デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第七十話『空の精霊』

一月九日、月曜日。

 

先日まで閑散としていた来禅高校には、新年の挨拶を交わしながら登校する生徒の姿が見られた。

 

年を跨ぐ休みが明けた、始業式。

 

この日、来禅高校は三学期を迎えたのだ。

 

『しかし…どうしたもをかね……』

 

肩を軽く回しながら士道は先日に二亜の病室で苺から聞かされた話を思い出す。

 

彼女の話によると精霊がいる場所は宇宙空間ということである。

 

『衛星で確認したけど間違いないよ……』

 

雷華が衛星を使ってその存在を確認、その姿をプリントアウトしてくれた。

 

デブリが浮遊する宇宙空間に膝を抱えながらその少女はいた。

 

腰まで伸びた金髪にウサギの耳のようなものを頭部につけたチャイナ服姿の少女だ。

 

俯いているからか、その表情を伺い知ることは出来なかった。

 

『現在、《協会》と《ラタトスク》でこの精霊にコンタクトを取れるように調整を行っているわ』

 

今朝方、精霊について琴里に尋ねたところ、返ってきた返事である。

 

『他人任せってのはどうにも性に合わないが…場所が場所だからなぁ…』

 

などど士道が考えると教室にチャイムが鳴り響き、担任であるタマちゃん先生が教室へ入ってきた。

 

――その小さな体にどんよりとした負のオーラを纏わせながら。

 

「うわ……」

 

さしもの士道もその様子に思わず声を漏らす。

だが、士道以外のクラスメートたちも似たよような感想を抱いたらしい。

見慣れぬ担任の姿に、皆がざわめき出す。

 

「むう……シドー、タマちゃん先生はどうしたのだ?

何となく暗いように見えるのだが……」

 

「さぁ………どうしたんだろうな」

 

隣の席に座っていた十香が、心配そうに小さな声を発してくる。

 

だが、タマちゃん先生は皆の声など聞こえていない様子で歩みを進めると、手にしていた出席簿を無造作に教卓に放った。

 

「……皆さん、あけましておめでとうございます。

冬休みはどうでしたか?

クリスマスに大晦日にお正月……きっと楽しいことがあったんっしょうねぇ………」

 

そして、定型通りの挨拶をする。

別におかしなことは言ってはいないのだが、クラスメートたちは一斉に息を呑む。

 

タマちゃんが唇の端を歪めながら虚ろな表情で続ける。

 

「………皆さんは今年何歳になりますか?

二年生から三年生に上がるわけですから、一八歳ですね。

早生まれの人は一七歳かもしれませんね。

先生は誕生日三月なんですけどね。

何歳になるとおもいます?」

 

 

来禅の名物教師タマちゃんといえば、崖っぷち乙女二十九歳。

だが―それを口に出す者はいなかった。

するとタマちゃんが教室を見回したのち、疲れ果てたような笑顔を作りながら口を開く。

 

「私……今年ついにアラサーを卒業してさーになるんですよ。

うふ……ふふふ……凄いでしょう?」

 

「た、タマちゃん…………」

 

さずかに痛ましくてほっておけなくなったのか亜衣が小さく声を上げる。

するとタマちゃんがそちらに顔を向ける。

 

「シャットアップ。

これから私に話しかけるときは、言葉の前と後ろにサーをつけてください」

 

「さ……サー・イエス・サー」

 

殿町が気圧されたよいに敬礼しながら従う。

「サー・タマちゃん、何があったんでしょうか……?」

 

改めて殿町が問うとタマちゃんは底冷えするような笑みを作る。

 

「別に、何もありませんよ? 大丈夫です。

だだ、喜ばしいニュースはあります。

小学校からの同級生で親友のエリちゃんが、来月結婚するそうです。

うふふ、嬉しいなあ。

エリちゃんはとってもいいお嫁さんになりますよ。

誕生日やクリスマスは毎年一緒に遊んでくれてましたし、バレンタインなんかはお互いのチョコを交換しあったりしてました。

お相手は二つ年下のお医者さんだそうです。

一昨年の暮れに女子会をしたとき、エリちゃんが飲み過ぎて転んで足を怪我しちゃったことがあるんですけどね、そのとき治療してくれた人がエリちゃんに一目惚れして猛アタックをかけてきたらしいんですよ。

私もその場にいたんですけどね、私も飲んでいたもので、待合室でちょっとだけウトウトしちゃってたんですよ。

まさかその間に隣の部屋で長年連れ添った親友がフォーリンラブしてるとか思わないじゃないですか。

ほんと人生って何が起こるかわからないですよね。

いや本当に良かったです。

エリちゃんみたいないい子を放ってくおなんて、世の男たちはなんて見る目がないんだろうって常々思ってましたから。

エリちゃんは本当にいい子なんです。

顔立ちも綺麗で、背も高くてモデルさんみたいなんです。

エリちゃんみたいな子ですらまだ結婚できていないんだからまだまだ大丈夫、なんて思ってたんです。

でもそのエリちゃんは裏でちゃんと相手を捕まえてたんですね。

そういえば去年は随分女子会の頻度が減ったなあとは思ったんです。

でもエリちゃんも人が悪いです。

まさかいかなり結婚報告だなんて。

なんだが言うのが恥ずかしかった………って、まぁそういうところも男心をくすぐるんですかね。

私も学ばないといけませんね。

 

タマちゃんは抑揚のない声で捲くし立てるように言うと、そのまま倒れ込むように教卓に上体を預けた。

 

「ふ……ふふふ、また、また一人同級生が結婚しちまった………くそっ、くそっ、結婚しちまうのは良い奴ばかりだ」

 

 

そして、何かが乗り移ったかのような調子で、ブツブツと呟き始める。

 

「みんな、みんな俺を置いていっちまった………、教えてくれ………俺は一体、あと何回お前らの結婚式に出ればいい………!?」

 

「待ってくれよみんな。

俺も直ぐにそっちに………、………は、はは、また売れ残っちまったな。

 

どうやら俺は縁結びの神様に嫌われているらしい」

 

言って、糸が切れたようにタマちゃんが笑う。

 

クラスの面々は困惑した様子で顔を見合わせていた。

 

タマちゃんはしばらく笑ったのち、不意に静かになると、出席簿を開く。

 

「………はい、では出席をとりまぁす」

 

『いやいやいやいや!』

 

何事もなかったかのように出席を取り始めようとするタマちゃんに、亜衣麻衣美衣の三人が首を横に振った。

 

「サー・全然大丈夫じゃないじゃん・サー!」

「サー・ちょっと休んだ方がいいよ・サー!」

 

「何言ってるんですか。

大丈夫ですよぉ」

 

朗らかな笑顔を浮かべてタマちゃんは続ける。

 

「―――ただ、もし今目の前に悪魔が現れて私の命と引き替えに一つだけ願いを叶えてくれると言ったら、来月あたり日本に巨大隕石でも落としてくださいって言うかもしれないくらいです」

 

「サー・だからそういうとこ! サー!」

 

「サー・完全に休み明け前の小学生みたいな思考になってるじゃん・サー!」

 

「うふふ、だから冗談ですったらぁ。

 

――ちちんぷいぷい、隕石よ落ちろー」

 

タマちゃんはチョークを一本手に取ると、それを魔法少女のステッキのようにくるくると回すと、窓の外に向かって掲げた。

 

