デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第七十六話 『夢魔の再来』

『一体…どういうことだ…?』

 

『真意は不明です…が、彼女がただ復学してきただけと考えられませんね』

 

士道の問いに首からぶら下げた待機状態の《オーディン》が答える。

 

六喰の霊力を封印した翌日、登校してきた士道が教室で出会ったのは『最悪の精霊』こと時崎狂三であった。

 

『今は事を気はないってのは確かなことだろう…』

 

その場で問い詰めた士道に狂三は暴力的な手段に出るつもりは無いと答えた。

 

彼女の言葉をすべてを鵜呑みにするつもりは無いがそれは真実だろう。

もし、彼女が暴挙に出るのであらばこの場で《時喰みの城》で校舎を覆い、意識の失った皆を彼女の分身体が人質に取ることも可能だ。

 

『何にせよ向こうからアプローチを仕掛けてきたんだからこのチャンスは活かささんとな…』

 

狂三が言うには彼女が提示したある条件をクリアすれば士道に霊力を引き渡しても構わないとの事だった。

若干、胡散臭い感じもしなくもないがこれは大きなチャンスだろう。

 

一応、狂三については琴里に念話で伝えてはあるし十香や折紙もいるため余り心配は要らないだろう。

 

狂三の事を疑っているわけでは無いが万が一に備えておいてもやりすぎと言うことはないだろう。

 

ーそこまで士道が考えていた所で朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り響き、タマちゃん先生と副担任兼、《ラタトスク》解析官である令音が教室へと入ってくる。

 

「皆さん、おはようございます。

いきなりなんですが今日から二週間の予定で教育実習生の方が来てくださることになりました。

相良さんです。」

 

タマちゃん先生の言葉と共に教室の扉が開きその人物が姿を現す。

 

「なっ!?」

 

 

それと同時に士道が目を見開く。

 

何故ならば…。

 

「教育実習生の相良苺じゃ。

これから二週間、皆よろしく頼むぞ」

 

その人物は士道の魔法の師である相良苺…そのひとその人だったからである。

 

 

 

 

後から知ったことであるが《協会》の魔法使いが占術で狂三が復学してくることを予知していたため、念の為に苺を教育実習生として派遣することになったのだ。

 

そんなこんなで時は過ぎて放課後。

 

士道は携帯で時間を確認すると、呼吸を調えるように息を吐いて顔をあげる。

 

授業が全て終わった放課後。

クラスメート達は下校し、教室には、士道、十香、折紙、桜、凛祢、八舞姉妹の姿しかない。

 

士道が残っている理由は一つ。

ー狂三と改めて話をするためだ。

 

彼女が指定してきた場所はこの校舎の屋上。

「さてー」

 

士道は軽い動作で椅子から立ち上がる。

 

「さて…そろそろ行ってくるか」

 

士道が言うと十香が不安そうに眉を寄せた。

 

「むう……大丈夫かシドー、やはり私たちもついていった方がいいのでは……」

十香が言うと他の精霊達も同意を示すように頷く。

 

「十香の言うとおり。危険すぎる」

 

「士道くん一人では不安なんだよー」

 

「士道、私、士道がいなくなっちゃいそうで怖いよ…」

 

「闇を纏いし漆黒の精霊を相手取るには、我らの力が不可欠だろう」

「同意。夕弦たちもお供します」

 

士道は苦笑すると首を横に振る。

 

「ありがとうな、みんな。

でも、大丈夫だ。

確かに狂三は危険な精霊かもしれないが自分の言葉を翻したりはしない」

 

『大丈夫ですよ皆さん』

 

士道の言葉を肯定するようにスマホから鞠亜が答える。

 

 

『もし、狂三が士道に何かしようものなら私たちが命をかけて守りますから。

ねっ、鞠奈。』

 

『仕方ないわね…士道はこの私が責任をもって守ってやろうじゃないの』

 

「悪いな、鞠亜、鞠奈。

それじゃ、皆。

行ってくる」

 

未だ不安そうな表情をしていた十香だがすぐに首を振って無理やり明るい表情を作る。

 

 

「うむ。シドー、武運を祈る!」

 

 

「ああ」

 

力強く頷いた士道は皆を教室を残して走り出す。

 

そして階段をかけ上がり、屋上に繋がる扉の前へと。

 

