デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第六十四『アキバよ、あたしは帰ってきた』

二亜をデートに誘った二日後。

士道は二亜との待ち合わせ場所である秋葉原駅を訪れていた。

平日にも関わらず、駅にはかなりの人が来ていた。

近年は観光地としても有名になったからか外国人の姿もちらほらと確認できた。

 

『士道、まもなく約束の時間です』

 

『目標…二亜が来たみたいね…』

 

「了解…。

って、二亜はどこにいるんだ?」

 

インカムから聞こえてくる鞠亜と鞠奈の声に士道は改札の奥を見やる。

 

それに合わせるように改札の向こうから電車から降りた人々が現れる。

 

その中に士道は目的の人物を発見する。

 

年季の入ったデニムのボトムスに、くたびれたダウンジャケット、ついでに口元が隠れる程にマフラーを巻いている。

 

二亜が呼吸をする度にかなけていた眼鏡がうっすらと曇る。

 

加えて、中に何も入っていないのかへこんだ大型リュックサックを背負い、左手で、海外旅行用のスーツケース。

とどめと言わんばかりにそのスーツケースには、折り畳まれた小型のキャリーカートがゴム製のベルトで括り付けらている。

 

ニュースなどで良く見られる爆買い中国人を思わせるような装いである。

 

「やぁやぁ少年。

おはよう。

いい朝だねぇ」

 

「……二亜はフル装備だな」

 

士道が言うと、二亜は一瞬だけ目を丸くした後、肩を揺らしながら笑う。

 

「やだなぁ、何言ってんの。

アイテムはこれから買うんでしょ」

 

「まぁ、確かにな…」

二亜の言葉に苦笑混じりに答える士道。

 

「じゃ、今日はよろしく。

どうぞお好きに口説いてください」

 

「お、おう。……よろしく……」

 

 

士道に向かってお辞儀をする二亜。

面と向かって言われると何となく気恥ずかしく感じる。

だが、二亜の方は気にしてない様子で街に目を向ける。

 

「さてと…いざ、懐かしのアキバへと…」

 

そのままスーツケースを頃がしながら歩いて行こうとする。

「―っと、流石に一人で持つには辛いだろう」

 

「え、ホント?

少年…紳士だねー」

 

 

二亜が言いながら士道の二の腕をつついてくるのを笑いながら、スーツケースを受け取る。

すると二亜が、それにより空いた手を握ったり開いたりしてみせる。

 

「繋ぐか?」

 

右手でスーツケースケースを持ちながら左手を差し出す。

 

「んっ…ありがとうー」

 

そのまま手を伸ばしてくる。

手袋をしていない彼女の手は少しばかり冷たい感じがした。

 

「んじゃ…行くか?」

 

「うん」

 

二亜の手を繋ぎ、スーツケースを転がし歩く。

 

『上手い具合に主導権を握ってるじゃない』

 

耳に填めたインカムから上空の《フラクシナス》から士道たちのデートの様子を観測する琴里からそのような言葉が返ってきた。

 

『一応、二亜に主導権を渡さずにいくつもりだったからな…』

 

《協会》の調査で二亜の天使《囁告篇帙‐ラジエル‐》には起こっている出来事、誰が何をしているのかなどの自分の望む情報を知ることことが出来る他に、霊装に取り付けられているペンで《囁告篇帙》に記載することにより未来における記述対象の行動を操る事が出来るらしい。

 

二亜から今回のデートについてのメールが来たときに尋ねたところ、協会の調査結果と同様の答えが返ってきた。

だからこそ、士道は今回のデートで二亜よりも先んじて行動しようと考えている。

 

と、士道が考えていると、二亜が通りに出たところで不意に足を止める。

そして、つい今し方繋いだばかりの手を解くと前方に走っていって、道の真ん中で深呼吸をするような動きをする。

「んー! 久々! アキバよ! あたしは帰ってきた!」

 言って、二亜がキョロキョロと辺りを見回す。

「やっぱりしばらく来てないといろいろ違うねー!

