デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第七十一話 『宇宙は燃えているか』

どこまでも続く、漆黒の中に、数えきれぬほどの星が瞬いていた。

 

ー夢を見ているかのような光景である。

現在、士道がいるのは地上から遠く離れた場所ー。

 

地球上の生命体が生きることを許されぬ不毛の地。

士道がこの場所へやってきた目的はただひとつ、この空間にひとりぼっちで眠る、孤独な少女の心を『開く』ために来たのだ。

 

「ー六喰」

 

士道は前方の空間で膝を抱えて目を瞑る少女のーその精霊の名を呼ぶ。

 

「ーふむん?」

 

士道の声に応えるように精霊ー六喰はゆっくりと目を開ける。

 

以前と同じように金色の瞳からは感情と呼べるものが窺い知ることは出来ず、ただ士道の姿を写すのみであった。

 

「うぬは確か…士道と言ったかの」

 

「覚えていてくれたようで良かったぜ。

ひょっとして寂しかったのか?」

 

 

「それで………うぬ等の上の者は何と申しておった?」

 

冗談めかして言う士道の言葉を無視して問う六喰。

 

その問いに対して士道は淀みなく答えた。

 

《ラタトスク》の本部でウッドマンから聞いた聞いた精霊達を救う理由を。

 

即ち、初めて精霊と出逢い、芽生えた感情を精霊達にも感じてほしいということを。

 

「ふむ、嘘は言ってはおらぬようじゃな…。

じゃがまだむくの疑問は残っておるぞ」

「ああ…確かにな…」

 

六喰が士道に対して投げ掛けた問いは一つ。

 

何故、精霊の力を求めるか?ということである。

だが、それに対して士道は二つの回答をー即ち、《ラタトスク》と《協会》からの返答を用意しておかねばならなかった。

 

今回、士道が用意できた回答は一つだけ《ラタトスク》側の返答のみである。

 

『さて、どうするべきかな…』

 

『それについては私が答えよう』

 

士道がどう答えるべきか悩んでいた矢先である。

声と同時にその人物-アルテスタ・クローリーのホログラムが空中に投影されたのは。

 

振り向けばDEM艦と激しい戦闘を繰り広げられる《フラクシナス》の隣に《ソロモン》が見える。

 

どうやら、ドニ達の回収を終えて《フラクシナス》と合流したらしい。

 

『五河士道。

ウッドマンから私が原初の精霊出現の場にいたことは聞いているだろう』

 

「ああ」

 

クローリーの言葉に士道が首肯する。

 

『察しの良い君のことだから私が原初の精霊をこの世界に呼び出したことも気づいているのだろう』

『………つっ!?』

クローリーの言葉がインカムを通じて聞こえたのだろう。

 

琴里がインカム越しに息を呑む。

 

いくら高性能の顕現装置を用いたとしても別次元に存在する隣界とこの世界を繋げることは不可能に近い。

 

だが、降霊術然り、天使や悪魔の召喚しかり。

異なる世界に門を開け、何かを呼び出す術は魔法の方が秀でている。

だが、それでも士道には解らない事があった。

 

クローリーがウッドマン達とともに精霊の召喚を行った理由だ。

 

 

『ウッドマン達とともに私が精霊を呼び出した理由は純粋な知的好奇心からだ』

まるで士道の心を読んだかのようにクローリーは語り出す。

彼が魔法を極めようと思った理由は真理の探求にあったという。

この世の理を解明するため、同志を募り魔術結社を作り、ただ貪欲に知識を求める日々……。

 

そんなある日のことであった。

 

彼のもと三人の人物…、エレン・メイザース、アイザック・ウェストコット…そして、エルオット・ウッドマンが訪れたのは。

 

『彼らが私の元に訪れ、聞かされた話に胸が踊ったよ。

 

それが…数多くの命を奪うことになるとは知らずに…』

 

そこまで話したところでクローリーは目を細め、再度言葉を紡ぐ。

 

『私がラタトスク機関に協力することを決めたのはそれに対する贖罪だ。

 

無論、そんなことで私が犯した過ちが消えるはずはないだろう。

だが、奪われた命の変わりに一人でも多くの命を救いたいーそれだけだ』

 

普段と変わらぬ無表情。

 

だが、発せられた言葉はとても重く、心に響くものだった。

 

「なるほどの…お主らの主張はよくわかった。

士道よ。

お主のデートの誘いを受けさせてもらおうかの…。

 

無論、こいつらを片付けてからになるじゃろうが」

 

表情を変えることなく六喰は言うと《封解主》を呼び出し、士道も両腕に魔力を纏う。

 