―――すると、次の瞬間。

 

校庭の方から爆音が鳴り響き、教室を凄まじい衝撃波が襲う。

 

校舎が揺れ、窓ガラスが割れ、カーテンが引きちぎれんばかりにはためく。

教室にいた生徒たちが一斉に悲鳴を上げ、その場から飛び退いたり、机の下に潜り込んだりした。

 

「おわっ!」

 

「きゃぁぁっ!」

 

「な、なんだ………!?」

 

耳を押さえながら士道は顔を上げると服に散った硝子の破片をはたき落としながら、椅子から立ち上がる。

 

「――士道、あれを」

いち早く状況を確認していた折紙が、窓の外を指さす。

 

士道はガラス片を踏みながら窓際に近づき、窓の外をのぞき込む。

すると、校庭のトラックやその脇の道路、さらにその向かいの空き地まで掘削されたように陥没していた。

 

『警報は鳴っていないから空間震じゃないよな……』

 

士道は考えながら眉根を寄せ、抉られた地面に目をやる。

 

その中心に壊れた機械の一部のようにも、大きな岩のようにも見えるものが存在していた。

それが地面にぶつかって先の衝撃波やクレーターは『それ』の衝突によって引き起こされたことは容易に想像できる。

そして、衝突ということは、その塊はどこからきたということである。

 

士道たちに続き、校庭を覗き込み始めていた生徒たちも同じ感想を抱いたのだろう。

殿街が、呆然と空を仰ぎながら口を動かす。

 

「………い、隕石………?」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

「………はうっ」

 

タマちゃんが青い顔をしてその場に倒れ込む。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!! タマちゃんが隕石を呼んだぁぁぁぁっ!?」

 

「知らず知らずのうちに悪魔と契約をッ!?」

 

「タマちゃぁぁぁぁん! 死んじゃいやぁぁぁぁっ!」

 

生徒たちが悲鳴を上げながら、白目を剥いたタマちゃんに駆け寄る。

 

『どう思う?オーディン?』

 

『デブリの質量から考えて被害が小さすぎますね』

 

『だよなぁ…』

 

 

オーディンの言葉に頷きながら士道は考え始める。

先日、苺から聞かされた話。

デブリの浮遊する宇宙空間にたゆたう精霊。

そして、校庭に落下したデブリ………そこから導き出されるものは…。

士道の考えが纏まりかけたところでポケットに入れてあった携帯電話が震える。

 

――着信画面に記された名前は『五河琴理』。

それを見た瞬間、士道の憶測は確信へと変わった―。

 

士道と十香、折紙、凛音、桜、副担任の令音、そして隣のクラスの八舞姉妹は、《ラタトスク》の地下施設へとやってきていた。

 

―厳重なセキュリティーを抜けたところで十香たちと別れ、司令室へと向かう。

別室待機を言い渡された十香たちは少々不満そうであったが精霊が現れたとなれば士道はそれを攻略しなければならない。

彼女たちにその様子を見られるのはあまり好ましくない。

 

司令室に入ると緊張した空気が伝わる。

既にクルー達は席に着いており、各々のコンソールと向き合い慌ただしく作業をしていた。

 

「――来たわね」

 

 

司令室中央に設えた椅子に腰掛けた琴理が言ってくる。

 

「……すまない、待たせたね」

士道たちと一緒にやってきた令音が、羽織っていた白衣を脱ぎ、空いた席に腰掛ける。

 

琴里はそんな令音に短く礼の言葉を返すと、士道に視線を戻した。

 

「それで、状況だけど……」

 

「精霊とのコンタクトに失敗したか…DEMが先に手を出して相手を怒らせて俺たちはその巻き沿いを喰っちまったってところか?」

 

「だいたい…そんなとこね……画像出せる?」

 

琴里が言うと、それに合わせてクルーがコンソールを操作する。

すると全面のモニターに、大陸や島、海などに赤いマーキングが施された世界地図が表示される。

 

「おいおい、まさかこれ全部にデブリがばらかれたとか言うつもりじゃないよな?」

 

「そのまさかよ、にわかには信じがたいけれど、全世界四二カ所同時に『弾丸』が投擲されたの。

 

もう気づいてるかもしれないけれど…《協会》やDEMの施設や各国の対精霊部隊基地も幾つか含まれているわ。

もしかしたら微弱な霊波や魔力反応を察知して、それを狙ったという可能性も捨てきれない」

 

 

「その精霊の映像は?」

 

「もちろんあるわよ。

出してちょうだい」

 

琴里が言うとモニターに漆黒の闇と無数に光る星が煌めく宇宙空間が映し出される。

 

その直中に燐光のような輝きを放つ髪の少女が悠然と浮遊していた。

身に纏う霊装には星座のような文様が描かれ、その手には巨大な錫杖のようなものが握られていた。

 

「この子が……?」

 

「そう、例の精霊よ。

とりあえず便宜的に《ゾディアック》と呼んでいるわ。

それで、これがその三時間前の映像」

 

クルーが答えると同時、モニターの映像が別のものへと変わる。

 

宇宙空間であることはかわらないのだがそこには―《ゾディアック》が眠るように体を丸めながら浮遊していただけだったのだ。

 

「これは……」

 

士道は言い掛けて言葉を止める。

画面の中に、新たな影が現れたからだ。

 

「空中艦……DEMか!?」

 

そう、地球から、空とぶ艦が三隻、現れたのである。

しかもその周りには羽虫のような影が幾つも纏わりついているかのように見えた。

 

目を凝らすと一つ一つが、歪な人型機械であることがわかる。

DEMの無人兵器《バンダースナッチ》である。

 

「《神触篇帙》か…二亜の検索妨害も完全に無効化出来なかったわけか…」

 

「そういうこと」

 

DEMが保有する全知の天使…その力を使って《ゾディアック》を発見するに至ったのだと判断した士道に琴里が頷く。

 

それと同時に画面の中にも変化が現れる。

DEMの艦が、宇宙空間を漂う《ゾディアック》に狙いを定め。攻撃の準備を開始する。

 

艦が随意領域を展開、無数の砲門を開き凄まじい量の魔力を充填し始める。

それに合わせるようにして、精霊を囲うように展開していた《バンダースナッチ》たちが思い思いのCRユニットを構える。

 

対して、画面中央を浮遊する《ゾディアック》が周囲の状況を察したかのようにゆっくりと顔を上げる。

 

《ゾディアック》は驚いたような様子を見せることなく淡々とした調子で身体を伸ばし、右手を掲げる。

 

 

『―――《封解主》』

映像の少女が小さく呟く。

次の瞬間、虚空から光り輝く錫杖が現れる。

 

豪奢な装飾が施された巨大な鍵を思わせる見た目だ。

 

「これは天使か…?」

 

「でしょうね」

 

琴里が相づちを打つと同時、《ゾディアック》を囲うように展開していた《バンダースナッチ》数機がレイザーブレイドを構えて《ゾディアック》に飛びかかった。

 

一方の《ゾディアック》は別段驚いたような素振りを見せることもなく、前方から迫ってきた《バンダースナッチ》に鍵の天使の先端を差し込むと――

 

『――【閉】』

 

鍵穴に差し込んだ鍵を回すようにそれを右にかいつんさせる。

 

すると次の瞬間には《バンダースナッチ》から力が抜け、その周囲に張られた随意領域が霧散する。

 

