異端者の魔弾   作:おかぴ1129

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11 信仰心

 ウィルの予想は完全に外れた。これは予想の範囲外だった。自分に憑依したリーゼがフレッシュゴーレムを造り上げる様を間近で見ていたにも関わらず、それに等しい怪物が自分たちに襲いかかるという事態を想定していなかった。

 

「団長! このままでは……ゲブォッ!!?」

 

 この場に残し、自分と共にこの南部修道院へと突入した仲間たちが、おぞましい三体のゴーレムたちによって次々と肉塊にされていく。

 

「体勢を立て直せ! 一体ずつ確実に仕留める!!」

「しかし団長!!」

「うろたえるな! 神の尖兵たる我々が不信心者に屈するわけにはいかないッ!!」

 

 蹂躙される団員たちに檄を飛ばし、なんとか師団全体の士気を保つウィルだが、次第にそれも難しくなってきた。味方を鼓舞するためには、自分たちが無力ではない事を証明しなければならない。

 

「聖女リーゼ。何か効果的な攻撃方法はないのですか!?」

『ゴーレムは魔法生物です。故に、その術者を倒すか術を解除するのが最も効果的です』

「解除する方法は!?」

『ゴーレムは身体に魔法生物であることを示す刻印か、もしくは護符が貼られています。それを除去してください』

 

 そこまで聞けば充分だ。ウィルは法術“叫喚の折檻”を発動させ、ソーンメイスの破壊力を上げた。

 

「ハァ……ハァ……だ、団長!!」

 

 一人の若い兵士がゴーレムに追われながらこちらに向かってきていた。動きは緩慢なゴーレムだが、その巨体故に歩くスピードは兵士の逃げ足よりも早い。

 

「助けて……団長……!!」

「ォォォォォオオ……」

 

 逃げる兵士がゴーレムの射程圏内に入ったようだ。ゴーレムは高々と左腕を上げ、背を向けて逃げ惑う兵士にその腕を振り下ろす。

 

「させんッ!!!」

 

 その兵士の元にかけつけたウィルは、ゴーレムの拳が兵士を圧殺する寸前にソーンメイスを横殴りにゴーレムの拳にたたきつけた。ソーンメイスの無数の刺がゴーレムの拳に突き刺さり、次の瞬間、その拳を粉々に砕いていた。

 

 そのまま反動を利用し、ゴーレムの左足をソーンメイスで破壊する。足の支えを失ったゴーレムはバランスを崩し、砕けた左足から体勢を崩した。今なら届くゴーレムの頭部に、忌まわしき魔術の刻印のような印が見えた。

 

「くたばれッ!!!」

 

 ソーンメイスの反動でそのまま身体を回転させ、さらに威力を倍加させてゴーレムの頭部に振り下ろした。大きな岩石にメイスを叩きつけたような衝撃がウィルの両手に襲いかかる。頭部が粉々に砕けたゴーレムは、しばらくそのままフラフラと佇んだ後、ボロボロと崩れ去って土と岩石の山となった。

 

『お見事です』

「ハァ……ハァ……あなたの助言のおかげです……しかし……」

 

 倒したのは未だ一体。残りニ体のゴーレムたちは今なお聖騎士団たちを蹂躙している。

 

「このままでは全滅する……ッ!!」

 

 負けるわけにはいかない。再び神の物語を口ずさみ、“叫喚の折檻”を発動させる。消えかかっていたソーンメイスの輝きに力が戻り、まばゆく光り輝いたその直後だった。

 

「なんだそれは!?」

 

 戦場に大きな声が轟いた。

 

「何者!?」

 

 ウィルは必死に声の主を探した。あれだけの大声。すぐそばにいるはずだが……

 

「それはなんだと聞いている!!」

 

 上を向く。この南部修道院には、ここに住まう修道僧たちのための小さな鐘塔が建っている。その鐘塔の最上階に、その者たちはいた。

 

「なにがだ!!」

「その怪しげな術のことだ!!」

「貴様……ユリウスかッ!!?」

 