なんかしんせーん!」

「〈囁告篇帙〉こういう変化も知ってたんじゃないのか?」

 

士道がスーツケースを転がしながら尋ねると、二亜は小さくうなり声を上げた。

 

「や、あたし、必要ないとこでは出来るだけ〈囁告篇帙〉を使わないようにしてるから」

「そうなのか? 一体何でまた」

「んー……」

士道の間いに、二亜は何やら口ごもる。

だが、すぐに気を取り直すように片手を腰に当て、

「ちっちっち」と指を振ってくる。

 

「〈囁告篇帙〉で得られるのはあくまで知識であり情報。

目で耳で肌で感じるホンモノには遠く及ばないんだよ」

 

「なるほどな……」

 

二亜の言葉に頷く士道。

実際に本で得られる知識と実際に体験するとでは大きな違いがある。

「そういうこと。

うんじゃ予定通り本関係から……」

 

と。二亜はそこで言葉を止めると、何かを思い出したように思案を巡らせ始めた。

 

「あー……そっか、んー」

 

「どうしたんだ?」

 

「いやさ、ほら、これって一応名目上は少年へのご褒美デートなわけじゃん?

なのにあたしの買い物から入っちゃうのもな一つて」

 

「別に俺は構わないけど……」

 

「んーん! そうはいかないね! というわけで二つちヘカモン!」

 

二亜はそう言うと、再び士道の手を取って歩き出した。

 

「どこ行くんだ?」

 

「えっへっへ、それは着いてのお楽しみー」

 

二亜はそのまま道を歩いていくと、とある建物の前で足を止めた。

 

「はい、ここだよー」

「ここ……って」

 

「うん、コスプレショップ」

 

「なんで!?」

 

士道が素っ頓狂な声を上げると、二亜はあははと楽しげに笑った。

 

「なんでって……わかってるくせにい。

ほら、入った入った」

 

「押すなって」

士道は、二亜に押し切られるような格好で店の中に入っていった。

店内には、色とりどりの衣装が所狭しと並んでいた。

アニメキャラクターの衣装から、職業別のコスチュームまで、幅広い品が取り揃えられている。

二亜は目を輝かせると、それらを物色し……三着のコスチュームを手に、士道の前に戻ってくる。

 

「はい! じゃあここで選択肢です!」

「んっ?」

 

まるで琴里からの指示のような言葉に、士道は首を傾げる。

 

「少年があたしに着せたいコスチュームはどれ!

①ナース服。

②メイド服。

③『ワルキューレ・ミスティ』ミッドナイトファイナルフォーム。

さあ 選択開始!」

 

叫び、二亜が制限時間を示すように「ちっちっち……」と言い始める。

 

ちなみに二亜の手には、ナース服とメイド服と、煌びやかな生地で縫製されたやたらと派手なコスチュームが握られていた。

 

「さて…どうすべきかな…」

 

 

『士道、ここは二亜に合わせましょう。

選択肢を選んでください』

 

耳のインカムから鞠亜の声が響く。

 

「…そうだな」

 

士道は少し考えた末、二亜の持っている服を指す。

 

「では①を」

 

「①ね?」

「……ああ」

 

「ホントね? 絶対後悔しないね?」

 

「お、おう……」

「ミッドナイトファイナルフォームじゃなくてホントにいいのね?」

 

「そんなに着たいんなら最初から選択肢にするなよ!?」

 

士道が突っ込むと、二亜は手を振った。

 

「冗談冗談。

今はサービスタイムだからねー。

少年の希望が最優先だよ。

 

で?やっぱりあれなの?

昔入院してたとき美人の看護師さんにイタズラされて以来、白衣にそこはかとない劣情を催すようになっちゃつたの?」

 

「勝手なストーリー捏造するな」

 

士道が苦笑しながら言うと、二亜がまたも可笑しそうに笑った。

 

「じゃあ、ちょっと待っててね。

すぐ着替えるから」

 

そしてナース服を手にしたまま、目の前にあった試着室へと入っていく。

 

カーテンを閉めてすぐ、服を脱ぐような衣擦れの音が聞こえてくる。

士道はなんだか妙な気分になって視線を外した。

するとしばらくしてから、二亜が声を発してくる。

 

「―あ、少年少年。

覗くなら今がベストタイミングかも。今鏡見て気づいたけど、穿きかけのストッキングやべぇ、超エロい」

 

「何言ってんんだか…」

カーテン越しに聞こえてくる言葉に、士道は呆れたような言葉を吐く。

 

「えー、だってほら、これ凄くない?

