デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

55 / 96
第五十五話『予感』

「大丈夫か十香?」

 

「うむ、大したことはないぞ」

 

士道が問うと、全身撃布と包帯だらけになった十香は力強くうなずいてみせた。

だがその動作で腹部が痛んだのか、眉根を寄せて小さくうなる。

 

「ぬぅ…」

 

「だから無理するなって。

ちゃんと休んでろ…」

 

「…うむ、そうする」

 

頷き、十香はにベッドに横になる。

現在、士道たちがいるのは、来禅校の一階にある健室だった。

最初は十香達の治療のため、五河家や精霊達のマンションに向かおうとしたのだが、先ほどの戦闘によって破壊されてしまっていたため、ここまでやってきていたのである。

 

苺の家も候補にあったのだが、こちらの方が距離的に近い。

部屋の中のベッドには十香と、折紙が去ったあとに合流した耶倶矢、タ弦、美九が並 んで横になっていた。

彼女らも、十香ともに折紙と戦っていたため、傷だらけである。

出血のひどい傷は七罪の能力を応川して治療したのだが、身体の回復は本人たちの体力に頼るしかないらしい。

 

十香と同じように全身に包帯が施され、ミイラのようになっていた。

 

治療に使えるものといえば備え付けの包帯、混布、消市液程度。

養護教諭もおらず、応急処置を施せるのは上道と四糸乃、七罪だけだった。

 

だが、警沢は言っていられない。

 

『しかし…このタイミングでフラクシナスがDEMの戦艦と交戦とはな…』

 

顎に指を当てて、考える士道。

 

折紙が去っていったあと、傷だらけの十香達を治療してもらおうと《フラクシナス》に避絡を試みたところ鞠亜達から聞かされたのである。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

『うはー、こっびどくやられたねえー』

 

四糸乃が心配そうな顔を作りながら、耶倶矢の腕をつつく。

一瞬痛そうな表情をした耶倶矢であるが、すぐに何でもないような涼しげな顔を作る。

 

目にはうっすらとが涙を浮かべてだが…。

「吐息。耶倶矢は強がりです」

「ッ、るっせーしー 全然へーきだし!」

 

タ弦に言われ、思わずといった調子で返す。

だがゃはり痛かったらしい。

 

盛大に顔を歪めて再びペッドに背を付けた。

「はは…」

 

まあ、それだけ意地を張る元気があれば安心であろう。

 

小さく苦笑する士道。

ちなみに、皆の傷を塞ぐ為に強制的に霊力を行使した七罪は部屋の隅で何やらブツブツ言っていた。

どうやら全員の応急処置をするためには、よほどイヤーな気分にならねばならなかったらしい。

 

「あいたたた…」

と、そこで壁際のベッドに寝ていた美九が、小さな声を発しながら上体を起こした。

 

「どうしたんだ、美九。

無理するなって」

士道が歩み寄ろうとすると、美九はそれを止めるように手のひらを広げた。

 

「大丈夫ですー。

ーそれより、霊力が残っているうちに、お仕事をしておかないといけないので…」

 

「仕事?」

 

主道が尋ねると、美九は大仰にうなずき、カスタネットを叩くような仕草で手を二回、叩いた。

 

「《破軍歌姫》ー【鎮魂歌】」

 

するとそれに応えるように、美九の周りに銀色の筒が幾つも姿を現せる。

美九の天使、《破軍歌姫》の一部である。

 

 

皆が目を丸くしていると、美九は微笑み、お辞儀をしてみせた。

「レディース、えーんど、ジェントルマン。

 

本日だけの限定ライブにようこそ。

誘背美九、オー ン・ステージー」

 

 

そう言うと、透き通った歌声を部屋中に響かせた。

それに共振するように 《破軍歌姫》蠢動し、その音を更に大きくしていく。

 

すると。

「む…これは」

 

「痛みが和らいでいます」

 

十香と八舞姉妹がが目を見間き、自分の身体を見下ろす。

 

その様子を見て、美九が小さく笑った。

 

「あはは…鎮痛作用のある『歌』です。

 

傷を治す効果はありませんから、あくまで気体め程度ですけどねー」

 

「いや、助かるぞ。

だいぶ…楽にになった」

 