士道達を取り囲むように数十体ものバンダースナッチが姿を現したのはその直後のことであったー。

 

「ー【開】」

 

短い声とともに、六喰が《封解主》を虚空に突き刺し、捻る。

 

すると、文字通り空間に扉が開き岩石や機械の破片が飛び出し、バンダースナッチに風穴を開ける。

 

「はぁ!」

 

裂帛の気合いと共に士道が魔力を纏った拳を振るい、瞬く間にバンダースナッチを鉄塊へと変える。

踏ん張る地面など無い宇宙空間…。

 

強い一撃を放つことは不可能である。

しかし、事実として士道の拳は鉄の人形達を無力化していた。

その理由は簡単である。

士道が纏う疑似霊装《オーディン》がその動作と意思を察し、宇宙空間に不可視の足場を作っていたからである。

 

予め示し会わせているかのように二人は《バンダースナッチ》を鉄屑に変えていく。

 

その勢いは凄まじく、数十を越える《バンダースナッチ》も数分で数えるほどになっていた。

 

「やはり、木偶人形ではむくの相手にはならぬな…」

 

残りの《バンダースナッチ》を鉄屑へと変えた六喰が呟く。

『マスター!』

 

それとほぼ同時に《オーディン》が声をあげる。

 

理由は単純。

士道の視界の端に、機械の鎧を纏った人影が現れたからである。

DEMの魔術師-アルテミシア・アシュクロフトだ。

 

DEM艦と共に宇宙へと上がってきていたらしく、レイザーブレイドによる刺突を士道に向けて繰り出す。

 

「《塵殺公》!」

 

これに対し、士道は《塵殺公》を呼び出し、受け止める。

 

「ぐ…」

 

受け止めながらも、士道は顔を歪める。

無事に刺突を防いだと思った瞬間にはアルテミシアは次の攻撃のモーションを取っており。

放たれた残撃は重く、少しでも気を抜けば塵殺公が弾かれ、次の瞬間には士道の首が文字通り宙を舞うことになっているだろう。

 

《灼爛殲鬼》の炎が切断された首を再生できるかもわからない。

 

一瞬が数十秒にも感じられる極限な状況にも関わらず、士道は己の体よりも六喰の事を心配していた。

 

もし、ここで士道が死ねば、アルテミシアは迷わずに六喰を狙うだろう。

無論、《封解主》ならば安全圏に逃れることも可能だろうし、アルテミンシアを返り討ちにしてしまうことも考えられる。

しかし、それは六喰が心を永遠に閉じられたままであることと同義である。

死。あるいは、永遠の停滞。

 

士道がここで命を失うことは六喰にその二択しか残せなくなることを示す。

 

『それだけはなんとしても阻止しないとな…』

 

そんな事を考えていた矢先。

士道の腕に強い衝撃が走り《塵殺公》が弾き飛ばされる。

 

「ちっ…!」

 

舌打ちをしながら宙を蹴り、後方へと下がる。

 

無論、素直にアルテミンシアが逃がしてくれるはずもなくレイザーブレイドを士道に繰り出す。

 

士道は魔力を纏った両腕をクロスさせて防御の体勢を取る。

濃密な魔力によって形作られた穂先が擬似霊装ごと肌を切り裂き、灼熱感を伴った鋭い痛みと嫌な臭いを生じさせた。

ーしかし。

 

「……!」

 

そこで息を詰まらせたのは、士道ではなくアルテミンシアだった。

 

士道の腕を薄く切り裂いた刃が下方から現れた刃によりかち上げられたのである。

 

「ー士道、無事?」

 

「折紙!」

士道は目を見開き、その場に現れた二人の人物の名を呼んだ。

 

そこには光輝く限定霊装と純白のCR‐ユニットが混じりあったようなものを纏った折紙のの姿があったのだ。

 

恐らく、CRユニットだけではアルテミンシアに敵わないと考えたのかCR‐ユニットを纏った状態で霊装を展開したのだろう。

 

「わるいねー、DEM艦を沈めるのに少し手間取っちゃってさー」

 

 

漆黒のCR‐ユニットを纏ったドニがいつもの飄々とした態度でドニが言うと両腕に一対の剣を呼び出す。

 

 

「ここは、私達に任せて士道は六喰の援護に向かって」

 

六喰の方を見れば《バンダースナッチ》と良く似た無人兵器と戦闘を繰り広げている。

先ほど士道や六喰が相対していた無人兵器とはその動きは明らかに違う。

 

