私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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UA18000突破……お気に入り900突破……まだランキングに乗ってる……? なにこれ、こわい。
皆様のおかげで頑張らせていただいています。ありがとうございます。しかも、誤字報告&修正までして下さって、ほんともう、頭が上がりません。

今回も日記形式じゃないんだ……うん、『また』なんだ。ごめんよ。
恐らく小話の間は日記形式になることは少ないと思われます。日記でない場合は今回のように日にちが書いていないので、ご注意ください。


GE〜GEB 間話
第一部隊 壱


 アーク計画を阻止し終末捕食をくい止めたその日、アナグラでは二重の祝いを込めたパーティーが開かれていた。

 一つはもちろん、ヨハネス・フォン・シックザール元支部長の計画を阻止したもの。こちらがパーティーのメインである。そしてもう一つは……。

 

 「それにしても、今日がマモルの誕生日だったなんてな。知らなかったよ俺、どうして教えてくれなかったんだろう」

 

 コウタの呟きに、一同は揃って頷いた。そう、今日は四月四日……誰にも知られていないはずであった筒井マモルの誕生日である。

 第一部隊隊長、筒井マモル。その実力は間違いなく極東支部のトップではあり、アナグラでその名前を知らない人は最早いない。しかし、問題児という部類に……いや、それすらも超えるキチガイとして『頭のおかしい死に急ぎ野郎』や『死神が匙を投げた狂人』など恐れられていることもある。

 誤解を招くのを避けるために弁明するが、性格自体は至って温厚なのだ。優しくもあり、冷静でもあり、ノリは良いし言葉遣いや礼儀もしっかりとなっている。中性的な顔なのも相まって、一見好印象間違いなしの少年なのだ……ある一面を除いては。

 それはアラガミとの交戦……ゴッドイーターとしての活動を行う時に多く見られる。マモルのような新型は神機を近接での戦いを可能にする剣形態と遠距離からの攻撃を可能にする銃形態に変形させることが出来る。それにより臨機応変に連携を取ることが可能であり、新型と共に任務に向かうゴッドイーターは安心して前か後ろを任せることが出来るのだ。

 しかし、マモルは違った。刀身がロングブレイド、銃身がブラストという近接に特化しているのがマモルの神機の組み合わせだ。あくまでブラストの砲身は爆発弾や放射弾を扱う時に使いやすいというものであり、別に弾丸系のバレットやレーザー弾なんかを使ってもそこまで支障はない……のだが、マモルのバレットは全属性を込めた爆発弾と放射弾オンリーなのだ。

 ロングブレイドにもインパルスエッジと呼ばれる剣形態でも銃撃を放つことが出来る固有技がある。最悪の場合、これで弾丸を撃てば遠距離でも事足りるのだが……マモルの場合、これも爆発系しか発動しないようにさせていた。そう……もののみごとに彼は臨機応変に動けるという新型の利点をぶっ壊したのだ。

 それでも結果を出しているものだから文句は言えない。むしろそれらを巧みに使って空を自在に飛ぶなんていう離れ業を使い出したのだから、苦笑しかゴッドイーター達には浮かばなかった。

 

 そんな第一部隊隊長の誕生日が今日である。

 

 「それにしても遅いですね、ユイ。いつの間にかいなくなっていたリーダーを探しに行ってもう十分は立っているはずですが」

 

 「多分、隊長さんが抵抗してるんじゃないかしら?」

 

 「全く…………気配を消すなんて無駄に高度な動きを習得しやがって」

 

 第一部隊の面々はそんな隊長に呆れた顔をしていた。どさくさに紛れてロビーからいなくなっていたことにいち早く気づいたユイは、いつも通りに元気な声を出しながらエレベーターへと向かっていったのだ。その間、残されたメンバーや防衛班、オペレーター等で計画阻止の方のパーティーとしてアナグラは賑わっていた。

 

 「そうだ! あいつの誕生日ってわけだし、待ってる間マモルの話でもしようよ。多分話すだけでもネタになると思うし、なあみんな!」

 

 コウタの言葉に、アナグラ内はわっと沸いた。どうやら狂人の行動が気になるらしい。アリサとサクヤは微笑みを浮かべながら承諾し、ソーマも「くだらねぇ」と呟きつつも満更ではないという顔であった。