《バンダースナッチ》には傷は無い。

だが、一瞬前まで明確な敵意を持って《ゾディアック》に襲いかかっていた機体は電源が切られたかのように全く動かない。

 

『どうやら、対象に鍵を差し込み、『閉じる』ことでその能力を封じる力を持っているようですね』

 

《オーディン》がそう分析に令音が頷く。

だが、その間も《ゾディアック》は、襲い来る《バンダースナッチ》を次々と機能停止させていく。

 

無論、DEMもそれで《ゾディアック》を仕留められるとは思っていないようで《ゾディアック》が《バンダースナッチ》に対応している内に、三隻のDEM艦は主砲に魔力を充填し終えていた。

 

DEM艦が一斉に砲撃を行う。

三方向から放たれた魔力光が暗い宇宙空間が一瞬眩く輝いた。

 

だが、《ゾディアック》はおびえた様子を見せず、静かに杖を構えると前方へ押し出す。

すると杖の下端が、空間に呑まれるように不意に見えなくなる。

《ゾディアック》はそのまま、その杖を両手で左へと回す。

 

『――【開】』

 

そう呟いた瞬間。

《ゾディアック》の周囲にブラックホールのような穴が広がったかと思うと砲撃が全て吸い込まれる。

 

次の瞬間、DEMの艦や《バンダースナッチ》たちの後方に《ゾディアック》の周囲に生じたような穴が開き、そこから凄まじい砲撃が放たれた。

 

――漆黒の世界に、再び光の花が咲く。

自らの放った最大威力の砲撃を受けて、三隻の艦と無数の機械人形は爆散する。

 

「なるほど……これも《ゾディアック》の天使、《封解主》の能力というわけか」

 

士道の言葉に令音が静な調子で答える。

 

「……空間に鍵を差し込み、『開く』ことで、そこに『扉』を作り出す……っといったもののようだ。

そしてその『扉』の出口は、彼女の任意の場所に生じるらしい」

 

「なるほど……『扉』の出口を地球上に何カ所も作ってDEM艦や《バンダースナッチ》を落とした訳か……。

 

「そういうこと。

気持ちよく眠っていたところを起こされて、よほど頭に来ていたんでしょうね。

普通なら大気圏で燃え尽きるような残骸もー直接空中に転送されたなら、質量そのままで地球にドーン、って寸法よ。

……ま、逆にそのおかげで衝突の威力自体は随分抑えられたみたいだけど」

 

「確かにな…あの大きさなら半径数十キロが更地になっていてもおかしくないだろうしな…」

 

琴里の言葉に士道は冷や汗がが背中に滲むのを感じた。

 

だが、恐れていたところでなにも解決しないのもまた確かである。

 

士道ら心拍を落ち着けるために深呼吸をすると、再び琴里の目を見つめる。

 

「……でっ?どうするつもりだ?」

 

 

精霊が現れたのだから、デレさせて―その力を封じる。

それはいつもと同じである。

だが、相手が行る場所は宇宙空間、今までのようにおいそれと合いに行くどころか、コンタクトを取ること自体が難しい。

 

「理論上、《オーディン》を展開すれば宇宙空間でも問題なく動けるらしいけれど……。

先ずは一番手っ取り早い手段で、彼女と会話してみましょう」

 

「なるほど、自立カメラや顕現装置を使うわけか」

 

「ご明察、通常は会話不可能な真空空間であっても。

相手に直接声を届ける事が可能になるわ。

それと―例のもの、持ってきて」

 

言って、琴里が指を鳴らす。

 

同時に琴里の側に控えていた副司令‐神無月が巨大な機械を運んでくる。

 

そしてその上部に置かれていたものを手に取ると士道に差し出した。

 

「さ、士道くん。

これをつけてそこに立ってみてください」

 

ゴーグル付きのヘッドセットのような装置を受け取った士道はそれを装着。

すると神無月はカメラのレンズのようなものを士道に向けるとコンソールを操作し始める。

 

「―司令、準備オーケーです」

 

「よろしい。じゃあ実験してみましょ」

 

 

琴里が言うと他のクルーがコンソールを操作。

すると士道の前に置かれた機械が小さな駆動音を上げたかと思うと。

 

―――士道の目の前に、士道が現れた。

 

「ほう…」

 

 

現れた自分と寸分違わぬもう一人の自分を見つめながら感心したような声を上げる。

 

「その機械で読み取った士道の姿を、立体映像として投影しているの。

もちろん、顕現装置を搭載した自立カメラからも、映像の出力が可能よ。

今は機能を切ってあるけど、本番ではそのゴーグルに自立カメラからの映像が映し出されるわ」

 

「精霊と対面しているような状態で話ができるってわけか」

 

 

「そういうこと。

―じゃあ、早速始めましょ。

目覚めた彼女がいつ攻撃を再開するかわからない以上、時間をかけるのは得策ではないわ」

 

「了解――いつてもいいぜ、琴里」

 

士道の言葉に琴里は艦長席に腰を落ち着け直し、くわおていたチュパチャプスの棒を指で挟み込むとモニターに向ける。

 

「――それどはこれより、作戦を開始する!」

 

 

『了解!』

 

クルーたちが一斉に答え、作業を開始する。

 

「自立カメラ一号機を対象に接近させます」

 

「随意領域展開。

映像投影準備開始」

 

「並行して、対象の精神状態モニタリングも開始」

 

「―――投影準備完了。

士道くん、いきますよ!」

 

「了解!」

 

士道がそう答えるた瞬間。

視界が、司令室の中から一瞬で宇宙空間へと変貌する。

 

どこまでも果てしなく広がる漆黒。

目映い輝きを放つ星々。

そして―眼下に広がる蒼い惑星。

その雄大な光景に、一瞬目を奪われる。

 

だが、今はそんなものに見とれている場合ではない。

 

士道は気を取り直すと顔を上げた。

 

―長い、長い金髪をたゆたわせた少女の後ろ姿が士道の目に映っていた。

 

「――それじゃあ。始めましょうか。

地球と宇宙の遠距離恋愛を」

 

琴里が冗談めかした言葉を真剣な口調で言う。

士道は頷くと、少女の背に声をかけた。

 

「よう!元気かい?」

 

『………』

 

と。

 

士道の声に反応して少女が振り向いたかと思うと、次の瞬間錫杖を掲げ、士道の頭目がけて光線を放つ。

 

黄金色の輝きを放つ、霊力で編まれた光線は、士道の頭部を軽く打ち抜き、暗い空へと抜けていった。

 

「いきなりヘッドショットとは随分…荒っぽい精霊だな。

立体映像じゃなかったら死んでたぞ……」

 

「DEMに攻撃されて気が立ってたんでしょうね…」

 

『マスター、とりあえずこちらに敵意がないことをアピールしてみましょう』

 

琴里の言葉に続けて《オーディン》の言葉に士道は頷く、それに合わせるように立体映像の頭部が再生し、士道のゴーグルに再び少女の姿が映し出される。

「まず、落ち着いてくれ。

こちらに君と敵対する意志はない

 

 

『……ふむん?』」

 

少女は、急に蘇生した士道に、表情やを変えずに首を傾げる。

 

次の瞬間、少女が指を動かすと周囲に漂う機械の破片が高速で飛来し、士道の胸を貫く。

 

「……滅茶苦茶好戦的だな…」

 

