私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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今回は頂けたリクエスト回、楠リッカさんです。
ゴッドイーターのキャラの口調とか呼び方とかほとんど覚えてないんですよね……ごめんなさい。
あ、あと短めですのでご注意ください。


極東支部 参

 楠リッカ 壱

 

 私が彼……筒井マモルに抱いた第一印象は最初から、『何をしでかすか分からない人』だった。それは対面して思ったことではなく、彼が配属されてから使われている神機を診ての感想だ。

 

 長い間技術班で働いている私は、いつの間にか神機の傷の具合によってある程度その持ち主の戦い方、神機の使用法などが理解できるようになっていた。例えば、最近副隊長になったユイの神機は刀身の傷が比較的少ない上装甲はそこまで使い込まれていない……でも銃口に多く痕が残っていることから多分銃をメインにしたヒットアンドアウェイ気味の戦い方じゃないかと予測される。もっと攻められるならソーマの神機みたいにもう少し傷があるはずだし。

 

 この予測は私がこれまで幾つもの神機、神機使いを見てきたからこそ言えることだ。でも、マモルの神機の傷は今までに見たことのないものばかりだったしその量もとてつもなかった。それも、最初からだ。

 

 普通の人間であれば、ゴッドイーターとなって戦場に立ちアラガミを討伐する初陣……最初の実戦なんかは敵と対峙する恐怖によってどうしても引き気味の戦い方となってしまう。アラガミに強い感情を抱いていたり死ぬことを恐れていない等の特殊な人間を除けば、初陣から帰ってきた神機にはあまりこれといった傷は見受けられないはずなんだ。

 

 しかし、初戦闘を終えたマモルの神機の傷は多くはないが少しばかり妙な傷つき方だった。後にユイやリンドウさんの話を聞いて、アラガミの口内に神機を突っ込んで爆発四散させたと聞いた時はその傷に納得はすれど行動は理解出来なかった。配属早々狂人と言われるのも仕方がなかったと思う。

 

 

 「すみません、貴女が楠リッカさんですか?」

 

 「ん? そうだ……っ」

 

 彼女……じゃなく、彼との初めての出会いは唐突だった。エントランスのターミナルを操作している時、不意に後ろから声をかけてきた。その人物が最近話題となっていて、かつ神機に有り得ない傷を何度も生み出している筒井マモルだと認知した時は流石の私でも驚いてしまった。

 

 「やはりそうでしたか。こうして面と向かってお話するのは初めてですよね。筒井マモルと申します、よろしくお願いします」

 

 「えっ……!? あ、うん。よろしく……」

 

 続いて、噂や私の頭からイメージされた人物像と百八十度違うことに驚愕した。てっきり性格が破綻していたり暴れん坊だったりするのかと思ったけれどその実性格自体はとても良い人だった。何でも、いつも神機のメンテナンスをしてくれているから直接感謝を述べておきたかったのだそう。彼のことを詳しく知らなかった私だが、誰だお前と叫びたかったのはきっと普通の対応だと思う。

 

 職務上、マモルと話をすることはあまりなかったけど、する時はその度にジュースを奢ってくれたり、自身の神機の調子はどうかと気にかけたりしてくれた。普段の彼は狂人や変人とは決して思えない態度をしていて、それでいて優しい。更に、ちゃんと神機を仲間として認識してくれていることにも好感を抱けた。

 

 だからこそ、どうして仲間であるはずの神機にあそこまで無茶なことをさせるのか少し怒ってもいた。彼の神機には焦げ痕が最も多く出来ている。普通に神機を扱っていればよっぽど下手に扱わない限りそこまではっきりと残りはしないのだが、アラガミの体内に刀身を刺してから無理やりインパルスエッジを放っているだとか、放射弾と爆発弾の反動を巧みに利用して空を飛んでいるだとか、頭が痛くなるどころじゃない奇行を耳にして私は嫌でも傷に納得せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、また少し無茶をしすぎてるんじゃないかな?」

 

 ある日、私はとうとう彼にそう切り出した。彼は小型アラガミの殲滅任務に赴いていたらしいのだが、帰ってきた神機の状態が異常だったのだ。機械で言うならオーバーヒート寸前であり、下手をすれば暴走……拒絶反応が起こりマモルの肉体を捕食しようとしてしまうほど危なげな状態だった。普通適合していないほかの人の神機に触れたりしてしまうと起こる反応なのだが、自身の神機をそれ寸前にまで追い込むゴッドイーターなんて恐らく世界中を探しても彼一人なのではなかろうか。

 

 私は真面目にその趣旨を伝え、マモルも真面目な表情……正確には全く変化しない無表情で聞いてくれていたし、何度も頷いてくれた。

 

 「よく分かりました、いつもすみませんリッカさん」

 

 頭まで下げてもらったのは流石に気がひけてしまい、別に謝らなくても良いと口を開こうとした瞬間、彼は顔を上げた。

 