 そして、話は同期でもあるコウタから始まる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤木コウタ 壱

 

 

 

 「よろしくお願いしますコウタさん」

 

 「そんなかしこまらなくても、タメ口、呼び捨てでいいよ、俺もそう呼ぶからさ。な、マモル」

 

 「そうですか。ではよろしくお願いします、コウタ」

 

 「タメ口でいいのに……」

 

 

 マモルの第一印象は、まあ大人しそうなヤツだったんだ。

 俺よりも背が小さい男……一目見た時は女かと思ったんだけど、年下だと思っていたら結構大人びててさ。本当、もしゴッドイーターじゃなかったら今の印象とだいぶ違ってたと思う。

 適合試験の時に全くの無表情だったって噂もあったが、あんまり信じてはいなかった。確かに今は同じ人間なのかと疑うほどに表情がないけど、ひょんなことで歪んだりするだろうと思ってたからだ。

 

 それで、マモルがおかしいと思ったのは、マモル、ユイと一緒にコンゴウを初めて相手にした時だった。

 コンゴウを見つけるや否やマモルは目にも留まらぬ早さで突貫していって、続いて俺とユイが慌ててバレットを撃ったんだ。その時、マモルが近づいて刀身を振り下ろすのとバレットの弾が命中するのがほぼ同時だった。ワンテンポ遅れたとはいえなんでバレットの弾速に近しい速さで動けるんだと驚いたよ。

 その後コンゴウはみるみるうちに弱っていって、最後の足掻きとばかりに自分から風を巻き上げたんだ。接近していたユイは安全に下がった、けどマモルは退くどころかジャンプして、爆発弾を使って自分の身体を浮かせたんだ。そして、風が止んで隙だらけのコンゴウの首をばっさりと切り落とした。

 『もうあいつ一人でいいんじゃないかな』って気持ちが初めて沸き起こったよ。しかも、マモルは倒した後こちらを向いて不思議そうに首をかしげたんだ。無表情で。あいつが戦闘中もずっと表情を変えていなかったことで、適合試験の時の話も絶対本当なんだろうなって確信したよ。

 

 

 それで、俺の中ではもうあいつは狂った超人っていう認識だったんだ。一人で何でも出来るゴッドイーター、ってな具合にさ。まあ、その、頼りすぎてたせいであの撤退の時も足を引っ張っちまったんだけど。

 

 

 重体になってから意識を取り戻した時は本当に嬉しかったよ、思わずユイと一緒にマモルに抱きついちゃったしな。その数日後にマモルは原隊復帰を果たしたんだけど……問題はここからだったんだ。

 

 「マ、マモルさん。もうほんと、やめた方がいいですよ」

 

 「でももう少しで素材が溜まるんです、お願いします」

 

 いつも通りに任務を受けようとユイとソーマとで一緒にロビーに向かった時、何故か涙目になってるヒバリさんと相変わらず無表情でたたずんでるマモルが話していたんだ。

 

 

 「よっ、どうしたの二人とも?」

 

 「あ、コウタさん! それにユイさんとソーマさんも! お願いします、マモルさんを止めてくれませんか!?」

 

 「え、なになにどういうこと?」

 

 「製作したい神機の素材がもう少しでたまりそうなので依頼を受けようとしているんです。軽いものですから、私のリハビリついでに一人で受けようかと思いまして」

 

 「あ、そうなんだ。それなら私も問題ないと思うけど」

 

 「うん。ヒバリさん、なんでダメなんだよ?」

 

 俺達が混乱していると、慌てているヒバリさんの代わりにマモルが説明してくれた。けど、それは『その前』のことを省いたものだったんだ。

 

 「マモルさんは大事なところを抜かしてます! この人、また単独でヴァジュラに挑もうとしてるんですよ!?」

 

 「「……はぁ!?」」

 

 俺とユイは揃って驚いたよ。一体何を考えているんだってさ。でも、これはまだまだ序の口に過ぎなかったんだ。

 

 「……って、ちょっとまって。ヒバリさん、『また』ってどういう……?」

 

 「どうもこうもありません、今日マモルさんは朝一でヴァジュラを、一人で討伐してきたんです」

 

 「ちょっと待て。マモル、お前何やってんの」

 

