デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第八十二話 『夢魔の忠告』

「マズイよな、やっぱり」

 

 

自宅の部屋で少年は頭を抱えた。

だが、それもそのはずだ。何しろ。

 

「…むう」

 

少年は目の端で部屋の隅のベッドに腰かける少女の姿を見やった。

 

「………」

作り物のような美しい少女が部屋の中をゆったりと見回している。

さっきまで少年の着ていた上着を羽織ってはいるがせの下には何も着ておらず、彼女が動く度に艶かしい肌が覗く。

そう。

謎の大爆発から一時間後。

少年はあろうことか、その現場のど真ん中にいた少女を、自室に連れ込んでしまっていたのだ。

 

「………いや、いや、いや」

 

は断じてやましい思いなどは無い。

…仕方のないことだったのだ。

 

少年は頭の中で言い訳を繰り返しながら、一時間前の出来事を思い起こす。

 

(ーき、君、大丈夫か?怪我は?)

 

大穴の空いた地面に佇む女神と見まがうばかりの少女に目を奪われていた少年は、ようやく金縛り状態から脱して、そんな問いを発した。

少女が何者かはわからないが、今この状況が普通のものでないことは確かだ。

ひとまずはこの生存者の状態を確認することが先決と考えたのだ。

 

しかし、少女は少年の声に反応するように視線を寄越してきたものの、何を話すでもなく、そのまま少年の顔を見つめるのみだった。

 

『う…』

 

少年は、自分を見つめる宝石のような瞳に頬を赤くする。

 

すると少女がようやくその唇を開く。

「………、あ………、う………」

だが、それはおよそ言語と呼べるものではなく、呻きー否、苦しげというわけでもない、ただ喉を震わせて音を発しただけといった様子だ。

 

『……? 喋れない…のか?』

 

少年は眉をひそめ、思考を巡らせた。

 

ーもしかすると、あの爆発のショックで喋れなくなってしまているのだろうか?

とにもかくも、このままでは少女が風邪を引いてしまうかもしれないと考えた少年は自ら来ていた上着を脱ぎ、少女に着せてやった。

 

「……!っ……?」

 

上着が肩に触れた刹那、少女が驚いたように目を見開き、体を震わせた。

 

「ごめん…驚かせたか? でも、流石にこのままじゃ」

 

少年が慌てながら弁明すると、少女は目を瞬かせながら、肩にかけられた上着をさすったり、引っ張ったりし始めた。

 

「………」

 

やがて、それが暖かいものであることを理解したようにホッとした表情を作る。

 

「……歩けるか? いや、裸足じゃ痛いか。

もし嫌じゃないならおぶるから、とにかくここから移動しよう。

君、自分の家なんかは……」

(………?)

 

少年の言葉に、少女がきょとんとした目をする。

 

(……わかるわけないよな)

 

少年は頬をかきながら苦笑すると、少女の前にかがみ込んだ。

 

ーそして、現在に至る。

 

「違うんだ。違うんだ。」

 

少年は誰にともなく訴えかけるように呟いた。

 

少年としても最初は少女を少女を病院につれていこうと考えた。

だが、核でも投下された後のような街の惨状。

怪我人も膨大。

しかもそれらを収容すべき最寄りの大型病院は更地になっているのだ。

そんな混乱状態で少年が一旦少女を休ませる場所に、被害を免れていた自宅を選んだのはそうおかしな判断ではない。

 

少年は四人家族ではあるが、両者は長期出張で家を開けている。

しばらく休むくらいは問題ないはずでー

「ー兄様!無事ですか!」

 

瞬間。

そんな声と共に部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

見るとそこに、一人の少女がいた。

一つに括られた髪に、特徴的な泣き黒子。

今日は休日のはずだったが、部活があったのだろう、黒のセーラー服を纏って肩に鞄をかけ、片手に竹刀袋を握っていた。

走って帰ってきたのか、額には玉のような汗が浮かび、肩は激しく上下している。

 

「ー真那」

 

少年は妹が無事だったことに安堵する。

 

「あっ…」

 

それと同時に何かを思い出したかのように声をあげる。

 

