デート・ア・ライブ~救世の魔法使い~   作:灰音穂乃香

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第八十四話『終焉の足音』

―雲を裂くようにして 現れるDEMの空中艦。

その数は30。

《ラタトスク》の把握しているDEMインダストリーの保有艦の全てが天宮市の空に終結していたのである。

 

「―来たわね」

 

その光景を《フラクシナス》の艦長席で見ていた琴里が口にくわえていたチュッパチャプスの棒を立てながら正面のメインモニターを睨み付けけた。

 

「DEM御一行様ご案内。

全員あなたをご指名よ、士道。

モテモテじゃない」

そして冗談めかすように言いながら、士道に視線を向ける。

士道は苦笑しながら肩を竦めた。

 

「せっかく来てもらって残念だが俺の好みじゃないし。

丁重にお帰り頂こうかな」

 

士道が言うと琴里は艦長席から立ち上がり、肩掛けにしたジャケットを翻しながら足を踏み出した。

『《フラクシナス》館長、五河琴里よ。

まずは、皆の協力に心よりの感謝を。

―さて、皆のモニターにももう映っているかしら?

私たちの街に、不躾な来訪者が現れたわ。

粗野で乱暴なやり方で、精霊の力を奪い取ろうとする。

最低最悪のDV男よ。

さぁ、皆。

礼儀を知らない乱暴者どもに教えてあげましょう。

正しい女性の扱い方を。

優雅なエスコートの仕方を。

―私たちの、戦争の、やり方を』

 

『了解!』

 

琴里の宣言に応えるように、艦橋下段や通信機のむこうから力強い声が響いてくる。

空気を震わせる迫力に、士道は思わず身を反らす。

 

「すごい熱気だな…」

 

「うむ、琴里も格好よかったぞ」

 

士道の隣にいた十香が、同意するように頷く。

それに対して琴里は肩を竦めながら振り向く。

 

「もし十香が抱いたような感想を、皆が感じてくれていたのは御の字ね。

みんなの戦意を高揚させるのも司令官の仕事だから。

でも、理想は頭はクールに、ハートは苛烈に、が理想ね」

 

言って、指を一本立てる。

我が妹ながらやたらと格好よく見えたのだ。

しかし、琴里は微かに眉を寄せながら続けてきた。

「―とはいえ、お世辞にも有利な状況とはことは理解しておいてちょうだい。

顕現装置の性能でこそ勝っているとはいえ、正面から殴り会うには戦力差がありすぎるわ」

 

『…………』

 

琴里の言葉に、艦橋に居並んだ精霊達が息を呑む。

 

琴里は『でも』と言いながら皆の方に向き直った。

 

「その戦況を覆しうる存在―それが、あなたたちよ」

 

そして精霊たちの顔を順に見つめ、言葉を続ける。

 

「……精霊を守る組織の司令官が、精霊に助力を乞うなんて、歪なことをしてるって承知してる。

でも―お願い。

力を貸してちょうだい。

《ラタトスク》司令官として……」

 

 

琴里はそこで言葉を切ると、「ううん、違うわね…」と言って、頭を下げた。

 

「士道の妹として、お願い。

―私のお兄ちゃんを、助けて」

「当然だ!」

 

十香が、足を一歩踏み出しながら声を上げた。

 

 

すると、それに応ずるように精霊達が頷いた。

 

「私たちにも……手伝わせてください」

「そうですよ!

むしろ私たちをのけものにしたら怒っちゃいますぅ!」

 

「戦意高揚させるのが司令官の仕事だって?

あはは、じゃあ妹ちゃん、今めっちゃ司令官じゃん」

 

「みんな……」

 

皆の言葉に、琴里が目に涙を滲ませかけて―すぐに手の甲でそれを拭う。

 

そして気を取り直すように咳払いすると、再び決意の表情と共に顔を上げた。

 

「―ありがとう。

でも、だからこそ。ここからかの行動が重要となるわ。

 二亜、ここでの会話は《神蝕篇帙》に覗かれてないと考えていいのね?」

 

琴里が問うと、二亜は大仰に頷いた。

「ん、今の《神蝕篇帙》は検索にえっらい時間がかかるし、もう大丈夫。

…で、どんな悪巧みすんの?

