空には星も月も見えず、明かりと言えば川から発生した霧が反射する街灯の明かりのみだ…。
クローリーの演説から数時間後、《協会》の魔法使い達は《DEM》の本社へと来ていた。
《DEM》に捕らわれた精霊を救出するためでである。
『本当にあんた達だけで大丈夫なの?…』
どこか心配したよにうに琴里が尋ねる。
彼女が心配するのは無理からぬ事である。
何故ならば、今回DEMの襲撃に参加する魔法使いは十人に満たないのである。
『ふふ、お嬢さんは心配性ですね』
琴里の疑問に答えるように士道のインカムに幼い少女の声が響く。
《協会》の魔法使い、メイビス・バーミリオンのものだ。
《目の魔法使い》の二つ名を持ち、未来視の魔法を得意とする。
そして、今回の作戦の立案者でもある。
『そろそろかな…』
そんな二人のやりとりに士道が考え始めると同時にDEM本社の入り口で爆発が起こった―。
「さてと…暴れさせてもらおうかな…」
舌なめずりをしながらドニはそういうと両腕に長剣を投影する。
「そうじゃな…士道の妹―琴里の言葉を借りるならば……。
さぁ、儂らの戦争を始めようと言ったところじゃの」
ドニの言葉に苺が相づちを打つ。
DEM本社…その正面ゲートは蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。
ドニが先ほど自身の魔法で作り出した弓を用いて矢を放ったのだ。
ドニが矢を放って数秒後には魔術師やバンダースナッチが社内から次から次へと現れ、魔法使い達を囲んでいた。
「始まったようだな…」
眼下で繰り広げられる戦闘を見ながら士道が一人ごちる。
現在、士道がいる場所は高度六百メートル地点。
《協会》が保有する空中艦《ソロモン》、その後部ハッチに士道は立っていった。
《協会》の魔法使いが騒ぎを起こしている間に士道がDEMの本社へと潜入、捕らわれている精霊を救出するというのが今回、メイビスが立てた作戦である。
『それでは士道、準備はよろしいでしょうか?』
「ああ、問題ない」
メイビスの言葉に士道が答える。
『内部では《AMF》が展開されていたり、通信が妨害されている可能性もあります。
くれぐれも気をつけてください』
「了解!」
士道はインカム越しにメイビスへと答えるとヘリからDEM本社の屋上へと飛び降りたー。
「っつ!」
バンダースナッチが繰り出した繰り出したレーザーブレイドを受け流し、袈裟懸けに斬撃を繰り出す。
並の魔術師ならば避ける事は難しいその斬撃をバンダースナッチは横に大きく飛んで回避する。
「これは…厄介だな…」
再びレーザーブレイドを繰り出してくるバンダースナッチにドニは一人、ごちる。
その動きは地面に大型レーザーブレイドを突き立てバンダースナッチや魔術師を指揮している人物‐エレン・ルイ・メイザースのよく似ていた―。
DD‐008《ワルキューレ》、DD‐007《バンダースナッチ》をベースにエレンの戦闘パターンを忠実に再現できるように作られた機体である。
無論、従来の機体であればフレームに大きな負担がかかり、数分と保たない。
だが、フリーランスの魔法使いと共に開発された新素材によりそれも可能となったのだ。
「さぁ、あなたがたにとって不利なこの状況…どのように切り抜くか…お手並み拝見といきましょう」
バンダースナッチや魔術師を指揮しながらエレンは舌なめずりをしてそう呟いた―。
『士道、その通路を直進。
その後突き当たりの角を左折してください』
「了解!」
桜の霊力を用いて、姿を消した士道は鞠奈の指示に従いDEM社内の入り組んだ通路を走っていた。
『士道!止まりなさい!』
「つっ!」
不意に鞠奈の叫び声が響き、士道は足を止める。
『あれは…魔術師殺しとそのホムンクルス…』
曲がり角から様子を伺う士道。
そこにいたのは魔術師殺し‐衛宮切継とそのホムンクルス小比奈である。
二人は奥にある扉の前で何かを話していた。
『さて、どうするべきかな…』
そんな事を士道が考えていると…。
「ねぇ、パパ。
そこに隠れている魔法使い、切ってもいいよね?」
『つっ!!こいつ…俺に気づいてるのか!?』
小比奈の言葉に士道の背中を冷や汗が伝う。
動物の遺伝子をホムンクルスを作る時に組み込むとその特性を持った個体が生まれると聞いたことはある。
恐らく、小比奈はこれに当てはまるようだ。
『どうする…ここでやりあっても…返り討ちにあうのが関の山だろうし…』
その場をどうにかして切り抜けようと考える士道。
「待ちなさい、小比奈
」
だが、そこで小比奈の隣にいた人物―即ち、衛宮切継が小比奈の肩に手を置き言葉を続ける。
「彼を奥に通せとの依頼人からの命令だ」
「一体…どういう事だ?」
両手をあげて桜の霊力を解除する士道。
「さてね…僕は依頼人の言葉をそのまま伝えただけさ…」
タバコを取り出しながら首をすくめる切継。
『虎穴には入らずんば、虎児を得ずか…』
そんな事を考えながら士道は切継に促されるままにの扉の前に立つ―。
それと同時にDEMの本社ビルを大きな揺れが襲ったー。
「そんな…バカな」
その頃……DEM社‐正面ゲートではエレンが唖然とした表情でそう呟く。
一時は魔法使い達を圧倒していた《ワルキューレ》であるが形勢は完全に逆転していた。
一体、一体が無類の強さを誇るワルキューレを魔法使い達は連携し、己の弱点を補いながら撃破していったのである。
「なぜ…」
「仲間がおらんからじゃよ…」
呆然と呟くエレンに苺が答える。
「確かにお主は強い、じゃがそれだけじゃよ…。
背中を預けることができるものがおらねばその強さもいつかは揺らぎが生じるものなのじゃよ」
「くっ…」
苺のそんな言葉にエレンは悔しげに膝をつく。
それと同時にDEM本社ビルの外壁が吹き飛び、何かがそこから飛び去って行く。
「あれは…まさか…《シスター》!!」
驚愕した表情で声を上げるエレン。
識別名《シスター》、二番目に現界が確認された精霊であり。
現在はDEMにある隔離施設に幽閉されているはずだ。
だが、今のエレンにはそれよりももっと重要なことがあった。
「アイク!!!」
叫ぶと同時にエレンは走り出す。
そう、現在精霊《シスター》が隔離されている部屋と同じフロアにはウェストコットのいる社長室があるのだー。
「……どうやら上手く行ったようだな……」
『どういうことよ?』
土煙と桜の能力で何とかDEM本社から脱出した士道に琴里が怪訝な声で説明を求める。
『それについては私の方から答えよう』
琴里の言葉に返答を寄越したのはクローリーだ。
今回の士道の役割は精霊を救いだすことではなく、クローリーの補佐することである。
クローリーの得意とする魔法は空間操作。
自分、もしくは任意の人物の周囲の空間を認識、干渉する魔法だ。
固有結界ですらも、彼の魔法を用いれば無効化できるというものである。
これを用いてクローリは隔離部屋の壁を破壊し、その機能を無効化させて精霊を逃がしたのである。
「なるほど…それで?
精霊の所在についてはわかってるの?」
「ああ、それも全く問題ない」
尋ねる琴里にクローリーは淡々とした口調で答えたー。