デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第六十五話『よろしい、ならば二次元だ』

『……嘘でしょ。そんなのアリ……?』

インカムからラタトスク地下司令室にいる琴里の絶望的な声が聞こえてくる。

しかしそれも無理からぬことである。

何しろ攻略対象の精霊が、自分は二次元にしか恋をしたことがないなどと言い始めたのだ。

 

『…どうしたもんかな…』

 

二亜の発言に士道が困った表情を浮かべていると…。

 

『先ほど、二亜が好きなキャラについて話していたんじゃなかった?』

 

『…確か《時空綺譚》の朱鷺夜でしたね。

調べてみるとクールな性格で、女性人気はかなり高いキャラとの事です』

 

 

『ふうん……なるほど。

要は二亜は、そのキャラになら恋できるってことよね?』

 

鞠亜と鞠奈の言葉に琴里が口元を歪める画面が容易に想像できた。

『…おい』

 

士道は何か嫌な予感じ頬に汗を垂らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に大丈夫何だろうな…?』

 

『今のところ、最善の手はこれしかありません』

 

 

心配したような士道の言葉に鞠亜が答える。

 

現在の士道の装いは先ほどの私服とはったものとななっている。

 

ボロボロのマントを身に纏い額と腕に包帯を巻き、ついでに腰に刀を携えた、荒野の旅人スタイルである。

長い髪に、汚れた頬。

 

『時空綺譚』の朱鷺夜のコスプレであった。

七罪の《贋造魔女》と桜の能力を用いて作り出した完璧な作り込みの衣装は完全に映画などに使われるそれであり、コスプレの域を完全に越えていた。

 

『とりあえず、行動しないと何も始まらないわよ』

 

『まっ、確かにな…』

琴里の言葉に士道は二亜の待つ席へと足を向ける。

 

「ああ、お帰り、少年。

んじゃあそろそろ出ようか」

 

士道の接近に気づき振り返った二亜は、一瞬、身体の動きを停止させた。

 

 

「へ……?」

 

上々の反応を引き出していた。

 

「と、朱鷺夜……?」

 

呆然と、声を発する二亜。

 

「邪魔するぞ、女」

 

驚愕に目を見開く二亜に少し声を低くし、『時空綺譚』の朱鷺夜の口調を述べる。

 

実を言うなれば鷺夜の見た目を真似ることにそれほど時間は要してはいない。

 

問題は鷺夜の話し方、立ち振る舞いを限られた時間でどれだけ本物に近づけることが出来るかであった。

 

『問題があるとすれば…原作と違った行動を取った場合だよな…』

如何に本物に近づいたとしても原作と違った行動を取った場合は二亜の機嫌を大きく損なう可能性もあるのだ。

『とりあえずは…やるだけやってみるかな…』

 

士道はそう自分に言い聞かせた後、二亜の隣に椅子を移動させ、そこに腰掛けた。

 

すると二亜は、金縛りが解けたように肩を揺らし、眼鏡の位置を直しながら、士道の顔をジッと見てきた。

 

「と、朱鷺夜……? なんで……」

 

そして、そこでようやく何かに気づいたように目を見開いた。

 

「……って、少年!!」

 

「何のことだ。

貴様に少年呼ばわりされる謂われはない」

 

「………… !」

 

士道が冷たい視線で二亜を見ながら言うと、二亜は小さく息を詰まらせた。

心なしか、頬が色づいているような気がする。

すると次の瞬間、士道の耳のインカムから、鞠亜と鞠奈の声が響いてきた。

 

『士道、二亜の興奮値が微かに反応しています』

『好感度も、僅かではあるけども上昇してるわね』

 

どうやら、一定の効果はあったようである。

士道は表情に出さぬよう安堵した。

 

「ほおー……、へえー……」

 

二亜は、士道の頭頂から爪先までをじっくりと視線で舐めると、絵画を眺める美術評論家のようなポーズを取って唸りだした。

 

