「まさかこれを使うときが来るとはね…」
苦笑をしながら雷華はそれを見て苦笑する。
ファ○ナーのコクピットを思わせるデザインの装置である。
「ニーベルングシステム起動」
装置に座り、指輪状のパーツへ指を通すと雷華はそう呟く。
同時に脳髄をかき回されるかのような痛みと不快感が彼女を襲った―。
「皆さんは大丈夫でしょうか……」
「心配ないさ。
あいつらは絶対になんとかしてくれる」
マザールームへと向かう途中、鞠亜が走りながら呟き、士道が答える。
「士道はみなさんを信頼しているのですね」
「ああ、それで…目的地は…」
「はい、もうすぐです…この座標を繋げば………」
「遅かったね、五河士道。
そして、鞠亜……」
「止めろ鞠奈!!
こんな事をしても何にもならないぞ!!!」
「いいや…止めない……私はお父様とお母様に認めてもらいたいんだ…。
だがら…」
恐らく、鞠奈の言うお父様、お母様とはウェスコットとエレンのことだろう…。
……だがあの二人が鞠奈の事を認めるだろうか…。
「でもまぁ…君達の言うことも最もかもしれない…だから…仲直りをしよう」
「本当ですか?」
「うん、もちろんでだよ。
だから、はい握手」
そう言って手を出す鞠奈。
誰がどう見て目罠だ。
にもかかわらず鞠亜は鞠奈の方へと歩いていく。
「待て鞠亜!罠だ」
「もう襲いよ。駄目だなぁ、五河士道は…」
「きゃあああああああっ!」
声を上げて倒れる鞠亜。
「あ……あは、あははははッ!馬ぁぁぁぁっ鹿じゃないの!
見え見えすぎて逆に怪しくなかった?
こんなことも気づけないの?
ざーんねんでーしたー」
「ま……り……な……」
「鞠奈に何をした!!」
「残っていた権限を回収しただけ。
接続を切っていたから、こうするしか方法がなかったの。
これで霊力の供給が間に合う……私の霊装が、生まれる…!」
そう言った鞠奈の体が光り、次の瞬間には鞠奈の霊装が展開されていた。
所々が破れた黒い羽織と背中側から無数に生えたコードのようなパーツで構成された霊装だ。
「くく……ひはは……ふふ…あははははぁ!!」
目の前に立っているだけで息の詰まるような感覚。
これまで士道が出会ってきたどの精霊達よりも恐ろしいと思える存在感。
ただ圧倒的なまでの恐怖を放っていた。
「い、いけません……士道……逃げて……」
「この世界に逃げ道なんてないわ。
君たちはここで消える……消えるの!
ふふ……あは……あはははは!
だって、もう君たちでは止められない。
私は全てを手に入れたんだか!」
「鞠奈……お前……」
「この世界にいる限り……誰も私には勝てない!
終了だよ、終了。
ざぁんねんでしたぁ、五河士道!
キミの輝かしい功績はここまで」
「お前は……その力で何をするつもりだ!」
「わたしは、壊す。
すべてを壊す。
だって、それしかないじゃない。
わたしは現実に触れられないんだから。
そう、そうだよ?
だってわたしもその子と同じだもの。
現実に肉体なんてない。
ただのデータの塊」
「……あなたもこの世界でしか、存在できない?」
「私はどうしたかったんだろう?
仲間を作りたかったのかな?わからない。
私にもわからない!」
そう鞠奈が叫ぶと同時に彼女の周りに雷が飛び交い士道達を襲う。
「鞠亜、俺の後ろに隠れろ!!」
鞠亜を下がらせると《塵殺公》を呼び出し、雷を切り払う。
「なるほど。
それがキミの力ね……。
でもその力を以てしても、私の力には及ばない!」
「……るせぇよ」
《塵殺公》で対処しきれなかった電撃が士道の身を焼く。
その傷を琴里の能力で回復させながら士道は言葉を発する。
「いられる場所がここしかないから全てを壊す…?
そんなことは矛盾している!!
