デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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四糸乃編第三話ですー


第七話『よしのんを探して』

「おかしいわね…」

 

琴里が顎に手を当てながら呟く。

『よしのん』と崩落したデパートで別れた後、〈フラクシナス〉に回収された士道は『よしのん』が隣界へとロストしたことを琴里より聞かされた。

それから一時間ほど時間を置いて場所はフラクシナスの会議室。

士道、琴里、怜音、そして待機状態の『オーディン』の三人と一体(?)が集まっていた。

議題はもちろん『よしのん』についてだ。

事故とはいえ言え、『よしのん』と唇を合わせたのである。

それほど好感度が上がっていないとしとも少しも精霊の力を封印できていないのはおかしいとの事でこの場に集まったのだ。

 

「何度も確認するけど、士道、あなたよしのんとちゃんとキスをしたわよね?」

 

『マスターと精霊・よしのんとの口づけは私も確認いたしました』

 

そう言ったのはドッグタグ状態の《オーディン》である。

「「……」」

《オーディン》の言葉に怜音と琴里は黙る。

恐らく、士道が『よしのん』の力を封印できなかった理由が思い浮かばないのだろう。

 

「考えられる可能性がひとつあるんだが良いか?」

 

そんな中、士道が小さく手を上げる。

 

「俺は『よしのん』が二重人格では無いかと思うんだ」

 

「どういうこと?」

 

士道の言葉に琴里が眉を潜める。

 

「『よしのん』の中に精霊の力を持っている人格Aと精霊の力を持っていない人格Bがあった場合どうなる?」

「「!!!」」

 

士道の仮説に怜音と琴里は目を見開く。

 

「確かに、シンがデレさせた『よしのん』が精霊の力を持って無い方の人格だとすれば辻褄は合うわね…」

 

「今後は精霊の力を持っている人格をデレさせるためのプランを練らねばな…

問題はどうやって、精霊の力を持つ人格を引き出すかだな…」

 

 

そう言いながら顎に手を当てて考える怜音と琴里。

 

「そういえば士道、十香の方はどうなっているの?」

 

ふと気づいたように琴里が尋ねてくる。

 

「食堂で待たせている。

好きに食事してて良いと言ってあるから食堂のスタッフは大忙しだろうよー」

 

ヤハハっと笑いながら言う士道に苦笑を浮かべる琴里であった。

 

 

 

「んっ…」

 

珍しく目覚ましの鳴る前に士道は目覚める。

 

「雨か…」

 

窓の外を見ると静かに雨が降っていた。

先日の『よしのん』攻略会議(仮)は夜中まで続き、家に帰ったのは夜11時を回っていた。

 

『十香と琴里は…当たり前だけど寝てるわな』

 

着替えながら寝ぼけた頭でそんな事を考える。

着替えを終えて柔軟体操をして体を動かすが、あまり頭はしゃっきりしない。

 

『コーヒーでも飲むかな…』

 

そう思った所で買い置きが切れていた事を思い出す。

 

「学校は昨日の空間震の影響で休みだし……買い物に行くか」

 

昨日の下校時に商店街に寄ってくるつもりだったがいろいろあったせいで買い物が出来なかったのである。

眠っている琴里達を起こさないように傘を取って家を出た。

 

「鍵は―――かけとくべきだよな…。

二人とも寝てるし…。」

 

 

そう言って鍵をかけてから、士道は雨の道を歩き始めた。

 

 

―――そして、商店街からの帰り道。

 

「………ッ!?」

 

家へと向かう途中。

 

見覚えがある姿を見てつけて士道は足を止める。

ウサギのような耳がついた緑色のフード。

 

「よ……よしのん…?」

 

士道の見間違えでなければその姿は紛れもなく精霊・『よしのん』であった。

昨日の空間震で破壊され、立ち入り禁止となったエリアの向こうにその姿はあった。

士道は塀に身を隠すと、『よしのん』の様子を見つめる。

 

「警報は………鳴ってねぇな…。

十香の時と同じ静粛現界ってやつか…」

 

一人、呟くと携帯電話のボタンをプッシュする。

しばらく呼び出し音が続いた後、眠たげな声が電話口から聞こえてくる。

 

『………ふぁ~い………もしもぉし…………?