精霊からの攻撃と再生を繰り返すこと五回、士道がうんざりした様子で呟く。

 

「……ふむ、まさかこんなにも攻撃的とはね。

立体映像での接触にしたのは正解だったようだ」

 

そんな士道の呟き令音が答える。

 

『ですが彼女はマスターに興味を持ったようです』

 

幾度目かの再生を遂げた士道は《オーディン》の言葉に顔を上げる。

すると《ゾディアック》が士道に視線を向けているのがわかった。

『――不思議じゃの。

うぬはなにゆえ死なぬのじゃ?』

 

顔つきは相変わらずの無表情であるがその唇が抑揚のない静かな声でそう尋ねた。

 

「ああ…お前と話がしたくてな、立体映像をとばしてもらっているんだ……

って、話してる最中に腹を抉るのをやめろ」

士道はわき腹を抑えながら苦笑を浮かべる。

少女が杖の先端を士道の腹に突き刺し、スープをかき混ぜるように動かし始めたのだ。

『立体映像とな。

ふむん……不思議じゃ』

 

「お、おう………」

 

士道は苦笑すると、言葉を続ける。

 

「それより……良かったら君の名前を教えてくれないか?」

 

士道が問うと、少女はお腹をかき回すのを止めて顔を上げてきた。

『むくの名か。

よかろ。

――六喰。

星宮六喰じゃ』

 

「星宮六喰…………それが君の名か?」

 

『左様』

 

言いながら少女――六喰が頷く。

『それで、うぬは何というのじゃ。

人に名を尋ねて己は名乗らぬとは、無礼ではないかの』

 

「ああ、悪いな。

俺は五河士道……魔法使いだ」

 

「ふむん。

五河、士道か」

 

『質問を戻すが、うぬの目的はなんじゃ。

何をしにここやって来たのじゃ』

 

「ああ、それはだな…」

 

士道が答えようとすると、六喰は言葉を継いできた。

 

『立体映像………ということは、うぬの本体は星のどこかにいるのあろ。

むくは偽りを好かぬ。

これよりむくに空言を吐く度、星に礫を落とす』

 

「ああ……いいぜ」

 

 

礫………とは、恐らく校庭へと落とされたあのデブリのことだろう。

六喰が、返事を求めるように言ってくる。

「俺は――お前のような精霊を助けるために活動しているんだ」

そして、士道はは話し出す。

 

自分の目的。

《ラタトスク》と《協会》、それに敵対するDEMという組織のことを。

 

『………ふむん』

 

全てを聞き終えた六喰は、小さく呟くと、表情を変えずに士道の方へと顔を向けてきた。

 

『空言ではないようじゃの……。

しばらく見ぬ内に星は斯様なかとになっておったか』

 

「ああ……だから、六喰。

地上に降りてきて、おまえの霊力を、俺に封印させてくれないか?」

 

『断る』

 

六喰に問うと少しの逡巡を見そることもなく、返してきた。

 

無論この解答も予想はしていた。

 

いきなり現れて信用を得ようとしてもそれは難しいことである。

 

『勘違いをしてもらっては困るがの。

別にお主を疑っているわけではない。

うぬの言葉には、純粋な善意が窺える』

 

「じゃあ何故…」

 

士道が問うと、六喰は変わらぬ町で返してきた。

 

『うぬの考えは理解した。

だが、むくにはその施しを受ける必要がない、と言っておるのじゃ。

むくはここで漂っていられればそれでよい』

『またDEMが攻撃してきたらどうする?』

 

『でー、いー、えむ』

六喰は拙い発音で士道の言葉を復唱すると思い出したかのように頷く。

 

『先ほどの鉄くずか、あのようようなもの、いくら来ようとむくの敵ではない』

 

「DEMにはさっきの奴らとは比べもにならない力を持った魔術師だっているぞ」

 

『同じことよ。

むくの天使に勝てるものなど存在せぬ』

 

「なら、一つ試してみるか?」

 

「試すとは?」

 

士道の言葉に六喰が首を傾げる。

 

「俺とお前の天使、どっちが強いかをだよ。

俺が負けたら地球の自転を止めるなりなんなり好きにするといい。

但し俺が勝ったら、地球まで来てもらうぞ」

士道の言葉に六喰は何かを考えるように顎に手を当てる。

 

「よかろう」

 

思考すること数秒、六喰が頷く、それと同時に両者は共に距離を取る。

 

『《封解……』

 

天使を呼びたそうとその名を口にする六喰。

 

だが、その名を言い終わるよりも《魔力瞬間換装》で距離を詰め、六喰の首筋に魔力を纏わせた手刀を突きつける方が早かった―。

 

 

―低い駆動音と断続的な駆動音が鼓膜と身体を震わせる。

 

現在、士道は精霊達や《フラクシナス》のクルー達と共に巨大な輸送ヘリに乗り、何処かへと向かっていた。

 

以前、反転した折紙の《救世魔王》によって破壊された《フラクシナス》の改修が終わったため、それに乗って六喰のいる宇宙へと向かうのだ。

 

《協会》の保有する空中艦《ソロモン》でも宇宙空間へと向かうことは可能ではある。

だが六喰から士道とデートに応じる代わりとして一つの条件を提示されたのだ。

 

曰く、『なぜそうまでしてうぬの後ろにいる者は精霊の力を束ねようとする?

何故に力を欲するのじゃ?

それがはっきりとしない限りはうぬについていこうとは思わぬ』とのことである。

 

士道も以前から気にはなっていたことではあるが精霊の持つ霊力は容易に世界のハワーバランスすらも書き換えてしまうものだ。

 

それを集める理由を確かめることが今回、士道が《ラタトスク》の施設を訪れた一番の理由である。

 

『―司令。

目的地に到着します。

準備をしておいてください』

 

機内のスピーカーから音声が流れ、琴里がクルー達に指示を発する。

 

そして数分後、軽い衝撃ののち、機体から発せられた振動と駆動音が消え、機体後部のバッチが開く。

 

「お疲れさまです。

―こちらへどうぞ」

 

作業員と思われる男が皆を外へと促す。

 

先んじて歩き出した琴里のあとを追って歩き出す。

 

「ここは…格納庫か…?」

 

ヘリを降りるとそこは高い壁に四方を覆われた広い空間となっていた。

 

 

「ま、そんなところ。

―こっちよ。

ついてきて」

 

 

琴里はそう言うと靴音を響かせながら歩いていく。

そのあとを某医療ドラマの病院委員長の総回診シーンのごとく《フラクシナス》のクルー達が順についていく。

 

士道もまた、精霊達と共に格納庫の中を進んでいく。

 

そして格納庫を出た後長い廊下を進み、厳重そうなセキュリティーの施された扉を何枚もくぐり、またも格納庫な入り口を思わせる巨大な扉の前にたどり着く。

 

「ここよ」

 

琴里は皆を一瞥しながら言うと、扉の前に備え付けられた装置に手を当てる。

 

そして小さな電子音が響き、扉が左右に開いていきそれが姿を現す。

 

それを見て、士道の後ろにいた精霊達が驚愕の声を上げる。

「おお…!」

 

「かか、なるほどな。

確かにこれであれば、どこへなりと赴けるだろ打て」

 

「ほぁー、すっご。

何これ。

ねえ妹ちゃん。

資料用に写真撮っていい?

