凌ぐぞ、鳶一折紙」

 

「あなたに言われなくても理解している」

 

「ふふ……そんな装備で私に傷をつけるなんて……」

 

「――何故、できないと思うの?」

 

言い切ろうとする鞠奈に折紙はレーザーブレイドを振るう。

 

「なっ…くぅっ!?」

切っ先が掠めてよろめく鞠奈。

 

「この世界はただの電脳世界ではない。

そこの精霊が展開した随意領域のようなもの。

顕現装置を利用した随意領域の展開ならば私の方が経験はある」

 

「うむ、なるほど。

……つまり、どういうことなのだ?」

 

「夜刀神十香の攻撃が当たらないのは、空間自体に干渉されているから。

私はそれを無効化できる」

 

首を傾げる十香に折紙が丁寧に説明する。

 

「なるほど!

そういうことか!」

 

「つまり…」

 

「協力すれば!」

 

「「勝てる!!」」

 

「そんな簡単には……ッ!?

 

………なっ、回避された!?」

 

意気込む二人に攻撃を仕掛ける鞠奈。

 

だが、先ほどとは違い、今度の攻撃は全て回避される。

 

「なるほどな、さっきまでとは全然違う」

 

「相手の数が多い。

全力で殲滅すべき。

跡形も残らないように」

 

「わかった、任せるが良い!」

 

「くっ…」

 

「させない」

 

勢いを取り戻した十香と折紙に攻撃を仕掛ける。

だが、それも見えない壁に阻まれる。

 

「あなたの攻撃行動は、マニュアル通りすぎる。

それだけなら、対象は容易」

 

「そんな…わたしが、負ける……?」

 

言い放つ折紙に焦りの表情を浮かべる複製。

 

「戦闘経験の差。

それに、私は‐‐時間を稼げはれば良い」

 

その言葉にはっとなる複製は十香の方を見る。

 

 

そこには身の丈を遙かに超える大剣を構える十香の姿があった。

 

「これで終わりだ!

〈塵殺公〉‐‐【最後の剣】!

喰らえええええええええ‐‐‐ッ!!」

 

十香の叫び声と共に【最後の剣】が複製に向けて振り下ろされた―。

 

 

「四糸之、大丈夫?」

 

「は、はい……なんとか……」

 

十香達が複製と対峙していた時、四糸之と琴里もまた複製に手を焼いていた。

 

「わ……また来た……!

えいっ!」

 

攻撃を絶え間なく繰り出す複製を《氷結傀儡》で壁を作って防いではいるのだが、こちらの攻撃が当たらずに困っていた―。

 

「うーん、こっちの攻撃が当たらないね~」

「氷を撃っても、ち、違う場所に飛んでいっちゃいます…」

 

「おまけに数が多いか…」

 

「ふふ…どうしたの?

 

偉そうに言ってたわりに、全然駄目じゃない!」

 

「何ですって!

この‐‐《灼爛滅鬼》」

 

挑発する複製に琴里が《灼爛滅鬼》を振るうが攻撃は当たらない。

 

「やっぱり、当たらない……」

 

「そんな大振りの攻撃、当たるわけ無いでしょ?」

 

「……どうやらあいつの言うとおりみたいね…」

 

 

「ど、どうしましょう……このままじゃ……」

 

複製の言葉に焦る四糸之。

だが、琴里は何か妙案を思いついたのか顔に笑みを浮かべる。

 

「……私に、考えがあるわ」

 

「さっすが琴里ちゃん!」

 

「いいから、聞きなさい‐‐

四糸之は、壁を造るのをやめて、氷を範囲に展開して、あいつらの足を止めて。

 

そしたら私が炎の砲撃で仕留める。

発動に、少し時間がかかるだろうけど……これしかないわ」

 

茶化すよしのんを手で制して琴里が作戦を説明する。

 

「で、でも、そうしたら、相手の攻撃が……」

 

「そうだよ!