 「え、いや……肩慣らしとしては丁度良い相手だと思いましたから 」

 

 「……更にいうと、その後ボルグ・カムランを二頭討伐しています。もちろん、単独で」

 

 ――絶句。俺達は、病み上がりで大型アラガミを三体倒したマモルに、数分間声も出なかったよ。こいつ、完全に狂ってやがる、ってね。

 その後、任務には必ず一人、第一部隊の隊員誰か一人を同行させる条件を突きつけたんだ。あの時はユイが怖かったな……それでもマモルは無表情だったけど。

 

 

 

 

 

 終了。

 

 

 「あれが俺の中で一番印象に残ったな。自殺行為にも程があるからさ」

 

 「ど、どん引きです……私が復帰する前日でそれって……」

 

 「あぁ……あれは酷かったな」

 

 コウタが話し終えた後、アナグラにいたゴッドイーター達は皆マモルに引いていた。小型アラガミならまだしも、強力な個体であるアラガミの討伐を腕ならしやリハビリと言って行うなんて、頭がおかしいどころの話ではないと。

 

 「その後にヴァジュラの討伐について行ったけど、もうあいつ予備動作も何もかも分かってて……うん、蹂躙ってああいうことを言うんだなって……」

 

 「コウタさん! 目が死んでます、帰ってきてください!」

 

 魂が抜けているかのような状態のコウタを横目に、ソーマはグラスを傾けて一口含むと、一気に息を吐く。

 

 

 「それなら、次は俺が話すか……」

 

 

 

 

 

 

 ソーマ・シックザール 壱

 

 

 

 一目見た時のあいつは、まあどこにでもいる女……じゃなく、野郎だった。特に不思議なものは感じねえし、物腰も柔らかで……所謂『普通』だった。

 だがそれが完全な思い違いだと気づいたのはその直後だった。

 

 俺とエリックが新型二人に同行する任務を開始した時、エリックへと一体のオウガテイルが迫っていたことに気づいた。俺は叫んでエリックに身の危険を知らせたが、反応が遅い――間に合わないと思った。

 だが、その不意打ちを止めたのは他ならない……奴だった。

 まるで来ることが分かっていたかのように、さも当然の顔をして自分が持っている神機をオウガテイルに投げつけやがった。しかも一切回転することなく、刃先をオウガテイルに向けたまま、だ。更には、それは見事に口から尾まで突きつけて一瞬の内にオウガテイルの串刺しを完成させやがった。

 そんな俺でも出来るかわからない芸当をした後に、あいつはなんて言っていたと思う?

 

 

 「エリックさん、日本人なんですか?」

 

 訳が分からなかった。今さっき自己紹介を受けたばかりで明らかに日本の姓名じゃないのに、どうして日本人だと思ったのかと。それを、アラガミを倒してエリックを救った直後に、だ。

 俺はすぐに気づいた。こいつは狂ってやがる。そして、俺と同等……いや、それ以上の化物だと。

 

 

 あいつがいなくなったリンドウの代わりに隊長になった翌日……就任祝いが開かれた日だな。廊下のソファーでくつろいでいた俺の元に、奴はやってきた。

 

 「あ、ソーマさん」

 

 「……お前か、何の用だ」

 

 「うん? ……あー、いえ。ただ飲み物を買いに来ただけですよ」

 

 奴はすぐそばにあった自動販売機から二つの飲み物を買った。

 二つも飲むのか、と疑問に思った俺の目の前にいつの間にか缶飲料が差し出されていた。

 

 「……なんだ、これは」

 

 「ジュースですが」

 

 「違う、そういう意味じゃない。何のつもりだと言っている」

 

 「いつもお世話になっているお礼です。隊長に就任してしまいましたし、少しはこういうこともやろうかと」

 

 「俺に近づくなと言ったはずだが」

 

 「腕とジュースだけは許してください」

 

 腕とジュースだけってどういうことだ……と思った。断ろうとしても引く様子はなかったから、俺は渋々それを受け取った……その時の俺がもし初恋ジュースの味を知っていたら絶対に受け取らなかったけどな。

 その後何か話してくるのかと思ったら無言で俺の隣に座わりやがった。そのまま数分間、奴は手に持ったジュースをちびちび飲むだけで口を開かなかったから俺はそのままそこを後にした。……まあ、俺が言いたい事は、あいつは別に悪いヤツじゃないってことだけだ。