ムックちんの天使でどこでもドアしていきなり本丸攻めとか?」

 

二亜がシャドーボクシングのような動きをしながら言う。

すると六喰が眉を八の字にする。

「すまぬが、それは無理かもしれぬのじゃ。

霊力を封印されてから、長距離の移動は難しくなかたての…」

 

「あ、そーなの?」

 

「当然、向こうも警戒してるだろうし、孔を通ったその場エレンに感知されて首を落とされる…なんてこともあり得るだろうな」

 

士道が肩をすくめて言うと折紙と真那に目を向ける。

 

「折紙と真那の《バンダースナッチ》を無力化しうる案について聞かせてくれるか?」

 

「わかった」

 

折紙が真那と視線を交わしてから小さく頷き、士道の言葉に答える。

 

「でもその前に、鞠奈と鞠亜に確認したいことがある」

 

『? 何でしょうか、折紙』

 

折紙の声に答え、艦橋のスピーカーから鞠亜と鞠奈の声が響く。

 

「―前も言った通り、《バンダースナッチ》は、DEMの新型顕現装置《アシュクロフト―β》によって稼働している。

 

その詳細な構造がわかれば、ジャミングを飛ばしてその行動を阻害することは可能?」

 

折紙が言うと鞠亜は少し考え込むように黙ってから言葉を返す。

 

『理論的には可能ですが、あまり現実的とは言えません。

もしもDEMから詳細な設計データでも盗み出せるというのならば話は別ですが―』

「《アシュクロフト―β》が、魔術師アルテミシア・アシュクラフトの脳をモデルに作られていると言ったら?」

 

「……なんですって?」

 

折紙の言葉に表情を歪めたのは琴里だった。

 

士道もまた、訝しげに眉をひそめる。

 

「アルテミシア…ってエレンと一緒にいた女だよな?」

 

「ええ。元英国対精霊部隊のエース魔術師です」

 

真那が、腕組みしながら答える。

 

「DEMの顕現装置は、人間の脳で以て外部から制御しなければならねーものでしたが、彼女の脳をトレースすることによって、顕現装置内に制御機能を組み込むことに成功しやがったんです」

 

「―もしも彼女を捕縛することができたなら、その脳波データをもとに《アシュクロフト―β》へのジャミングコードを組成することは可能?」

 

『……、多分可能ね』

 

数秒の沈黙ののち、鞠奈が言う。

その答えに、精霊達やクルーが色めき立つ。

 

しかし、すぐにマリアがそれを制するように続ける。

 

『ですが、それはあくまでアルテミシアを捕縛することができれば、の話です。

彼女の魔力値はエレンに次ぎます。

いくらこちらに精霊がいるとはいえ、そう簡単には』

 

「―それについては、考えがある」

 

「考え?」

 

士道が言うと、折紙と真那は同時に頷いた。

「彼女はどちらかというと、DEMのやり方に懐疑的でした。

ああも従順にDEMに従うとは考えづれーです。

私や折紙さんのことを覚えていないことから見ても、何らかの記憶処理を施されている可能性がたけーかと」

 

「そう。

だから―皆の力を借りたい」

 

 

折紙が、淡々と作戦を述べる。

その提案に、精霊たちは目を見開いた。

「かか、面白い。

確かにそれならば可能やも知れぬわ」

 

「首肯。

さすがマスター折紙。

素晴らしい案です」

 

「ふむん…よかろう。

やってみるのじゃ」

 

口々に言って賛同を示す。

琴里はしばしの間考え込んでいる様子だったがやがて決断したように顔を上げた。

 

「―わかったわ。

でも、くれぐれも気をつけて」

 

「うむ!」

 

「……うん、わかった。

絶対無理しない」

 

十香が力強く、七罪が目を逸らしながら頷く。

 

琴里はそれに首肯を返すと鞠亜と鞠奈に視線を向けた。

 