「すっご……よくできてるじゃん。

安物とは生地が違うわ。

今までいろんな朱鷺夜コス見てきたけど、ここまでのクオリティはあんまり見たことないなぁ」

 

そしてマントの裾を摘まみ、興奮した調子で頬を紅潮させる。

……正直、士道に好感を抱いてくれているのか、コスチュームの出来に感心しているだけなのか判別が付きづらかった。

とはいえ、好感度は上がっているようであるし、今はこのまま攻め続けるしかない。士道は身を翻すようにしマントを摘まんでいた二亜の手を払った。

 

「鬱陶しいぞ、女」

 

「はう……っ」

 

士道がぶっきらぼうな調子で言うと、二亜は何やら顔を真っ赤にして身体を仰け反らせた。

 

『好感度、さらに上昇……!この調子ならば……いけます!』

インカムから、鞠亜の声が響いてくる。

士道はできる限り朱鷺夜をトレースした言動を心がけているだけなのだが……どうやらそれが二亜の心の琴線に触れるらしい。

二亜は何やらそわそわと落ち着かない様子で、髪にできた寝癖を直すような仕草をし始めた。

瞬間、士道のインカムに、ファンファーレのような音が鳴り響く。

 

『士道、今よ! 好感度が封印可能領域に達したわ! このチャンスを逃さないで!』

 

 

「……!」

 

琴里の声に、士道は身を強ばらせた。

 

チャンスを逃すな つまり、今こそがキスのタイミングということだろう。

 

公衆の面前であり、懸念は残る…だが、この好機を逃せば次いつチャンスが巡ってくるかわからない。

士道は覚悟を決めると、表情に出さないようにしながら、ゆっくりと身体の向きを変え、二亜と対面するような格好を作った。

 

「え……? どしたの?」

 

「黙っていろ」

 

士道が言うと、二亜は素直に口を嘆んだ。

士道はそのまま片手で二亜の肩を掴むと、もう片方の手で、クイと二亜のあごを持ち上げた。

そして、ゆっくりと自分の唇を二亜の唇に近づけていく。

あまり正当な手段ではないものの、これで霊力が封印できるはずである。

…が。

 

「……ちょっと」

 

唇が触れる寸前。

 

二亜が、今までの熱っぽい調子からは考えられないような冷め切った声を発してきた。

次いでインカムから、危険状態を示すアラームが鳴り響く。

 

『士道、好感度が急落してるわ!』

 

 

『やっぱりか…』

 

琴里の言葉に士道が心の中で呟くと、二亜は士道の肩を押すようにしてきた。

そののち、疲れたように息を吐き、髪をくしゃくしゃとかきむしる。

 

「あのさあ……何してんの?

朱鷺夜が女に手を出すわけないでしょーが! 常識で考えてよ!

朱鷺夜は妹であり恋人であった雲雀を殺した仇を追う当てのない旅を続けてるんだよ。

孤独な旅の中、龍吾や虎鉄たちと出会い、戦い、そして友情を知っていくんだよ!」

 

人が変わったように叫びを上げる二亜。

士道は思わず気圧され、椅子ごと後ずさってしまった。

 

「基本カップリングは朱鷺×龍!

個人的には朱鷺×虎もアリ!

女とのカップリングは夢オチか過去回想に限り雲雀だけアリ!

その美しい世界にあたしの入る余地なんてないんだよ!

あたしは見てるだけでいいんだよ!

孤独の観測者なんだよ!

むしろ壁でいいんだよ!