もし、お前がそれを正しいと言うならば……先ずはその幻想をぶっ壊す!!」
「苦しいだけの事に自分から突っ込むなんて……。
でもね、精霊の力を封印し行使できる特異な存在‐‐五河士道。
キミという存在も矛盾しているよ。
他人のためと口弁し、力を振るい、その結果こうして精霊の力を封じてきた。
その力は危険だ。
普通に暮らしてほしいんだ、と。
でも、その結果はどうかな?
精霊達はキミの行動を見ていられず、再び武器をとる。
そして、キミも同じようにその力を行使する。
精霊の力はいらないて言いながらそれを一番活用しているのは他でもない君自身。
それを理解している?
五河士道、キミの行動は偽善だよ。
だから、あたしの力をキミは否定することができない。
最初から、交渉の舞台にすら立てていないッ!」
「ああ、確かにお前の言うとおりだ鞠奈……。
例えそれが矛盾しているとしても、理想論であろうとも……。
目の前で悲しい思いを……苦しんでいる奴をどうにかしてやりたいんだよ!!」
「なら、そのまま私の力を受ければいい。
私のために消えなさい!!」
そう叫ぶと同時に再び雷を放つ鞠奈ー。
「士道!」
「……大丈夫だ、鞠亜。
お前はちゃんと、俺が守る」
「今度は《ハーミット》の力か…。
ほらまたそうやって力を使う……キミが忌むはずの力を、自分の手行使し続けている!」
「必要なんだよ!
大切な人を守るためにはッ!」
「だからそれはキミの矛盾であり……偽善だッ!」
「偽善だろうが構わない!
俺は、俺のできるだけのことをして、目の前のものを全て救いたいだけなんだ!!」
「だったら……だったら、私のことも救ってみせなさいよ!」
「まり……な?」
自分の心の内をさらけ出す鞠奈に士道は目を円くする。
「でもね、キミにわたしは救えない。
生まれながらに孤独だった私の心は理解できない。
だからわたしは、同じにする……全て壊して、同じにするッ!」
鞠奈はただ寂しかっただけじゃないか。
満たされないものを必死に求めていただけではないのだろうか…。鞠奈の悲痛な叫びに士道はそんなことを考える。
『…ン…シン…』
「令音さん?」
同時に士道の耳に令音の声が響く。
『ああ……ようやく繋がったか…。
シンは既に気づいていると思うが、《フラクシナス》のシステムがほぼ掌握された』
「鞠奈に権限を奪われたからですか?」
『……ああ。
残念だが、時間がない。
地上に照準をつけた状態で主砲がチャージを開始した。
…発射までに鞠奈をなんとかするしかない』
人工衛星を消滅させるほどの威力である。
それが地上に向けて発射されたらどうなるか想像するだけで怖気が走る。
「くそ……このままじゃ《フラクシナス》も、地上もどうなるか……」
「あはは、自分の命の心配はしないんだ。
このままじゃ、みんな消えちゃうっていうのにね」
鞠奈はそう言うと攻撃を開始した。
「第一攻制防壁の解除完了…っと…
まだまだ先は長いな…」
三重に張り巡らせられた攻制防壁を突破しながら雷華は呟く。
《電脳御手》の能力がとんど使えないとしても自分が組み上げたプログラムである対処するのは簡単だ。
『いや…違うな…』
乗っ取られたとはいえ素体を作ったのは雷華である。
自分の霊力を分け与えた鞠亜と鞠奈は雷華なとって娘と言ってもよい存在だ。
『自分の子供が過ちを犯したなら…それを叱るのも親の仕事だろ…』
母親と名乗るには自分が若すぎる事に苦笑しつつ雷華は作業スピードを早めたー。
「どうせ消えるなら、今でも後でも同じなのに……ずいぶん耐えるね……」
「…諦めだけは悪い性格でね……」
「士道……私の事は放っておいてください。
このままでは士道が………」
「断る。
鞠亜も鞠奈も二人とも俺は助けたい……!」
「……! 戯れるなっ!」
士道の言葉に鞠奈が怒りを露わにして雷撃を放つ。
「ぐっ…!」
「士道!!」
鞠奈の一撃に膝をつく士道。
‐‐瞬間。
その衝撃に何かが呼び起こされるように自分の中で何かが弾けるような感覚を覚える。
忘れてしまっていた何かを思い出すような感覚。
「ああ……そうか……」
士道はその感覚の正体を思い出す。
この世界で過ごしたのは、鞠亜とデートした日だけではない。
いろいろな経験の積み重ねがあって、或守鞠亜は頑張って変わろうとしていた。
「士道! 士道! 大丈夫ですか、士道!