写真?」

「駄目に決まってるでしょ。

最高機密よ」

興奮した様子の二亜に琴里が半眼で返す。

 

とはいえ彼女の反応もわからなくはない。

士道も、『これ』を目にするのが初めてであれば、似たような行動を取っていたかもしれない。

 

ラタトスクの保有する空中艦《フラクシナス》である。

 

その巨大な船体を見上げながら士道はある事に気づく。

 

目の前にあるのは確かに《フラクシナス》である。

だが、士道の記憶にある《フラクシナス》と、少し形状が異なっているように思えたのだ。

 

「形が…少し違う?」

士道の呟きに、前方にいた琴里が鼻を鳴らす。

 

「よく気づいたわね。

―そう。

これは今までの《フラクシナス》じゃないわ。

 

《ラタトスク》最新鋭の顕現装置を搭載し、あらゆる性能をグレートアップした改良型―その名も、《フラクシナスEX》!」

 

琴里が高らかに叫ぶと、それに合わせるようにして、琴里の背後でクルー達がポーズを撮った。

 

「エクス・ケルシオルねぇ…」

 

「ええ、折紙との戦闘で損傷した機体を改修、強化したものがこの《フラクシナスE X》よ。

おかげでかなりの時間がかかっちゃったけどね」

 

自嘲気味に琴里が肩をすくめる。

 

「なるほど…これなら六喰のいる場所まで―」

 

「ええ。

ひとっ飛びよ」

 

琴里が、紙飛行機を投げるようなジェスチャーをしながら言ってくる。

 

「まだ調整が終わってないから発艦には少し時間がかかるけど、もう艦橋には入れるはずよ。

―ついてきて。

合わせたい子がいるわ」

 

胃って、琴里が士道を呼ぶように指を曲げてくる。

 

 

「会わせたい子…」

 

「まっ、あんただったら大体の察しはついてると思うけどね」

 

苦笑しながら琴里は《フラクシナス》の真下へと歩いていく。

 

「む? 誰かシドーの知り合いがいるのか?」

「ま、行けばわかるさ」

 

不思議そうな顔をする十香に士道は首をすくめて、クルーや精霊達とともに琴里のあとを追った。

 

皆が艦の真下に来たことを確かめてから、琴里が顔を上げて声を発する。

 

「―いいわ。

お願い」

 

するとそれに応じるように、士道は不思議な浮遊感に包まれる。

 

次の瞬間、視界にあった格納庫内の景色が艦内のそれへと変貌する。

 

上下に分かれた艦橋である。

 

中心に艦長席が、そして下部にクルー達の座席があり、それらの前にコンソール類と各種モニターが備え付けられていた。

以前の《フラクシナス》よりも少し広く、モニターの数も増えている。

 

それに何よりも、士道には気になる点があった。

 

「転送、直接艦橋に出きるようになったんだな」

 

足下を見ながら言う。

士道達がいたのは艦橋の入り口付近だったが、その床に、転送装置の端末らしきものが設置されていたのだ。

 

以前は転送装置は艦体下部に備え付けられており、艦の外に出るにはそこへ行かなければならなかったはずである。

 

「ええ。

艦内の幾つかターミナルを作って、どこへ転送するか選べるようになったの。

ターミナル間の移動も可能だから、居住エリアから艦橋へも一瞬よ」

 

「それで?会わせたい子と言うのはどこにいるのだ?」

 

「ええ…それはね…」

 

「お待たせしました」

「待たせたわね」

 

尋ねる十香に答えるように艦橋内に二人の人物が現れる。

 

修道服の姿の少女である。

 

「鞠亜!鞠奈!」

 

そう、電脳を司る雷華の作り出した二人の精霊、或守鞠亜と或守鞠奈である。

 

「はい、お久しぶりです皆さん」

 

「義体が完成していたのか…」

 

「はい、皆さんを驚かせようと思って」

 

「どう? 驚いたでしょ?」

 

どこか気恥ずかしげにはにかむ鞠亜となぜか偉そうに胸を張る鞠奈。

 

「ああ、びっくりしたぜ」

 

「そういえば基地内に、琴里たちとの面会を希望している方がいらっしゃるのですが、いかがいたしますか」

 

「面会希望? 一体誰よ?」

 

「はい。

―エリオット・ウッドマン議長です」

 

「―は?」

 

鞠亜の答えに琴里は呆けた表情を作った―。

 

 

《フラクシナス》から出た士道達は、格納庫を抜け、再度長い廊下を歩いていた。

 

クルー達は全員、艦橋で調整作業を進めているため、今ここにいるのは士道と精霊達のみである。

 

「……シドー、シドー」

 

と、後方を歩いていた十香が声をかけてくる。

 

「どうした十香?」

 

「そのウッドマンというのは何者なのだ?」

「確か《ラタトスク》の創設者なんだよな……」

 

 

言いながら琴里の方へ目をやる。

 

「―ウッドマン卿は、《ラタトスク》の意思決定機関である円卓会議の議長よ。

……実質的な《ラタトスク》のトップにして、創設者。

彼なくして《ラタトスク》は生まれなかったと言っていいわ」

 

と、士道はそこで隣を歩いていた二亜の表情が難しげなものになっていることに気づく。

「……二亜? どうかしたか? 随分と怖い顔してるが?」

 

「……!!

 

士道が呼ぶと二亜は驚いたように顔を上げた。

 

「んー? 別にどうもしないよ?

それとも少年たらそんな小さな変化に気づいちゃうくらい二亜ちゃんのこと見てたの?」

「茶化すな……」

 

士道が真剣な表情で返すと二亜も士道と同様に険しい表情を作り、小さな声で呟くように言った。

 

「―ちょっとね、ウッドマンって名前に聞き覚えがあって」

 

「なんだと?」

 

と、士道が聞き返したところで、前方を歩いていた琴里が扉の前で足を止める。

 

扉の横に取り付けられたインターホンのような装置のボタンを押し、来訪を報せてから、扉を開ける。

 

「さ、入って」

 

「………」

 

琴里に促され士道達は部屋に入る。

 

扉の中は、書斎のような空間になっておりその最奥―大きな執務机の奥に、二人の人物の姿が確認出来た。

 

一人は車椅子に座る初老の男。

縁の細い眼鏡をかけ、長い髪を一つに結わえた柔和な印象の男。

その脇に眼鏡をかけたスーツ姿の女性が控えていた。

 

 

「む?」

 

その姿を見て士道の隣にいた十香は眉根を寄せた。

 

理由は単純である。

十香は士道と共に以前、その人物に会ったことがあるのだ。

 

それは七罪と出会う前。

街を歩いていた士道と十香は、車椅子に乗った外国人男性に話しかけられたなのである。

士道の方はそれから少し後に行われた《協会》と《ラタトスク》の協定の場でウッドマンの正体を知ったのだがそれを知らぬ十香は目を白黒させていた。

 

そんな十香に彼は年齢に似合わぬ悪戯者の少年のような表情で微笑んだ。

 

「やあ。久しいね。

そちらのお嬢さんも、元気そうで何よりだ。

―改めて自己紹介をさせてもらおう。

エリオット・ボードウィン・ウッドマンだ」

言って、士道と十香の方を見てくる。

 

「……! ウッドマン卿、二人と会ったことが?」

 

琴里が、驚いた様子でウッドマンと士達を交互に見る。

するとウッドマンはおどけるようにウィンクをする。

 

