デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第六十三『時間が足りない…!』

「………ここだよな…」

 

『はい、《協会》の情報によるとDEMに捕らえられていた第二の精霊。

本条二亜の住所はここで間違いありません』

士道がその建物を見上げて尋ねると鞠亜が返答する。

 

そこにあるのは周囲のビルの倍はあろうかという高層マンションである。

 

士道や《協会》の魔法使い達がDEMに捕らわれていた精霊の脱出の手助けを行ってから一晩が経過、精霊とのファーストコンタクトを取るべくクローリーに教えられた住所を食材の買い出しついでに訪れたのだ。

 

『さて…どうやって接触すべきかな…。

いきなり訪ねて警戒されると厄介だしな…』

 

などと士道が考えていると―

 

『士道。

マンションの裏路地に倒れている人影があります』

 

『了解』

 

このマンションの裏手の路地は商店街に通じる近道でよく住人が利用しているのである。

 

精霊との接触はひとまず後回しにして、裏路地に向かうと一人の少女がうつ伏せで倒れていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

『心拍数、脈拍、共に正常。

頭を打った形跡などもありませんね』

 

少女へと駆け寄り尋ねると、オーディンが答える。

 

「んっ…」

 

それ同時に少女が小さくうめくとふらふらと頼りなげに頭を持ち上げる。

 

年齢は士道の一つか二つ上ぐらい。

 

吊り目がちの目に、薄い唇。

鼻筋の通った端正な顔立ちである。

 

だが、その顔には深い疲労の色が見えた。

 

頬は窪み、目の周りには大きな隈を作った顔は過労で倒れていたといった方が説得力がある気がした。

 

『士道……』

 

『ああ、わかってる』

鞠亜の声に士道が答える。

少女のその顔立ちに見覚えがあるからだ。

それも当然の事と言える。

何故ならば、その少女が士道が先ほどからどのようにファーストコンタクトを取ろうか思案していた人物。

 

第二の精霊‐本条二亜だからである。

 

無事に接触できたことを安堵しつつ、士道は少女の肩を支えて、彼女が身を起こすのを手伝ってやった。

 

 

背中側を見ただけではよくわからなかったが、どうやら少女は、部屋着の上にコートを纏っただけ、という格好をしているらしかった。

この寒空の下だというのに、足元は靴下も履かずにサンダルを引っかけただけである。

士道もたまに、夜中近くのコンビニに行く際などは似たような格好になることがあった。

「………すいた」

 

 

と、少女は目の焦点を合わせるように士道の顔を見ると、カサカサの唇を震わせ小さなような声を発してきた。

「ん? どうした?」

 

士道が聞き返すと、少女はもう一度、その言葉を繰り返した。

 

 

「……お腹、空いた…」

 

少女が呟くように言うと彼女のお腹から、大きな音が聞こえてきた―。

 

 

「……着いたぞ。

ここで大丈夫か?」

 

「いやー、わるいねー、少年……。

 

悪いついでですまないんだけど鍵を開けてくれると助かるー。

 

このままじゃわたし玄関で倒れちゃうよぅ」

 

二亜の案内で彼女の部屋への前へとたどり着いた士道に背中から弱々しい声の返答が入る。

マンションの裏手にあるコンビニへ向かう途中で倒れたらしく、歩くことすらままならない状態であった二亜をこかまで運んできたのである。

 

「わかった、開けるから、鍵を貸してくれるか?」

 

「鍵はお尻のポケットに入ってりから、優しーく取ってね」

 

「………」

 

 

下世話な話をする二亜の話を流しながら素早くポケットから鍵を引き抜くと士道は扉を開ける。

 

「あれっ?いつの間に?? ひょっとして士道くんって痴漢の常習犯だったりする??」

 

「そこは普通、スリとかではないのか!?」

 

っと二亜のボケにツッコミを返しつつ士道は部屋の中へと入っていった。

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔されまーす」

「………」

 

 

「あれっ? スルー?」

 

二亜の声を無視しつつ、士道は靴を脱いで部屋へと上がる。

 

玄関から見えるのは、真っ直ぐに伸びた廊下とその上に散らばる漫画や雑誌の山だった。

 

「それで?寝室はどこだ?」

 

「あっちー」

 

二亜の指さす方向へ足を進め、部屋へと入る。

 