おにぃちゃん…………?』

 

明らかに今起きたような感じの声音。

言うまでもなく、電話の相手は琴里である。

 

「おはよう、琴里」

 

「んー……おぁよ。

どぉしたの………?」

 

「………緊急事態だ。

よしのんを見つけた」

 

『……………』

 

士道がそう言った瞬間、電話口の向こうから、パチン! パチン! と、頬を思い切りひっぱたくような音が聞こえてくる。

そしてすぐに、今までとは似ても似つかぬ凛とした声が響く。

 

『―――詳しく状況を聞かせてちょうだい』

 

「ああ…了解した」

 

そんな琴里の言葉に頷くと、士道は今の状況を簡潔に説明する。

 

『なるほど…静粛現界か…、まだ『よしのん』に気づかれてないわね?』

 

「ああ、これからアプローチをかける予定だから『よしのん』の機嫌値のモニターをよろしく頼む…っと言いたいんだがお前には十香の方についててやってくれ。

起きた時に、誰もいないと不安がるだろうからな。

あと、令音さんへ連絡頼む。」

 

『わかったわ、インカムはつけときなさいよ』

 

その言葉に士道は思い出したように制服のズボンからインカムを取り出し、装着すると『よしのん』へと歩み寄る。

 

「『よしのん』」

数メートル程の距離に近づいた所で『よしのん』の名を呼ぶ。

ビックリしたと言うよりも何かに脅えたように体を震わせてゆっくりと士道の方を向く。

「よっ…俺の事、覚えてるか?」

士道の言葉に『よしのん』はコクリと頷く。

 

『あれっ?』

 

 

振り向きざまの一瞬。

『よしのん』の左手が見えた気がする。

つまり、パペットをつけていない。

 

『昨日の崩落から逃げるときに無くして探してるのか…?』

 

『よしのん』がパペットをつけていない理由が気になった士道はゆっくりと口を開く。

 

「ひょっとしてパペットを探してるのか?」

 

その言葉に『よしのん』がカッと目を見開き士道の元に走り寄ると制服を掴み、問い詰めるように揺さぶってくる。

 

「………っ!……………!」

 

「ちょっ、止めろって…………良いから落ち着け」

そう言うと『よしのん』がハッとしたように服から手を離した。

 

「やっぱり………あれを探してるのか?」

 

『よしのん』が力強く頷く。

そして、今にも泣きそうな不安げな顔を士道に向ける。

まるで、パペットの所在を問うように。

「……っ、すまん。

俺もどこにあるかは知らないんだ」

 

士道の言葉に『よしのん』はこの世の終わりを告げられたような顔をしてその場にへたり込む。

そしてそのまま顔をうつむかせて嗚咽を漏らす。

 

「よしのん、大丈夫だ。

俺が一緒にパペットを探して見つけてやる」

 

士道の言葉に『よしのん』が驚いたように目を見開く。

数秒の後に、初めて顔を明るくさせて力強く頷いた。

 

「それで……パペットはいつどこで無くしたんだ?」

 

士道の問いに『よしのん』は逡巡するように視線を泳がせ、唇を開く。

 

「………き、のぅ」

 

ウサギの耳付きのフードを強く握り、俯くと目元を隠しながらたどたどしい口調で言葉を紡ぐ。

 

「こわい…人たち、攻撃………され…気づいたら……、ぃなく、なっ………」

 

「昨日、ASTに襲われた時か…」

 

士道の問いに『よしのん』は小さく頷く。

 

「こりゃあ…骨が折れるな…」

士道は瓦礫の散乱した周囲の様子を見回しながら呟く。

 

それに合わせるように令音からの音声が届く。

どうやら琴里からの連絡に今し方フラクシナスに着いたらしい。

 

『大体の状況は琴里と監視をしていたクルー達に聞いたよ。

―――こちらからもカメラをあるだけ送る。

 

シンは彼女とできるだけコミュニケーションを取りながら捜索を続行してくれ』

 

『わかりました』

 

士道は令音の言葉に念話で答える。

 

「よし………、じゃあ探すか、よしのん」

 

「…………!」

 

『よしのん』が首を縦に振り。

しばらく口をモゴモゴさせてから、声を発する。

 

「私………は、よしのんじゃなくて…………四糸乃。

よしのんは………私の、友達………」

 

「四糸乃………?」

 

士道が問い返すように名を呼ぶと、四糸乃は瓦礫の影へと走って行く。

どうやら名前を呼ばれた事が恥ずかしかったようである。

 