私を庇わなければ、攻撃する余裕もあるはずです。
わたしが士道の盾になれば……それくらいなら、まだ私も役に‐‐」
そう言って士道の前に立とうとする鞠亜。
だが、士道はそんな彼女の手を掴んで引き止める。
「‐‐馬鹿を言うな!
役に立つとか立たないとか……そんなことはどうでもいい!!
そんな理由で俺はお前を守っているんじゃない!!」
「し、士道……?」
声を荒げる士道に目を丸くする。
「人ってのは……役に立つとか、立たないとか‐‐そんな理由で、誰かを切り捨てたりはしないッ!!」
「それは聖人の台詞だよ。
世の中はもっと酷い人達で溢れている。
しかもその子はデータだよ。
それを守る価値はどこにあるの?」
「鞠亜は、鞠亜だ。
他に理由は必要か?
データだろうが、データでなかろうが関係ない」
「関係、ない?
キミは機械に本当の感情があると?」
「俺の知る或守鞠亜は普通の女の子だ。
いろんなことに興味を持ち、嬉しくて笑って、寂しくて落ち込んで、怖くて叫んで……」
鞠奈の言葉に士道は首を振ると言葉を紡ぐ。
「知ってるだろ?
見てきただろおまえも!
鞠亜が一歩ずつ、一歩ずつ、成長していく姿を!
ならばわかるはずだろ、鞠亜が普通の女の子であると!」
「で? それを認めてどうするの?
私も同じだって言うつもり?」
「ああ……鞠奈。
お前だって普通の女の子だ」
「……違う。
私は所詮紛い物だ。
人間でも、精霊でもない……そんな私が、普通の女の子?
笑わせないでよ!!」
「誰が笑うかよ!!」
叫ぶ鞠奈に士道もまた、声を荒げる。
「お前、この前街で困ってるおばあちゃんを助けてただろ?
あれは感情があるからこその行動じゃないのか?」
「それには…理由なんて…!」
「無いとしても確かなことが一つある」
「確かな、事?」
首を傾げる鞠奈に士道は畳みかける。
「そう……お前だって確実に変わってきているんだよ!」
「……あ、あたし、は……。
そんなの……キミの思いこみだよ!
私は全然、嬉しくなんて‐‐やめて、五河士道。
私を混乱させないで!」
「やめねぇよ!
お前はちゃんとお前の目標を持ってるんだ!
そうやって諦めるには、まだ早いんだよ!」
「やめて……やめてやめてやめて!!
わたしに希望を見せないで!!」
士道の言葉に鞠奈は耳を塞ぐと雷の弾丸を空中にいくつも生み出す。
「これは、恐らく防ぎきれません……!
士道、逃げて!!」
「逃げるものかよ!!
ここで逃げれば、俺の言葉も嘘になっちまう!
俺は絶対、鞠亜も‐‐鞠奈も、救ってみせるッ!」
「わたしはお父様がいればいい……
私を作ったのも、目的を与えてくれたのも、全部お父様だから……わたしは、わたしはぁ!!」
叫びを上げながら雷撃を放つ鞠奈。
「さすがに……きつい……いや、何としても耐えて……みせる!
鞠亜は死んでも守るっ!」
《氷結傀儡》の能力で生み出した氷の壁で雷撃を防ぎながら叫びを上げる。
『マスター、残りの魔力全てをつぎ込んでも防御は不可能です!!』
「駄目です、士道!