やはりと言うべきか、二亜の寝室は夥しい数の漫画で埋まっていた。

 

壁のほぼ全面が本棚と化していると言うのにそれでも収まりきらず、部屋中に本の塔を形成している。

 

ベッドはさらにひどい状況であった。

大きなベッドの中心に人一人横になれるほどのスペースしかなく、その周辺に何冊もの本が散乱していた。

 

「うんしょっと」

 

二亜は、士道がベッドの前に立った瞬、ベッドへと飛び乗ると気持ちの良さそうに延びをした。

 

「んー、やっぱり落ち着くわー」

 

 

「ははは…」

 

乾いた笑いをする士道は、部屋の奥にあるものを発見する。

 

「あれは……」

 

他人の――初対面の人間の部屋をジロジロ覗くのは失礼とは思いつつも、好奇心の方がそれを上回ってしまっていた。

 

それは大きな蛍光灯が机全体を照らすように設置され、様々な画材が所狭しと並んだ大きな作業台であるー 。

 

そして、その上。

机の中央に、B4サイズ程の厚手の紙が一枚、置かれている。

 

コマ割りがされ、キャラクターと背景、そして台詞の入る吹き出しが書かれていた。

 

まだ下書きの鉛筆線の残るそれは、言うまでもなく描きかけの漫画原稿である。

 

「ひょっとして、漫画書いてたりするのか?」

 

「んー?そうだよー。一応プロー。

…………作業に熱中してたらご飯たべるの忘れちゃって、仕方なく近所のコンビニかスーパーに行こうと思って外に出たら体力の限界が来て行き倒れたわけだよ」

 

士道の質問に二亜がけダルそうに手を挙げて答える。

 

『どこの世界にも似たような人間がいるんだな…』

 

二亜の言葉そのような感想を抱く士道。

 

《協会》所属の魔法使いにも自分の研究に熱中するあまり、寝食を忘れる者もいるからだ。

 

そうならないように主の体調管理もホムンクルスの仕事となっているのだ。

 

「アシスタントとかはいないのか?」

 

魔法使いにホムンクルスがいるように漫画家にもアシスタントがいるはずである。

 

「んー、普通の人はそうなんだろうけど、私の場合は一人で仕上げまでやっちゃうこてが多いかなー。

まぁ一人というのも気楽でいいよー

たまに死にかけるけど」

 

「それは致命的な欠陥ではないのかねぇ…」

 

士道は頬を描きながらそういうと、再び机の上にある漫画原稿に視線を向ける。

 

協会に所属している魔法使いの中には趣味というか気分転換に同人誌を描いている者がおり、士道も何度か手伝った事がある。

だが、それとプロの原稿と比べればやはり、後者の方が断然迫力がある。

 

『あれ…これって…』

と、 士道眉根を寄せて原稿を覗き込む。

まだ書きかけであったために気づかなかったたのでだがに描かれていた絵柄に見覚えがあるからだ。

 

「まさかこれって!『SILVER BULLET』!?」

 

士道が叫んだのも無理ないことである。

もともと士道が厨二病になったきっかけが士道『SILVER BULLET』なのである。

 

「おっ? よく知ってるね?もしかして読者さん?まいど~」

 

士道の叫びに二亜が手を振る。

 

「ペンネームとかはわかるが『SILVER BULLET』って、俺が小学生の頃からやってる漫画だろ?

 

それに本条先生のデビューはもっと前だったはずだし…」

 

二亜の見た目は18、9………どんなに、若作りしていても20代前半といったところだろ。

 

だが、『SILVER BULLET』を描いている漫画家・本条蒼二の年齢は三十以上のはずである。

 

これならば、かつて連載していた本条蒼二に代わり、絵柄を完全にトレースした娘が二代目を襲名していると言われた方が納得できる。

 

しかし、二亜はそんな士道の想像を見透かしたように肩をすくめる。

 

「残念ながら、本条蒼二は最初から今まで私一人だよ。

ちなみにデビューは今からだいたい十年くらい前かなあ」

 

『精霊化の影響で見た目が若いままなのでは?』

 

『なる程な…』

 

 

二亜の言葉に《オーディン》の声が士道の頭に響く。

 

そんな士道の様子に二亜は息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

「……ちょっと順序が想定とは違っちゃったけど、まぁいいか。

――教えてあげるよ。

私の秘密を……」

 