それだと、多分、琴里ちゃんが狙われるよ!」

 

「これしか方法はないわ。

時間がない、始めるわよ!」

 

「は、はい!」

 

「《灼爛滅鬼》‐‐【砲】!」

 

四糸之とよしのんの制止の言葉に有無を言わさぬ勢いでそう言うと琴里は《灼爛滅鬼》を変形させる。

 

「ふーん?

当たらないから、そこらへんに、見境無く攻撃しようってわけ?」

 

「う、動かないで……!」

 

「足下が凍って……足取りのつもり?」

 

 

 

「……ちょろちょろしないで、じっとしてなさい」

 

「それはちょっと無理な相談かなぁ」

 

「こ、琴里さんっ!

攻撃、来ます‐‐!」

四糸之がそう叫ぶと共に攻撃が殺到する。

だが、それを琴里は前に出て一身に受ける。

「全部……自分の体で受けた?」

 

「四糸之の攻撃までかばって……」

 

「琴里さんっ!!」

 

「大丈夫。言ったでしょ、気にしないでって」

 

心配する四糸之にそう叫ぶ琴里。

 

同時に複製から攻撃を受けた場所に炎が走り傷を再生させる。

 

「体が燃えて……再生していく!

〈イフリート〉の治癒能力か!!」

 

「言っとくけど、痛いんだからね。

‐‐四糸之!

あいつらを思いっきり凍らせて!」

 

「は、はい!

‐‐《氷結傀儡》!」

「くっ……駄目だ、凍っていくッ!?

これが〈ハーミット〉の力……」

 

《氷結傀儡》の氷が複製の足元から這い上がる。

 

「そのまま全部凍って!」

 

「そのまま灰になりなさい!」

 

「こ、氷と……炎が、同時に……!!」

 

「お願い!〈氷結傀儡〉ッ!!」

 

「〈灼爛滅鬼〉ッ!」

戦慄する複製の体を氷が包み込み、次いで炎走り焼き尽くした―。

 

「なるほど……やっかいな相手ですわね。

こちらの弾丸がことごとく外されますわ」

 

「そうですねー。

数は多いし、攻撃の種類も多くて面倒くさいですよぉ」

 

「あら、一番余裕ぶっていたのに……実際は大したことないのね?」

 

どこか弱音とも取れる狂三と美九の言葉に小馬鹿にした態度をとる複製。

 

「あらあら、それは心外ですわね。

別に余裕だなんてわたくし、全然思ってませんわよ?」

 

「狂三さんはそうかもしれませんけどー

わたしは別に、そんなことないと思いますぅ」

 

「あら、言ってくれますわね。

あなたはいつも余裕そうにしていると思いますけど?」

 

「それ、狂三さんには一番言われたくないですねー。

常に、余裕しゃくしゃくって感じですー」

 

「何を悠長に!?」

 

「面倒だな……もう、消耗してるでしょう?

 

おとなしく‐‐消えちゃえばいい!」

 

言い合う二人に、苛立った表情を浮かべる複製達。

 

「あらあら、本番はこれからですわよ?」

 

わたくしたちはまったく疲労などしておりませんし」

 

「ええ、まったくですよぉ。

ちょっとじゃれあっているのも待てないなんて、あわてんぼうさんなんですねー」

 

「な……!?

霊力がまったく減水していない……〈ディーヴァ〉の力!?」

 

美九の言葉から二人の霊力が全く減少していないことに気づいた複製が驚愕の声を上げる。

 

「ええ、もちろん。

さてー、偶然ながら私たちが一緒になったことですしー」

 

「きひ……きひ……きひひひひっ!

最高の舞台を魅せて差し上げますわ」

 

「な……そんな減らず口をッ!」

 

「そんなに大勢いても、意味ないんですよー。

だってほらー。

《破軍歌姫》‐‐【独唱】」

 

そう言って美九が《破軍歌姫》の鍵盤を鳴らす。

 

それによって動きを止める複製達。

 

「な……動けない……?」

 

「あら残念、この空間だと、洗脳まではできないみたいですねー」

 

 

「問題ありませんわ。

止まってくれれば、あとは撃ち抜くだけですもの。

 

‐‐《刻々帝》」

 

「こんなものッ!