「さ…次はあなたよ、鞠亜、鞠奈。

もし仮に今の作戦が成功しても向こうには《ニベルコル》の大軍がいる。

あれを何とかしないことには、ウェストコットを押さえることは不可能よ」

 

『わかっています』

鞠亜は静かに答えると鞠奈がその言葉を次いだ。

 

『《ニベルコル》は、《神蝕篇帙》の力をベースに生み出された疑似精霊。

それは解析結果からみても間違いはないわ』

 

鞠奈の《ニベルコル》の対策を聞いていた皆の表情を驚愕の色を帯びていった。

「な………本気か、鞠亜、鞠奈」

 

「そ、そんな……大丈夫なんですか……?」

 

「何言ってるのよ、二人とも!

状況を理解してるの!?

そんなこと許可できるわけないでしょう!」

 

皆が動揺し、琴里が絶叫じみた声を上げた。

だが、それも無理からぬことだ。

それくらい、二人の提案は意外すぎるものだったのである。

「もちろん、理解しています。

今の状況も。

私の提案がどれくらい非常識なのかも。

―ですが、琴里の言った通り《ニベルコル》をどうにかしない限り、私達の勝利はあり得ません。

そして《ニベルコル》を無効化する方法は、他に無いと断言します」

 

「でも……」

 

『安心しなよ』

 

琴里の言葉を遮るように、鞠亜と鞠奈が映るモニターにもう一人、少女が映る。

雷華だ。

既にほとんど精霊の力が無い彼女であるがオペレーター要因として今回の作戦に参加すると言うことだ。

 

『私が最大限のバックアップをする。

超魔術師級のハッカーの実力を舐めてもらってわ困る』

 

それまで黙っていた士道も、雷華の言葉に賛同するように声を上げる。

 

「やろう。

それしか方法がないなら。

むしろ…この上なく俺たちらしいやりかたじゃないか」

 

「士道…」

 

琴里は一瞬不安そうな顔で士道を見たが―直ぐに頬を張ると、視線を鋭くする。

「…そうね。その通りだわ」

 

そしてジャケットを翻し、再び前方を向く。

 

「各艦に通達!

作戦を共有するわ!

必ず成功させるわよ!」

 

『了解!』

 

琴里をに答えるクルー達の声が、艦橋を震わせる。

 

それを一身に浴びながら、琴里は頬の端を上げた。

 

「―まずは、教えてあげようじゃない。

天宮市で私達と戦うっていうのが、一体どういうことかを」

 

眼前では狂三の分身体と《ニベルコル》、バンダースナッチが戦闘を繰り広げていた。

 

 

《協会》の空中艦《ソロモン》の甲板上、ドラゴンを模したレリーフの掘られた《ラタトスク》製のCRユニット《ブリュンヒルデ》を纏ったドニはそれを一瞥すると意識を集中させる。

 

数秒後、その手にあったものは普段、彼が使う双剣ではなく大型の弓である。

 

《赤原猟犬‐フルンディング‐》。

ドニが作り出せる武器の中で数少ない遠距離攻撃用の武器だ。

 

「さて…敵の数は多いし空中艦数隻は撃ち落とそうかね…」

 

『距離はだいたい2000ぐらいかな…』

 

一人ごちるとドニは獲物との距離を測りながら再び意識を集中させる。

 

「トレース、オン」

その言葉と共に魔力を練り上げる。

 

手の中に出現したものはドリルのように螺旋状の刀身を持った剣である。

 

《偽・螺旋剣‐カラドボルグ‐》

 

本来は馬上槍のような大型の槍なのだが、《赤原猟犬》に合わせて小型で取り回しやすい形状へと改造したものである。

 

「折紙ちゃん、真那ちゃん。

少し良いかい?」

 

『何?』

 

『なんです?』

 

《赤原猟犬》に《偽・螺旋剣》をつがえながらドニは 真那と折紙に呼び掛ける。

 

「今から、敵艦を数隻沈めようと思うんだけど、もしこれから言うポイントの近くにいるんなら離脱してくれないかな?」

 

『いやいや、いくらドニさんでも空中艦を沈めるのは難しくねーですか?