 自分に厳しく他人には優しい……ってな。

 

 

 

 

 本題に入ろう。最近のことだが、俺とあいつだけでシオの捜索任務を受けたことがあった。俺は何故かにやけている奴に神機を突きつけて、俺やシオが親父にいいようにされるのが嫌なだけだと言い放った。

 

 「あー……なるほど。照れ隠しですか?」

 

 奴がその運動神経で避けてなかったら、多分あいつは真っ二つになっていたと思う。

 

 まあ、問題の狂人行動はその後のことだ。

 討伐対象はテスカトリポカ。戦車のようなアラガミのクアトリガの接触禁忌種だ。ドクロの顔の代わりに人面になっている……恐らくここにいる奴らも何度か見かけたことくらいはあるだろう。

 

 普通、接近戦しかできない旧型の俺と二人きりになった新型はまず砲身を使って少なからずサポートをするはずだ。アリサやユイがいい例だな。だが、あいつはむしろ俺よりも早く対象に近づいて刀身を突きつけた。

 ああ、この程度何の心配もない、慣れたことだ。特に第一部隊の俺達にとってはな。あいつが発射されたミサイルを神機の刀身で打ち返して他のそれと相打ちさせて無力化したのも似たようなことを何度もやってるから特に驚きはしなかった。

 で、ここからが問題だ。何を思ったのか、奴は空を飛ぶと――何? 跳ぶじゃなくて飛ぶのかだと? 今更何を言ってる、あいつは飛ぶだろう。常識だ。

 話がそれたが、奴はいつものように空を飛ぶとテスカトリポカの胴体にナイフを突き刺しながら乗りやがった。勿論俺は怒鳴ったんだが、そんなこともどこ吹く風で乗りこなしてやがった。

 そして、テスカトリポカは背負っていたミサイルポッドを開いた……それが、奴の狙いだったんだ。開かれたと同時に砲身をそこに向けて、放射弾を放った。するとミサイルは誘爆して大爆発を起こし、ミサイルポッドがいとも簡単に結合破壊しやがった。それで、狼狽えるテスカトリポカの顔面に刀身を突き刺して、お得意の内部殺し……インパルスエッジで締めだ。

 確かに、確かに新型でしかできないような真似で俺が言うのもお門違いかもしれないが……お前のような人間がいるかと突っ込みたくなった。

 

 俺は決意した。今後こいつがどんなことをしでかそうが、決して突っ込まないと。

 

 

 

 終了。

 

 

 

 

 

 

 「よく頑張ったわね、ソーマ」

 

 「あの時シオの捜索がメインじゃなかったら気がどうかしてたと思う」

 

 「ああ……」

 

 

 仲間を助けた実績と隊員を気遣う隊長として、少しばかりおかしなところはあったものの話の前半ではマモルはやっぱり良い人じゃないかという雰囲気に包まれていた。

 だが、後半でその雰囲気は玉砕された。テスカトリポカに乗ったという辺りでサクヤの顔は険しくなった。そして、誰かが呟いた。

 

 『それもう、ゴッドイーターじゃなくてゴッドライダーだろ』……と。

 

 

 「あいつ、アラガミの血が流れているどころか八割アラガミなんじゃねえか……」

 

 「ソーマさん! 現実逃避しないでください! その先にいっちゃダメ!」

 

 フードを深くかぶり直し俯くソーマの肩を揺らすアリサ。そのすぐそばには虚ろな目で空を仰ぎながらぶつぶつと呟いているコウタの姿があった。

 

 「大変ね……えっと、次は私かしら」

 

 サクヤはこほんと咳払いをして、語り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 橘サクヤ 壱

 

 

 

 

 

 始めにあった時はとても礼儀がなっている女の子だと思ったわ。男装しているのもわざとなのかな、って……まあ男だったんだけどね、彼。

 挨拶や言葉遣い、態度もとっても礼儀正しくて、旧型である私達を見下すことなく敬意すらもって接してくれたもの……あ、アリサを非難しているわけじゃないのよ、だから安心して。

 