予想外の相乗効果だよこれ」

 

と、二亜がそんなことを言ったかと思うと、次の瞬間、試着室の内側からカーテンがシャツと開かれた。

 

「な……!?」

 

予想外の事態に、士道は驚愕声を上げる。

 

何故ならば二亜はまだ着替え中であり、ナースキャップは被っているものの、服は袖を通しただけでまだ前のボタンを閉じておらず、下着が露出した状態だったのである。

しかもそれで足の途中までストッキングを上げているものだから、二亜の言うとおり、とにかく超エロい格好だった。

 

「ねー、エロいっしょ。

やー、これは新発見だわ」

 

「いいからちゃんと服を着ろ!!」

 

しみじみと語る二亜に士道は声を上げると、カーテンを閉め直した。

 

「さー、じゃあノルマも達成したところで。

本屋回らせてもらおっかな!」

それから十数分後、コスプレショップを出た二亜は、上機嫌そうに声を上げた。

 

「……ああ…そうだな」

 

士道はどこか疲れ様子で答えた答えた。

 

『士道、デートはまだ始まったばかりですよ』

 

『そうそう、疲れている場合じゃないわよ』

そんな士道にインカムから鞠亜と鞠奈がそう声をかける。

 

二亜もまたそんな士道を気にする様子もなく、あごに指を当てて思案を巡らせた。

 

 

「どこから回ろっかなー。

あ、参考までに聞くけど、少年はどこ派? メイト? ゲマ? とら?」

 

「それは店の名前か……?」

 

突然発された質問に、士道は質問で返す。

 

「そうだよ。

まぁ置いてある本は基本的に同じだけどさ、店によって付いてくる特典が違ったり、推してるものが違ったりね。

手書きPOPとか特設コーナーなんかは、結構店員さんのカラーが出るから見てて楽しいのよねえ。

既刊が欲しい場合は広めの店舗がオススメだし……あ、とらとかメロブは同人誌なんかも売ってたりするんだけど、サークルによっては一つの店にしか卸さない専売っていうのがあるから、どっちか片方しか見ないってわけにもいかないのよねえ」

 

急に饒舌になった二亜に士道は苦笑を浮かべた。

 

「ま、特にこだわりがないならとりあえず近場から回って行って良い?」

 

「ああ、もちろん」

士道はそう応えると、二亜とともに街に繰り出していった。

 

最初に二亜が足を止めたのは、駅から歩いてすぐのところにある店だった。

店頭には様々なキャラクターの描かれた新刊が平積みで並べられており、壁際には漫画誌やゲーム誌、声優が表紙を飾る雑誌などが敷き詰められていた。

 

「ふ……ふぉぉぉぉ!!!」

 

店内に入ると同時、二亜が目を輝かせながらそんな叫びを上げた。突然のことに、買い物をしていた客たちが驚いたようにこちらを見てくる。

しかし二亜は自分に注目が集まっていることなど気にせず、並んだ漫画を端から手に取り始めた。

 

「うっわ、うっわ、マジで? 傘村先生画風変わってるうう!

っていうかこっちはもう二五巻まで出てんの!!

時の流れ早ええええ!」

 

などと興奮した調子で漫画を積み上げたところで、二亜が何かを見つけたように目を見開く。

 

 

「こ、これは……倉内先生の新作!?」

 

「あ、それか。

今連載してるやつだよな。

倉内作品好きなのか?」

 

「いやもう好きなんて言葉じゃ括れないよ!

マジあたし、倉内先生の『時空綺譚』で人生変わったかね!

漫画家目指したのそれがきっかけだかんね!

朱鷺夜はあたしの嫁!