それからしばらくして四糸乃が瓦礫の影からゆっくりと顔を出して士道の様子を伺うような視線に気づく。

良く見ると彼女の視線は士道にではなく士道の持つ傘に注がれていた。

 

「使うか?」

 

不思議そうな顔の四糸乃に士道は近づくと手に傘を握らせて差してやる。

雨粒が身体に触れなくなった事に驚いたのか四糸乃は目を丸くして頭上を見る。

透明なビニール傘に当たった雨粒がはじけて、傘を伝って落ちていく。

 

「………!………!」

 

その様子に四糸乃が興奮気味に傘を持って無い手をパタパタ動かす。

 

「おう、気に入ったか?なら使え使え!」

 

そう士道が言うと四糸乃が問いかけるように目を向ける。

 

「んっ?俺か?俺は大丈夫だよ…それより悪いな濡れてるのに気づいてやれなくて」

 

その言葉に四糸乃は首を左右に振り。

 

「ぁ………り、が…………とぅ………」

 

小さくお辞儀をしてから、パペット捜索に戻っていった。

 

「さて、俺も探すか…」

 

そう言うと雨に濡れるのも構わずにパペットを探し始めた。

 

「四糸乃?」

 

「………!」

 

パペット捜索、開始から二時間。

きゅるるるるる、っとやたら可愛らしい音に隣でパペットを探す四糸乃を見る。

 

「………腹減ったのか?」

 

士道が問うと、四糸乃は顔を真っ赤にして首を横に振る。

しかし、そのタイミングで、またもお腹の音が鳴る。

 

「…………っ!」

 

四糸乃はその場にうずくまると、フードを引っ張り顔を隠す。

四糸乃がどれくらい前からパペットを探しているかはわからないが、すでに昼を過ぎている。

空腹になっていても何らおかしくない。

士道は前屈みになっていた姿勢を伸ばすと、軽く伸びをして四糸乃に話しかける。

 

「四糸乃、少し休もう」

 

士道が言うと四糸乃は首を横に振る。

が、そこでまたお腹が鳴る。

 

「……!」

 

「無理するなって。

お前が倒れたらよしのんが探せなくなるぞ」

 

四糸乃は少しの間考えを巡らせるようにうなった後、躊躇いながら首肯した。

 

「よし、じゃあ少し待ってろ…」

 

士道はそう言いながら先ほど買ってきた食糧品の中からリンゴを取り出すと四糸乃に手渡す。

 

「?」

 

不思議そうな様子でリンゴを見つめる四糸乃。

「これはこうやって食べるんだ」

 

そんな四糸乃を前に士道はリンゴを濡れた制服の裾で擦り、かじってみせる。

 

「……」

 

士道の食べ方を見て倣う四糸乃。

 

「旨いか?」

 

尋ねる士道にコクコクと首を振る四糸乃。

そんな四糸乃の様子に士道は満足そうに笑みを浮かべてリンゴを食べ始めた。

 

「そう言えば…四糸乃。

四糸乃にとってよしのんはどういう存在なんだ?」

 

リンゴやお菓子と言った昼食と言うよりもおやつに近い感じの食事を終えて、士道は四糸乃に尋ねる。

その問いに四糸乃は恐る恐るといった調子でたどたどしく唇を開いてきた。

 

 

「よしのん、は…友だち………です。

そして………ヒーロー…なんです」

 

「ヒーロー?」

 

問うと、四糸乃は頷く。

 

「よしのんは…私の、理想………憧れの、自分………です。

私、みたいな………弱虫じゃなくて………。

私………みたいに、うじうじしない…強くて、格好言い」

「理想の自分か…」

 

士道は、頬を掻いてデパート内で四糸乃と出逢った時を思い出す。

確かにパペット越しで話していた四糸乃と、今の四糸乃。

話し方も態度も別人である。

昨日の攻略会議ではないが別人格と言っても過言でも無い。

だが――

 

「俺は………今の四糸乃の方が好きだけどなぁ………」

 

あの時の四糸乃は陽気で話しやすかった…。

だが…たどたどしくとも誠実に士道と向き合ってくれる今の四糸乃の方がずっと好感を持てた。

だが、士道がそう言った瞬間に四糸乃は顔を真っ赤に染め、背中を丸めるとフードで顔を覆い隠す。

 

『まっ…聞きようによっては口説き文句に取れるしな…』

 