それ以前にどんだけ距離があると思ってやがるんですか!?』

 

『わかった』

 

どこか戸惑い気味の真那と了承する折紙。

 

真那が困惑するのも無理はない、顕現装置により強化された分厚い装甲を撃ち抜くのは非常に困難なことと言える。

それこそ空中艦の主砲を用いるか天使の力を解放でもしないかぎりは不可能に近い。

 

真那の中の感覚ではそうなのだろう。

 

『そう簡単には空中艦は落ちねーと思いやがるんですけどねー』

 

半信半疑と言った様子で呟く真那。

 

二人の言葉を聞くとドニはつがえた《赤原猟犬》の弦を引き絞る。

 

それと同時に《偽・螺旋剣》が細い矢へと形を変えていく。

 

そのまま弓を引き絞った体勢で目標の空中艦を見据える。

狙うのは横に並んで航行している艦隊の右端。

 

「―我が骨子は捻れ狂う………《偽・螺旋剣》」

 

短い詠唱と共に、弦から手を離す。

 

轟っという音とともに放たれた矢は螺旋状の軌道を描きながらバンダースナッチや《ニベルコル》を周辺の空間ごと削り取りながら空を駆け抜け、一隻の空中艦に直撃。

中規模の空間震ほどの爆発が引き起こされ六隻の空中艦が消し飛ばされる。

 

空中艦もシールドを張っているはずだが、そんなものは最初から無かったかのように跡形もなく消滅させたのである。

 

『ドニさん…マジでぱねぇです』

 

先程まで空中艦のあった場所を見て、呆気にとられたように真那が呟いた。

 

 

今回の作戦を並行して、効率的に行うべく、いくつかのチームに別れて行動を行っていた。

 

折紙、真那、四糸乃、六喰はアルテミシアを無力化して《フラクシナス》へ護送、その脳波データーを以て《バンダースナッチ》の稼働停止を目的としたチーム。

 

《フラクシナス》には、全体の戦況を見て指示を発する琴里に、解析を補助する二亜と雷華、鞠亜・鞠奈。

その側には《破軍歌姫》を持つ美九と、《贋造魔女》でそれを模した七罪が控え、天使の演奏で皆の能力を向上させる。

桜と凜音と苺は《ソロモン》でクローリーの作戦のサポート。

 

《ニベルコル》対応班として、十香と八舞姉妹、士道。

そしてー。

 

「やってくれますね、魔法使い」

 

最強の魔術師‐エレン・メイザースがレーザーブレイドをドニに向けて言う。

 

そう、ドニに割り振られた役割は最強の魔術師であるエレンの作戦終了までの足止めである。

 

「この間の続きといこうか最強の魔術師…」

 

舌なめずりをしながらドニは両手に双剣を産み出す。

 

瞬間―。

 

合図もなく二人の最強が激突したー。

 

 

 

 

疑似霊装を身に纏った士道が《ニベルコル》の唇を奪っていた。

 

「なっ…!?」

 

驚愕したように大きく目を見開いた《ニベルコル》は淡い光とともに、泡と消え、一枚の紙が地面に落ちる。

 

その紙も、地面に触れた瞬間、光の粒子となって消えた。

 

これが鞠亜と鞠奈の考えた作戦。

 

擬似的なものとはいえ、《ニベルコル》も精霊であることに変わりない。

だが、精霊の封印には好感度が必要である。

仮に《ニベルコル》の隙をついてキスできたとしても相手はDEMに生み出され、明確な敵意と殺意を持って士道の命を狙っている精霊である。

霊力の封印が可能とは思えなかった。

 

だが、《ニベルコル》は《神蝕篇帙》の力に産み出された精霊。

そして魔王《神蝕篇帙》は、元はニ亜の天使《囁告篇帙》だったのである。

即ち、《ニベルコル》の封印可否は、二亜の好感度は連動しているということであある。

 

「は……っ!?」

 

「何よ―それ……!」

横から士道とニベルコルのキスを見ていた他の個体が、目を見開いて声を震わせる。

すると他の個体も先程の個体のように、恍惚の表情で光と消えていった。

 

《ニベルコル》は、一にして全、全にして一の群体生命。

 