男キャラだけど嫁!」

 

妙に早口になって捲し立ててくる二亜に、思わず苦笑する。

『時空綺譚』はアニメ化もされた有名作品であるため士道もよく知ってはいたが……さすがに二亜ほどの情熱は持っていなかった。

二亜はその本を積み上げると、上機嫌そうな顔のままレジへと向かっていく。

 

「お、おいおい」

 

士道は、まるで蕎麦の出前のような格好で歩き出した二亜に駆け寄り、本の山を半分持ってやった。

 

「おっとっと、悪いね少年」

 

「これ、全部買うのか?」

 

「もちろん! DEMのせいで五年もおあずけだったからねえ。

仕事も一段落したし、今日は楽しませてもらうよー。

あ、もちろん最新刊だけ買っても意味ないから、既刊全部集めるよ?」

 

「お、おう」

 

士道が頬に汗を垂らしながらうなずくと、二亜は笑って会計を済ませ、購入した本を士道の転がすスーツケースにしまい込んだ。

 

「さ、じゃあ上行こ、上」

 

それから、エスカレーターに乗り込んで二階に上がる。

 

店の二階は、一階よりもさらに多くの本が揃えられていた。

新刊の平積みや特設コーナーの他に、何種類もの漫画が収められた棚が並んでいる。

 

「二階は基本的に新刊が並んでるコーナーだからね。

本隊はこっちなのよ……って、ふ、ふおお! これも出てた!!

買わなきや……!」

 

「な、何だ突然……って、それ」

 

士道は二亜の手元を覗き込み、諍しげに眉根を寄せた。

 

しかしそれも無理からぬことである。

二亜が持っていたのは一冊の小説だったのだが……その表紙が、やたら耽美な少年二人が、半裸で絡み合っているイラストだったのである。

ついでに、なんだか聞き慣れない煽り文句の書かれた帯が巻かれている。

 

 

『なるほど……BLか』

 

士道もそれほど詳しいわけではないが、そういうジャンルがあることは知っていた。

なんとも反応に困ってしまい、言葉に詰まる。

すると二亜は、何やらニヒルな笑みを浮かべながら息を吐いた。

「ふっ、乙女回路を持たぬ者にはわかるまい……」

 

「……それ、使い方正しいのか……?」

 

「正当な機能よ。その道のプロは、物体を見ただけで属性を判別できるんだから」

 

二亜はそう言うと、一旦本を棚に置いて両手でピースを作り、その指の合間から士道を覗き込むようなポーズを取った。

まるで、何かを解析するかのように。

そして数秒後、目を見開き、言葉を発してくる。

「 『ヘタレ・総受け』」

 

「おい待て今何を判別しやがった!!」

 

詳しい意味はわからなかったが、なんだかとてもよくない属性付けをされた気がして思わず叫びを上げる。

 

 

「あっはっは、大丈夫大丈夫。

あたしは専門じゃないから、そこまで精度は高くないよ。

道を極めた人だったら、もっとキミの隠れた可能性を発掘してくれるって」

 

何が大丈夫なのか一つもわからなかったが、二亜は自信満々にそう言った。

 

なんというか反論する気も削がれて、士道はため息を吐いた。

 

「でも……二亜って結構守備範囲が広いというか、いろんなジャンルの本読むんだな。

さっきも、少女漫画からハードボイルドっぽいのまで買ってたし」

「んー、結構雑食だから、このジャンルだから読まない、っていうのは基本的にないよー。

どっちかっていうと、作者が情熱を持って書いてるのがわかるものが好きかなー」

 

「情熱……か」

 

「そうそう。

これなんか凄いよ。

ファンタジ一世界観で、最初は王子と騎士のオーソドックスな感じで始まるんだけど、実はゴリッゴリのNTRモノでさあ。

作者さんの『あたしはこれが書きたいんだ文句あっか!』って情念がしとどに出ててねー。

いやー、三巻でオルフェウスが敵の捕虜になったときのシーンとかヤバかったわ。

まさかアレをあんな風に使うなんて……」

 