四糸乃の反応を見ながら士道はそんな事を考える。

 

『シン…今のセリフは計算か…?』

 

士道と同じ事を考えたのか令音が問うてくる。

 

『だとしたら…どうします…』

 

『シン…恐ろしい子だ…』

 

答えた士道に声を震わせる令音を無視しながら士道は次の質問に入る。

 

「それで―四糸乃…君はASTにこないだ襲われた時…ほとんど反撃をしなかったけど…何か理由があるのか?」

 

訊くと………四糸乃はまたも顔を俯かせた。

十香の霊装のような、光の幕で構成されたインナーを強く握りしめて、消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。

 

「………わ、わたしは………いたいのが、きらいです。

こわいのも…きらいです。

きっと、あの人たちも………わたしと…同じで…いたいのや、こわいのは、いやだと思います。

だから、私、は…」

 

蚊の鳴くような、小さな掠れた声音。

だけれど―――士道はその言葉に雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

「…っ、四糸乃…お前…そんな理由――」

 

だが、士道はその言葉を最後まで続けられなかった。

四糸乃が小刻みに震わせながら、言葉を続けてきたからである。

 

「でも………私、は…………弱虫で、こわがり………だから。

一人だと…だめ…なんです。

いたくて………こわくて…どうしようも、なくなると………頭の中が、ぐぢゃぐちゃ………になって………きっと、みんなに………ひどい、ことを、しちゃい、ます」

 

後半は、完全に涙声であった。

ずずっと洟をすするようにしてから、さらに続ける。

 

「だ、から…よしのんは………私の、ヒーロー………なんです。

よしのんは………私が、こわく、なっても……大丈夫って、言って………くれます。

そした、ら………本当に、大丈夫に………なるんです。

だから……、だ、から………」

 

「…………っ」

 

四糸乃の言葉に士道は心が押しつぶされそうになるのを感じる。

四糸乃は…この小さな少女は。あまりにも優しくて…悲しすぎる。

『いたいの』や『こわいの』は嫌だろうからと。

幾度となく自分に突きつけられた敵意を、悪意を、殺意を突きつけていた筈の相手を思いやり――傷つけないようにする。

それが、一体とれほど困難か。

四糸乃が―――弱い?

四糸乃が己に評した言葉を士道は否定する。

自分を傷つけ、害しようとしたものを許し、思いやる。

それがどれほど勇気が必要な事か…。

それは暴力とはまた別の強さだ。

そして非道く歪な慈悲だ。

士道は思わず四糸乃の頭をわしわしと撫でる。

 

「…………っ、あ………っ、あのー?」

 

「四糸乃―」

 

「―――?」

 

「俺が―――お前を救ってやる」

 

そう言うと四糸乃は目を丸くする。

だが士道は構わずに言葉を続ける。

「絶対に、よしのんは見つけ出す。

そしてお前に渡してやる。

それだけじゃない。

もうよしのんに守ってもらう必要だってなくしてやる。

もう、お前に『いたいの』や『こわいの』なんて近づけたりなんかない。

俺が―――お前のヒーローになる」

 

フード越しに頭をなでながら、ガラにもない台詞を吐く。

だが―――止まらなかった。

なぜならば、四糸乃の優しさは、重大な欠落がある。

聖人のようなその慈悲が、一つも自分に向けられていないのだ。

ならばそれは外部から与えられるしかない。

四糸乃に。

このあまりにも優しすぎる少女に、何も救いが無いだなんて、そんなことは絶対に許されない。

 

もし、それを是とするものがあるならば、そんな現実はぶっ壊す。

そう――思ってしまった。

 

「………?………?」

 

四糸乃はしばらくの間目を白黒させといたが、数十秒ののち小さく唇を開く。

 

「…………あ、りがとう、ございま…す」

 

「………おう」

 

四糸乃の返事に士道は立ち上がる。

 

「さ、『よしのん』の捜索を再開しようぜ」

 

そう言いながら二人は捜索を再開する。

 

 

 

結局の所日暮れまでさがしたがパペットは見つからず、士道は暗くなると危ないからと言って四糸乃を隣界へと返した。

 

『シン、映像を洗った結果パペットの所在が判明した』

 

それからしばらく後に令音からインカムへとその知らせが飛び込んできたのであった。




四糸乃がいい子すぎて泣けるー

  
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