デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第五十七話『過去』

『本当に過去に来ちまうとはな…』

 

『GPS情報を確認しました。

信じられませんが…現在の日時は五年前に起きた天宮市大火災の三十分前で間違いありません』

 

士道の呟きに鞠亜が驚愕した表情で答える。

今から数分前、過去へと飛んだ折紙を追って狂三の【十二の弾】で士道と鞠亜は五年前への天宮市へとやってきたのだ。

まだ実感が湧かないが見たことがあるようでいて、記憶と微妙 に違う街並み。

つい先ほどまでとは、季節がまるで違う景色。

それらと鞠亜の言葉に今が過去である事を認識せざる得ない。

 

『どうやら無事に五年前に到着したようですわね』

 

っと、そこで士道の脳内へと狂三の声が響く。

 

『狂三か…?

なるほど…こいつも〈刻々帝〉の能力の一つということだな…』

 

『流石は士道さん、ご明察ですわ。

【九の弾】。

異なる時間軸にいる人間と、意識を繋ぐことのできる弾ですわ。

ーまあ、 用途の限られる弾ですのであまり使い慣れておらず、意識を繋ぐのに少し手間取ってしまいましたけれど』

 

『成る程な、俺と五感を共有しているわけだ』

 

『ええ。

話ができるのはもちろんのこと、士道さんの見たもの、聞いたものを共有することができますの』

 

『…あんまりいい趣味じゃねぇな…』

 

士道は視線を下方に向け、手を握ったり開いたりしてみた。

狂三の言葉が正しいならこの光景も、彼女に伝わっている事になる。

 

『ですから、 あまり人に言えないような行為は控えることをおすすめいたしますわ。

わたくしとしては一向に構いませんけれど』

『言ってろ…』

 

冗談めかした狂三の言葉に、ため息混じりに士道は呟く。

 

『それで…そっちの方はどうなってるんだ?』

 

『…余り、良い状況ではありませんわね…』

 

十香達の事を心配した士道の言葉に狂三が答える。

 

『先ほど私が過去に送った折紙さんに何があったかはわかりません。

【十二の弾】の効果が切れて、こちらへと戻ってきた折紙さんの手によってこちらは酷い有様ですわ。

見渡す限りの大地は焦土。

如何に地獄でもここまで凄惨な光景はそう無いでしょう』

 

『なんとしても折紙を止めないとな…。

だが、狂三、お前に一つだけ聞いておきたいことがある』

 

『何ですの?』

 

『お前が俺に対してそこまでしてくれる理由はなんだ?』

 

素直に強力してくれた狂三に対して抱いていた疑問をぶつける士道。

確かに何度か狂三が手を貸してくれたことはあった。

だが、それは利害の一致や刃を向けらたためやむなくと言った理由があったからだ。

 

『そうですわね…士道さんに証明して欲しいんですの。

この絶望的な未来を、救いの無い破滅を、

希望の潰えた惨劇をゎなかった事に出来ると言うことを…』

いつものおどけた調子の狂とは違う、真剣な口調の狂三。

 

『ああ、任せて…』

 

 

おけ…そう、続けようとした瞬間。

不意に空が赤く輝き熱波が頬を灼く。

 

琴里が《ファントム》によって精霊化したのだ。

 

『士道、《ファントム》と【十二の弾】で未来から来た鳶一折紙が遭遇、戦闘を開始しました。

最短ルートをナビゲートします』

 

『魔法の行使、並びに天使の展開もいつでも可能です』

 

『鞠亜、《オーディン》…すまん!』

 

二人にそう礼を言うと士道は足に力を込め飛翔したー

 

 

 

 

「ーはぁぁぁぁ!!」

《絶滅天使》の全方位から放たれる光線を《ファントム》は空中を滑るようにして回避する。

 

【十二の弾】の能力で折紙が五年前へと来ると同時に街か火の手に包まれた。

その発生源へと向かうと淡く輝く霊装を纏う少女と士道の面影を残す少年の姿の姿を見つける。

 

そして…地面にへたり込む士道達のすぐ隣にノイズがかかったような影を発見したのである。

《ファントム》…精霊の力を人へ与える謎の存在ー。

DEMに入ってから目にしたファイルにそんな記述があったことを思い出す。

士道の腕の中で泣き声を上げる《イフリート》と思われる少女‐五河琴里に折紙の両親を殺せるとは思えない。

そうなると答えは一つしかない…。

即ち、《ファントム》が両親を殺した犯人。

そう確信した折紙は士道達を巻き込まないように威力を調節した光線を《ファントム》に向けて放つ。

それを回避、空中へと逃げる《ファントム》へと折紙は追撃、現在へと至る。

 