わたしにこんな攻撃を当てられるとでも……!」

 

だが、いくら動きを制限されたとしても弾丸を避けるのは複製には容易い。

 

「あら、そうでしたわね。

普通にしていては駄目でしたわ」

 

「……普通?」

 

「だったら簡単なことですわ。

《刻々帝》‐‐【一の弾】」

 

「加速した……ッ!?

く、これば……あああッ!」

 

答えると同時に発射された銃弾は複製の胸を撃ち抜き、更に貫通してもう一体を倒す。

 

「あのー、狂三さんー。

ちまちまつぶしてると、時間がいくらあっても足りないですよー」

 

「そうですわね……では、そろそろ『わたくしたち』にも手伝ってもらいましょう…」

 

美九の言葉に頷く狂三。

次の瞬間、複製の影から無数の手が現れ足を掴む。

 

「……影から手が……これが《ナイトメア》の能力……!」

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょう?

あなたも似たようなものを使ってるではありませんの?」

 

「く……このッ!!」

 

「動いちゃだめですよー?

《破軍歌姫》‐‐【独奏】」

 

 

もがく複製だが、美九の《破軍歌姫》によりその動きを停止させる。

 

「次は美九さんもお手伝いいただけますか?」

 

「仕方が無いですねー。

じゃあ、少しだけですよー」

 

 

狂三の言葉に答えると。

美九は鍵盤を操作する。

次の瞬間、複製を衝撃波を襲う。

 

「こんな……くっ、まだ、増援を呼べばッ!」

 

「無駄だと思いますよー?

《破軍歌姫》‐‐【輪舞曲】

あああああああああッ!」

 

「ああああぁぁ!」

 

耳を襲う音の衝撃に複製達が声を上げる。

 

 

「では、そろそろ幕とさせていただきましょう。

きひひひひひひひッ!」

 

「ええ、狂三さん。

そうしましょうー。

フィナーレです!」

 

 

互いに頷きあう美九と狂三。

その直後、夥しい量の銃弾と声の爆発が複製を襲ったー。

 

 

 

「くく、偽りの精霊どもが……。

しかし、こう数が多くては、少々厄介だな」

「首肯。

それに、こちらの攻撃は、空間操作によって外されてしまいます」

耶倶矢の言葉に夕弦が頷く。

 

「ふふふ……怖いか?

下がっていてもいいのだぞ、夕弦」

 

「反論。耶倶矢こそ、突っ込んでは交わされて、息が上がっています。

一旦下がってください」

 

「なっ、い、息なんて上がってないし!」

 

 

「懐疑。じー………」

「く、くく…これは滅びの前兆に過ぎぬ。

 

我が颶風を司りし漆黒の魔槍が、奴を貫くまでの、いわば前戯よ」

「失笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)」

「わ、笑うなし!」

 

格好をつける耶倶矢を夕弦がからかう。

 

「ふふ……ずいぶん余裕だね」

 

そんな二人を見てそのような言葉を漏らす複製。

 

「二人仲良くきえるというのに…」

 

そう言うと同時に分身は攻撃を再開する。

 

「提起。このままではじり貧です耶倶矢」

 

「……我も、そう考えていた。

本来ならば、我と夕鶴で、倒した数を競おうと思っていたのだが…」

 

「同調。夕弦もそう考えていました」

 

「ここに至っては……我ら八舞の、禁忌の力を解放するしかあるまい」

 

「詰問。それは、ひとりでは歯が立たないので、強力しよう、という意味でいいですか?」

 

「く、くく……愚かな……そうではない……そうではなく……そうじゃないんだくど…」

「提案。夕弦は、ここは強力すべきだと考えます。

一撃で全て吹き飛ばしてしまいましょう」

 

「よし、そうだね!