 鐘塔には二人の男が立っていた。一人は傍らに書物を抱え、ローブを身にまとった男。あの男は確か“人の使徒”の代表にして創設者のユリウス・アル・カーラのはず。

 

 もう一人は……

 

「エミリオかッ!?」

 

 異様なサーベルを持つ自警団員のエミリオだった。しまった。これも予想外だ。彼の正義感を信用しすぎたか……敵に回るのは予想外だ……。

 

「エミリオッ!!」

「……」

「裏切ったのかッ!!」

「……」

 

 ウィルはエミリオに呼びかけるが、エミリオは答えない。

 

 ウィルにとって、今の状況は完全に失策だった。読みが甘かった。この様子から行くと、この南部修道院に残された敵勢力はあのユリウスただ一人だろう。ということは“人の使徒”の戦力の大半は、西の“宵闇の礼拝堂”に移動していることになる。師団の半分以上を“宵闇の礼拝堂”に割いている為負けるということはないだろうが、それでも想定以上の被害は被るはずだ。

 

 そしてこちらの被害はさらに甚大だ。まさかこちらの南部修道院に待ち構えているのがゴーレム三体だとは思わなかった。おかげでこちらは壊滅的な被害を受けている。先ほどのウィルの一撃で一体のゴーレムを行動不能に追い込んだあたり、倒せない相手ではないのだが、それにしても強すぎる。犠牲が多すぎる。

 

『ウィル。押し返さねば……』

「承知しております……!!」

 

 ウィルは再び輝くソーンメイスを構える。こうなったら是が非でもここを突破しなければならない。退却はない。ここでゴーレムを止め、ユリウスを始末しなければ……

 

「……」

 

 そして、あの正体の分からない裏切り者の自警団員もだ。

 

「もう一度聞こうか聖騎士よ! なんだその術は!!」

「“叫喚の折檻”! 神の怒りの拳の模倣だ!!」

「フンッ……“神の奇跡の模倣”か」

 

 ウィルの返答を聞き、ユリウスは小馬鹿にしたかのように鼻を鳴らした。この男……ユリウスの真意が読めない。あの男は古今の知識に精通しているという話を聞いた。ならば聖騎士団が操る法術についても知っているはずだ。

 

「何がおかしい! 模倣といえども神の拳に代わりはない! 神の怒り、その身で存分に味わわせてくれる!!」

「模倣といえども神の怒りか……そういえばお前たちは自称“神の尖兵”だったな」

「平和を乱す不信心者共には一切の容赦をしない! 説教が通用しない相手は圧殺して殲滅する……それが我々聖騎士団だ!!」

「圧殺して殲滅し……そして亡骸を陵辱するのが“神の尖兵”か?」

 

 ウィルの周囲の時間が止まった。

 

「なに……?」

「神の敵は容赦なく殲滅し、その亡骸すら陵辱する……貴様らが崇め奉る神とやらは随分と情け深い存在のようだ」

 

 ウィルにとっては触れてほしくない事実だった。確かにウィルたちは……いや正確にはウィルに憑依したリーゼだが……敵の亡骸を利用してフレッシュゴーレムにした。それは亡骸を陵辱したことに等しい。

 

「しかも敵の亡骸だけならいざ知らず……共に戦った味方の亡骸をも辱めたではないか」

「……ッ!」

「それが神の尖兵たる貴様らの所業か。神がそうさせているのか? だとしたら随分と慈悲深い神だ!」

「神を愚弄することは許さんッ!!」

「ならば貴様らの独断か? だとすれば今すぐ神の尖兵を名乗ることをやめろ! 神の意向を無視しておきながら神の名のもとに正義を敢行するなど虫唾が走る!! 神に責任を転嫁するな! 神の名は免罪符ではない!!」

 

 返す言葉がない……フレッシュゴーレムを造り上げるというリーゼの所業にはウィルも疑問を感じていた。だから何も言い返すことが出来ない。ユリウスに図星を突かれたのだ。

 

『ウィル。相手の言葉に耳を貸してはなりません』

「分かっております! 分かっておりますが……!!」

 