士道は倒れてはいけない人だから……士道が倒れたら…。
みなさんが……いえ、違います。
私が‐‐悲しくて、辛いから。
わたしは……士道を守りたい。
失いたくない……みなさんにとっても、私にとっても‐‐誰よりも大切な存在だから……」
涙を浮かべて鞠亜は膝を折り、両手を合わせる。
‐‐瞬間。
『鞠亜、このメッセージを聞いていると言うことは不測の事態なんだと思う』
鞠亜の脳内に響いてきた声…それは雷華のものだった。
『できればこういう事態には陥って貰いたくは無かったけれども……このメッセージを聞いていると言うことはそういう事みたいだね。
外部からウィルスが混入したり……想定外のバグが発生して鞠奈が暴走したときはこいつを使ってあの馬鹿…五河士道を助けてやってほしい…。
多分ボクの方でも対処しなければいけない案件が出てくると思うから…。
その……鞠奈と士道の事を頼んだよ…ママより…。
あっ、今の所恥ずかしいからカット!カット!
ってメッセージ作成完了!ちょっ…わぁぁぁ!!!!!!』
慌てた声を上げる雷華に小さく笑みを浮かべる鞠亜。
それと同時に鞠亜の体が輝き、それが展開される。
CR‐ユニットを装着したワイヤリング似た霊装である。
「なに…この力は…!?」
『なるほど……雷華か…』
『はい、恐らく或巣鞠亜を構成するプログラムに擬似霊装のパッケージインストーラーが組み込まれていたんでしょう』
鞠亜の展開した擬似霊装に驚愕する鞠奈。
一方の士道と《オーディン》はどこか納得した様子である。
「‐‐世界はまだ、私を見捨てていないよいです」
「あれは……霊装なの……?」
「ママが…武御原雷華がもしもの時に備えて作っておいてくれた擬似霊装です。
これは、わたしのための力。
私の想いを具現化した力。
士道を‐‐わたしの大切な人たちを守るための‐‐力」
「そんな…そんな力…認められるわけが無い!」
鞠亜の言葉に鞠奈は首を横に振り雷撃を放つ。
「士道、サポートします。
干渉開始……威力減衰、座標攪乱」
鞠亜の擬似霊装の能力は作り手である雷華の天使と同じように電子戦を得意とするようであり、鞠奈の放った攻撃はあらぬ方向へと飛んでいく。
「そんな……届かない!?
空間……いや、プロセスそのものに干渉しているというの!?」
驚愕の表情を浮かべる鞠奈。
「一撃、重いのをあげましょう。
鞠奈もきっと待っているはずです」
「了解、サポートを頼む!」
「任されました。
動きを止めます!
座標固定‐‐今です!!」
鞠亜の声と同時に士道は鞠奈に向けて走りだす。
「鞠奈……もう少し考えてください。
わたしたちはわかりあえるのではないでしょうか」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
士道の背中越しに鞠亜が言うと同時に士道は《塵殺公》振り下ろす。
「……崩壊が、キャンセルされたようです」
「……と言うことは?」
「システムに介入して主砲を停止させました」
「そうか……」
鞠亜の言葉にホッとする士道。
『……シン、聞こえるか。
《フラクシナス》のコントロールが復帰しつつある。
顕現装着も安定してきた』
そこに令音からの通信が入る。
「間にあったようですね」
『ああ…よくやった…。
ありがとう』
「いや、まだやることはあります」
礼を述べる令音を手で制する士道。
鞠奈と話をしようと考えて姿を探す。
「士道、マザールームへ!
嫌な予感がします!」
「了解!!」
どこか焦ったような鞠亜に士道は頷くと走り出したー。
「鞠奈!」
「ああ……わたしはいつからおかしくなった?
いつからこんな感情を覚えるようになった?
