デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第七十七話『勝負の行方』

翌朝、とびきりの笑顔で狂三が五河邸ので待ち受けていたり。

 

登校中に耳に息を吹き掛けられたり、始業までに時間があるからと寄った路地裏で猫と戯れたり。

 

昼休みに士道謹製のニャンコ弁当を食べて狂三が身悶えしたりと。

 

士道はその命と霊力、狂三は霊力を賭けたものとは思えないほどの程にホンワカとした戦いを繰り広げるもその日には決着が着くことはなかった。

 

そして勝負は翌週の水曜日ー

 

二月十四日ー聖バレンタインデーへと持ち越されることになたたのだ。

 

「…んっ?」

 

狂三との勝負が引き分けに終わったその日の深夜。

 

士道はベランダから聞こえた物音に目を醒ます。

 

「まさか狂三か…?」

 

 

泣く子も眠る丑三つ時。

 

こんな時間帯にベランダから物音を立てる存在となると泥棒か狂三ぐらいである。

 

何時でも《オーディン》を起動できるように握りしめつつ、カーテンを開ける。

だがそこには誰の姿も無い。

 

それどころか、士道がカーテンを開けると同時に物音も聞こえなくなっていた。

首を捻りながら窓を開けてベランダに出る。

冷たい空気に眠気が覚めていく。

 

否ー士道の眠気が取れたのは冷たい空気のせいだけでは無い。

 

『《オーディン》、疑似霊装の準備を頼む』

 

『了解しました』

 

相手の姿は見えないが冷たい空気に混じって得たいの知れない霊力のようなものを感じたのだ。

 

「いつまでも隠れてないで出てこいよ!」

 

暗闇に向けて声を張り上げる。

 

 

「ーふふ、見つかっちゃったぁ」

 

「へぇ、意外と鋭いんだぁ」

 

『やっぱり、狂三とは違うようですね』

 

「ああ」

 

ベランダに響く複数の声は明らかに狂三のものとは違うものだ。

 

そもそも、士道がベランダに出た時に感じた霊力が狂三のそれと違うものであったため、訪問者は新たな精霊であろうと予想していた。

 

「姿を現したらどうだ?

それとも恥ずかしがりなのか?」

 

警戒しながら士道が言うとそれに応えるように、辺りから笑い声が幾重にも聞こえてきた。

 

ーそして、それと同時に空から、数枚の紙が落ちてきた。

 

「……!」

 

警戒した士道は室内へと下がる。

 

「えー?そんなに警戒しないでよぅ」

 

ベランダに落ちた紙はぼんやりと光を放つと同時にそこから拗ねたかのように頬を膨らませた少女が姿を現した。

 

「何者だ…?」

 

疑似霊装を展開しながら士道は少女を観察する。

 

鞠奈と似た容姿をした少女である。

 

「《オーディン》」

『ええ、《神蝕篇峡》ですね』

 

士道の言葉に《オーディン》が答える。

ベランダにに落ちてきた紙のようなもの。

そこから現れてきた少女。

士道はこの光景と似たようなものを見たことがあった

 

昨年の末、反転した二亜が魔王《神蝕篇峡》から異形を召喚した時のとよく似ていた。

だが、あのとき《神蝕篇峡》から召喚したのは目の前の少女とは似ても似つかわない異形だ。

《神蝕篇峡》に他の能力があるのかはたまたー。

 

「私たちは《ニベルコル》っていうの。

いい名前でしょ」

 

士道の呟きが聞こえたのか少女の一人が答える。

 

「それで?目的は何だ?

よもやデートに誘いに来たとかでは無いだろう?」

 

「それはもちろん」

 

「君の命をもらうためだよ」

 

士道の問いにニベルコル達が答える。

 

「つっ…!」

 

机の上の携帯電話を素早く掴むと同時に扉を開け廊下に出る。

 

そのまま窓を突き破ると屋根づたいに逃亡を開始する。

 

無論、後方からニベルコルは追ってきているが、それも構わない。

 

五河邸でニベルコルと対峙していたら琴里達を巻き込んでしまうからだ。

 

士道とニベルコルは屋根から屋根へと移動を続け、その場所ー来禅高校のグランドへと着地する。

 

「あれ?もう追いかけっこはおしまい?」

 

「じゃあ、死ぬ覚悟はできたってことだよね」

 

「遺言あれば効いとくよ」

 

 

「悪いがここでやられるわけにはいかないんでな!」

 

笑い声をあげるニベルコルに士道が声をあげる。

 

ー瞬間、大小様々な形の刀剣が降り注ぎニベルコルの小さな体を貫いた。

 

この場所に来る道すがら、士道はドニに連絡を入れておいたのだ。

 

そしてこの場所にニベルコルを誘き寄せ、迎撃する事に成功したのだ。

 

「士道、無事かい?」

 

「ああ、助かったぜドニ」

 

刀剣を投擲していた屋上から降りてきたドニと拳を付き合わせる士道。

 

「でっ?何者なんだい彼女達?」

 

「恐らく、《神蝕篇峡》から召喚された人工精霊だ」

 