あたしをデレさせたきゃ、きっちり二次元になってから来やがれっ!!!」

 

士道は二亜に尻を蹴られ、ハンバーガーショップから追い出された。

「……というわけで、駄目だったわけだが」

秋葉原から天宮市に帰ったあと。

顔と身体の数カ所に湿布を貼った士道は、息を吐きながらそう言った。

ちなみにあのあと二亜は、自分の愛するキャラクターを冒涜されたのがよほど許せなかったのか、怒りながら店を出た後そのまま自分のマンションに一人で帰ってしまった。

……無論、本やグッズが満載された荷物は全て抱えて。

今、士道がいるのは、 《ラタトスク》地下施設にある司令室である。

巨大なモニタを前にして、琴里を始めとした<フラクシナス>クルーたちが席に着いていた。

 

「あらら……随分と派手にやられたわね」

 

「誰のせいだと思ってるんだ、誰の」

 

士道が半眼を作りながら言うと、琴里はやれやれと肩をすくめた。

「仕方ないじゃない。

二次元好きを公言されてしまった以上、あそこでできることは限られていたわ。

それに 結果としては失敗に終わったかもしれないけれど、確かに一度は好感度が上がっていたのよ。

これは重要なデータだわ」

 

「って言ったって、それは朱鷺夜に対する好感度だろ? もう同じ手は通用しないだろうし、あんまり意味はないだろう……」

 

士道の言葉に返してきたのは、司令室下段の席に着いていた令音だった。

「……一概にそうとは言えない。

この結果はつまり、一度好きになったキャラクターならば、それが三次元に具現化しても一定の好感度が得られるということを示している」

 

「なるほど……。

 

で? 俺に似たキャラが登場するゲームをモニターとでも称して二亜に送るか? 」

 

琴里と令音が士道の言葉に苦笑を浮かべている。

 

どうやら図星らしくモニターを見るように促す琴里。

 

そこには、自律カメラを通して捉えられた二亜の姿が映し出されていた。

 

 

「もし、俺たちが二亜の部屋を覗いているのがバレればよけいに好感度が下がるぞ?」

 

「バレなければ問題ないわよ」

 

「忘れているようだが二亜には《囁告篇峡》があるんだぞ?

 

あいつの性格を考えるとゲームの製品版が欲しくなるだろうし。

そうなれば《囁告篇峡》を使うことは目に見えているぞ」

 

「ぐっ…じゃ、じゃあどうするつもりよ!?」

 

士道の指摘に琴里は言葉に詰まり、尋ね返す。

 

「そうだな…」

 

そんな琴里の言葉に士道は顎に手を当てて考え始めた―。

 

「さ、この部屋よ。入ってちょうだい」

 

二亜とのデート翌日。

 

琴里に促されて、士道や十香たちはとある部屋へと案内された。五河家の隣に聾える精霊たちの居住マンション、その一階に位置する部屋である。

士道は後方に控える精霊たちと一瞬視線を交わすと、うなずいてそのドアノブを握った。

靴を脱いで室内に入りそこに広がっていた光景に、思わず目を見開く。

 

「これは……」

 

二十畳はあろうかというスペースに大きな作業机がいくつも並び、その上に様々な画材が用意されていた。

 

まるで、二亜の作業部屋を大きくしたような印象である。

二亜のところのそれと違いがあるならば、机や画材は新品で、使用感はまったくないことぐらいであるが。

 

二亜とのデートの後、どうやったら士道に好感をもってもらうか考えた結果、士道を主人公とした漫画を書くことに決まったのだ。

無論、自分の愛する朱鷺夜を侮辱された二亜が読んでくれるとは思わない。

そこで今から一週間後に行われる同人誌即売会に同人誌を出し、二亜のサークルと売上を競うこととなったのだ。

 

 

「おお! これは……凄いな!」

 

「プロみたい……です」

 

「呵々! ほう、我ら八舞の腕を振るうに相応しい場ができているではないか」

 

士道に続いて部屋に入ってきた精霊たちも、その内装と設備を見て感嘆の声を上げる。

そんな皆の様子を見てから小さく呟く。

 

「立案しといてなんだが……本当にんな部屋まで作るとはな…」

 

士道が頬をかきながら言うと、琴里が腕組みしながらのしのしと部屋の中央まで歩いていき、身体を回転させて皆の方を向いた。

そして、高らかに声を上げる。

「いい、みんな。目標は今から一週間後。

一二月三一日のコミックコロシアム最終日、二亜がサークル参加するその日よ」

 