 リンドウも「あれだけしっかりしている奴はすぐに偉くなれる」って言ってたわ。とても期待していた……それこそ、新人の初演習に付き添っていたリンドウが「あいつは頭おかしい」と言うことに疑問を持つくらいに。

 私はこの時点で、あのバーサーカーに気づくべきだったのね。

 

 

 初めて新型の二人と任務に行った日、早速彼はやらかしてくれたわ。コクーンメイデンから放たれる弾を、よけるどころか砲身の爆発弾で相殺したの。そしてそのままあっという間に倒してしまった。……それで終わりなら、もう少し彼の評価はマシだったかもしれないわね。

 動かなくなったコクーンメイデンに、彼は何度も切りかかったわ。オラクルの補充としてね。無表情でやるものだから、新人のユイどころか長くゴッドイーターをやってる私でさえ恐怖を感じたわ。それ以降、彼の評価は狂人に変化していったわね。

 

 

 でも、このマモルの狂った行動のおかげでアラガミの攻撃をバレットで相殺、緩和できることが分かったの。その点については彼には感謝した方がいいわね……最も、それだけの腕、技術があれば、だけれど。

 

 

 

 

 「マモル? 味方の射撃が外れたからって、装甲で反射させて当てるなんて馬鹿な真似はしないでって何度言ったら分かるの?」

 

 「すみません……サクヤさんの言う通りです。危険ですよね」

 

 当時の私は彼の危険な行動を改めるように何度も叱ったわ。彼も自分が悪かったと思って素直に謝ってくれた。

 

 「次からは刀身で打ち返して、すぐに攻撃に移れるよう頑張ります」

 

 

 だからこそ、分かってくれたのかと安堵した次の瞬間に全く反省していない……というよりどこが悪いのかを理解していないかのような返答をしてくるものだから……ふふ、心が折れそうだったわ。

 

 

 挙句の果てには、データのなかったアラガミ……ディアウス・ピターを発見するや否やブラストの飛行で突貫していって返り討ちよ。流石の私も、アリサとユイと一緒に猛説教したわ。

 確かに彼は大きな戦果を挙げてはいるけど、その過程は常人では理解出来ないものだと思う。

 

 

 

 

 

 でもね? 確かに戦闘では予想不可能な狂人並の行動を起こしてくれる彼だけど、ちゃんと私達の事は考えてくれているの。

 エイジス島に侵入した後、残っている第一部隊の皆に通信を入れた時……私が、「敵になっても恨まない」って言った時に珍しく彼は声を荒らげたわ。

 

 「ふざけるな、どうして隊長の私が敵に回ると思っているんだ」

 

 聞いたことのない怒りを孕んだ声に、私たちは驚いたわ。

 

 「貴方達が私達を巻き込みたくないと思っていることは分かりきっている、そのことについて酷く言及するつもりはない。しかし、一言何か言うか相談くらいはしてもらいたかったとは思う。確かに私は不甲斐ない落ちこぼれだが、それでも第一部隊隊長として立っているんだ。指名手配? 敵に回る? 巫山戯ろ、隊員の負荷を受け止めないで何が隊長だ」

 

 敬語もすっかりと取れていて……もしかしたらそれが素だったのかもしれないわね。

 

 「私はそこまで信用がない隊長だったか? いいだろう、それも仕方の無いことだ。そう感じられてしまうのは私の責なのだから。だが私は断言する、私の敵は貴女方では決してない……ヨハネス・フォン・シックザールだ」

 

 力のこもった彼の言葉に、私とアリサはしばらく声が出せなかった。まさか、狂人がここまでまともなことを言うなんて……明日はコクーンメイデンでも降ってくるんじゃないかと思うくらいにね。……うん、そう、彼は性格や人柄は本当に良い人なの。本当に……ほんっとうに、戦闘面だけが問題なだけでね。

 その後何故か彼が必死に謝ってたのが気になるけれど……大事に思われてることがよく分かる一面だったわね。

 

 

 

 

 終了。

 

 

 

 

 「あの時の隊長はかっこよかったわ、ね? アリサ」

 

 

 「はい。涙腺も少し刺激されてしまいました」

 

 