「前に天宮市に行った時に少しね」

 

「お戯れを……! なにかあったらどうするつもりですか!」

 

「はは、悪かったね。

以後気をつけるよ」

 

琴里の言葉に、ウッドマンが言葉ほど悪びれた様子もなく言う。

 

琴里が額に手を当てながらため息をつく。

 

そんな二人のやり取りをほほえましく思う士道。

と、ウッドマンが表情を真剣なものにし、士道の方に向き直ってきた。

 

「さて、今日は突然すまなかったね。

本来ならこちらから出向かなければならなかったのだが」

 

「いえ、そんな」

 

士道が言うと、ウッドマンは目を伏せて言葉を続けてきた。

 

「―まずは、感謝を。

精霊たちを救ってくれて、本当にありがとう」

 

「お礼を言いたいのはこちらも同じです。

《ラタトスク》の力添えがなければみんなと……精霊たち…出会うことが出来なかったかもしれない。

彼女たちを救うことが出来なかったかもしれない」

 

言って士道は頭を下げた。

 

「一つ………お伺いしたいことがあります」

顔を上げ、ウッドマンの顔を見据えて士道は切り出す。

 

「なんだね?」

「《ラタトスク》には凄く感謝しています。

…でも、なぜ《ラタトスク》は…ボードウィンさんは精霊を助けようと考えたんですか」

「……ふむ」

 

士道が言うとウッドマンは小さく首を傾げる。

 

「何か……迷うようなことがあったねかな?」

 

「以前から気にはなっていたんです」

 

「私も気になっていた。

―《ラタトスク》が精霊を救う。

それはいい。

その点については私も感謝している。

でも、一体その先に、何があるの。

膨大な予算を使ってまで精霊を集める理由は、何」

 

士道の言葉に同調するように声を発したのは折紙である。

ウッドマンはその疑問ももっともであるというように頷くと、唇を動かした。

 

「それを気にするのは当然だ。

確かに《ラタトスク》という組織は、君たち精霊にとって『都合のよすぎる』。

不審に思うのも無理の無いことだ」

 

言いながらウッドマンは苦笑する。

 

「たが……困ったな。

君たちがすんなりと納得できるような理由を、私は用意できないかもしれない」

 

「……、どういうこと?」

 

「『精霊を救うこと』。

……それが、私の最大目的なんだ」

 

「……」

 

ウッドマンの言葉に、折紙が微かに眉根を寄せる。

 

すると、それに同調するかように、部屋の反対側にいた二亜が声を上げた。

 

「さっすがに……聖人君主過ぎるんじゃない?

 

そこまでいくとちょっと胡散臭いよ?」

 

少し険の感じられる声音で二亜はウッドマンの目を見据えたまま言葉を続けた。

 

「ウッドマン。

エリオット・ボールドウィン・ボールドウィン。

それがあんたの名前。

……間違いないよね?」

 

「ああ。間違いない」

「なら改めて聞くけど……DEMインダストリー発足メンバーの一人で、三十年前、初めてこの世界に精霊を出現させたあんたが、どの面下げてそんなキラキラした綺麗事言ってくれてんの?」

 

「な……!?」

 

二亜の言葉に精霊達は息を詰まらせる。

 

困惑した様子の精霊達に二亜は頬をかきながら返した。

 

「んー、先月―まだあたしが完全な状態の《囁告篇帙》を保有していた頃、ちょっと調べる機会があったんだよね。

この世界に最初の精霊が現れたときの状況を…。

 

っと言うか少年はこの驚愕の真実にあまり驚いてないみたいだけど…なして?」

 

「俺もついこの間知らされたばかりなんだよ…」

 

苦笑混じりに二亜に返す士道。

 

六喰の説得に失敗したその日の晩、クローリーから話したいことがあると《協会》本部へと呼び出されたのだ。

「ふむ、君の天使は全知の《囁告篇帙》だったね。

別に隠す気は無かったが、それならば話が早い。

……そう。

私はかつてアイク―ウェストコットやエレン、クローリー、衛宮切継とっもに、この世界に原初の精霊を出現させた」

 

短く息を吐いた後、そう言葉を紡ぐウッドマン。

 

「ああ、そういえば紹介が遅れたね。

ここにいるカレンも私と一緒にDEMを出奔した元社員だ」

 

と、ウッドマンがそこで、思い出したように言う。

 

すると彼の後方に日かお手板秘書官のような女性が、小さく頭を下げてきた。

「――カレン・ノーラ・メイザースです。

以後お見知り置きを」

「メイザース…ってまさか」

 

カレンの名にどこか聞き覚えがある士道は声を上げる。

 

「はい。

エレン・メイザースは私の実姉に当たります」

 

『ええぇぇぇッ!?』

突然告げられたら事実に精霊達は驚愕の声を上げた。

 

「あ。あのエレンの妹だと………っ!?」

 

「狼狽。でも言われてみればどこか面影があります」

 

改めてカレンの容貌を見ると確かに眼鏡を外して髪を伸ばせば、あの魔術師によく似ているように思えた。

ただ、エレンがせいぜ10代後半くらいの見た目にあるのに対して妹であるはずのカレンが20代半ば位に見えるのが些か気にはなったが…。

だが、今はそれよりも先にはっきりさせねばならないことがある。

士道がウッドマンの方を向き直ると言葉を紡ぎ出した。

 

「本条二亜の言うとおり、私はDEM発足メンバーだ。

最初は、ウェストコットたちと同様に、精霊の力を利用することを考えていた」

 

「………」

 

ウッドマンの言葉に息を呑む。

それもまた当然といえた。

精霊を救うために奔走してきた組織の長がそのようなことを言い始めたのだ。

緊張するのも仕方がない。

そんら士道の様子を察したのかウッドマンは苦笑しながらあとを続けた。

「だが――実際、原初の精霊を目の当たりにしたとき、私は変わってしまった。

それまでの目的を捨て、DEMを出奔し、《ラタトスク》という組織を作り、精霊の保護に自分の人生を使うことを決意した。

――かつての同市に背を向けてでもね」

 

「……、一体、なにがあったんですか?」

 

問いかけるとウッドマン頬を緩め、肩をすくめた。

 

「――恋をね、してしまったんだ」

 

 

「………え?」

 

予想外の答えに士道は目を見開いた。

 

「……恋ですか……?」

 

「ああ。

初めて原初の精霊を見た瞬間、私は彼女に心を奪われてしまった。

どうしようもないくらいに、彼女に焦がれてしまった。

――彼女の力を奪い取ろうとしていた自分が、許せなくなってしまった」

 

熱っぽく―恋する少年のような調子で、ウッドマンは続ける。

 

「だから、彼女と同じ存在である精霊が、辛い思いをしているのが耐えられない。

―馬鹿げた理由と笑われるかもしれないがね。

私が精霊を救おうとする理由は、それが全てなんだ」

 

 

『嘘は言ってないようですね』

 

《オーディン》の言葉に士道は頷き、首を横に振る。

 

「馬鹿げてなんて―いません」

 

足を一歩踏み出しながら、続ける。

 

「それよりも、《ラタトスク》を作った人があなたのような人で良かったと思ってます。」

 

士道が言うと、ウッドマンは驚いたような顔をしてから頬を緩めた。

 