 リーゼの声につい語気を強めて返答してしまう。今が絶体絶命の状況であるのは理解している。ここで自分が心を乱しては残り3体のゴーレムに命を奪われ、任務を完遂出来なくなってしまう。

 

『あなたの葛藤は理解しているつもりです』

「……ッ」

『ですがこのままでは……命を失うのはあなたなのですよ?』

 

 リーゼの提言を受けてウィルは思い直し、再び心を沈めて意識を集中させる。意識の切り替えが出来なくては戦場で生き残ることは難しい。ウィルの士気に呼応するかのようにソーンメイスの輝きが増す。

 

「……もう一度、あえて問おうか」

 

 しかしそのソーンメイスの輝きすらも……ウィルの士気の回復すらも、ユリウスにとっては精神攻撃の材料になりうることを、ウィルは実感する。

 

「その術はなんだ?」

「神の奇跡の模倣と言ったはずだ!」

「フンッ……」

 

 ウィルの返答を小馬鹿にしたかのように鼻を鳴らしたユリウスは、自身の懐から一本の短剣を取り出し、それをウィルに向けた。

 

「まるで魔術ではないか」

「なんだと?」

「まるで魔術ではないかと言っている」

「神の敵対者が扱うおぞましき術式と神の奇跡の模倣を一緒にするな!!」

 

 ウィルがユリウスに対して語気を強めて返答したその直後、ユリウスの短剣がまばゆく輝きはじめる。

 

「……」

「バカな……貴様、法術を扱えるのか……?」

 

 それはウィルのソーンメイスの輝きとまったく同一のものだった。ウィルが自身のソーンメイスに施したものは、紛れもなく法術“叫喚の折檻”であり、それは聖騎士団以外には秘匿された術式のはず。外部の者が……ましてや信仰心を持たないユリウスなどに断じて扱える術ではない。

 

「己の精神力を武器に乗せる、魔術“強化”だ。察しはついているのだろうが、私は魔術の心得がある」

「……」

「当然ながら、貴様らが戦っているそのゴーレム共も私が作り上げた」

「……バカな……」

「貴様らも死者の遺体を辱めてゴーレムを作り上げていたな?」

「……」

 

 再度ハンと鼻を鳴らし、ウィルをあざ笑うユリウス。それを不快に感じながらも、ウィルにはユリウスが何を言わんとしているのかが読めなかった。先程の舌戦を鑑みるに、この男は自身の言葉でこちらにダメージを与える術に長けている。まともに話を聞いてはいけない。いけないのだが、相手の言葉はこちらの精神的な防御を軽く突き抜けてくる。大きく揺さぶられたウィルの心は今、いかに防御しようとも彼の言葉に焦点を合わせてしまう状態に陥っていた。

 

「貴様の法術と私の魔術……同じではないか」

「同じではない! 我々の法術は神の奇跡の模倣だ! 貴様の魔術はおぞましき不信心者の罪深き業だ!」

「同じ術でも貴様が使えば神の奇跡で私が使えば罪か……随分と都合のいい話だ」

「神を愚弄するかッ!!」

「貴様と聖騎士団を愚弄している」

「……」

「……それとも、私の言葉は貴様の本音を代弁したか?」

「バカなッ!」

「では、私の言葉が致命傷を与えるほど、貴様の信仰心は今揺らいでいるのか?」

「!?」

 

 ウィルは幼少の頃より敬虔なユリアンニ教信者の両親に育てられ、自身も疑うことなくユリアンニ教を信仰する道を選んだ。研鑽を積み戦う術と力を身につけ、聖騎士団に入団したのも自身の意思。ユリアンニ教を信仰することは、ウィルにとってはアイデンティティと言っていい。

 

 ウィルは幼い頃より、魔術は神への反逆を企てる不信心者たちの罪深き業だと聞かされて育ってきた。そしてそれを何の疑いもなく信じてきた。故に、自身が扱う法術と凶悪な不信心者どもが扱う魔術を『同じもの』とするユリウスの言葉は、本来であればウィルの心には届かないはずだった。いつものウィルであれば、そのようなことを聞かされたとしても一笑のもとに伏していたであろう。