だが先程から攻撃はしているものの直撃はおろか、掠りすらしない。

 

「はあ…どうやら、未来の私は随分と君に恨みを買ってしまったみたいだね」

 

どれくらい追いかけっこが続いただろうか、空を飛び回って光線を避けながら、《ファントム》がうんざりとした声を発する。

最初に攻撃した際、《ファントム》は折紙が狂三の能力で未来から来たことを看破していた。

 

 

「…でも、悪いけれど、ここで君に殺されてあげるわけにはいかないんだ。

ー私にも、叶えなければならない願いがあるからね」

 

《ファントム》の言葉に反応するように、《絶滅天使》が網のように宙を舞い、空に光の線を引いていく。

 

「私のお父さんを…私のお母さんを殺しておいて、願い…?

 

ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな…ッ!

あなたには、願う間さえ与えない。

祈る時間さえ与えない。

何も成さないまま死んでいけ。

何も残さないまま消えていけ。

その空虚な心に、後悔だけを抱いてこの世から失せろ!」

 

しかし。折紙の言葉に、《ファントム》は不思議そうに首を傾げた。

 

「君のお父さんと、お母さん…?

何を言っているの? 覚えがないよ。

悪いけれど、人違いじゃないかな?」

 

「ッー」

 

《ファントム》の言葉に、折紙は息を詰まらせる。

とはいえ、《ファントム》の答えは、当然といえば当然なのだ。

 

なぜなら今の段階では《ファントム》は折紙の両親を殺していないのだ。

犯していない罪を通及されたとしても、答えようがないのが当たり前だろう。

 

だが。《ファントム》の答えは、一つの事実を示してもいた。

《ファントム》は言った。

「覚えがない」と っまり、《ファントム》が呆けているのでなければ。

《ファントム)は、本来であればあと数分で折紙の同観を殺すであろうこの状況で、その名を、存在を、認識すらしていなかったということである。

その行為に計画性はなく、道理はなくー理由は、なかった。

この精霊にとって、折紙の両親を殺した事実は、何らかの主義や日的のためのものではなく、路傍の石を踏み潰したに過ぎない、取るに足らない出来事だった。

 

 

怒りが全身を駆け巡り、皮膚を突き破ってしまいそうになる。

もはやこの感覚をどう言い表せばいいのか、折紙にすらわからなかった。

慣怒。殺意。憎悪。 そんな言葉では、折紙の心を満たす狂気的な感情を一割も示せなかった。

ただ確かなのはー《ファントム》がこの世界に存在していることが、絶対に許容できないいうことだった。

 

「貴様ァァァァァァッ!」

 

絶叫とともに、空に散った《絶滅天使》全てから光線を放ち、《ファントム》を攻撃する。

 

しかし《ファントム》は絶妙な動きでそれら全てを避けてみせた。 それは計画のうちである。

折紙は数分間の攻防で《ファントム》の回避の癖を見抜き敢えて避けやすいように光線を撃ったのだ。

そう。

《ファントム》が、ここしかないと身を潜り込ませた安全地帯全ての光線を回避するギリギリの場所。

しかしそれは裏を返せば、《ファントム》を取り囲む光の檻が形成されるという他なかった。

それが形を保つのはほんの数秒。

しかし、それだけあれば十分だ。

 

「ーはああッ!」

 

折紙は光線の軌跡が空に残っている間に《絶滅天使》を、《ファントム》の頭上で王冠型にすると、《ファントム》を空から叩き落とすように、その先端から極大の光線を下方に向けて放った。

 

「………ッ」

 

《ファントム》が、初めて狼狽らしきものを見せる。

しかし、判断は早かった。

さすがにその攻撃は無傷では避けられないと思ったのだろう。

 

《フ ァントム》は自分を取り囲む光の艦に体当たりし、紙一重のところで、頭上から降り注ぐ光線を避けた。

折紙の力を結集した必殺の業は、対象を失ってそのまま地上に突き刺さった。

 

同時に、《ファントム》を包む霊力の壁と、檻と化していた《絶滅天使》の光線が触れ合い、 火花のように霊力を散らす。

凄まじい光が辺りに広がり、一瞬だけ目が眩む。

 