駄目だ…駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!」
「…まり…な?」
「もう、わたしは戻れない。
どいちらにも戻れず、中途半端で……」
「鞠奈! おい、どうしたんだ?」
心、ここにあらずといった感じで何事か呟く鞠奈。
「このままなんて嫌……誰か、わたしを‐‐消して」
『…ッ! なんだ、この反応は……!?』
目に涙を浮かべて言う鞠奈。
それと同時にインカムから令音の焦った声が響く。
「士道、かなりまずいことになりました」
『……シン、悪い知らせだ。
《フラクシナス》の航行システムに異常が発生した』
鞠亜の言葉を引き継ぐ令音。
「さっきコントロールが戻ったと言ってませんでしたか?」
『……そのはずだったのだがね。
どうやら、その時のための下準備があったらしい』
インカム越しにクルーの焦った声が聞こえる。
『……再度調整している最中に基幹システムをロックされた。
これでは、制御そのものができないはずだが……』
「このままだと…」
『ああ、《フラクシナス》は天宮市に落ちる。
臨界状態の大型顕現装着を積んだ空中艦………おまけにこの質量だ。
……結果は想像に難くない。
……はっきりつたえておこう。
今の状態の《フラクシナス》がこのまま落下した場合、天宮市はまとめて消し飛んでしまうだろう』
「つっ!!…何か方法は無いのか!?」
『一つだけ方法はある』
「どうすれば…!?」
『…鞠奈を消す、それ以外に方法は無い…』
「消すって…俺に鞠奈を殺せって事ですか!!」
淡々と話す令音に思わず声を上げる士道。
『…システムのロックは外部の操作ではどうにもならない。
不意打ちで権限を奪い返すのも難しいだろう。
なら、リセットするには、権限の保持者を消すしかない』
「おれは…ッ」
「士道、鞠奈が!」
悩む士道は鞠亜の声にそちらへ意識を向ける
「あれは…一体…?」
先ほど鞠亜がいた場所には既に彼女の姿はなく、黒い穴があり、ブラックホールのごとく周辺の空間を吸い込んでいた。
「…無作為に周辺のデータを取り込んでいます。
このままでは肥大化したデータに耐えきれず、鞠奈の人格が崩壊する可能性があります」
「何か方法はあるか?」
「あれから引きずり出せれば、あるいは…」
「なら…」
《塵殺公》を構える士道に鞠亜は首を横に振るう。
「威力かが足りていません。
データの取り込みが速すぎるために、同時に修復されています」
「ならどうするんだ?」
「私にもっと力があれば…はっ!!」
士道の言葉に眉をひそめる鞠奈。
だが、そこで何かを思い出したように顔を上げる。
「どうした鞠亜?」
「私に考えがあります」
「大丈夫なのか…?」
そう言って穴をみると周辺に向けて無造作に攻撃が放たれている。
「大丈夫です。
わたしは必ずたどり着きます。
私には、やらなければならないことがありますから」
そう言って鞠亜は嵐のように無差別な攻撃の中へ飛び込んでいく。
攻撃を受けて霊装がを破損させながら球体へと入っていったー。
『さて…どうすべきかな…』
鞠奈によって再びシステムの権限が奪われ、雷華は心の中で一人ごちる。
プロテクトを突破し、システム権限の半分近くを取り戻す事ができた。
そんな矢先に鞠奈が再度鞠奈から権限を奪われたのである。
辛うじて数%だけ守りきることはできた。
『さて、これを使って再び、システムに侵入するか…』
だが、それもリスクが高いことを雷華が一番自覚している。
侵入した途端に自分の持つ権限を全て奪われる可能性すらあるからだ。
『だが、それでも…!!』
雷華は諦めるつもりは無かったー。
「士道さん!無事でしたか……!」
「あら、ベストタイミングみたいね」
鞠亜が鞠奈の元へと向かってから程なくして四糸乃と琴里がそう言って現れる。
どうやら無事に分身を片付けることが出来たようである。
「とりあえず、主砲はどうにかなったみたいだけどそっちはどうなってるのよ?」
「ああ…実はな……」
尋ねる琴里に士道はこれまでの経緯を話す。
「余計一大事になってるじゃない……!