 

 ところが今は状況が違う。自身に憑依したリーゼの、聖女にあるまじき業……死者の亡骸でフレッシュゴーレムを造り上げるというおぞましい所業、それと同じくゴーレムを魔術で作り上げたユリウス、そしてユリウスが見せた“叫喚の折檻”……それら一つ一つがユリウスの言葉に真実味を持たせ、一つの強大な鈍器となってウィルの心臓に衝撃を与え続けた。

 

『ウィル。相手の言葉に耳を傾けては……』

「理解しております! 理解はしているのです!!」

 

 リーゼの呼びかけへの返答を、つい言葉として口に出してしまうウィル。それだけ今、ウィルの精神は追い込まれている。ウィルの心に迷いが生じつつある。そしてそれは法術の輝きに影響を及ぼす。『叫喚の折檻』の法術がほどこされたウィルのソーンメイスの輝きは、次第に鈍くなり始めていた。

 

「どうした? やはり信仰心に迷いが生じつつあるのか?」

「そんなことはないッ!! 私の神への信仰は揺るがない!!」

「その割には法術の輝きがくすんでいるではないか。私の言葉ごときで揺らぐ信仰心などたかがしれている」

「……ッ!!」

 

 一方で、ユリウスの傍らで静かに様子を見守っていたエミリオにも疑問点が浮かび上がった。

 

『ねぇ』

『はい?』

『このユリウスの言葉……』

『……』

『本当なの?』

 

 エミリオは敬虔なユリアンニ教の信者ではないが、法術は神の奇跡の模倣であり、魔術は凶悪な魔術師が神への反逆として編み出した術だという話は聞いたことがある。その意味では、神への信仰心を持たないユリウスが魔術を扱えるのは必然だといえる。

 

 そしてユリウスは、『法術と魔術は同じもの』であると言い切っている。使い手に信仰心があれば法術、なければ魔術と呼び名が変わると言っている。信者ではないため、ウィルほどの混乱はエミリオにはない。だが、幼い頃より聞かされていたことが今根本から否定されつつある。

 

『遠慮しなくていいよ。俺はキミや聖騎士団と違って信心深くはない。ショックは受けないから』

『……この人が言っていることは本当です』

 

 今、エミリオが唯一信用出来る人物。それは聖女リーゼの舌を強奪したかもしれないウィルではない。そのウィルの信仰心に深刻なダメージを与え続けるユリウスも違う。それは、事件が勃発した後にエミリオに憑依し、エミリオに怪物と戦う術を与え、エミリオとともに怪物と戦ってくれた自称リーゼなのだ。互いの目的のために力を合わせようと握手し、共に行動する信用できる仲間。それが自称リーゼだ。

 

 その自称リーゼが、ユリウスの言葉を肯定した。幼い頃から子守唄のように聞かされ続けてきたエミリオの常識は今、もっとも信頼する者によって否定された。

 

『そっか』

『ショック……ですか?』

『……いや、キミがリーゼを名乗った時から、大抵のことでは驚かなくなった』

『そうですか……』

『でもさ。あとで詳しい話を聞かせて』

『はい』

 

 自称リーゼに法術と魔術の関係性の話を聞く約束を取り付けた後、エミリオは“魔女の憤慨”を右手に取った。確かに聖騎士団は信用ならない。あのウィルという聖騎士も、リーゼの舌を強奪した張本人なのかもしれない。だがそれでも……。

 

「……動くな」

「ほお?」

 

 今までは状況を整理するため……聖騎士団の出方を見るために黙っていたが……目の前でたくさんの人間が蹂躙されているのを黙って見ているという経験はもう充分だ。エミリオは自身の仲間である自警団が、この眼の前にいるユリウスと『人の使徒』たちに蹂躙された苦い経験がある。そのような経験を繰り返すことはもう御免だった。

 