先ほど棚に戻した本を再度手に取り、二亜が熱弁を振るい始める。

あまりその道に明るくない士道は苦笑するしかできなかった。

そんな士道の様子に気づいたのだろう。

二亜が舌を出してくる。

「ああ、ごめんごめん。

少年にはまだちょっと早かったかもね。

ちょっと待ってて。

この階の会計済ませたら、次は少年も楽しいところに連れてってあげるから」

 

 

「楽しいところ……?」

 

士道が首を捻っていると、二亜は微笑み、先ほどと同じように目当ての本を山積みにしてレジへと向かった。

そしてその後店を出、通りに沿って道を歩くと、二亜はパソコンショップと思しき店の前で足を止めた。

 

「ほら、ここ」

 

「ここ……って、別に俺、そこまでパソコン詳しくないんだが……」

 

「ああ、違う違う。

こっちこっち」

 

二亜はそう言うと、士道を率いて店の中に進んでいった。

そして、とあるコーナーの前で足を止め、士道の方に振り返ってくる。

 

「さ、好きなものを選びたまえ少年。

今日は特別に、あたしが一本著ってあげよう」

 

言って、そのコーナーに並んでいた品物を示してみせる。

その、やたら危ない格好をした美少女のイラストが描かれたパッケージを。

 

「二亜…これは…まさか…」

 

「うん。エロゲ」

 

「俺まだ高二なんだけど?」

 

「えっ? エロゲやらない高校生とかいるの?」

 

「どんな世界観で生きてるんだよ!」

 

 

士道が叫ぶと、二亜は「文化が違ーう!」と心底意外そうな顔をした。

 

「そっかー……時代は変わったのねえ」

 

二亜は腕組みしながら言うと、頷き、すぐに表情を変えた。

 

「でもさー、キミももうちょっとこう、ないの? 男子高校生。

これだけのお宝を前にして、感動と感慨に身体の一部がいきり立ったりしないの?」

 

言って、楽しそうにニヤニヤしながら、士道の脇腹を肘でぐいぐい押してくる。

 

 

「残念ながら無いな…」

 

「そんなバカな!!性欲は食欲睡眠欲に並ぶ三大欲求だよ!!

まさか少年…その年で枯れてるとか?」

 

「違うわ!」

 

「でも、人間ご飯食べなかったり寝なかったりすると死んじゃうけど、どんだけセックスしなくても死なない

んだよね。

不思議だね性欲。

確かに子孫残すのには必要だけど、なんか『三大』ってカテゴライズに入ってるの違和感ない?

四天王最強の男は実は無能力者だった的なアレじゃない?」

 

「いや、おまえが三大欲求って言い出したんじゃないか?」

 

「性欲が生きるのに必要不可欠な要素だったら、世の中童貞も処女もいないのにね」

 

「だから何の話してんださっきから!?」

 

士道が声を上げると、二亜が愉快そうに笑った。

 

「あーごめんごめん。

どうもあたし話を脱線させちゃうんだよねー」

 

二亜はさして悪びれていない様子でそう言うと、あごに手を当てて真剣な表情を作ってきた。

 

「……で、少年的にはどの系統が好みなのよ。

泣きゲー? 中ニゲー? それとも陵辱ゲー?」

 

先ほど、興味ないと言ったことを二亜は信じていないらしい。

士道はそんな二亜の言葉に苦笑を浮かべた。

 

 

 

それから数時間後。

二人は遅い昼食をとるため、近くのハンバーガーショップを訪れていた。

 

「はー! 満足満足。

堪能したわー」

 

「ああ。

こんなにじつくり秋葉原巡ったの初めてだけど、意外と楽しかったな」

 

 

士道は息を吐きながら二亜に返した。

ちなみに、二亜のリュックサックはパンパンに、士道が転がしていたスーツケースは満タンになっており、重量が来たときの数倍にはなっていた。

 

フィギュアなどかさばるものは収まりきらないため、折りたたまれていたキャリーカートを展開して、ゴムのベルトで固定してある。

なんだかもう、買い物というより業者のような格好である。

とはいえそれも当然である。

何しろ士道と二亜はあのあと、数店舗の専門店、書店を回って二亜が監禁されていた間に発売された漫画やライトノベル、資料本を買い漁り、そののちアニメのブルーレイディスクを何枚も購入、フィギュアを物色、ついでにボビーショップに寄りゲームソフトの新作をチェックしていた。

無論、士道もただ二亜に引っ張られていただけではない。

 

二亜の好感度を上げるためにいろいろとアクションを起こし、いずれも上々の反応を引き出していた。

 

「でしょー?