「……ありがとう。

君は優しいね。

私も……霊力を封じる力を持っていたのが君のような少年であったことを嬉しく思うよ」

「いえ、そんな…」

 

 

士道が言いながら頭を振ると神妙な顔で話を聞いていた折紙が小さく息を吐き出し、カレンの方に視線を向ける。

 

「―では、あなたは一体、なぜそんな彼についてDEMを離れたの?」

 

「………」

 

折紙の言葉にカレンは、眉一つ動かさずにそれに返す。

 

「私はエリオットに惚れていますので」

 

「ウッドマンさんは原初の精霊に……」

 

「相手に想い人がいるからと諦めなければいけない道理はありません。

もしも彼が心変わりをしたとき、側にいなければ選ばれようが無いではありますんか」

 

「それはせうかもしれませんが」

 

「もっとも、欲を言えば生殖行為が彼女なうちに胤をいただきたいところですが、エリオットの気持ちは最大限尊重するつもりですが、彼の血を後生に残せないのは世界の損失でです」

 

「ははは…」

 

あまりに露骨な発言に士道は渇いた笑いを漏らし、ウッドマンが困ったように苦笑する。

「はは…これは参ったな」

 

「あなたが参る必要はありません、エリオット。

私が勝手にしていることです」

 

と、カレンの話を真剣な表情で聞いていた折紙は、彼女のもとに歩み寄ると右手を差し出した。

 

「――深く理解した。

あなたの気高い決意に、賞賛と喝采を」

 

「こちらこそ、感謝を。

私の考えに賛同を示してくれたのはあなたが三人目です」

 

言って、カレンが折紙の手を取り、握手を交わす。

 

「……」

 

どうやら、士道の伺い知れない領域で通じ合ったらしい。

 

……そこはかとなく身の危険を感じたが、せっかくなかよくなったのだからいらぬことを言って水を指す必要も無いだろう。

 

と、そこで、ウッドマンがかけていた眼鏡の位置を直しながら軽く机に身を乗り出すようにしてきた。

 

「すまないが、五河士道。

――顔を、よく見せてはくれないかな。

最近、視力の衰えが激しくてね」

 

「ええ、構いませんよ」

 

士道は言われるままに、ウッドマンな方に近づいていく。

 

するとウッドマンが士道の顔をのぞき込み、小さく唸る。

 

「……なるほど、やはり、似ているな。

―あのときの少年に」

 

「え?」

 

独白のようなウッドマンの言葉に、士道は眉根を寄せる。

 

「それは一体――」

 

―と。

 

士道が問い返そうとした、次の瞬間。

 

激しい振動が、部屋を襲った。

 

「つっ……!?」

 

 

「おおっ!?」

 

「きゃー!」

 

まるで、近くで爆弾でも爆発したかのような衝撃が、部屋全体をふるわせた。

「大丈夫か、みんな?」

 

「うむ…問題ない。

しかし、一体なにが起こったのだ!?」

 

十香が士道の言葉に応えながら辺りを見回す。

そこで、四糸乃が怯えたように喉を震わせる。

 

「まさか……六喰さん……ですか?」

 

「ええッ、ここに隕石落とされちゃったってことー?」

 

よしのんが、オーバーリアクション気味に自分の頬を手で挟みながら言う。

 

「いや…」

 

だが、士道と琴里が壊しい顔をして首を横に振る。

と、それに合わせるようにして、部屋に設えていたスピーカーから、慌てたような声が響く。

『ウッドマン卿! 緊急事態です!』

「落ち着きたまえ。

一体なにがあったのだね」

『し――襲撃です!

基地上空に空中艦の反応を確認!

これは……DEMです!』

「DEM……ですって!?

嘘でしょ、この基地が見つかるなんて―」

ノイズ混じりの音声で伝えられた言葉に琴里が愕然とした調子で叫びを上げ、途中で息を詰まらせる。

思い出したのだろう、今のDEMに隠し事は無駄だということを―。

「《神蝕篇帙》か……」

士道が琴里の言葉を引き継ぐように全知の魔王の名を呟く。

その名に、二亜が苦々しげな調子で頷く。

「……多分ね。

めいっぱい検索の邪魔はしといたけど、それはあくまでも時間稼ぎだし。

ジャミングをかける前に調べられたことに関してはどうにもならないしね」

「やってくれるじゃないの。

わざわざこの場所を調べて襲撃してきたってことは、敵の狙いは改修を終えた《フラクシナス》か――」

言いながら琴里はウッドマンに視線を向ける。

「あなたか、です。ウッドマン卿」

「……ふむ」

ウッドマンは顎に手を当てながら小さくうなると、数秒の間考えを巡らせるような仕草をしたのち顔を上げる。

「――とにかく、行動に移ろう。

この場所が相手に知られた以上、ただ座しているのは死を待つようなものだ」

言ってウッドマンは手を掲げる。

「五河司令。

君は精霊たちを連れて《フラクシナス》へ急いでくれ。

そして一刻も早く《ゾディアック》のところへ。

彼女を救ってあげてくれ」

「了解しました。

必ず。

……ですがウッドマン卿は」

琴里が不安そうに問うとウッドマンは頬を緩めた。

「私とカレンは別ルートから脱出させてもらうよ。

この施設をそのままウェストコットに抑えられるとなると少々厄介だ。

後始末をしていかねばならないものがあるし――何よりもこの足では、君たちの邪魔になってしまうだろう」

ウッドマンが自分の足を軽くたたいてみせる。

琴里が拳を握りながら悲痛な声を上げる。

「ですが!」

「大丈夫。

脱出ルートは確保してあるから心配はいらないさ。

この首、そう易々とくれてやるつもりはない。

死ぬときは愛する女の腕の中と決めているんだ」

おどけるように言ってウッドマンがウィンクをする。

彼の言葉にカレンが眼鏡を光らせる。

「私の腕ならばいつでも開いておりますが」

「これは一層死ねなくなったな。

君ほど優秀な人間を、死出のの旅の共にするわけにはいかない」

ウッドマンが肩をすくめる。

カレンは表情を変えなかったが、褒められたことの嬉しさと、共に死ぬことを拒否された寂しさがにじみ出ているように思えた。

ウッドマンが琴里の方に向き直り、力強く首肯する。

「行ってくれ、五河司令。

―武運を祈る」

その言葉に、琴里は数秒の逡巡を見せたのち、敬礼を返した。

「……、了解しました。

どうかご無事で、卿」

ウッドマンがそれにかえすように再度頷く。

同時に琴里は身体の向きを変えると、士道たちに向かって声を上げてきた。

「――さあ、行くわよみんな。

《フラクシナス》が敵の手に落ちたりしたら洒落にならないわ」

決意と使命感に満ちた表情で琴里はそう告げる。

だが、握りしめた拳が微かに震えていた。

――不安や、困惑を決して面に出さないように押し殺しているのだろう。

そんな琴里の言葉に士道は力強く頷く。

「ああ……そうだな、行こう」

「うむ、急ごう!」

「は、はい……!」

精霊たちも、それに応ずるように言ってくる。

士道は一瞬琴里と視線を交わらせ、軽く頷き合うとウッドマンに頭を下げてから、皆を連れて部屋を出て行った。

擬似霊装を展開した士道は精霊たちと共に長い廊下を走っていた。

周囲から爆音や銃撃音、そして――随意領域による破壊音が響く。

「―――体どれだけの敵が入り込んでるんだ!?