 「今度からは神機にもゆっくりと慣れてもらうようにします。いきなり無茶なことをさせるのは、確かに危険ですからね」

 

 「私の話聞いてた!?」

 

 駄目だ、この人私の意図を理解してくれていない。どうして『危険だから止める』じゃなくて『危険にならないよう慣れさせる』方向に努めようとするのか。やっぱりマモルは狂人なんじゃなかろうか。まともな狂人なんて矛盾もいいところだ。

 

 「ねえ、君は本当に神機を大切にしているんだよね?」

 

 「はい、もちろん」

 

 「じゃあ、どうしてそんなことをさせるの?」

 

 だから、私がこう疑問を抱くのも仕方が無い事なのだと思う。大切にしているのなら大事に扱うべきだろうと、決して壊す可能性を高くする行動なんて起こさないだろうと、積もり積もった怒りが少しずつ湧き出てくるのが感じ取れた。下手な回答をすれば、柄にもなくキレてしまう程に。

 

 ……だが、彼は何ともない顔で答えた。

 

 「神機が私を信頼して適合してくれたように、私も神機を信頼して扱っています。まだ半年も経っていませんが、()()はゴッドイーターになってから一番長い付き合いなんです。何度も戦場に赴いて、戦って、死にかけたりもして、時には故障をも起こしてしまうくらい一緒にいて……その内に気づけたんです。例え私がどれだけ無茶な要求をしてもきっと応えてくれる……それが私の神機だと。それに応えて、私も神機には強くなって欲しいんです。何せ、私の神機(相棒)ですから」

 

 そう語る彼の顔は無表情の癖に、心なしか柔らかだった。

 

 こんな風に……本当に仲間として信頼しているように言われたら、私はもう何も言えなかった。

 

 そうだ、マモルは例えどれだけ思考がねじ曲がっていたりぶっ飛んでいたり狂っていたりしようとも、その本質……性格は思いやりがあり優しいのだ。それは、あの時の行動からも伺える。

 

 

 

 

 

 

 マモルの故障した神機のメンテナンス期間中、アラガミがアナグラへと攻めてきた日。私は保管庫にある神機を全て収納する為にそこにいた。次々と順調にゴッドイーター達の神機が収納されていく中、突然彼は保管庫へとやってきたのだ。恐らく、侵入してきたアラガミに対抗するために来たんだろうけど、マモルの神機はまだメンテナンスの最中で使用することが出来なかった。

 

 そのことを伝えて私も全ての神機を仕舞え終えたら逃げることを彼に話し、端末を操作して作業を再開しようと目を逸らした瞬間、何を思ったのかマモルは他人の……リンドウさんの神機を手にして使おうとしていた。私の顔から血の気が引いていくのが感じ取れた。

 

 適合していない神機に触れるとたちまちオラクル細胞に捕食されてしまう……そのことを知らないゴッドイーターなどいない。加えて、今は神機の捕食本能が剥き出しになっている状態だ。絶対にそれは避けられない。私はマモルに急いで手を離すよう叫んだが、離す様子はなかった。

 

 というより、もう既に取り出していた。その無表情も何ら変わることなく。私は唖然とする他なかった。

 

 「えっ――きゃっ!?」

 

 その直後、背後の防壁が急に吹き飛び私の身体がふわりと浮いた。衝撃波の影響で物凄い勢いで鉄の柵へと迫り、身体がぶつかってしまう――寸前、マモルは私を抱きとめてくれた。私は多少の衝撃を受けただけで済んだものの、勢いを殺しきれずに彼はそのまま背中を柵へとぶつけてしまった。私は慌て、まずお礼を言うべきか無事なのかを尋ねるべきかで頭が混乱してしまい……気がつけば、マモルは侵入してきたアラガミを手にした神機で倒してしまっていた。

 

 まずは助けてくれたお礼を言うべきなのに、他人の神機を何の問題もなく扱ったかと思えばそれを何なく使いこなしてアラガミを倒している……そんな彼の姿に、私は一種の恐怖を覚えてしまっていた。適合していない筈の神機を易易と使えるゴッドイーターなんて……人間なんてそういない。もしそんなものがいれば、それは――。

 

 そんな硬直から回復したのは、彼が膝からゆっくりと崩れ落ちた音を耳にした時だった。急いで駆け寄って身体全体に大した異常がないことを確認すると、二つの意味で安堵した。一つはマモルが神機に捕食されなかったこと。そしてもう一つは……ちゃんと、マモルが皆と同じ普通のゴッドイーターであると確認できたこと。もしもあのまま平然としていたとしたら、私はきっと彼のことを『人間ではない』と思ってしまっていたかもしれない。

 