 

自分が精霊であることを告げるつもりだろうか…。

そんな事を考えながら身構える士道。

 

「実はね―――」

 

しかし、次の瞬間、二亜のお腹から先ほどよりも大きな音が響いた。

しかも、真剣な話をしようとしていたからかか、少し真面目な表情でいたために、シュールなことこの上ない。

「し、少年……」

 

 

二亜がぐったりとしながら弱々しく言ってくる。

 

拍子抜けした士道はため息をつくと立ち上がる。

 

「はいはい……ちょっと台所を借りるぞ」

 

「うーい……」

 

 

弱々しく答える二亜を一瞥すると士道は部屋を出てキッチンの方へと向かっていった。

 

「ふむ…」

 

仕事部屋の散らかりようからキッチンもかなりの惨状だろうと考えていた士道は感心したように声をあげる。

「意外と綺麗にしている…っと言うわけではないようだな」

 

どうやら二亜はキッチンを綺麗に使っているのではなく、全く使っていないようである。

 

その証拠に、シンクやガスコンロは埃を被って白くなっている。

 

普段から食事を外食やコンビニ弁当、インスタント食品で済ませているこのだろう。

 

「……」

 

 

士道は無言で額に手を置くと、濡らした台拭きを固く絞って調理台の上を拭き始めた―――。

 

 

『台所が使われていないということは冷蔵庫の中も期待はできないだろうな……』

 

 

そんなことを考えながら冷蔵庫を開けると中にあったのはビールや日本酒、ワイン等のアルコール類ばかりであった。

 

せめて、つまみの類でもあればと野菜室や棚を見るも出てくるものは酒ばかりという状況だ。

 

だが、考えてみればそれも当然といえるだろう。

 

つまみがあれば既に食べているはずだからだ。

 

「………」

 

 

士道は無言で冷蔵庫を閉めると、玄関に置いておいた買い物袋から適当な食材を選び、再び台所へと戻る。

 

琴里から指示は出ていないものの、こういうことで好感度を上げておくのも悪くはないだろう。

 

士道は手を洗うと、手慣れた様子で調理を開始する。

 

とはいえ、調理器具も大したものも無いためにそこまで凝ったものは作れない。

それ以前に、あまり調理に時間をかけすぎて二亜を待たせるのもよくないだろう。

 

そう判断するとキッチンに唯一あった小鍋に水を入れ、そこに生米を投入して少し水を吸わせてから火にかけ始めた。

 

そして火が通ったところでネギを入れ、味噌と冷蔵庫から取り出した日本酒で味を調え、最後に卵を落とせば雑炊の完成である。

 

これならば今からご飯を炊くよりも調理時間も短くて済むし、倒れるほどに空腹の状態である二亜には、普通のメニューよりも胃に優しいはずである。

 

「よし、こんなもんか」

 

士道はそう言うと器に移して先ほどの部屋へと戻る。

 

「できたぞ。熱いから気をつけてな」

 

「いっだだきまーす!」

 

士道が雑炊をベット脇の台に置くと、二亜は手を合わせると勢いよく雑炊を頬張った。

 

「ほあっちゃ!」

 

案の定、熱かったらしく二亜は身体を大きく震わせる。

 

「だから言わんこっちゃない……」

 

 

「はふー、はふー」

 

今度はスプーンに息を吹きかけながら口に運ぶ。

 

そして、雑炊を味わうように口を動かしたのち、小さくのどを鳴らす。

 

「っあぁー」

 

 

感極まった様子で目に涙を浮かべながらスプーンを動かし、残った雑炊を平らげていく。

 

二亜が雑炊を完食するまでに五分もかからなかったー。

「ふぃー、ごっそさん。

いやー、美味しいった。

温かいご飯を食べたの一週間ぶりだわ」

 

「一週間…」

 

士道が苦笑しながら食器を纏め、キッチンに戻ろうと扉の方へと足を向ける。

 

「じゃあ、これを洗ったら帰るから。

 

これからは倒れる前にちゃんと食べろよ」

 

一応、ファーストコンタクト+αは済ませ、第一目的は達成できた。

 

『できれば、また会うきっかけが欲しいところだがな…』

 

欲張った行動で好感度を下げたら元も子も無いだろう…。

 

「あー、ちょっと待って」

 

そんなことを考えていた士道の背に二亜が声をかけてきた。

 

「足りなかったか?悪いけどこれの材料が夕飯の材料だから、もっと食べたかったら出前でも頼んでくれ」

 

「あー、違う違う。そうじゃなくて」

 

二亜は手を振ると、右手の親指で机の上の描きかけの原稿を指差した。

 

「さっきも言ったとおり、あたしアシスタント雇ってなくてさ。

簡単な作業でいいから、手伝ってくれない?