少年の顔を見てホッとした様子を見せた妹の顔がみるみるうちに怪訝そうな色に染まっていったのだ。

だがそれも無理からぬことである。

兄の部屋に半裸の美少女がいたら彼女でなくともそんな顔になるだろう。

 

「………」

 

真那は少年と少女の顔を交互に見つめると、しばらくの間黙り込んだのち、ゆっくりと少年のもとに歩いてきて、その肩に優しく手を置いた。

「……大丈夫。

真那は兄様の味方です。

これからしっかり罪を償っていきましょう」

 

「何も大丈夫じゃないだろ!?」

たまらず叫ぶが真那は聞いていない。

少年は誤解を解くために首を横に降った。

 

「待て、待て!俺が彼女を連れてきたとか考えないのかお前は!?」

 

 

「兄様に限ってンなことあるわけねーでしょう!

妹舐めてやがるんですか!」

 

「言い切りやがったなコノヤロウ!」

 

「じゃあ、そうでいやがるんですか?」

 

「……違いますども」

「ほら見たこじゃねーですか」

 

 

真那の問いに視線を反らしながら答える。

すると真那は憤然と息を吐き、竹刀袋から愛用の竹刀・貪狼丸(真那命名)を抜いて少年に斬りかかる。

慌てて白刃取りで受け止める。

「白状しやがりなさい! いったいどこから誘拐してきやがったんですか!!」

「とりあえず聞け!! この子は…あの爆発があった場所にいたんだよ!」

 

「……えっ?」

 

少年が訴えかけるように叫ぶと、真那はようやく竹刀を握る力を弱めた。

 

「どういうことでいやがりますか?」

 

「そのままの意味だ。

さっき俺があの爆発に巻き込まれたときにー見つけたんだよ」

 

少年は少女と出会ったときの状況と、ここにつれてくるに至った経緯を説明する。

 

すると真那は考えを巡らせるような仕草を見せながら、少女の方を見た。

 

「なるほど。兄様が頭を打ったか幻覚を見たかしてねーことを前提に考えると……」

 

「嘘をついてるとは考えないんだな」

 

「兄様が真那に嘘をつくわけねーでしょう。

真那の兄様ですよ」

 

少年の言葉に真那はきっぱりと答えた。

兄を信じているのかいないのかはっきりとわからない妹である。

 

「とにかく、その前提で考えた場合、異常が多すぎます。

その子はいったい何者で、なんでそんなところにいやがったんですか」

 

「俺に聞かれてもわかるはずないだろう」

 

少年が首をすくめると、真那が視線を鋭くして少女を睨む。

「……まさか、この子があの爆発を起こした、なんとことはねーですよね?」

 

「阿呆か?

人間にあんなことができるわけがー」

 

「ーくしゅんっ」

 

と、少年と真那が小声で話し込んでいると、不意にベッドの方からそんな可愛らしい声が聞こえた。

 

どうやら少女がくしゃみをしたようである。

 

そういえば、上着は羽織らせたものの、未だに少女はその下に何も衣服を身に付けていなかったのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「何やってるんですか兄様。

仕方ねーですね。

真那の部屋着を持ってきやがりますからちょっと待ってー」

「……ん、あ……」

 

と、真那が自分の部屋に向かおうとしたところで、少女が鼻を啜りながら真那の方を見つめた。

次の瞬間、少女の周りに淡い光の粒子が纏わり付いていったかと思うと、彼女の体に、真那が着ているものと同じデザインのセーラー服が出現していった。

 

「は……?」

 

「え……?」

 

目の前で起こった超常現象に、少年と真那は顔を見合わせた。

 

 

「……ぐはッ!」

 

腹部への強い衝撃で士道は目を覚ます。

暫し瞬きすること数秒、何者かが自分の腹部に乗っていることに気づく。

言うまでもなくその何者かとは琴里のことである。

どうやら琴里に荒っぽく起こされたらしい。

 

辺りを見ると、見慣れた自室の様子が見てとれた。

そう。

士道が寝ていたのはフラクシナスの医務室ではなく、天宮市にある自宅である。

あのあと医務室で一休みしたあと、皆と一緒に食事を摂り、地上へと戻ってきたのだ。

 

「……琴里、いい加減に降りて…」

 

「とうっ」

 

くれと言う前に琴里が士道の腹を蹴って床に飛び降り、見事な着地を決めた。

 