だが、《ファントム》はその隙をつ衝いて折紙を攻撃してこようとはしなかった。

 

その場に留まったまま、静かに声を発してくる。

 

『今日は本当に驚かされっぱなしだね…。

まさか、さっきの一撃を防ぐなんて…」

 

 

と。折紙は思わず眉をひそめた。

 

先ほどまで男か女かもわかず、辛うじて、言葉が聞き取れるだけだった《ファントム》の声が、驚くほどクリアーに折紙の鼓膜を震わせたのである。

 

それは年若い女の声だったのである。

 

だが、それよりも《ファントム》が言っていた言葉が妙に引っかかったのだ。

 

「……っ」

 

まだ霞む目を開けながら折紙が見たものは砕け散った氷の破片と花弁の形をした盾を掲げた最愛の人…。

五河士道の姿だった…。

 

「何とか…間に合ったみたいだな…」

 

肩で息をしながら士道が後ろを見ると、お互いの無事を確かめるように抱き合う鳶一夫妻と幼い折紙の姿があった。

 

『無茶するわね…』

 

『ですが、鳶一夫妻は無事です』

 

『前もって天使と魔法の展開準備をしておいて正解でした…』

 

 

士道の呟きに、鞠奈、鞠亜、《オーディン》が答える。

 

士道が折紙を視認した時、《ファントム》を囲うように光の檻が形成されつつあった。

折紙が《ファントム》を討つ為に砲撃を行うことは予想できた。

そして、それが原因で引き起こされる悲劇も…。

 

それを回避するために《魔力瞬間換装》で折紙の両親との距離を詰める。

そこから砲撃に備え《氷結傀儡》で氷の壁と、《贋造魔女》‐【千変万華鏡】を用いて《織天覆う七枚の円環》を作り出し、なんとか防御することができたのだ。

 

本来ならば《共鳴》を用いなければ発動できない天使の能力開放…。

士道はそれを残りの魔力を全てつぎ込み強制的に発動させたのである。

 

 

「士道…私…」

 

士道の後ろにいる両親を見て自分が取り返しのつかない過ちを犯そうとしたしたことに…否。

再び犯そうとしたことに気づき今にも泣き出しそうな顔を作る。

「…折紙」

 

士道が折紙の名前を呼ぶとその肩が大きく揺れる。

 

「よかったぜ…お前がその手を血で汚さずに済んで…って、折紙!」

 

士道の言葉を待たずに飛び立つ折紙。

 

「待ちたまえ」

 

それを追いかけようら呼び止める声が聞こえる。

後ろを見るとそこには一人の少女がいた。

…どことなく霊装を纏った凛音の面影を感じさせる少女だ。

年は琴里や四糸乃、七罪に近いだろう。

 

だが、士道はその少女の持つ雰囲気に覚えがあった。

 

「《ファントム》なのか?」

 

「…《ファントム》……か。

私には、そういう名前がついたんだね……

 

しかし…精霊の力を行使できる人間…そうか…君がそうなのか…」

DEM社長、アイザック・ウェストコット取ったように驚きに目を見開く。

 

「お前は……俺のことを、知っているのか?」

 

「……うん、知っているよ。

よく、ね」

 

士道の言葉にそう答える《ファントム》。

「なら、教えてくれるか?

俺は一体…何者なんだ…」

 

「……」

 

その問いに沈黙する《ファントム》。

 

そして首を横に振りこう返す。

 

「…答えてあげたいけれど、未来の君がどんな状態かわからない以上、教えることは出来ない。

 

ーそれに、今は私たちの会話を盗み聞きしている子もいるみたいだしね。

 

時崎狂三…聞こえているんだろう?」

 

「…あら、あら」

 

全てを見透かしているような《ファントム》の言葉に、狂三が士道の頭の中で静かに声を発した。

 

「どうしても、君の正体について知りたいのであればクロウリーに尋ねてみるといい」

 

 

「あの人と知り合いなのか!?」

 

《ファントム》の言葉に声を上げる士道。

「ああ…旧知の存在と言っても良いだろう」

「一体…どういう…」

 

更に追求しようとした士道であるが唐突に目眩を覚える。

 

『残念ですけれども士道さん、そろそろ【十二の弾】の能力の限界の用ですわ』

 

『くっ…』

 

 

狂三の言葉に士道は悔しげに呻く。

次の瞬間には景色は見慣れたものになっていたー。

 

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