イギリス‐ロンドンにあるビッグベン。
その地下にある《協会》の本部に士道は来ていた。
首領であるアレイスタ・クローリーから《協会》に所属する魔法使全員へと呼び出しがかかったのである。
「《協会》の魔法使い全員を召集するほどの用って何だろうねー」
士道の隣でドニが楽しそうに言う。
「さぁな…」
そんなドニの言葉に士道は首をすくめる。
ドニのみならず、そう疑問を抱くのはこの場にいる人間の意見と言えるだろう。
クローリーが《協会》に所属する全魔法使いを召集したのは、これが初めてではない。
だが…それは第二次大戦などの歴史の大きな分岐点となることが訪れたとき、もしくは訪れようとしている時に限られている。
だが士道には今回の召集の理由が予想できていた。
恐らく、《ラタトスク》と《協会》が同盟を結ぶことをクローリーの口から全員に伝えるつもりなのだろう。
折紙の霊力を封印してから一週間ほどたったある日。
羊皮紙に書かれた親書を持った苺が《フラクシナス》を訪れ、《ラタトスク》創始者であるエリオット・ボードゥィン・ウッドマン卿とクローリーがモニター越しに会談を行い、同盟を結ぶことが決まったのである。
「それにしても…士道が《協会》に入ってまだ二年しか経過してないんよねー」
不意に、クローリーが現れるのを待ちきれなくなったのかドニがそんなことを言ってきた。
「俺から言わせてもらえばもう、二年経つことになるんだけどな…」
そんなドニの言葉に士道は苦笑しながら、自分に魔法が使えることを知った日を思い出す。
二年前…士道は友人である殿街と共に隣の神宮市にあるショッピングモール『神宮ログレス』を訪れていた。
殿街の用事に付き合う為である。
巨大なショッピングモールは天宮市にもあるのだが、殿街の目的はこの『神宮ログレス』で行われるアイドルグループとの握手会である。
「んじゃ、五河!行ってくるぜ!」
CDを買うと手に入る握手券を手にイベント会場の列に並ぶ殿街。
良く見ると、握手会を終えたらしきファンがポケットから握手券を取り出して再び列に並んでいる。
どうやら、握手券があれば何度でも列に並べるようである。
殿街の取り出した握手券はざっと見ただけでも二十枚以上はあった。
『……これは時間がかかりそうだな』
そんなことを考えながら士道は時間を潰すため、CDショップへと足を運んだ―。
『あれ…?』
CDを試聴していた士道は周りに人の気配が全くない事に気づく。
『まさか…』
士道の脳裏に浮かんできたのは今、世界中で起こっている超災害だ。
即ち―
「ヤバい!」
叫ぶと同時に士道は店から出て全速力で走り出す。
それとほぼ同じくそれが士道の背後に迫ってきていたー。
黒いドームの壁面のようなものだ。
良く見れば、台風のように渦を巻いているのがわかる。
空間震‐ユーラシア大陸の半分以上を消滅させてから各地で確認されるようになった原因不明の災害である。
店舗やアーケードの天井が呑み込まれ、砕けた硝子が降り注ぐ中、士道は走った。
「うぉおおおおおおおおお!!!!」
叫び声を上げて、走る。
ただひたすらに走る。
走る。走る。走る。走る。走るー。
ドームの中がどうなっているか定かでは無いが巻き込まれれば無事では済まされないことは確かである。
だからこそ士道は走った。
―どれだけの時間、どれだけの距離を走っただろう…。
気がつくと士道は神宮市の境まで来ていた。
『助かった…のか…』
《神宮ログレス》から市の境まで数百kmある。
普通に考えればとても走破できる距離ではないのだが、早鐘を打つ鼓動と全身の疲労感にまともに思考する余裕はなかった。
「ふむ…知らぬ魔力を感じて来てみれば…中々におもしろいものを見つけることができたのぅ…」
女性の声に首を巡らせる士道。
そこにいたのは三角帽子と漆黒のマントを羽織った少女である―。
その少女こそが士道の魔法の師匠となる人物…相良苺…なのだった。
「諸君…待たせて悪かったな…」
聞こえた中性的な士道は顔を上げる。
それと共に凛音が広場となっている部屋の真ん中に液体が満たされた巨大なビーカーのようなものを運んでくる。
よく見れば、コードに繋がれた白髪の男性が中に入っているのがわかる。
その人物こそが、《協会》の創設者にして盟主…アルテスタ・クローリーである。
『さて、諸君…。
我々はこれまで幾度となくこの世界の歴史の分岐点に関与してきた。
そして今もまたその分岐点が訪れようとしている。
そう、精霊と呼ばれる存在によってもたらされる空間震とそれを巡る組織《DEM‐デウス・エクスマキナ・インダストリー》と《ラタトスク機関》この二つの組織の対立によってだ。
我々もどちらかにつかねばならぬのは確かだろう…。
そして私は《ラタトスク機関》とと共に戦う事を決めた。
諸君も私と同じ志を持っていると思う』
クローリーの言葉に広場に集まっていた魔法使い達が一様に頷く。
『また、DEMが精霊を捕らえているとの情報もある。
そこで、私はDEM本社に捕らえられている精霊を救出したいと考えているのだが、諸君も力を貸してくれないだろうか?』
クローリーのその言葉にその場に居合わせた魔法使い達が声を上げたー。