やはり私の男装生活はまちがっている。   作:空葬

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今日バイトから帰る途中、気分が良かったので「僕らーターイムフライヤー」と無理やり原キーを出しながら自転車こいでました。
女子中学生に笑われてしまいました。
これから外で歌わないです。はい。
では、ドゾー


悲しみの告白

「なるほど…告白の手伝い、ね」

 

 

部室に戻り、二人に戸部の依頼の内容を話した。

二人とも前向きに考えてくれており、意外とあっさり承諾してくれた。

 

 

「それにしてもとべっちがかー。成功させてあげたいなぁ」

 

「付き合うって具体的に何をすればいいのかしら…」

 

 

雪ノ下さんの言う事も分かる。

まあ、とにかく戸部君の情報をまとめるところからかな?

 

 

「とりあえずアイツの情報を纏めようぜ。その方がやりやすい」

 

「…意外と乗り気なのね」

 

「まあ、な。とにかく、アイツの印象は?」

 

 

三人で戸部君のいいところを探す。

そして戸部君に一番近いと言える由比ヶ浜さんが顔を上げた。

 

 

「明るい!」

 

「それで好かれるならあの化学の先生大人気だろうな」

 

「明るい場所が違うし!」

 

 

んー、身近だから見えないのかな?

雪ノ下さんに目を向けると少し考え

 

 

「うるさい…いえ、騒がしい?騒々しい…賑やかなところ、かしらね」

 

 

そんな可愛い笑顔で罵倒してあげないで下さい。

彼、泣いてしまいます。

 

 

「あなたも考えたら?」

 

「んー、そうだなぁ」

 

 

戸部君の良いところ…戸部君の良いところ…

 

 

「…盛り上げ上手なところ」

 

「私達の意見変わらないじゃない…」

 

 

し、仕方ないじゃん!

知らない人の良いところを探すなんて砂漠の中から特定の砂を見つけるくらい難しいんだよ!?

 

 

「…海老名さんの好みに合わせていくほうが早いかもな。海老名さんにも男性の好みとかあるだろ」

 

「おー、なるほど」

 

「弱みを突いていくということね。さすが、伊達に犯罪者顔負けの目をしてないわね」

 

「ただの罵倒じゃねえか」

 

 

そう言う事なら由比ヶ浜さんの方が詳しいであろう。

由比ヶ浜さんに訊くと、少し顔を背けて

 

 

「えーっと…まあ姫菜の場合は…、こういう男子が好きとかより、男子同士が好きというか」

 

 

???

男子同士ってなんでしょ?

そう訊く前に雪ノ下さんが口を開いた。

 

 

「そういえば、海老名さんは戸部くんのことどう思ってるのかしらね?」

 

「ど、どうだろうね」

 

 

由比ヶ浜さんが動揺した。

あ、ちょっと待って。その言葉でこの依頼の結末が見えそう。

 

 

「…いい人、だとは思ってるんじゃないかな」

 

 

…あ、詰んだかもしれない。

雪ノ下さんも理解したのか諦めた顔を表に出す。

由比ヶ浜さんなんか顔を背けたまんま前を向こうとしない。

…この依頼、もしかすると由比ヶ浜さんの料理テクニックを上げる以上に難しいかもしれない。

 

 

 

 

後日、改めて依頼について考えていた。

もう今までのイメージでは先が見えてしまってるので修学旅行を利用して好感度を上げようということになった。

当然話し合いには戸部君も参加してもらい、部活のウォーミングアップの時間をサボってここに来てもらっている。

…怪我しても知らないよ?

 

 

「紅葉の季節だし、嵐山や東福寺はいいかもしれないわね」

 

「なら伏見稲荷とかも行かせてみるか?地図見る感じ近いし」

 

「んー…あ、ここパワースポットらしいよ!」

 

「それはあなたが行きたいところでしょう…」

 

 

そんな他愛もない話をしながら作戦を練っていく。

戸部君は今日は部活の方が忙しくなってきたらしく、早めに部活へと走っていった。

そんな時、小さな音がドアの方から聞こえた。

 

 

「どうぞ」

 

 

いつも通り雪ノ下さんがノックに応答する。

ゆっくり扉が開き、一人の女の子が部室に入ってきた。

 

 

「失礼しまう」

 

 

海老名さんだった。

雪ノ下さんも少し固まり、さり気なく地図を畳みながら

 

 

「お久しぶりね。どうぞ適当にかけて」

 

 

素晴らしい対応を見せつけた。

…ていうか言葉が柔らかいですね。合宿の時話し合ったりとかしたのかな?

 

 

「ちょっと相談したいことがあってきたんだけど…」

 

 

…海老名さんは偶に悲しい顔を見せる。

その悲しい顔の裏に何か訳があるというのなら少し気になる。

私は少し姿勢を前かがみにして耳を傾ける。

 

 

「とべっちのことなんだけど…」

 

「と、ととととべっち!?な、なになに!?」

 

 

由比ヶ浜さんがオーバーリアクションとっているが、少し驚いたのは確かだ。

だけど…それと一緒にチャンスがきたかもしれない。

これで興味があることを示してくれたら告白がうまくいくかもしれないし、そうでなくてもどこがダメか聞けるかもしれない。

海老名さんの覚悟決めた顔を合図に私は集中を高める。

そして、彼女は思いの丈をぶつけた。

 

 

「とべっち、最近隼人くんやヒキタニくんと仲良くしすぎてるっぽくて、大岡くんと大和くんがフラストレーション!私はもっと爛れた関係が見たいのに!これじゃトライアングルハートが台無しだよ!」

 

 

 

 

 

…は!意識を一瞬失ってた。

その間に話が少し進んでいたっぽいけど…やる気が飛んでいってしまいました。

由比ヶ浜さん…あとはおねがいします。

 

 

「うーん、なんかね、今までいたグループがちょっと変わってきちゃったのかなって感じがして…」

 

 

 

 

「今までと違うことは確かでさ。違ったままでいるのはちょっと嫌かな。今までどおり、仲良くやりたいもん」

 

 

自然な笑顔が視線の端で見えた。

さっきの大声出した時の笑顔とはどこか違う。

憂い、悲しみ、それらを全て秘めてるような絵に描いたような綺麗な笑顔。

…さっきの会話、真面目に考えてみよっかな?

 

 

「じゃ、そういうことで。修学旅行でもおいしいの、期待してるから」

 

 

グループが変わった…

大岡くんと大和くんがフラストレーション…これは置いとこう。

修学旅行…

戸部くんのこと…

 

 

『今までどおり、仲良くやりたいもん』

 

 

…ははは、なんてこと。

 

 

「ヒキタニくん、よろしくね」

 

 

海老名さんはそう言いながら部室を後にした。

私はその言葉がとても悲しく聞こえた。

 

 

「…ヒッキー?」

 

「比企谷君?」

 

「…悪い、さっきの話で頭が痛くなったからジュース買ってくる。お前らは要るか?」

 

 

二人とも要らないと言ったので、一人分のジュース代だけ持って部室を出る。

 

 

『戸部、その依頼受け取った。俺が受理しよう』

 

 

あの時の会話が蘇った。

なんで浅はかだったんだろう。

相手が嫌がってることを考慮しないで…

私は…なんて…

 

なんて馬鹿なことをしたんだろう。


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