わからないわ!

でも、空中艦が確認されたとなると――」

『接近する魔力反応!』

どれくらい廊下を進んだ頃か琴里の言葉の途中で《オーディン》の声が脳内に響き、前方の壁が爆音とともに弾け飛ぶ。

「つっ!?」

「な……!」

壁の破片が辺りに散らばり白煙が巻き起こる。

そしてそれを裂くように―歪な人形が士道達の前に現れる。

「……《バンダースナッチ》!」

士道が舌打ちをしつつその異形の名を叫ぶ。

DEMの無人兵器、《バンダースナッチ》である。

士道の声に反応するかのように《バンダースナッチ》が頭部のカメラを士道達に向ける。

「ちっ!」

舌打ちをしつつ、両手に魔力を纏う。

だが、士道が攻撃するよりも早く高速で飛来した刀剣が《バンダースナッチ》の身体を貫く。

「士道!」

バンダースナッチを挟んで向かい側の通路、剣を構えたドニが声を上げる。

「ドニ―」

なぜ此処に―そう尋ねようとした士道だがバンダースナッチの破壊した壁の穴から響いてきた声にその言葉を止める。

「―おや、これはこれは。

まさか君たちまでいるとはね」

緊迫した場に似合わない涼しげな声音を響かせ、ダークスーツを纏った男が、CR‐ユニットを装備した魔術師を二人伴い、歩み出てきた。

そう‐DEMインダストリーの長であるアイザック・ウェスコットである。

「……!」

「何だと!?」

「へぇ、大将が自ら足を運ぶとはねー」

ウェスコットの姿に精霊達が警戒した表情を浮かべ、ドニが不適な笑みを浮かべる。

「ドニ、油断は禁物じゃぞ…」

そんなドニを諫めるように苺が通路から姿を現す。

「先を急ぐと良い、士道。

小奴らはワシ等が足止めしておこう」

「ふ…させると」

「それはこちらの台詞じゃよ!」

ウェスコットが《神蝕篇帙》を 呼び出すよりも早く、苺が柏手を打つ。

すると、ドニと苺、ウェスコット達の周辺の空間が歪んだかと想うと次の瞬間にはその姿は士道達の視界から消えていた。

苺が固有結界《アリス・イン・ワンダーランド》を展開したのだ。

「今のうちに急ぐぞ!」

士道のその言葉に精霊達は頷いたー。

その後、《バンダースナッチ》と遭遇、撃破すること二回。

士道達はゃうやく《フラクシナス》の格納庫へとたどり着いたのであった。

「―状況は?」

艦橋にはいるなり琴里が歩きながらきっちりと着込んでいたジャケットのボタンを外し、肩掛けにし直す。

チュパチャプスをポケットから取り出し、包装を解いて口に放り込みながら艦長席に腰を下ろす。

「は。 現在基地上空に《アルバテル》級空中艦が一隻滞空。

基地内に侵入した魔術師及び《バンダースナッチ》は、120程かと思われます。

現在、基地内各所で《協会》所属の魔法使いと戦闘を繰り広げている模様。

現時点で機関員の死者は21名。

避難が確認されているのは185名となります。

「……、なるほど」

琴里が苦々しげに呻くて鞠亜が口を開く。

「落ち込んでいる暇はありませんよ、琴里。

今はあなたのすべきことを」

「そうそう、今はこんな所で無駄な時間を喰っている場合じゃないでしょう」

「ええ、わかっているわ」

琴里は静かに息を吐くと未練を振り払うように顔を上げた。

「――私たちは私たちの仕事をするわよ。

《フラクシナスEX》、発艦用意。

準備はできてるでしょうね?」

『はっ!』

琴里の言葉にクルー達が一斉に答える。

「しかし、敵の攻撃により格納庫の電気系がやられてしまったらしく、バッチが開閉しません」

「ち、仕方ないわね。

――ブチ破るわよ」

言って琴里が手を掲げる。

「基礎顕現装置並列駆動、随意領域展開、不可視迷彩及び自動回避発動」

「了解。 基礎顕現装置。

並列駆動を開始します」

「随意領域、展開―いつでもいけます」

クルーの声と同時、艦体のどこからか響いていた微かな機械の起動音が、さらに大きくなる。

琴里は小さく頷くと、後方の士道達へと視線をよこす。

「行くわよ。念のため何かに掴まってて」

「ああ、わかった」

士道は首肯すると壁際の柱に掴まった。

精霊達もそれに倣うが、折紙と二亜がそれぞれ士道の身体に掴まり、十香たちに引き剥がされた。

琴里が呆れたように息を吐き、顔を前方に戻しこえを張り上げた。

「―《フラクシナスEX》、発進!」

その声にに答えるように艦体が揺れ―メインモニターに映し出されていた格納庫の内壁が見えない圧力により押しつぶされるように円形にひしゃげる。

そして。奇妙な浮遊感が艦橋全体を包んだかと思うと、次の瞬間にはモニターに映し出された風景が、一瞬で空へと変貌する。

空が映し出されたモニターに、巨大なシルエットが見えると同時、艦内にアラームが鳴り響く。

空中へと《フラクスナス》が移動すると共にモニタの空に大きな影が映り、艦内にアラームが鳴り響く。

 

「基地上空に敵空中艦を確認。

どうしますか?」

 

「一応、答えは予想できるけどね…」

 

鞠亜が琴里に尋ね、鞠奈がヤレヤレと首を竦める。

 

「今は一刻も早く宇宙へ行かなければ行けないわ…だから…」

 

『直ぐに片をつけさせてもらおう』

 

琴里が言葉を言い終わるよりも早くスピーカーから声が聞こえたかと思うと、モニターに映る空中艦の各所で突如、爆発が発生する。

同時に、空中艦の隣にフラクスナスと同サイズの空中艦が姿を現す。

協会が保有する空中艦-ソロモンである。

 

『数日ぶりだな、五河指令』

 

そう言いながらメインモニタに映るのは協会の盟主である・アルテスタ・クローリーだ。

先程の爆発は彼が空間制御の魔法を使い引き起こしたものである。

 

抑揚を感じさせない声でクローリーは続ける。

 

「下の同胞たちを回収し次第、君たちの後を追おう。

すまないが先に行ってくれたまえ」

「了解しました」

 

クローリーの言葉に琴里は答え、クルーに指示を飛ばす。

「高度上昇、一気に大気圏を抜けるわよ」

 

「はっ!」

 

クルーが答えると同時、《フラクスナスの艦体が僅かに振動したかと思うと、メインモニタに映し出されていた景色が宇宙空間のそれに変わる。

 

画面いっぱいにに広がるのは漆黒の空間、煌めくなは数えきれないほどの星々である。

 

先日に自立カメラを通して見たのと同じ光景である。

 

「……」

 

士道は小さく息を呑むと、辺りを探るように移動するカメラの映像を凝視する。

するとーそこに。

 

金色に輝く長い髪をたゆたわせながら静かに眠る少女の姿を見つける。

 

 

士道が六喰の姿を見つけると同時。

再び、《フラクシナス》艦内にアラームが鳴り響く。

 

DEMの空中艦である。

 

「こっちは私達に任せて。

士道は、六喰の方を頼むわよ」

 

「了解!」

 

琴里の言葉に士道は擬似霊装を展開する。

 

それと同時に士道の身体は選外へと転送されたー。

 

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