「毎度のことだがもう少し優しく起こせないか?」

 

「むっ、その言い方だとまるで私がおにーちゃんにいきなり飛び乗ってるみたいで誤解を招くじゃん。

ちゃんと普通に起こしてから、段階を踏んでこの形になってるんだよ?」

 

「一応、聞くが具体時にはどう起こしてるんだ?」

 

「階段で大きめな足音を立てる」

 

「……副産物まで無駄にしない姿勢は評価しよう」

 

士道がため息混じりに言うと、琴里はその真意に気づいてないのか照れくさそうに笑った。

が、すぐに何かを思い出したかのように半眼をつくると士道を見つめてくる。

 

「なんだよ?」

 

「んー……いや、そういえばおにーちゃん、さっき寝言で『真那』『誤解だ』とか呟いてたなーって思って。

一体どんな夢見てたの?

なんで私じゃなくて真那なのー?」

 

「うーん」

 

今まで見ていた夢を必死に思い出そうとするが、何も思い出せなかった。

 

「……駄目だ、全く思い出せん。

ところで今何時だ?」

 

言いながら、士道はベッドの枕元にあったスマートフォンに手を伸ばす。

 

随分とぐっすりと眠っていたらしく窓からは既に明るい日差しが差し込んできていた。

 

「……って、九時!?マジかよ、もう学校……」

 

始まっていると言いかけて思い出す。

 

士道は現在DEMに命を狙われている状況なのである。

わざわざ警備が手薄かつ、周りに被害がでそうな所へと行こうとする愚策を起かす訳にはいくまい。

「気づいてくれたようで助かるわ」

 

ポケットから取り出した黒いリボンに括り直した琴里がやれやれと首を振る。

 

「狂三はどうしてるんだろうな……」

 

今、士道はDEMに命を狙われている状況である。

軽々と動くことは出来ない。

だが、それと同時に、狂三を攻略している最中でもあるのだ。

もしも狂三が士道に会うために学校にいるのならば、それを無視することは出来ない。

そんな士道の気持ちを琴里は理解してくれているのだろう。

吐息しながらも、首肯してくる。

「それはわかってるわ。

うちとしても、狂三を放っておくわけにはいかないし。

ー今、〈フラクシナス〉から自立カメラを飛ばしてるわ。

もし狂三の姿を認めたら、特例でコンタクトを認めてあげる。

もちろん下校時のリスクを避けるために〈フラクシナス〉から直接学校に降りてもらうことになるけど」

 

「ああ……ありがとう。十分だ」

 

言って、士道は琴里に頭を下げた。

琴里は頬をかきながら、少し恥ずかしそうに視線を逸らす。

が、次の瞬間。

 

 

「ーあら、あら。

嬉しいですわ。

『わたくしの』のために随分と気を回してくださいますのね」

 

「はー」

 

「え?」

 

突如、予想外の声が右方から声が響き、士道と琴里は同時にそちらをむいた。

 

「……狂三!?」

 

そこには床に蟠った影から膝下まで浸かった体勢の狂三がそこにいた。

 

二人の目の前にいるのは紛うことなく時崎狂三その人である。

けれど今二人の目の前に現れた狂三は、普段のように髪を括っておらず、代わりに薔薇の髪飾りを着けていた。

服はモノトーンのゴスロリ調でー何より、右目を医療用の眼帯で覆い隠している。

かつて士道が五年前の世界に戻った祭に出会った狂三でありー先日、狂三の真実を伝えてくれた分身体だ。

「うふふ、ごきげんよう、士道さん、琴里さん」

 

影から完全に姿を現してから、眼帯の狂三がスカートの裾を摘まんで優雅に礼をする。

だが、そんな慇懃な挨拶にも、琴里は警戒を緩めず、緊張感を帯びた視線で彼女を見つめながら唇を開く。

 

「おはよう、狂三。

今日はずいぶん素敵な格好をしてるじゃない」

 

「うふふ、お上手ですわね、琴里さん。

さすが、血が繋がっていないとはいえ士道さんの妹さんですわ」

 

狂三がたおやかに微笑む。

その毒気のない様子に、琴里も少し違和感を覚え始めたらしかった。

「……でも、マナー違反じゃないかしら?