するとそこで右耳に装置した小型インカムから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

『わかっているとは思うけど、くれぐれも無茶苦茶はしないでちょうだい。

いくら《フラクシナス》で監視しているとはいえ、狂三の天使は少し規格外よ。

何が起こるかわからないわ』

 

琴里からの通信である。

今は《フラクシナス》で上空から士道たちの様子を見守っているようた。

 

 

「ああ、わかってる。

それにもしもの時に備えて苺さんも近くに待機しているようだしな」

 

『そう、なら遠慮なく狂三と話し合ってきなさい』

 

「おう」

 

琴里の言葉に力強く答えるると扉を開き屋上へと出た。

 

「ーー」

 

光に目を細目ながらその只中にいる少女の姿に焦点を合わせる。

 

「ーあら」

 

フェンス越しに街を眺めていた狂三が、士道の登場に気づいてか振り向く。

 

「うふふ、ようこそ。

よくいらしてくださいましたわね、士道さん」

 

狂三はそう言うとステップを踏むような歩調でこちらに歩み寄ったのち、スカートの裾をつまみ上げて仰々しく礼をした。

 

その優美な様似目を奪われそうになる。

だが今はそんなことに気を取られている場合ではない。

思い直すように狂三の顔を見据えた。

 

「さあ、狂三。

約束通り来たぞ」

 

「………」

 

士道が言うと、狂三は士道の顔を見つめたのち、唇を歪めた。

 

「朝も思いましたけれどー少し、変わりましたわね、士道さん」

 

「え……?」

 

「初めて会ったときよりも、顔つきが大人びている気がしますわ。

まあ、あれだけの修羅場をくぐってこられたのですから、当然かもしれませんけど。

うふふ……素敵になられましたわね」

 

「……茶化さないで教えてもらおうか。

朝の話の続きを。

ーーお前の霊力を封印する条件ってやつを」

 

士道の言葉に狂三が再び唇を歪める。

 

美しくーそれでいて恐ろしい笑みの形。

夕日を背にした彼女の姿は、士道を冥府へ誘う死の使いにすら見えた。

 

「ええ、ええ。

ではお話ししますわ。

わたくしはーーー」

ーーーと。

 

狂三が言葉を紡いだ、その瞬間。

 

「………っ!?」

 

突然、士道は強い目眩を覚えた。

 

否……目眩ではない。

 

まるで何者かによって強制的に電源を落とされるような感覚。

以前にも覚えたことのある表現しがたい喪失感。

人体の生命活動の範囲を容易く越えた『何か』に、体を蹂躙される、一瞬の感覚。

つまるところ『死』の感覚である。

 

 

 

 

「ーーー道さん、士道さん」

 

「………!」

 

狂三に名を呼ばれ、士道は目を見開いた。

 

『マスター?』

 

《オーディン》が怪訝そうな声で尋ねてくる。

 

『悪い、何でもない』

 

答えながら当たりを見回す。

 

今士道が立っているのは先ほどと変わらず来禅高校の屋上である。

目の前には、美しい夕日に彩られた狂三が立っていた。

 

そこまで認識したところで、士道の頭の中には、ふと自問めいた思考が浮かんできた。

ーー俺は、何を当たり前の事を確認しているんだ?

 

そう。 今、士道が確かめたのはわかりきったかとばかりである。

 

数秒間意識が盗まれ、その後初めから記憶が辿られたかのような違和感。

ゲームでいうところのリセットボタンでもおさろたかのような感覚である。

 

「大丈夫ですの、士道さん」

 

「あ、ああ……すまん。

少しボーッとしてー」

 

言いかけてまたも妙な違和感に襲われる。

いつも余裕を纏う狂三の顔に僅かではあるが疲弊が見えたような気がしたのだ。

 

「狂三……? おまえこそ……」

「ーーあら、あら?」

 

士道が言いかけると狂三は眉の端を揺らしたのち、いつものような調子で声を発してきた。

 

「何かにわたくしにおかしなところでもございまして?」

 

「……あ、いや」

 

一瞬にして狂三が士道の知る顔に戻り、士道は言葉を濁す。

「ーーさて、では話を整理いたしましょう」

 

そんな士道の思考を知ってか知らずか、狂三が身ぶりを加えながら話を続けてくる。

 

「わたくしの目的は、以前と何も変わっておりませんわ。

士道さんがその身に蓄えた精霊の霊力……それをいただきたいだけですの。

復学の理由も至極単純。

先の六喰さんを封印したことにより、士道さんの体には実に十人分もの霊力が蓄積されていますでしょう?