とにかくあれをどうにかしないといけないわね」
士道の言葉に穴を指差す琴里。
『……聞こえますか、士道。
もうすぐ鞠奈と接触できるはずです』
そこで、鞠亜の声が士道の脳内に声が響く。
『どうするつもりだ?』
『私が鞠奈に干渉し‐‐私がこの世界で得たデータ……それを共有することでオーバーフロウを引き起こします』
『少し待て…お前ら二人とも消えるつもりじゃないだろうな?』
『…………これがもっとも確実な方法です。
みなさんが……士道が生きるために』
『そんなこと…認められるはずがないだろう!』
『‐‐士道、せっかく守ってもらったのに、勝手ばかり言ってすみません。
でも、わたしは……自分よりたい‐‐‐』
そこで鞠亜からの通信はぷっつりと切れた。
「くそ!」
「鞠亜からの通信ね?」
「ああ…」
尋ねる琴里に士道は頷き、通信の内容を話す。
「確かに…鞠亜の言うとおりかもしれないわね……」
「琴里!」
「あの黒い塊を突破しないと、私たちは鞠奈には近づけない。
一方の鞠亜は鞠奈に触れれば、干渉が可能だからこその最適解ってことでしょう」
「鞠亜も鞠奈も二人が消えるのも俺は嫌だ」
「私だって‐‐鞠亜に消えて欲しいわけじゃないわよ!」
「とりあえず、落ち着け、琴里。
俺に、二人を救うとっておきの作戦があるー。
…それにはみんなの強力が必要だがな……」
声を上げる琴里に士道はそう言った。
『進捗率は50%といったところか…』
顕現装置を長時間作動させる事によると激しい頭痛を感じながらも雷華はコンソールを操作する手を止めない。
『絶対に…二人とも助けてみせる…この命に変えても!!』
痛みに歯を食いしばりながら雷華は手を止めることなく作業スピードを早めたー。
「美九!タイミングの調整を頼む!
耶具矢と夕弦が初撃を合わせて、そこに皆で攻撃を叩き込んでくれ!!
--穴がふさがる前に鞠亜と鞠奈のところまで突っ切る」
精霊達と合流をした士道は皆に作戦を説明する。
その言葉に皆が頷く。
「それじゃ、指揮は私が引き継がせてもらうきらあんたは精神を集中させときなさい。
それじゃあ、始めるわよ!ーーー美九!」
「任せてくださいー。
《破軍歌姫》ー【行進曲】!!」
琴里の合図で美九が《破軍歌姫》を奏でる。
「発動。《鼬風騎士》ーー」
「ーー【天を駆ける者】!!」
美九の演奏を合図に耶具矢と夕弦が《鼬風天使》【天を駆ける者】を放つ。
「着弾地点を確認。
照準調整ー全弾発射」
「きひひひっ……的が大きすぎて楽勝ですわね。《刻々帝》!!」
「鞠亜さん……頑張って……!
《氷結傀儡》……!」
「士道くん!鞠亜と鞠奈ちゃんを頼むよ!
《穢れなき桜光の聖剣》ッ!!」
「三人一緒に戻ってこないと承知しないから!!!
《贋造魔女》【千変万化鏡】!!!
《塵殺公》!!!」
「でも無茶しちゃ駄目だからね!!!」
「士道、後は任せるわ!
《灼燗滅鬼》ーー【砲】!!」
それを皮切りにミサイルポッドやレーザー砲などがついた武装《ホワイト・リコリス》を展開し、全弾を叩き込む折紙。
薄ら笑いを浮かべながら《刻々帝》の引き金を弾く狂三。
《氷結傀儡》を用いて氷の砲弾を作り放つ四糸乃。
《穢れなき桜光の聖剣》を放つ桜。
《贋造魔女》を《塵殺公》に変形させて斬撃を放つ七罪。
黒い守護天使を召還して魔力を纏わせた斬撃を放つ凛音。
《灼燗滅鬼》を変形させて炎を放つ琴里。
「シドー、信じているぞ!
《塵殺公》ーー【最後の剣】!!」
そして十香が【最後の剣】を振り下ろす。
11人の繰り出した攻撃は混じり合いながら空間に穴を穿つ。
「よし……走れシドー!
おまえが行かねばならぬのだろう!」
「ああーー鞠亜、鞠奈待ってろよ!!」
十香の叫びに士道は走り出したー。
『残り……30パーセント…。
残り時間は5分か…』
士道が鞠亜と鞠奈の元へと向かう中、雷華は焦っていた。
《フラクシナス》の制御を完全に取り戻すには時間が足りない。
『何か…何か手は無いのか!!!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ………』
神経が切り裂かれ、発狂しそうな痛みを覚えながら雷華は頭を働かせる。
『あ……』
そこで雷華はひとつの可能性に行き着いた。
「ーー鞠亜!!鞠奈!!!