人様の家に勝手に上がり込むだなんて」

 

「あら、あら、これは失礼いたしましたわ」

 

琴里の言葉に狂三が素直に頭を下げる。

が、狂三はすぐに怪しい笑みを顔に張り付けると、そのまま続けた。

「では、そのお詫びと言うわけではありませんけれど、代わりにいいことを教えてさしあげますわ」

「いいこと……?」

 

琴里が怪訝そうに眉をひそめると、狂三は「ええ、ええ」と言いながら艶かしい仕草で唇に指を触れさせる。

 

そして、真っ直ぐ士道と琴里を見据えて、静かに言葉を発する。

 

「ー今から四日後の二月二十日。

DEMインダストリー社が、その総力を以て士道さんを殺しにきますわ」

 

その、絶望的な言葉を。

 

「……ほう?」

 

だが、士道は至って冷静に目を細める。

「……どういうこと?」

一方の琴里は額に汗を垂らしながら狂三を睨み付ける。

すると狂三は、目を伏せながらあとを続けた。

「どういう、と仰られましても。そのままの意味ですわよ。

世界一位の顕現装置メーカーにして、世界最多の魔術師戦力を保有する組織が、全知の魔王の情報力と、幾千幾万の自動人形、そして無数の疑似精霊を、たった一人の人間を殺すことにのみ注ぎ込もうとしているーと言っているのですわ」

 

確かにDEMはこれまでに幾度も士道の命を狙ってきたし、狂三の言葉によれば実際幾度も殺されていた。

とはいえ、それはあくまでもこちらの隙を衝いて士道の命を刈り取っていく、いわば暗殺である。

 

しかし、今狂三が語ったのは、明らかに圧倒的な全力に物を言わせて敵を殲滅するー戦争とも呼ぶべきものだった。

…否、狂三がこうして情報を提供してくれていなければ士道は備えなく押し潰されていたわけで、それは一方的な『虐殺』っと言った方が妥当だろう。

狂三の言葉に、琴里が険しい顔で腕組みしながらそう言った。

 

「そのありがたい情報を、わざわざあなたが伝えてくれた理由は何かしら、狂三。

ー一体、何が目的なの?」

 

「あら、あら。

邪推が過ぎますわよ、琴里さん。

わたくしはただ、士道さんの身を案じているだけですわ」

 

「ふうん…」

 

琴里が疑わしげに目を細める。

 

そして、眼帯の狂三の真意を探るようにその顔を睨め回した。

 

そんな琴里の様子に、眼帯の狂三は苦笑する。

 

「琴里さんは、一つ勘違いをしておられるご様子ですわね」

「…勘違い?」

 

「ええ、ええ」

 

眼帯の狂三は大仰に頷くと、芝居ががった調子で続けた。

 

「分身体が今ここにいることを、『わたくし』ーあなた方の呼ぶ本物の時崎狂三は知りませんの。

先ほどわたくしが情報を流したのもまた、わたくしの独断ですわ」

 

「え……?」

「なんですって?」

 

士道と琴里は困惑の表情を浮かべる。

それも当然だ。

今目の前にいる眼帯の狂三は、本物の狂三の過去を切り取った分身体。

基本的には、狂三の指示にしたがって動く尖兵であるはずだった。

そんな二人の表情を可笑しそうに眺めながら、眼帯の狂三は続ける。

「『わたくし』はこの件を、『わたくし』たちのみで処理するつもりですわ。

ー何度繰り返すことになろうと、士道さんが生き残る道を掴むまで」

 

「……っ」

 

「けれど、そんな『わたくし』の行動も、敵には知られているでしょう。

ーそれ故の総力戦。

それ故の殲滅戦。

DEMは今回の作戦で『わたくし』の心を挫くつもりでしてよ」

 

「………、なるほど」

 

たっぷりと一拍置いてから、琴里がそんな言葉を溢す。

 

「つまりあなたがここに来た理由は士道に避難を促すため……ってわけ?