十香が息を吐き、身体を弛緩させる。

 

士道はとりあえずは安心して一息つく。

 

だが、今十道たちが置かれているのは、決して楽観視できるような状況ではない。

 

未だ連絡の付かない《フラクシナス》に、DEMの暗躍。

 

そして…

「…なあ、教えてくれ、みんな。

あいっにー折紙に、一体何があったんだ?」

 

士道は、緊張しながら十香と八舞姉妹、美九に問う。

 

そう。士道が戦いの場に駆っけたとき、

巨大な【最後の剣】を構える十香に相対していたのは、DBMのCRュニットを纏った魔術師ではなくー純白の霊装を纏い、天使を携えたえた精霊だったのである。

 

霊力の抜ける感覚から十香が天使の力を使っているのは予想はついた。

だが…空に浮くあまりに意外なその少女の姿は想定外だった。

 

折紙はもともと人間である。

つまりー折紙は今日、しかも十香と戦っている最中に、精霊に 『なった』。

 

そうとしか考えられない。

 

あまりに荒唐無樹で信じられない話である。

だが、士道はそれを冗談と笑い飛ばすことができなかった。

何しろ実際に精霊化した折紙を目の当たりにしたのだから。

 

否……正しく言うのならそれだけではない。

士道は、『人間を精霊にする』精霊に、心当たりがあったのである。

 

ー《ファントム》。

琴里や、雷華、美九に精霊の力を与えた存在。

 

そしてもしかしたら、折紙の両親を殺したかもしれない、存在。

 

士道の憶測が正しければ、折紙はその《ファントム》と避退し、精霊にされたのだ。

 

ならば、彼女と戦っていた十香たちも、その姿を見ているかもしれない。

上道は息を呑みながら四人の顔を順に見回した。

 

しかし。

「いや……詳しいことはわからぬのだ。

一度あやつを吹き飛ばしたのだが……戻ってきたときにはもうああなっていた」

 

十香が難しげな顔を作りながら言う。

耶倶矢もタ弦も、同じような表情で頷いた。

「ふん、さすがにあれには驚いたな。

く……あの派手な登場。

なんとか参考に出来ぬものか……いや、しかし自というのはあまり我の性に合わぬ…」

 

「首肯。

まじい威圧感でした。

十香の霊力が完全でなかったなら、皆やられていたかもしれません」

 

そんな中、美九だけが何か思い当たるようにあごに指を当てた

 

「……うーん、私も見てはいないんですけど……もしかしたら、折紙さんも神様に出会ったんですかねー」

 

「…かもな」

 

士道は小さな声ででそう答えると、無言で考えを巡らせ始めた。

折紙に何があったのかはわからない。

だが…折紙が、あれだけ憎悪していた精霊になっていたことだけは、間違えようのない事実だった。

 

あのとき、士道の姿を見て空に逃げ去った折紙の表情が思い起こされる。

「折紙は…これからどうするつもりなんだ」

士道が独り言のように瞬くと、十香が思い出したように声を上げてきた。

 

「そういえば…あやつは言っていた。

精霊を殺すために、精霊の力を使うと。

そして最後は…自分さえも、殺すと」

 

『やっぱりか…』

 

それは士道の考える中で最悪の結果だ。

 

『考えろ…五河士道…自分が折紙ならばどう行動するかを…』

 

折紙を止めるために頭を回転させる士道。

 

それと同時にフラクシナスから支給されたスマホが着信メロディーを奏でる。

 

皆に断りを入れて保健室を出ると通話ボタンを押す。

 

『もしもし、士道』

聞こえてきたのは鞠亜の声だ。

 

「ひょっとして…折紙に何か動きがあったのか?」

 

尋ねる士道。

 

フラクシナスが戦闘中であることを聞かされたときにに折紙の方に動きがあればこの携帯に連絡を入れるように言っておいたのだ。

『はい…実は…』

 

士道の言葉にどこかもったいぶる鞠亜。

 

「まさか、ASTと戦闘になったとかじゃ…」

『いえ。事態は更に悪い方へと動いています』

 

士道の言葉に鞠亜は更に続ける。

 

『鳶一折紙が時崎狂三と接触しました』ーと。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。