レイザーブレイドを繰り出すスピード。体捌き。

あらゆる面でこれまでの動きを凌駕している。

 

「《ワルキューレ》か!!」

 

空を蹴りながら、士道は叫ぶ。

以前、《DEM》の本社を士道たち《協会》の魔法使いが襲撃した時、ドニや苺が相対した《バンダースナッチ》の改造版である。

 

その機体には最強の魔術師であるエレン・メイザースのデータがインプットされており。

士道と六喰だけでは捌ききるのは難しいだろう。

 

「だが、やるしかないな!」

 

己に言い聞かせ、士道は《塵殺公》を呼び出す。

 

それに反応して《ワルキューレ》が士道にレイザーカノンを向ける。

 

士道は攻撃を受け止めるべく《塵殺公》を構える。

 

だが、衝撃も熱も士道を襲ってかない。

それもそのはずである。

 

突如、二人の少女が現れ《ワルキューレ》数体をを切り裂き、光弾によって撃ち抜いたのだ。

 

「シドー!」

 

「士道くん!」

 

その二人とは言わずもがな、十香と桜である。

 

恐らく、折紙達と共に《フラクシナス》から士道の加勢するために来たのだが、《ワルキューレ》の方に隙がなく、桜の能力で姿を隠していたというところだろう。

 

『…そうだ!』

 

二人が現れると同時、頭の中で策が浮かび。

士道は心の中で声を上げた。

 

暗い宙を、三つの影が絡み合い、ぶつかりながら横切っていく。

 

折紙とドニは随意領域を操作しながら、何度目かもしれない攻撃をアルテミシアに繰り出す。

 

「ふーッ」

 

「甘いよ!」

 

折紙の繰り出す一撃が、アルテミシアのレイザーブレイドによって止められる。

「背中ががら空きだよ!」

 

ドニが叫びながら双剣を振るう。

 

アルテミシアはこの攻撃を左手に構えたレイザーブレイドで受け止める。

 

魔力光が火花のように散り、折紙とドニの視界を目映く照らす。

 

幾度かの攻撃を経てアルテミシアから距離を取る折紙。

 

一方のドニはその顔に獰猛な笑みを浮かべながら双剣を振るい、アルテミシアと競り合っている。

 

最新鋭の機体に精霊の力をのせてもなお、アルテミシアの 実力は計り知れない。

たが、そのアルテミシアに対等に渡り合っているドニの実力もまた計り知れない。

 

自分の実力の遥か先に行く二人の戦いにただ目を見張る折紙であった。

 

右、左、上下。

 

あらゆる方向から繰り出される剣戟を受け流け止め、或いは受け流しながらアルテミシアは口を開く。

 

「へぇ、エレンを倒したって聞いたときは耳を疑ったけれど。

成る程、その強さなら納得だね」

 

「そりゃどうも」

 

アルテミシアの攻撃を彼女と同様に受け流しながらドニが答える。

 

「でも、本気は出して無いでしょ?

お兄さんひょっとしてCR‐ユニット使うの初めて?」

 

「やっぱりわかっちゃうか~」

 

剣戟を繰り出しながらにドニ苦笑を浮かべる。

 

ドニの使う魔法では宇宙空間を自由に動くことが出来ない。

その為、このCR‐ユニット《ジークフリート》を《フラクシナス》から借りてきたのであるが、いかんせんCR‐ユニットに慣れていないため本来の力を出せずにいたのだ。

 

そんなドニの言葉にアルテミシアは不思議そうな顔をして再度尋ねる。

 

「それにしても、わからないな…。

どうして君たち魔法使いは精霊を助けたりするの?」

 

「そんなのは決まっているさ」

 

ドニはそんなアルテミシアの問いに笑みを浮かべて答えた。

 

「その方が面白いからだよ」っと。

 

 

 

「「はぁぁ!」」

 

虚空から士道や十香が突如に姿を表し、その手に持った天使《塵殺公》で《ワルキューレ》を両断する。

 

先程までの劣勢がまるで嘘のように二人は攻勢に出ていた。

これは士道が考えた策によるものが大きい。

 

エレンは自分の魔力を過信するようなところがある。

 

だからこそ、突然の事態‐不意打ちに弱い。

 

それは彼女データを元に作られたのバンダースナッチとて例外では無い。

 

士道と十香は光を操る桜の力を用いて姿を消し、奇襲を仕掛けたのだ。

 

先ほどまで《ワルキューレ》に苦戦していた六喰も士道達の奇襲で態勢が乱れた所を《封解主》で空間に穴を開けデブリを打ち出して機械人形引き裂く。

 