 そこまで考えて、私は自分で自分の頭を強く殴った。一体恩人に対して何を考えているのだろうか。マモルが身を挺して庇ってくれなければ私は下手をすれば今頃アラガミに喰われていたかもしれないのに……仲間である彼を疑うなんて……私は軽い罪悪感に苛まれていた。

 

 

 

 

 

 病室に運ばれた彼が翌日目を覚ました時。私は助けてくれたことには感謝するけれど無茶ばかりするのは止めてほしいとマモルに言ったのだが、マモルは首を傾げて告げたのだ。

 

 「無茶なんてしていませんよ?」

 

 唖然とする他なかった。他人の神機に触れることすら危険なのに、それを扱ってアラガミを倒して……そのショックで倒れてしまった人が何を言うのかと。私は改めて適合していない神機に触れてしまうとオラクル細胞に触れてしまう恐れがあることを説明しても、彼は普通に頷くだけで何も驚きはしていなかった。

 

 「君、本当に分かってるの? 一歩間違えたらアラガミか……神機に殺されちゃうところだったんだよ?」

 

 私は数々の神機をこの目で診てきた。その仲間が、ゴッドイーター達を捕食して死に至らしめるなど決して見たくない。少し声を強めながら私は言ってしまった。

 

 「そうですね……なら、確かに私は無茶をしてしまったと思います。すみません」

 

 真面目に言っていることが伝わったのか、マモルは軽く頭を下げてくれた。私はその姿でハッと気が付き、慌てて、むしろ逆に謝ろうとした。が、彼は続けて口を開いた。

 

 「でも、私はその程度の無茶で仲間を助けられるのなら幾らでもすると思います。リッカさんには申し訳ないのですが、大目に見てくれませんか 」

 

 その瞳は、濁りがありながらもとても真っ直ぐだった。死んだり、アラガミ化してしまう可能性があるのを『その程度』で終わらせてしまう……それを考慮した上で、仲間を助けるという。それを私は自己犠牲に近しいものだと感じていた。

 

 この人は、他人に対して優しすぎる……自己を大切にしない傾向がある。私を受け止めたりアラガミから守ってくれた時だってそうだし、配属当初に一週間ほど寝込んでいたのも誰かを庇ったからだと耳にした。そんなこと、並大抵の精神を持つ人が出来るわけがない。

 

 どうしてそこまで尽くせるのか……そう私は尋ねたかったが、口が開かなかった。例えどんな理由がそこにあろうとも、彼の行動が変わる訳では無い。意味が無いことだと、判断した。

 

 「……うん。でも、無茶はしすぎないでね」

 

 だから、私はお礼も兼ねてマモルを許した。その後急に顔に触れられてビックリしてしまい、部屋を飛び出したことについては今でも申し訳ないと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな風に、彼はどこか故障しているけれど他人に対しての思いは恐らく人一倍強い。神機に対してもそうなのかもしれない。……確証がないのは任務のノルマを達成した後に整備される神機の状態がいつも良くないからだけど。

 

 

 ここまで狂人の名に相応しいマモルの行動を言ってきたけれど、実は彼と同様に色んな意味で強く、壊れているものがいる。

 

 それは…………マモルの神機だ。彼の無茶な要望に答え続けているにも関わらず、故障したのはたった一度のみ。後は全て耐えきっている、尋常ではない神機。普通そんなものではないかと思う人も沢山いるかもしれないけれど、恐らく普通の神機をマモルが扱ったら三日でズタボロになって帰ってくると思う。それほど彼の神機の扱いは荒かった。

 

 にも関わらず、彼の神機は未だ健在。流石、彼が相棒と言うくらいのことはあると思う。一般的なゴッドイーターは調子がズレることを恐れるために刀身や銃身、装甲を滅多に変えたりはしないが、マモルは度々それらを変えることがある。そのどれもを並以上に……というより狂った方法で扱える彼はやはり凄いが、様々な衝撃をもこの神機は堪えているのだ。神機にだって一つ一つ多少の個体差はある。だが、それでもここまで他と差が出るとは……。

 

 ……もしかして、神機もまたゴッドイーターと同じように成長したりするのだろうか。

 

 

 もしそうなら、それを教えてくれたマモルにまた感謝しなければならないだろう。

 

 

 

 

 彼は確かに無茶ばかりする人間ではあるが、心の底から誰かを思いやれる心優しい人である。少なくとも、私……楠リッカはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だけれど、最近私は胃薬を飲み始めた。

 理由? 察してほしい。




リッカ→無茶するけど興味深い人

他のゴッドイーター達がどうして神機を変更しないのかって結構PLのみなさんが思うことだと思うんですよね。一応マモルはその理由を彼らに尋ねているのですが、その理由は日記形式上省かざるを得ませんでした。

リザレクションか2レイジバーストか……未だに悩み中。
前者は全く未接触、後者は2のストーリーすらまだ最後まで終わってないんですよね。どうしたものか。

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