狂三達が戦っている間、《ラタトスク》に士道を保護していろと」

 

琴里が言うと、眼帯の狂三は顎に一本指を当てて答える。

 

「確かにそうしていただけるとありがたいですけれど、それだけでは正解にはできませんわね」

 

「……?なら、どうしてあなたは本物の狂三に黙って、私たちにそれを伝えにきたっていうのよ」

 

琴里が訝しげな顔で問うと、眼帯の狂三は悪戯っぽく微笑んだ。

「単純な理由ですわ。

『わたくし』がそれだけ頑張っているというのに、守られている士道さんがそれを知らないなんてもったいないではありませんの」

 

言って、士道を見つめながらウインクをしてみせる。

 

士道は苦笑する。

「……なるほどな」

 

「……本物の狂三も、あなたくらい話がわかると助かるのだけど」

 

琴里が腕組みしながら憎まれ口を叩くと、眼帯の狂三は楽しげに笑う。

「うふふ、ふふ。

それは申し訳ありませんわ。

『わたくし』、少々強情なところがありますの。

ーでも、士道さんを守りたいという気持ちは本当ですのよ?

それだけは、わかってくださいまし」

 

「ふん……そのあとに、『士道の霊力を奪うため』って言葉がつかなければ吝かじゃないけど?」

 

「……うふふ」

 

琴里が言うと、眼帯の狂三は弁解をするでもなく静かに笑った。

そしてスカートを翻しながら、後方を向く。

 

「ーさて、わたくしの目的は達しましたわ。

これで失礼します。

『わたくし』のために、どうか生き延びてくださいまし、士道さん」

 

言って、眼帯の狂三が、自分の影の中に沈み込んでいく。

 

「狂三!」

 

士道は眼帯の狂三が消えてしまう前に、慌ててその背に声をかけた。

 

「はい? いかがしまして、士道さん」

腰元まで影に浸かった眼帯の狂三が、それに応ずるように振り向く。

 

「教えてくれてありがとう。

もし可能なら、狂三に伝えてくれ。

ーありがとう。

俺はおまえのおかげで、今も生きている。

前はろくに礼も言えずにすまなかった。

お前が今からやろうとしていることも聞いた。

俺を守ってくれて本当にありがとう。

でも」

 

士道は視線を鋭くすると、胸に抱いた思いのままに続けた。

「ー悪いが俺にだって男の意地がある。

お前に助けられてばかりじゃいられない。

DEMなんて纏めて片付けて、きっとお前の前に立つ。

そして今度は俺からお前の唇を奪ってやる。

覚悟しておけよ」

 

自分でも恥ずかしくなるくらいに気障ったらしく言う。

 

「………」

 

眼帯の狂三は数秒程呆けた様子で士道を見ていたが、

「……ぷ、ふふ」

 

やがて、堪えきれないといった様子で腹を抱えて笑い始めた。

「あははは、はははははっ!

なるほど……素晴らしい啖呵ですわ。

『わたくし』は幸せ者ですわね」

ひとしきり笑った後、眼帯の狂三は目元を拭いながら返す。

「…でも、酷なことをしますわ、士道さん。

先ほど申し上げたではありませんの。

わたくしは、『わたくし』に内緒でここへ来ていると。

その伝言を伝えるということは、わたくしが独断専行をしていたことを白状するに等しいではありませんの。

思い通りに動かぬ手足は間引かれるが定め。

わたくしに死ねと申しますの?」

 

「ああ、すまんな」

 

士道は狂三の言葉に頭を下げる。

 

「嗚呼、嗚呼。本当に非道いお方。

ーさんな言葉、この首を賭けてでも『わたくし』に伝えたくなるに決まってるではありませんの」

 

心底楽しげに言って、眼帯の狂三は影の中へ消えていった。

「……」

 

「……」

 

暫しの間、部屋に沈黙が流れる。

 

士道も琴里も、眼帯の狂三が消えた場所を凝視したまま、静かに思案を巡らせていたのだ。

 

「……なあ、琴里」

 

「……ええ」

 

やがて士道が口を開くと、それを待っていたと言わんばかりに、琴里が答えてきた。

 

「あなたの言う通りよ士道。

精霊に全てを任せるなんて、《ラタトスク》の名折れもいいところだわ」

 

そしてポケットから一本のチュパチャップスを取り出し、指で回転させてから、口に放り込む。

 

「ー狂三に、DEMに、私たちのやり方を見せてあげましょう」

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