 初めてまともな隊長の面で終わった語りに、ロビーに集まったゴッドイーターの中で思わず涙を流すものまでいた。

 ――『まさか、狂人にも人の心があったなんて』と。

 繰り返すが、本人の性格は至って温厚である……彼の行動による噂がその人格までも影響を及ぼしているだけで。当人が聞いたらおそらく泣き出すだろう。

 

 「……なんとか、生き残ったわね」

 

 サクヤはずんと暗い雰囲気を身にまとったままのコウタとソーマを見ながら、安堵の息をこぼした。

 

 

 「それじゃあ、最後は私ですね。」

 

 アリサはパンと手を叩くと、徐々に口を開き始めた。

 

 

 

 

 

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ 壱

 

 

 

 

 

 リーダーの第一印象は、はっきりいって冴えない女……じゃなくって、男でした。ひょろっとしていて、どこにでもいるような普通の男性。新型なのに戦力になりそうにないなと、当時の私は思っていました。

 

 

 戦場に出ると、リーダーは豹変しました。その無表情な顔は全く変わっていないのですが、率直に言うと動きが変態でした。

 決して変な意味ではありません。瞬きするごとに場を移動していたり、目を離した次の瞬間にはアラガミの身体の一部が欠損していたり……とにかく規格外でした。

 あれ、これ私いらないんじゃないかな。そう思わせるくらいにリーダーは強くて、正直少しばかり嫉妬しました。

 

 

 そして、リンドウさんが行方不明になってから初めて私が目を覚ましたあの日。彼はユイと一緒に私を看てくれていました。リーダーの傷は動けなかった私が作ったといっても過言ではないのに、私と同じように入院していたのに、来てくれたんです。感応現象の衝撃で起きた私ですが、その時彼から流れてきたのは……ユイと同じような、

暖かいものでした。

 戦っている最中のリーダーと普段のリーダーが別人なのではないかと疑うほどに私のことをきにかけてくれて……本当に感謝しています。そのことについては、今も。

 

 

 原隊復帰の日、私はリーダーとユイに守る為の戦い方を教わりたいとお願いしました。ユイはこころよく引き受けてくれたのですが、リーダーは渋っていて……その理由が「私のスタイルは安全第一ですから」と訳の分からないものでした。リーダーは変な冗談を言うお茶目なところもあるのだと初めて知りました。

 その後、私達は幾つかの任務を受けたのですが……問題はそこで起こりました。

 

 「お疲れ、アリサ。今日はもうこれでおしまいだよ」

 

 「はい、ありがとうございました」

 

 ノルマの任務を終えて私のリハビリも十分に済み、そこで私が部屋に戻ろうとした時にリーダーがヒバリさんから任務を受けているのを見たんです。

 

 「……あ、あの。ユイ。今回の任務はこれで終わり……ですよね?」

 

 「えっ? うん、そうだけど」

 

 「なら、あれは……?」

 

 私がリーダーの方を指さすと、ユイも固まってしまいました。視線に気づいたリーダーは不思議そうに頭をかしげながら、近づいてきたんです。瞬きしか動いていない表情が、更に恐怖感を煽りました。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「いや、えっと……どうしてまだ任務受けてるのかなって。アリサちゃんのリハビリは、もう十分でしょ?」

 

 「はい、あの任務の中よく頑張ったと思います。ですからリハビリはもうおしまいですね」

 

 「じゃあ、ヒバリさんと話してたのは……?」

 

 「……? 任務を受けるためですが」

 

 「いやなんで!?」

 

 私の気持ちを代弁するかのように、ユイは突っ込んでくれました。

 

 「何故って……ゴッドイーターが(強い神機を作るために)アラガミを討伐するのは当然でしょう。(私は素材が集まり切るまで)休むわけには行きません。ね? アリサさん」

 

 私に話を振ってきた意味が、当時の私にはすぐさま理解できました。なぜなら、リーダーの後ろに死神がいたからです。死神は、こう繰り返しました。

 

 『リハビリはたしかに終わったよ。だから、これから行くのは何時もの任務。まさかさっきので終わっただなんて思っていないよねぇ……んん? さっさと行くよ、任務はこれからなんだから』

 

 「は、ははは、はい。わた、私も行かせてもら、もらいます」

 

 「アリサ? アリサァァァ!」

 