このまま終わるなんて、絶対に駄目だ!」
「ふふふ……本当に……士道らしいですね。
でも、ごめんなさい。
わたしは、鞠奈と一緒に……消えなければなりません」
十香達の開けた穴を走り抜けた士道に謝罪する鞠亜。
「そんな……何か方法があるはずだろ!?」
「もう駄目なんです。
《フラクシナス》への管理権限をリセットするには私たち二人が消えないと駄目なんです……。
ですが…士道が来てくれてよかった。
おかげで、お別れが言えるんです」
「そうだね、それは、幸せなのかもしれない」
寂しげに笑う鞠亜と鞠奈。
「……五河、士道。
こんなことをしている場合じゃないでしょ?
キミは何をしに来たの?」
「おまえらを助けに…」
「士道、間違わないでください。
……士道にとって大事なのは、私たちではないはずです」
来たに決まっているだろう。
そう言おうとした士道に厳しい言葉を投げかける鞠亜。
「士道、お願いがあります。
いいですか?」
「断る……」
「駄目ですよ、士道。
最後まで、言わせてください」
どこか困ったような顔をして言う鞠亜。
「このままでは《フラクシナス》が地上に落下します。
それを止めるためには、私たちが消えるしかありません」
「できるわけが無いだろ…」
懇願する鞠奈に士道は尚も首を横に振る…。
…そこにー。
『ああ、鞠亜も鞠奈も二人とも消える必要はない』
士道の脳内に聞き慣れた声が響く。
令音の声である。
『令音さん!?』
驚いたように声を上げる士道。
《フラクシナス》の制御は鞠奈に乗っ取られて制御不能だったはずである。
そしてそれは通信についても同じはずである…。
「なるほど…雷華ですか…」
もともと卓越したハッキング能力を持つ雷華である、《電脳御手》のサポートが無くともフラクシナスの制御を取り戻すことは可能であると士道は考えていた…。
無論、通常の手段では難しいだろう…。
だが、雷華には彼女自身が作製した顕現装置がある。
それを用いればあるいは可能かもしれない…。
そう考えたのだ。
『現在、八割ほど制御は取り戻しているとのことだ…システムの再構成などに時間が必要なのは目に見えている…。
こちらとしては雷華を信じたいところではあるが…』
「私は《フラクシナス》のAIでした。
だから《フラクシナス》はわたし自身も同然です。
ですけど私も鞠亜も人殺しになりたくない!!
…そして…士道の手も血で汚して欲しくないんです!!」
「私は…多分…あの人達の言われるがままに動いて…間違った行動をしていたんだと重う…。
士道に頭を撫でてくれたの……少しだけ、嬉しかった。
家族とかに触れられるのって、こんな感じかなって、そう思ったりしたんだ……」
『シン……残念だが落下まで1分を切った…』
「くそっ!ここまでが!!」
令音の言葉に士道が苛立たしげに声を漏らす。
『なんじゃ、士道?諦めるのか?お主らしくないのう~』
『ギブアップするにはまだまだ早いよ!!』
士道が声を上げると同時にインカムからそんな声が響いたー。
「地上激突まで残り2000メートル!」
《フラクシナス》‐艦橋でそんな叫び声が上がる。
天宮市では《フラクシナス》が落下を始めるとともに空間震警報が出されたため、住民の避難は済んでいる。
だが、空間震を想定して作られたシェルターがフラクシナス衝突によるエネルギーに耐える事が出来ないことは明白である。
「いちごー!早くー!」
「急かすではない…全く…」
流石にフラクシナスの重量を支えるのは厳しいのか苦しげに声を上げるドニ。
そんなドニに苺が苦笑を浮かべるて《フラクシナス》へと右手を向ける。
「《復元する世界 術式固定》!!」
苺がそう言葉を発すると同時に《織天覆う七枚の円環》と入れ替わるように《フラクシナス》と地表の間に時計の文字盤を思わせる魔法陣が展開、フラクシナスの時間を停止させるー。
雷華から《フラクシナス》の全システムを取り戻したという連絡があったのはそれから数分後の事で
あった……。