お願い!お給料は色つけるからさぁ」

 

 

「ふむ……」

 

両手を合わせて懇願する二亜に士道は顎に手を当てて考える。

 

ファーストコンタクトにしては十分な程に好感度は上げた、だがここで二亜の頼みを断って好感度を下げては元も子もない。

 

「わかった……っと言っても大した手伝いは出来ないと思うがな…」

 

 

士道が言うと二亜が嬉しそうに微笑む。

 

「りょーかいりょーかい。

んじゃ、ちょっと仕事部屋の方に移動しよっか。

ここで二人作業するには狭いからねー」

 

 

二亜に促されて入った部屋には大きな作業机がおかれ、その上には様々な文房具などが纏められている。

また、壁には先ほどの部屋と同じく、本棚となってはいたのだが、そこに納められていたのは作画資料と思われる画集や写真集などであった。

 

 

「しかし、士道くんさー」

 

「んっ?」

 

二亜の指示で原稿のしていされた場所へトーンを貼ったり、ベタを塗ったりしていると二亜が切り出してきた。

 

「妙に手慣れてるようだけど本当にアシスタント作業初めて?

どう考えてもプロアシにしか見えないんだけど…」

 

「まぁ、夏と冬に友人のサークルの方を手伝ったりしてたからなー」

 

「へぇ~、なんてサークル?」

 

「『チャムチャムワークス』……ってところだけで知ってるか?」

 

「知ってるなんてもんじゃないよ!?」

 

答えた士道に二亜が勢いよく立ち上がり、声を上げる。

 

「ハイレベルな画力と綿密なストーリーで超人気サークルなんだよ。

私はあのサークル程プロに近いところを知らないよ!?」

 

まくしたてるように言う二亜であるが士道にはいまいちピンと来ない。

 

だが、とにかく凄いサークルだと言うことはなんとなく理解できた。

 

「ところで二亜…その格好は何だ?」

 

先ほどまで作業に集中していたため気づかなかったが、興奮気味に叫ぶ二亜に視線を向け、その装いが先ほどまでの部屋着から露出度の高いメイド服になっていることに気づく。

 

「これ?昔、資料用に貰ったんだけど、士道くんへの応援とサービスを兼ねて。

ほら、給料に色付けるとて言ったじゃん?

どう?乳はないけどスタイルは悪くないでしょ?」

 

「色ってそういうことじゃないと思うんだが……」

 

腰をくねらせて言う二亜に苦笑する。

 

すると二亜は、手にしていた封筒を揺らしてみせた。

 

「こっちはホントにただのサービス。

はい、お給料」

 

と、二亜が封筒を士道に差し出そうとしたところで、何かを思いついたように目を輝かせる。

そして、悪魔っぽい笑みを浮かべるとメイド服の胸元を広げて、そこに封筒をねじ込む

 

「さ、士道。お・給・料」

 

「…何してんだ?」

 

 

「いーじゃんいーじゃん、ほらほら、受け取ってよお」

 

言って、二亜が胸元を強調するように肩をすぼめながらにじり寄ってくる。

 

すると服の裾から封筒が落ちた。

 

 

「……………」

 

「………」

 

士道が無言でいると、二亜がショックを受けたようにその場にくずおれた。

 

「くう………っ、貧乳は罪なのか…」

 

「まぁ、とりあえず、給料は有り難く貰っておく…。

あと、それと…」

 

 

「?」

 

哀愁漂う表情の二亜に士道は作業机のメモ用紙を千切るとポケットからスマホを取り出し、自分のメールアドレスを書き写す。

 

「これ、俺のメルアド。

また何か手伝うことがあったらメールんしてくれるか?」

 

「おおっ!?

私も士道くんにいろいろと頼みたいことがあったから良かったよー」

 

 

士道の提案に嬉しそうな表情を浮かべる二亜であったー。

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