串刺しとなった《ニベルコル》を見ながら尋ねるドニに士道が答える。

 

「なるほど…っとどうやらまた来たようだね。

今度は手伝ってよ士道」

 

先ほどのように地面に紙片が落ち、再びニベルコルが姿を現す。

 

「おう!」

 

《塵殺公》を呼び出した士道はドニの言葉に頷いたー。

 

 

「…っ」

 

目覚ましの音に士道は目を醒ます。

 

「夢…か?」

 

何と言うべきか異常にリアル感がある夢だった。

頬や掌には戦闘の緊張感からか僅かに汗ばんでいる。

 

早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるため、立ち上がり深呼吸をする。

 

『とりあえず、飯でも作って落ち着こうかね…』

 

そのようなことを考えながら一階へと降りていく。

 

「………ん?」

 

階段を下りているところで、士道は眉の端を揺らす。

一階から味噌汁の良い匂いと包丁でまな板を叩くような小気味のよい音が聞こえてきたのである。

 

誰かが朝食の準備をしているようである。

『琴里…にしては包丁の使い方が上手すぎるよな』

 

最初は起きるのが少し遅くなった士道に対して、琴里が気を利かせて朝食の準備をせてくれたのかと思ったが彼女にしては包丁がまな板を叩く音が軽快すぎる気がした。

 

そのような事を考えながら士道は一階へと下りていきー

 

「………」

 

リビングにいた人影に半眼を作る。

 

「ーん? ああ、おはよう、士道」

 

ソファーに腰かけた女性が手を降って挨拶をしてくる。

 

「これはなんのつもりだ琴里?」

 

ソファーに座った琴里はどう見ても士道より年上に見えた。

年齢は二十歳ぐらい、手足はすらりと伸びており。

顔つきも大人びている。

髪は括っておらず、その代わりに黒いリボンが手首に結ばれている。

 

だが、何よりも目についたのは同世代に比べても若干控え目だったその胸が大きく成長していたのだ。

 

そんな琴里が裸にワイシャツ一枚という姿でソファに座りながら気だるげにテレビを見ているのである。

その佇まいはどう見ても出社前のOLといった風情である。

 

「なんのつもりって?」

 

「いきなり成長するにしてもその胸は不自然過ぎーふもっふ!?」

 

言葉の途中で顔面に琴里の投げたクッションが炸裂し、士道は奇声を上げる。

 

 

「士道さん」

 

と、士道がクッションの直撃を受けた鼻の頭を擦っていると、今度はキッチンからそのような呼び声が聞こえてくる。

 

目をやると成長を経た四糸乃が、朝食の準備をしているのが見えた。

 

髪を一つに纏め、腕まくりをし、シンプルなデザインのエプロンを纏ったその姿は、まさに若奥様という言葉が相応しい姿だ。

 

ついでと言わんばかりに子供サイズになった折紙と美九、ニ亜の姿があった。

 

どういうわけか皆首に、『私たちは抜け駆けしました。

とてもすみません』

と書かれた札を下げていた。

 

後になって聞かされた話なのだか三人とも士道に夜這いをかけようとしたらしい。

 

「不覚。でも私は諦めない。

年上が姉になれないなんて誰が決めたの」

 

「やーん!

なんで私たちは小さくなってるんですかお!私ももっとだーりを誘惑したいですぅ!」

 

「あっはっは、まぁ対比物があった方がオトナってわかりやすいしねぇ。

ほら、私たちがいることによってただの奥様がお母様属性持つわけじゃん?」

 

「は……!? そ、それはそれで…!」

 

二亜の言葉に美九が天啓を受けたような顔をする。

そののち、甘えた様子で四糸乃の足にしな垂れかかった。

四糸乃は苦笑しながらそんな美九の頭を優しく撫でると、士道に視線を戻してきた。

同時につけ髭を着けた左手のウサギのパペットよしのんが手招きをしてくる。

 

『士道、母さんが味見をしてほしいそうだよ。

ちなみに私はお父さんだよ』

 

「あの…お願い、できる果てなく」

「あ、ああ…」

 

若干呆気にとられながらも四糸乃の方へと歩いていく、そして、彼女の手から小皿を受け取り味噌汁の味をみる。

 

「うん……美味い、ちゃんと出汁も取ってあるしな…」

 

 

「本当?なら……あの、よかった」

 

言って、四糸乃が微かに笑みを浮かべる。

 

いつもの四糸乃とは違う包容力溢れた雰囲気に癒される士道。

 

「で?だいたい予想はついてるがこれはなんなんだ?」

 

士道が問うと足元から小さな折紙が声を発してきた。

 

「訓練の一環」

 

「一応言っておくが、狂三の色香に惑わされる程チョロくは無いぞ?俺は?」

 

 

「もちろん、わかっているわよ。

 

信用してるわよ士道」

 

 

「………ところで琴里や四糸乃がお姉さん化してるのは何でだ?」

 

「士道はお姉さんに迫られたらコロッといってしまうかと思って」

「全然信用してねぇじゃねぇか!?」

 

早朝の五河家に士道の叫びが木霊した。

 

 


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