 最後にユイの叫び声が聞こえて、それ以降のことはあまり記憶にありません。気がついたら疲労しきった状態でユイとリーダーに部屋に運び込まれていました。

 リーダーは「無茶はしたらいけませんよ」と何事もなかったかのように言いました。

 私は確信しました。この人……鬼畜成分も入っている、と。

 思い返してみれば、アラガミの傷口に染み込ませるように放射弾を連発したり口に砲身をねじこんで頭部を爆発させるような戦い方をしていましたから、完全なドSったんだと悟りました。

 

 

 でも、リーダーは私達をいつも信じてくれています。

 エイジス島での戦いの時でも、二対のアラガミを相手にリーダーは自分が真っ先に狙われていることを考慮してその内の一体を引きつける形にしてくれました。何も指示を出さず、リーダーから受けたのは戦闘前の第一部隊を率いる合図だけ。その一言には、『私達に全て任せる』という意味が込められているのを確かに感じ取れました。

 だから、ユイさんがリーダーのカバーに行った時点で残った私達四人はアラガミの片割れの相手をすることにしました。背中を任せてくれたからこそ、慌てることもうろたえることも無く戦うことが出来たんです。

 

 

 ……そして、リーダーが私達に何かまだ隠しているということも分かっています。何故なら、一度も過去について話してくれないからです。

 どうして私達に黙っているのか、話してくれないのか……問い詰めたりはしません。したくないんです。私は、リーダーが自分から話すのを待っていたい……だって、私達第一部隊は、皆信じあっていますから。

 

 

 

 

 

 

 終了。

 

 

 

 

 

 「……というわけで、確かにリーダーは頭のおかしいドン引き野郎ですが人付き合い等はしっかりとされている、優しい方だと思います」

 

 

 「アリサ……あなたも、苦労したのね」

 

 

 しんみりとした終わり方をしたアリサの語りに、一同の雰囲気も静まり返っていた。あの鬼畜キチガイにはそうなった経緯……もしかしたら、悲惨な過去があったのかもしれないと想像したからだ。

 誰しも、生まれながら変人である訳では無い。環境や経験によって、どんな人間にでも染まることが出来る。その中でマモルは十人中十人が認めるであろう特異な人間だ。それ相応の何かが過去にあったのだと推測するのは、決して困難ではなかった。

 

 

 「まあ、狂ってるのはあくまで行動だけで性格が破綻しているわけじゃないので、暗い過去なんてそう有り得はしなさそうですけどね」

 

 

 『だよねー』

 

 

 しかし、アリサの言葉によって雰囲気は再度砕かれた。先ほどまでの暗さはどこへやら、パーティー当初と変わることのない騒々しさに元通りになっていた。

 第一、あの狂人に暗い過去なんて似合わない。この場にいる誰もがそう思っている……本人が聞けば不貞腐れそうな考えだが。

 その中で唯一、発言したアリサは考える。一度も口に出さなかった、感応現象による過去の断片。

 ……あの炎の光景は、一体何だったのだろうか。

 

 

 

 「皆、お待たせー!」

 

 思考の海に入ろうとしたアリサを、聞き覚えのある活発な声が引き戻した。笑顔で駆け寄ってくる彼女……ユイの手元には、一冊の本が収まっていた。

 

 

 「お帰りなさいユイ。それは何ですか?」

 

 「『私はただ生存率を上げたい』……? あら、この筆跡……彼の?」

 

 「うん! 起きなかったマモルの傍にあった日記だよ」

 

 「へー、日記かあ。なんだよマモルのやつ、そんなの書いてたのか。よーし、見てやろうぜ」

 

 「ふん……程々にしておけよ」

 

 

 あれやこれやと騒ぐ中、マモルの黒歴史は第一部隊によってゆっくりと開かれた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん、寝すぎたか………………あれ? 日記がない……?」




今回は第一部隊の四人からの視点となりました。
まとめますと
コウタ→頭のおかしい死に急ぎ野郎
ソーマ→自分以上の化物、狂人
サクヤ→奇想天外のバーサーカー
アリサ→鬼畜なキチガイ
といったところですね。いやあ、大変だなあ(他人事)
それと、最初は皆マモルのことを女だと勘違いしたことに気づきましたでしょうか。ええ、それだけです。

次回は他の人視点2になると思います。日記形式じゃないです。何卒、よろしくお願いします。

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