それゆえ、『キスをされた個体』と『自分がキスをされたと認識してしまった個体』に、同様の効果が現れる可能性があるということである。

完成された群体にして、死のない軍隊、《ニベルコル》の意外な弱点。

 

「―さあ、始めようか《ニベルコル》。

俺とお前の、戦争の時間だ」

 

士道は静かに、力強くそう宣言すると、《ニベルコル》を挑発するように指を曲げてみせる。

 

「……っ!」

 

「舐めんじゃ―」

 

「ないわよーっ!」

 

封印を免れていた《ニベルコル》たちが、その表情を怒りに染め、一斉に襲いかかってくる。

 

【魔力瞬間換装っ!】

 

士道は自分の声に《破軍歌姫》の霊力を乗せ《魔力瞬間換装》を発動させる。

 

「だぁらぁぁぁッ!」

 

「死んじゃえぇっ!」

 

叫び、《ニベルコル》が四方から同時に攻めてくる。

 

焦っているように見えて冷静な対応である。

確かに士道の唇はひとつしかない。

 

多方面から迫られては、同時に対応することは不可能である。

 

しかし。

 

《破軍歌姫》と《魔力瞬間換装》を用いた今の士道は光の速さすらも凌駕する。

 

迫り来る《ニベルコル》をかわし、一体を捕らえ、唇を奪う。

 

「―ん」

 

「………っ!?」

 

「は……はにゃあ」

するとその個体と、その光景を目撃してしまった個体が、またも纏めて光の粒子となった。

 

「な……なんなのよ、あんたはァァッ!」

 

遠方に陣取っていたため生き残っていた《ニベルコル》が、悲鳴じみた声と共に展開する。

 

今度は士道に突っ込んでは来ず、身体の周囲に浮遊していたページが円錐状に丸まり、その先端を士道に向けてきた。

 

「なるほど、キスで封印されてしまうなら、近づかなければいい。

単純だが良い手だ。

がー」

 

既に《魔力瞬間換装》の効果は切れている。

だが、未だに《破軍歌姫》の効果は健在、円錐が発射されるよりも早く士道は足に力を入れて《ニベルコル》に肉薄し、その唇を奪った。

 

「あん……っ」

 

「あふっ―」

 

蕩けるような声を残して、周囲の《ニベルコル》が消えていく。

 

遠くに残る《ニベルコル》たちが、怯えるように声を漏らした。

 

「さぁ……次は誰だ?」

 

「き……きゃぁぁっ!」

 

「お父様ぁぁぁっ!」

 

悲鳴を上げて、《ニベルコル》が逃げ惑う。

 

「なんか、俺が虐めてるみだいだな……」

 

『マスター、百回以上彼女達に命を奪われていることをお忘れなきよう』

 

頬をかきながら呟く士道に《オーディン》が答える。

 

「言われてみればそうだな」

 

言いながら士道は逃げ惑う《ニベルコル》、立ち向かってくる《ニベルコル》、恐怖に震えて瓦礫に身を隠す《ニベルコル》。

 

それらに一切区別なく、士道は優しく言葉を囁き、唇を奪っていく。

 

異常に気づいた《バンダースナッチ》や他の魔術師たちが上空から駆けつけようとするが、士道を守る任を帯びた十香と八舞姉妹を突破できるものはいなかった。

 

やがて、地上にいた《ニベルコル》の大半が、光と消える。

 

「ふー」

 

だが、未だに《ニベルコル》の姿は地上に溢れている。

 

士道は彼方に見える《ニベルコル》の密集地へと駆けていく。

 

と―

 

「シドー!」

 

不意に上空から、十香の声が響く。

 

次の瞬間、士道は背後に何者かの気配が現れたのを感じた。

《オーディン》が感知していないとなると《ニベルコル》ではない。

そうなると思い当たる人物は一人しかいない。

 

「よう、狂三。

以外と早かったじゃないか」

 

「………あら、あら。

やっぱりお気づきでしたのね、士道さん」

 

言って士道が振り替えると、左右色違いの目を持つ怪しい笑みを浮かべた少女がそこにいた。

 

 

 

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