デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第八十話『精霊の誕生』

イギリスービックベン…地下。

《協会》の本部でアレイスタ=クローリーは目を瞑り昔の事を思い出していた。

 

20年前…スコットランド。

…。

 

標高1344mの英国最高峰であるこの山に、漆黒のローブを身に纏い、険しい山道を歩くクローリーの姿があった。

彼の目的地はこの山中にある魔法使いの隠れ里だ。

 

中世の魔女狩り以降、クローリーのような一部のものを除き魔法使いは迫害から逃れ隠れ里に住むようになっていた。

彼らは外界との接触を絶ち自給自足の生活を営んでいる。

 

数日前、《協会》の魔法使いが依頼を受けたのだが自分の実力に見会わないとのことでクローリーを呼び寄せたのだ。

 

「んっ?」

 

ローブと木靴というどう見ても登山に向かない様相で山道を歩くクローリーは何かに気づき足を止める。

 

だが周辺にあるものと言えば雪を被った山道のみ。

特に変わったものはように見えた。

否、目を凝らせばほんの僅かであるが山肌に何か文字のようなものが彫られていることが確認できる。

『なるほど…』

 

クローリーは心の中で一人ごちると山肌に彫られた文字をなぞる。

 

ー瞬間。

周りの風景は一変していた。

 

その場所に険しい山道などはなく、牧草が生い茂る小高い丘のような場所であった。

見渡せばレンガ造りの家が数件ほど見ることができる。

 

先ほどクローリーが触れた岩肌に彫られた文字は転移魔法の術式だ。

魔力を持った人間が文字に触れることで特定の場所へと転送されるのである。

 

この場所がクローリーの目的地である魔法使いの集落である。

 

「随分と遅かったの、クローリー」

 

声のした方向を見ると鍔広の三角帽子を被り、マントを羽織った小柄な女性の姿があった。

相良苺ー協会の魔法使いであり、クローリーを呼びつけた人物である。

 

「少しばかり歩いてみたくてね」

 

苺の言葉にクローリーは柔和な笑みで答える。

彼の魔法を使えば数秒と要せずに苺の元へと来ることが可能だが、今回はそれを用いなかったため苺から連絡を受けてから3日の日を要したのだ。

 

「それで、その男は護衛かの?」

 

訝しげに目を細めてクローリーの後ろにいる男に苺は視線を向ける。

 

無精髭を生やした東洋人である。

 

「ああ、なかなか腕がたつ男だよ切嗣は」

 

道中に何度か賊に遭遇したが切嗣はそれらを悉く無力化していた。

もし、彼がいなければこの場所に到着するのがもう少し遅れていたかもしれない

 

「さて、村長に挨拶を済ませてから依頼人に会うとしようかの」

 

「ああ」

 

「お主、随分と嬉しそうにしておるの」

何処かワクワクした様子で先を促すクローリーに呆れた表情を浮かべる苺。

 

クローリーにとって他の魔法使いとの交流は新たな発見をもたらしてくれるのだ。

 

「そんなに急かすのなら転移してくればよかったのではないかの?」

 

「わかってないなー、苺は」

 

子供のように目をキラキラさせるクローリーに呆れた様子の苺。

そんな苺にクローリーは人差し指を立てててこう切り返す。

「我慢すれば我慢するほどに楽しいことはもっとたのしくなるものさ」

 

「そういうものかの?」

 

「ああ、そういうものだ」

 

断定するようにクローリーは答える。

 

そんなクローリーの楽しげな表情に苺はため息を漏らすことしか出来なかった。

クローリーが受ける依頼と言うのはこの集落の子供たちに魔力の扱い方の手解きをするというものであった。

 

無論、普通に魔法を教えるだけならばこの集落の大人たちや苺でも可能だ。

だが一人だけ魔法の才能に抜きんでた者がいた。

アイクという名の少年である。

実力は申し分ないのだが《協会》の魔法使いとして招くには些か若すぎるため、クローリーが赴くことにしたのだ。

実際、アイクの実力はクローリーの思って以上のもので与えられる知識を次から次へと吸収し、己のものへとしていった。

そんなアイクへ知識を伝授するのが楽しくてクローリーは《協会》の雑務の間を縫ってはこの里を訪れるようになっていた。

 

 

「ああ…なんということだ」

 

炎に包まれた村を見て、クローリーは地面に膝をつく。

 

火の不始末でないのは明白だ。

明白な害意や殺意をもって何者かが火を放ったのだ。

辛うじて燃える家から逃げ出した人々が、そとに控えていた男たちにより銃撃され、その場に倒れ伏す。

 

彼らが何者かはわからなかったが、その狙いが、魔術師たちの根絶にあることは疑いようがなかった。

 