両手を広げ、歌劇でも演ずるかのような調子で続ける。

 

「その日、私たちは二亜のスペースの隣に出展し、二亜と同じ部数の同人誌を、二亜よりも早く捌ききるわ」

 

琴里の言葉に、精霊たちがと声を上げる。

「とはいえ、時間はないわ。

背景や仕上げに関しては《ラタトスク》がサポートするけれど、全てをそれに任せてしまったら、『私たちが作った本』とは言えなくなってしまう。

ストーリーとメインキャラクターの作画くらいは私たちが行わなければならないわ。

印刷設備は押さえさせてあるけれど、最悪でも当日、三一日の午前三時くらいまでに完成原稿がないと間に合わないわね」

 

 

「……あとは、仮にこっちが早く本を捌ききったとして、二亜が本当に負けを認めてくれるかどうかだけど……」

 

「そこは、向こうのプライドとこっちの話の運び方次第じゃないかしら。

でも、ペナルティが『私たちの作った本を読む』っていうことだけなら、十分希望はあると思うけれど」

 

「……じゃあ、問題は」

士道が真剣な表情で問うと、琴里はそれに返すようにうなずいた。

 

「ええ。

私たちが如何に二亜の心を打つ同人誌を作れるか、そして どうやってそれを二亜よりも早く売るかよ」

 

琴里はそう言うと、肩掛けにしたジャケットを翻すように歩き、部屋の奥ホワイトボードの前へと至った。

 

「 というわけで、まずは役割分担を決めましょう。

ストーリーはみんなで作るとして……問題は作画ね。

一応聞いておくけど、この中で漫画やイラストを描いたことがある人は?」

 

琴里がそう言って精霊たちを見回すと、耶倶矢、夕弦、折紙、美九が手を上げる。

 

「まあ、そんなところよね。

……まあ、とはいえまず、みんなの画力を見てみましょ。

みんな、好きな机に着いて、士道の絵を描いてみてちょうだい」

 

「おお! シドーを描くのだな。

任せろ!」

 

「ふふん、よかろう。我が絶技、とくと見るがよい!」

 

「首肯。

士道、ちょっとそこに立っていてください」

「だーりーん、目線お願いします、目線ー!」

 

精霊たちが適当な席に着き、そこに置いてあったケント紙に、鉛筆を走らせ始める。するとそこで、思い出したように琴里が眉を動かした。

 

「あ、そうだ。士道も何か描いてみてよ」

 

 

「りょーかい」

 

士道も頷くと十香たちと同様に机に着き、紙に絵を描き始めた。

そして、それからおよそ三十分後。

皆の絵が完成した。

 

「さ、じゃあ順番に見ていきましょうか」

「おお! 見てくれ!」

「私も……できました」

琴里の声に応えるように、十香と四糸乃が、完成した絵を皆に掲げてみせる。

可愛らしいことは可愛らしい……のだが、どちらも、小学生が描いたそれにしか見えなかった。

「なるほど……うん、可愛いな」

「本当か!?」

「ええ。でも、今回の同人誌には使いづらいわね」

「す、すみません……」

四糸乃が申し訳なさそうに肩をすぼませる。

士道は苦笑しながらその頭を撫でた。

「さ、次ね。ちなみに私はこう」

「あー、じゃあ私も出しますー! はいっ!」

 

「私のはこんな感じー」

琴里と美九、凜音が絵を提示する。

十香と四糸乃のそれから少し年齢層は上がったものの、それは漫画の絵というよりも、女子中高生がノートはしの端に描く、可愛らしいキャラクターといった様子だった。

ただ、それより一点気になる点があった。皆士道の絵を描いているはずなのに、なぜか美九のイラストだけ

は、髪が長く、スカートを穿いていたのだ。

「……ええと、美九さん?」

 

「はいー、なんですか、だーりん?」

 