いくよ、夕弦」

 

「同調。いきます」

 

「うん、士道のために。

〈颶風騎士〉--【穿つ者】」

 

「首肯。そして、みんなのために。

〈颶風騎士〉‐‐【縛める者】」

 

 

耶倶矢と夕弦の声に霊装と天使が光り輝き-耶倶矢の右肩に生えていた羽と、夕弦の左肩に生えていた羽が合わさって、弓のような形状を形作くる。

次いで、夕弦のペンデュラムが弦となって羽と羽の先端を結び-耶倶矢の槍が、矢となってそれに番えられる。

今度は、耶倶矢が右手で、夕弦が左手で。

霊装の鎧に包まれた手で以て、左右から同時にその弦を引いた。

 

「行くぞ!夕弦」

 

「呼応。行きます、耶倶矢」

 

「これが〈ベルセルク〉の天使の真の姿……!?」

 

「くくく……感じるぞ、我ら八舞の力がひとつになるのを。

夕弦がいてくれれば、我は最強だ」

 

「反論。逆だと思います。

耶倶矢がいる時の夕弦が最強です」

 

「くく、我ら八舞は、二人で一つ‐‐故に、負けん!」

 

「同意。夕弦たち八舞に、貫けぬものはありません」

 

「させはしないッ!」

 

「守れ、疾風の外套!」

 

更に弓を引く二人に攻撃を仕掛ける複製。

だが、それも二人を守るように風が吹き荒れ届かない。

 

「風が…二人を守って……!」

 

「さぁ、いくぞ夕弦! 我が半身よ!」

 

「呼応。一つになった、我ら八舞の力‐‐」

最大まで引いた弓を、複製達に向ける。

そして。

 

「「《颶風騎士》

【天を駆ける者】!!」」

 

「あああああ‐‐‐ッ!」

 

放たれた槍と共に凄まじい暴風が吹き荒れ、分身を引き裂いた―。

 

「ああもう!全く当たらないじゃないの!!」

 

「落ち着いて、七罪ちゃん」

 

攻撃が当たらないため、七罪が苛立たしげに声をあげる。

 

桜、凛音、七罪の三人もまた複製相手に苦戦を強いられていた。

 

こちらの攻撃が全くといってよいほど当たらないのである。

 

「……私達でなんとか時間を稼がないとね…」

 

守護天使で複製の攻撃を防ぎながら、凛音が後方を見ると桜が《桜光宝杖》を構えて瞳を閉じている。

 

複製達が現れると同時に桜は《桜光宝杖》を展開、意識を集中し始めたのである。

 

《穢れなき桜光の聖剣》を放つつもりなのである。

本来であれば世界を崩壊させかねない一撃であるが能力を制限された電脳空間ではその威力は大きく減衰する。

 

また、《解放されし聖剣の鞘》を展開せずに《穢れなき桜光の聖剣》を放つまで、かなりの時間を必要とするのである。

 

それを直感的に悟った七罪と凛音が時間を稼ぐために天使を展開、応戦することにしたのである。

 

「なるほどね…」

 

七罪と凛音の目的を理解したのか分身の一体が桜の方へと飛来する。

 

「しまった!」

 

「桜ちゃん!!」

 

声を上げる七罪と凛音だが、次から次へと襲いくる複製に阻まれてそちらへ向かう余裕がない。

 

「つっ!」

 

唐突に動きを止める複製。

桜の構える《桜光宝杖》に凄まじい勢いで霊力が収束していくからだ。

 

「……なんてプレッシャーなの!?

……これが《プリースト》の天使の力だと言うの!?」

 

その圧倒的な霊力に怯む複製。

 

「凛音ちゃん!七罪ちゃん!!」

 

その間に左右へ飛んで《穢れなき桜光の聖剣》の射線より退避する七罪と凛音。

 

「《穢れなき桜光の聖剣》!!」

 

 

「しまっ…きゃあああああああっ!!」

 

二人の退避を確認した桜が放った光の奔流は分身を一瞬にして消滅させたー。

 

 

 

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