やっぱりお宝は直接手にとって買わないとねー。

ネット通販とか便利なんだけど、どうしてもこの感覚ばかりは再現できないのよ」

 

「あー……なんかわからないでもないかなあ」

 

士道は頬をかきながら、同意するようにうなずいた。

……まあ士道の場合、思い浮かべていたのは書店と言うよりもネットスーパーだったのだけれど。

注文すれば家まで配達してくれるのは非常に便利なのだが、店を巡ってどんな料理を作ろうか考えている時間も、楽しみの一つなのである。

「えっへっへ、少年もわかってるねえ。

便利なのはいいけど、実物の感触に勝るものはないのだよ」

 

そう言って、二亜は人なつっこい笑みを浮かべた。

今日一日付き合ってみてわかったが、二亜は本当によく笑う。

多少反応に困る話題を振ってくるところはあるものの、開けっ広げで嫌味がなく、気持ちのいい少女だ。

彼女の笑顔を見て、士道はふとそんなことを思ってしまった。

それと同時、先ほどまで薄れていた使命感が再び心の中で顕在化してくる。

そう士道は、この少女を守らなければならない。

そしてそのためには、彼女の好感度を上げ、キスをしなければならないのだ。

すると、まるでそんな士道の心情を察知したかのように、インカムから琴里の声が聞こえてきた。

『いい感じね。

っていうか、こんなに順調なデート久々じゃない?』

琴里が冗談めかした調子で言ってくる。

しかし考えてみれば確かに、封印後のそれを除けば、こんなにも上手くいったデートは今までそうなかった気がする。

好感度の下落もなければ、相手に攻撃されることもなく、純粋に買い物と会話を楽しむことができた。

実際、僅かな間とはいえ士道がいっとき使命を忘れてしまっていたくらいだ。

だが。

『……!し、司令! これを』

そんな空気は、狼狽に満ちたクルーの声によって打ち破られた。

『何、一体どうしたのよ、箕輪』

『この数値を見てください……!

二亜ちゃんの好感度の推移なんですが……今日一日、初期値からほとんど変化していません……!

これでは、せいぜい友だちレベル……! 仮にキスをしても、恐らく完全には霊力を封印できません!』

 

『な、なんですって?』

 

インカムからもたらされた意外な言葉に、士道は思わず眉根を寄せてしまった。

するとそれに気づいたように、二亜がぴくりと表情を動かしてくる。

「……あー、もしかして、琴里ちゃんたち、何か擦めてる?」

 

「まぁ…そんなところだな」

図星を突かれ、士道が苦笑すると、二亜は全てを察しているような顔をして頭をかいた。

「んー……たぶんあれでしょ? 好感度。それが一定以上上がらないと封印できないってやつ」

 

「まぁ…そう言うことだ」

 

二亜の言葉に士道は首をすくめる。

 

「やー……あたしもねえ、狙われたままの生活っての窮屈だし、封印できるもんならしてもらって構わなかったんだけど……やっぱ駄目っぽいわ。

なんかごめんね、無駄足踏ませちゃって」

 

「何か俺、気に障ることでもしたか?」

 

士道が言うと、二亜は言いづらそうに頬をかいたのち、躊躇いいがちに続けてきた。

 

「やー……あの、そういうんじゃないんだ。

完全にあたしの問題というか……」

 

「ん?」

 

聞き返すと、二亜は苦笑しながら言ってきた。

「実はあたし……二次元にしか恋したこと、ないんだよね……」

 

「……は?」

 

予想外の言葉に士道は目を円くした。

 


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