「……いや、なんでもない。次行こう、次」

目を輝かせながら返してきた美九に、本能的な恐怖を覚え、士道は視線を逸らした。これ以上突っ込んだ質問をしたなら、現実の方をイラストに合わせてねじ曲げられそうな気がしたのである。

 

「くくく……ならば次は我らであるな!」

 

「提示。ご覧ください」

 

八舞姉妹が自信満々といった調子で、絵を示してくる。

 

「おおっ!!」

 

それを見て、士道は思わず目を丸くした。二人でイラスト対決をしていたというだけあって、耶倶矢と夕弦の画力は、今までの四人とは比べものにならないくらいのレベルだったのである。

無論、多少デッサンが甘いところがあったりはするものの、十分漫画として見られる絵だ。

ちなみに耶倶矢は少年漫画風の熱血士道、夕弦の描いた士道は、少女漫画風の耽美士道だった。

「凄いじゃないか、二人とも」

「かかか! 当然よ!」

「首肯。我ら八舞にできないことはありません」

二人が自信満々に胸を反らしてみせる。

 

琴里はその絵を見て「ふむ」とあごに手を当てたのち、士道と折紙の方に視線を向けた。

「今のところメイン作画候補は八舞姉妹ね。

さ、じゃあ次、見せてもらおうかしら」

 

「おう!」

 

「了解」

琴里の声に応え、士道と折紙が絵を提示する。

皆が、それに視線を注いだ。

「ふむふむ、耶倶矢と夕弦ほどじゃないにしろ、士道の絵も悪くはないわね。

折紙の方は……って、ひゃ!!」

 

あごに手を当て、絵を覗き込んでいた琴里が甲高い声を上げる。

しかしそれも無理からぬことではあった。折紙の描いていた絵は写実的でやたらと上手かったのだが……士道が一糸まとわぬ姿で、これまた全裸の折紙と濃厚な絡みを繰り広げていたのである。

 

「んな……っ!」

 

 

「……ひゃう!!」

 

琴里に続くように、精霊たちが息を詰まらせる。

ただ夕弦と美九だけは、頬を緩ませ目を輝かせていた。

 

「な、何を描いてるのよ、折紙!」

 

「士道。 と一つになった私」

 

「何余計なもの足してるの!?」

 

琴里は叫びを上げると、折紙の絵を裏返した。

 

「まったくもう……絵は上手かったから作画候補には挙げておくけど、本番ではこういうのやめてよね……!」

 

「理解できない。同人誌で売り上げを得ようと思ったら、十八禁要素は避けては通れないはず」

 

「出展するブースは『創作・一般』なんだけど!?」

 

琴里は叫びを上げたのち、はあと疲れたようなため息を吐いた。

「ええと……これで全部かしら?

じゃあ……」

 

「あ、あの……」

 

と、琴里が言いかけたところで、四糸乃が声を上げた。

 

「まだ、七罪さんの絵を見てません……」

 

「……! あ、いや、私は……」

 

四糸乃の言葉に、七罪が肩を揺らし、手にしていた紙を身体の後ろに隠す。

「ああ、そうだったわね。

ごめんなさい、七罪。

見せてくれる?」

 

「……べ、別に、いいわよ。

大した絵描いてないし。

耶倶矢か夕弦か士道か折紙で進めればいいじゃない」

 

「せっかく描いたんだから見せてちょうだいよ、ほら」

「……う、うう。

あの、実際、めっちゃ下手だから変な期待しないでよ?」

 

「大丈夫よ。

私だってそんな上手いわけじゃないし」

 

「ホントにさ、今日寝不足で体調悪かったし、ペン持つのなんて久々だったし……」

 

「わかったって」

 

「ていうかホントポーズ迷ってたから実際に作画した時間十分くらいだし、そもそも絵描いたの自体超久々だし、最近寝不足で調子悪かったし……」

 

「ああもうわかったから早く見せなさいっ!」

 

琴里が焦れたように声を上げ、七罪の手から紙をひったくる。

 

そしてそれを表に向け目を丸くした。

 