「おい!ここにも化け物がいたぞ!」

 

男が叫びながらクローリーに銃を向ける。

 

向けられるのは明確な敵意。

 

「ー」

 

それに対してクローリーは無言で立ち上がり、小さく何事かを呟く。

 

ー瞬間。

 

クローリーに銃を向けていた男が白目を向き痙攣するとその場で倒れる。

 

クローリーに銃を向けていた男だけではない。

 

村のあちこちで悲鳴すら挙げずに男たちが倒れていく。

 

泡を吹いて絶命している男たちに目もくれずクローリーは生存者を探して歩き出した。

 

その後ー村を見渡す小高い丘でクローリーはアイク達を保護し自分の元へと引き取ることにした。

 

それからクローリーは時間の許す限り彼らにあらゆる魔法を教授する。

神智学、穏秘学、降霊術、錬金術、黒魔術、ゴーレム学。

ありとあらゆる知識を吸収していった。

それから十数年が経過したその日、ユーラシア大陸中央部にクローリーを含めた五人の人物の姿があった。

アイク、カレン、エリオット、四人から少し離れた場所にカレン。

クローリーの元で研鑽を積んだ四人の魔法使いの姿があった。

自分たちの研究成果を見せたいと何を行うかを知らせずクローリーを連れ出したのだ。

 

「ーさあ、始めようか。

カレン、準備を」

 

 

通信機越しにアイクがカレンに声をかける。

 

それと同時、円を描くように設置された装置ー魔力炉が低い唸りを伴って駆動を始める。

天から、地から、空気中から。

この世界を構成するありとあらゆる物質に宿るマナが光となって渦巻く。

ー【精霊術式】。

 

それが、アイクたちがその儀式につけた名称である。

 

世界に在るマナを一点に集め、新たな生命を生み出すというものである。

 

『これはー』

 

クローリーは集まりゆく膨大なマナにようやく事の重大さに気づく。

恐らく、これが収束すればこのユーラシア大陸の半分以上が吹き飛ぶことになるはずだ。

 

だが、マナが収束しきったこの状況で無理に術を止めれば更なる被害が訪れる可能性があった。

 

「アイク。これでー」

 

「ああ。精霊を生まれる。

ー世界を覆い尽くす新たな世界を伴って」

 

 

エレンの言葉にアイクは唇の端を上げながらそう言った。

 

「ー随意領域。

人が思い描いたことを現実とする、万能の空間。

計算が正しければこれより生まれ出でる精霊が持つその空間は、地球を覆い尽くすほどの規模を誇っているはずだ。

それこそ、もう一つの世界ー隣界、と呼ぶべき規模のものをね」

 

「アイク、君は、君たちは自分が何をしようとしているのかわかっているのかね?」

 

 

前に突き出した手を拳の形にするアイクへとクローリーは問い詰める。

 

「ええ、先生。

隣界はあなた方が言うところの固有結界。

それを以て、この世界を上書きする」

 

その言葉にクローリーは戦慄を覚え、声を荒げる。

 

「世界そのものを固有結界に作り替えるだと!

そのようなことが赦されるとでも…っぐ!!」

 

 

だが、その叫びも腹部を襲う、熱と激痛に中断される。

 

クローリーの着るローブは特別製であり、ちょっとやそっとの攻撃などではそうそうに傷がつけられることはない。

 

自身の魔力が暴走する痛みにクローリーは攻撃の正体を知る。

 

『切嗣か…』

 

切嗣の得意とする魔法《暴走》は文字通り対象の魔力を浸食、暴走させるものだ。

 

「残念だよ、先生。

あなたなら我々の理想を理解してくれると思っていたのですが…」

 

残念そうに言うエリオットの言葉と同時に凄まじい衝撃波閃光が巻き起こりクローリーの体は吹き飛ばされて彼は意識を失った。

 

次にクローリーが目覚めたのは現在いる場所と同じ巨大なビーカーの中だった。

ユーラシア大陸の三分の一を消し去った巨大な爆発の後。

調査のため《協会》から派遣された魔法使いが意識を失った状態のクローリーを発見したのだ。

 

切嗣の魔法で魔力が暴走した後もローブに込められた防御術式は無事に作動してくれたらしく、命を繋いでくれたようだ。

 

「して、お主はこれからどうするつもりじゃ」

 

目覚めたクローリーに苺が尋ねる。

 

「ああ…アイク達には代償を払ってもらわねばならない…沢山の命を奪ったね」

苺の問いに静かにクローリーは答える。

それは士道が《協会》の魔法使いになる、そして《協会》が《ラタトスク》と同盟を組むの十年ほど前の話であった…。

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