ふふふ、そろそろ頃合いかと思いまして。」

 

「………」

 

士道は狂三から視線を外さず、無言を以てそれに答えた。

 

『いただく』。

 

それはつまり霊力を士道ごと食らうということでありー士道の死と同義である。

いくら精霊の頼みとはいえ、許容することは出来ない。

 

とはいえ、それは狂三も重々承知しているだろう。

妖しいしぐさで指で自分の唇に触れ、笑いながら続ける。

 

「そして士道さんの目的は、私の霊力を封印すること……そうですわよね?」

 

「……ああ。ただ、それだけじゃ不十分だな」

 

「と、仰いますと?」

 

士道ね言葉に、狂三が小首を傾げてくる。

士道はそんな狂三に指を突きつけた。

 

「お前の霊力を封印して、お前に今までの罪の償いをさせてーーその上で、お前に幸せな生活を送ってもらう。

それが俺の、俺達の救急目標だ」

 

「あら、あら」

 

士道が言うと、狂三は可笑しくてたまないといった様子で身を折った。

 

「うふふ、士道さんはお優しいですわね。

ーですが残念ながら、わたくしもそれを受け入れるわけにはいきませんわ。

 

士道さんの言う『幸せな生活』に興味がないわけではありませんけれど、わたくし、霊力を失うわけにはいきませんの」

 

狂三が、唇に当てていた指を前に掲げる。

「さて、困りましたわね。

わたくしと士道さん、二人の望みはまさに平行線。

このままどちらの希望も叶わぬまま、無為に時が過ぎて行くばかり……」

 

すると狂三はもう片方のてでも人差し指を立てると、先に掲げた指へと近づけていった。

「ねぇ、士道さん」

妖艶に微笑んで、狂三が指と指を触れあわせる。

まるでー口づけをさせるように。

 

「このまま二つの線が永遠に交わらず、双方の希望が宙に浮いたままでいるよりも、片方の望みが成就した方がよいとは思いませんこと?

 

ーたとえ、それによってもう片方が、全てを失うことになったとしても」

 

狂三が小首を傾げるような所作で言う。

「……っ」

 

士道はその言葉に含まれた剣呑な雰囲気を察して身構える。

数瞬の間、緊迫した空気が流れる。

 

だが、そんな空気を作り出した狂三は一人笑う。

 

「そう構えないでくださいまし、士道さん。

言ったはずですわよ。

私は、力ずくで士道さんの霊力を奪うつもりはございませんわ」

 

「……じゃあ、一体どうするつもりだ?」

 

疑わしげな目で士道が問うと、狂三は待ってましたとばかりに大仰に手を開いた。

「うふふ、そこは士道さんの流儀に則ってさしあげますわ」

 

「…?」

 

「ふふ」

 

狂三はその場で身を翻すと、ステップを踏むように靴底で床を打ち鳴らした。

 

「ーーわたくしと士道さん、相手をデレさせた方の勝ち……というのはいかがでして?」

 

「………はっ?」

 

 

予想外の提案に士道は、唖然とした声を発してしまった。

 

「デレさせたほうの……勝ち?」

 

「ええ、ええ」

 

狂三は囁くようにゆっくりと士道に近づいてきた。

 

「わたくは、またしばらくこの学校に通うつもりですの。

 

その間にわたくしが士道さんに恋してしまったなら、わたくしは自身の霊力を士道さんに捧げますわ。

…でェ、もォ、もし士道さんが先にわたくしに恋をしたなら、わたくしの勝ち……そのときは、士道さんを『いただき』ますわ」

 

どう考えても妖しい条件である。

無論、狂三も自信があるからこのような条件を提示してきているのだろう。

 

無論、士道とて十一人の精霊をデレさせその力を封印してきたのだ。

 

ここで退けば彼女達に会わせる顔がない。

 

「ーいいぜ」

 

士道は狂三に指を突きつけると、唇の端を上げた。

 

「その勝負、受けて立つ。

お前に、おまえの全てより、俺を選ばせて見せる」

 

士道が答えると狂三は楽しげに笑みを濃くした。

 

「うふふ、ふふ。

それでこそ士道さんですわ。

それでこそ、わたくしが認めた方ですわ」

 

言って身を翻しー狂三は戯けるように開戦を宣言した。

 

「さあーーわたくしたちの戦争を、始めましょう?」

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