「え……これって」

 

「す、すごい……です」

「なん……だと?」

 

精霊たちが、口々に驚愕の言葉を並べる。

しかしそれも当然だ。

七罪の絵は、それこそプロの漫画家と比べても遜色のないレベルだったのである。

 

「凄いじゃないか七罪、こんな特技があったのか?」

「……いや、特技っていうか……昔ちょっと興味持って……漫画家の『真似』をしたことがあったから……」

「あー」

 

七罪の言葉に、士道は目を見開いた。

そう。

七罪はもともと天使<贋造魔女>を持つ、贋造の精霊だったのである。

あらゆるものを変化させ、自分の姿さえも好きな形に作り替える。

そして実在する他人に化けたときは、親しい友人であってもそう簡単には見抜けないほどに、その対象の行動をトレースしてみせる、観察と模倣の天才であったのだ。

「決まりね」

言って琴里が、息を吐く。

「メイン作画は七罪、サポートで八舞姉妹、士道、折紙に入ってもらうわ」

それに合わせて、精霊たちもこくりとうなずいた。

「うむ、賛成だ!」

「すごいです……七罪さん」

「異存はない」

「ふん、まあよかろう。

今回は譲ってやろうではないか」

「賛成。

花を持たせてあげます」

「きゃー! 七罪さん、ちょっとあとで私とだーりんの愛の物語とか描いたりしませんかー?」

「え……えっ?」

皆の声に、七罪が目を白黒させる。

士道は、そんな七罪の手を握った。

「頼む、七罪。

二亜を助けるために、力を貸してくれ」

「へっ?」

士道が真剣な眼差しでそう言うと、七罪は数瞬の間逡巡したのち

「あ、あとで文句言うんじゃないわよ」

 

恥ずかしそうに、そう言った。

 

それを祝福するように、皆からぱちぱちと拍手の音が鳴り響く。すると七罪は、さらに頬を赤くして顔を俯かせた。

と、そこで十香が、何かに気づいたように首を傾げる。

 

「そういえば琴里、私たちは何をすればいいのだ?」

 

「そういえばそうですねー。あっ! 作業に疲れた皆さんを念入りにマッサージするとか、子守歌を歌いながら添い寝してあげるとかですかー?」

 

美九が身を涙りながら、目をキラッキラと輝かせる。

七罪が「ひっ」と息を詰まらせ、士道の陰に隠れた。

 

「違うわよ。みんなには、別にしてもらうことがあるの。

ある意味では、漫画制作以上に重要なミッションかもしれないわ」

琴里がやれやれといった調子で肩をすくめながら、それに返す。

すると美九に十香、四糸乃が目を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。

 

「重要なミッション……ですか」

 

「一体何をするんですかー?」

「それは見てのお楽しみよ。

それより、まずはみんなで、同人誌のストーリーを考えましょう」

「ぬ? シドーのことを描くのではないのか?」

「それはそうなんだけど、今から制作できるページ数には限界があるわ。

いくら《ラタトスク》がサポートを入れるとはいえ、せいぜい、六四ページから表紙分四ページと奥付を抜いた五九ページくらいが限界でしょうね。

その中で話を収めつつ、二亜に『士道』というキャラクターを好きになってもらわないといけないわ」

 

「むう……なるほど。

なかなか難しいのだな」

 

十香が難しげな表情をして腕組みすると、琴里が部屋の奥の方に歩いていき、そこにあったホワイトボードの前に立った。

 

「だからまずは、みんなで相談しましょう。

そうしたら、今日中にネームを作り、明日丸一日かけて作画を終わらせるわよ」

 

「……改めて考えると無茶苦茶なスケジュールだな……本当に終わるのか?」

 

「終わらせるしかないわ」

 

琴里が音をさせながらマジックペンの蓋を取り、ホワイトボードに『士道同人誌計画』の文字を記す。

そして皆の顔を見ながら、高らかに宣言した。

 

「さあ 私たちの原稿を始めましょう」

 

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