五分と経たずに数十体はいたバンダースナッチは全滅していた。

 

「六喰、大丈夫か?」

士道が尋ねると六喰は小さく首肯する。

 

「うむ、大事ない。

どうやらむくは自分の力を過信しておったようじゃな

 

無表情に言いながら六喰は手に持った《封解主》を逆手に持ち、柄を士道に向ける。

 

「お主とデートをするにしても今のままじゃつまらぬじゃろうからな…。

士道、頼む。

うぬの手でむくの心を開けてはくれぬか…?」

 

「ああ…」

 

士道は頷くと《封解主》の柄を握り、六喰の胸に真っ直ぐ突き刺す。

鍵の先端が抵抗なく吸い込まれる。

 

 

「「……【開‐ラータイプ‐】ッ!」」士道と六喰が共に叫び《封解主》を捻ったー。

 

 

アルテミシアのバックパックについた羽のようなパーツから一斉に魔力砲が放たれる。

 

これに対してドニが構えていたのはドリルのように刀身のランスである。

 

「偽・螺旋………鎗‐カラド………ボルグ!!」

 

叫ぶと共に、ランスを投擲。

 

ドリルのように高速回転しながら偽・螺旋鎗は高速で放たれ、魔力砲とぶつかり合い爆発する。

 

「く……!」

 

爆発による凄まじい衝撃波にアルテミシアは顔を歪める。

「さすがに今のは危なかったかな…」

 

ドニから距離を置きながら、アルテミシアは息を吐く。

 

「本当に強いね…君………。

こっちもあんまり遊んでられないから早めに決着をつけないと……」

 

そこま言いかけてアルテミシアが言葉を止めた。

 

折紙は警戒した表情を浮かべ、一方のドニはその理由を知っているのか笑みを浮かべ折紙にそれを指差す。

 

《ゲーティア》ーエレン・メイザースの駈る空中艦が、黒煙と共に地球に吸い込まれていくのが見えたのである。

 

「エレン!? まさか、《ゲーティア》が…!?」

 

アルテミシアが動揺した表情を浮かべる。

 

ドニは長剣を呼び出し、その切っ先を向けて唇を開く。

 

「王手…といったところかな。

大人しく諦めなよ」

「………」

 

アルテミシアはしばし無言になったのち鋭い視線を向ける。

 

「……勘違いしちゃ駄目だよ。

確かにエレンがやられたのは予想外だったけれど、それで勝敗が決まった訳じゃない。

私たちの目的はー」

 

「しまっ……!」

「精霊を落とすこと、なんだから」

 

「《絶滅天使!》」

アルテミシアが士道達の方向を向いたの気づき声をあげるドニ。

折紙も《絶滅天使》に指示を出すが既に遅い。

アルテミシアが放った魔力砲は、《絶滅天使》の 攻撃をすり抜けて士道と六喰の方へと伸びていった。

 

 

「あ、あ………」

 

堰を切ったように溢れでてくる感情に戸惑うように声を上げる六喰。

 

そんな六喰に士道は小さく笑みを見せる。

 

「どうだ六喰。

久し振りに自分の心を開けた感想は」

 

士道の問いに六喰は答えずただ、小さな呻き声を漏らすだけである。

 

今、六喰は何を思い、何を感じているのだろう。

 

『マスター!!』

 

そんなことを考えていた士道は《オーディン》の声に六喰との距離を詰め、その体を抱き締めた。

 

六喰を貫かんと光の矢が向かってきていたのだ。

 

「くっ!《氷結傀儡》……ッ!」

 

自分の油断を恨めしく思いながら士道は叫びながら氷の盾を形成する。

 

だが、咄嗟に作った氷の盾では、その威力を殺しきることはできず、士道と六喰の体は大きく吹き飛ばされる。

 

そのまま二人は見えない力に引っ張られ始める。

地球の引力に引かれ始めたのだ。

《フラクシナス》の随意領域の外に出てしまったことが原因だろう。

『《オーディン》、《魔力瞬間換装》での脱出は…』

 

『難しいでしょうね…』

 

六喰を不安にさせないよに念話で《オーディン》とやり取りする士道。

 

『まさかどこぞのMSの真似するとは思ってなかったなぁ…』

 

場違いにも苦笑を浮かべると士道は《颶風騎士》で落下の勢いを緩和し、《氷結傀儡》で巨大な氷の壁を作り出す。

 

「大丈夫だ、六喰!

おまえは俺が守ってやる!!」

 

そう言って、六喰の身体を更に強く抱き締める。

 

そのまま二人の身体は、青い星に吸い込まれていった。

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