 今、たとえ相手が信用ならない集団であったとしても、自警団と同じ道を辿ろうとしている人々がいる。たとえ嘘偽りだとしても、共に戦おうと約束した仲間がいる。そして自分は、その暴虐を食い止める手段を持っている。ならば、なんとかして聖騎士団を救いたいとエミリオは考えた。エミリオは“魔女の憤慨”を手に取り、その切っ先をユリウスに向けた。ユリウスに向けられたサーベルは刀身が青白く輝いており、あらゆる生物の命を奪う法術“聖女の寵愛”が充填済みであることをエミリオに伝えていた。

 

「ゴーレムを止めてもらおう。サーベルの切っ先があなたを狙っている」

「威勢がいいな」

「このサーベルは特別製だ。あなたの命を一瞬で奪うことが出来る機工を備えている」

「大層なサーベルだ。だがいまいち説得力に欠ける」

「これは法術“聖女の寵愛”を射出出来る。フレッシュゴーレムもこのサーベルで退治した」

「なるほど。合点がいった」

 

 “魔女の憤慨”の柄から伸びたレバーに指をかけるエミリオ。ユリウスの声は余裕が感じられるが、若干声に緊張がこもったことがエミリオには理解出来た。

 

「このレバーを引けばサーベルから“聖女の寵愛”が射出され、あなたの身体は消し飛ぶことになる」

「そのサーベルはどうやって手に入れた?」

「早くゴーレムを止めてくれ。さもなくば、あなたもフレッシュゴーレムと同じ運命を辿ることになる」

「“聖女の寵愛”とはまた古い法術だ。どうやってそれを知った?」

「質問に答える気はない。死にたくなければ早くゴーレムを止めろ」

「フン……」

 

 観念したのか……ユリウスは短剣を懐にしまい、そのまま右手を三体のゴーレムに向けた。これでゴーレムを止めることが出来、聖騎士団を助けることができる……エミリオがそう胸をなでおろすその瞬間……

 

『え……』

 

 自称リーゼの唐突な戸惑いの声がエミリオの頭に響いた。

 

『どうしたの?』

『いや……あの……目が……』

 

 そして同時に、ユリウスからの精神攻撃に散々悩まされていたウィルもまた、自身に憑依したリーゼからある事実をつきつけられた。

 

『ウィル、目の封印が解かれました』

「なッ……!? 誰が!?」

『わかりません』

 

 目は、この南部修道院に祀られている。その封印が今破られた。それが誰の手によるものなのかは分からない。聖騎士団か“人の使徒”か。あるいはエミリオのように、そのどちらでもない誰かなのか……

 

「エミリオッ!!」

「?」

「貴様かッ!? 聖女リーゼの目を奪ったのは貴様の仲間かッ!?」

「なッ!?」

 

 ウィルがエミリオにそう叫び、その言葉がエミリオの精神に動揺をもたらした。自称リーゼが先ほど妙な反応を見せたのはこれか。

 

 そしてその動揺をユリウスが見逃すはずがない。エミリオがウィルに気を取られたその一瞬の隙をつき、手に持った書物を足元に落としながら自身の身体を勢い良く回転させ、エミリオの顔面に強烈な拳打を浴びせた。

 

「ガッ……!?」

 

 不意打ちでよろめくエミリオの身体を掴みそのままウィルのそばに突き落としたユリウスは、自身の乱れた着衣を直し乱れた息を整えるとこう言い放った。

 

「惜しいなエミリオ。気にせずそのサーベルから法術を射出しておけばよかったものを」

「くっ……!」

「そこの哀れな神の下僕と共に頭を冷やすがいい。生き延びることが出来ればまた会おうか」

「ま、待てユリウスッ!!」

「次に会った時は同志と呼ばせてもらいたいな。そこの哀れな神の下僕もだ」

「……ッ!!」

「神への信仰などという下らないものを捨て去れば、貴様も同志になれるぞ」

 

 大げさに着衣を翻したユリウスは建物の中に消えた。この場に残されたのはウィルとエミリオ、そしてユリウスの足元に落ちている古びた書物のみ。

 

「エミリオ……あとで質問に答えてもらうぞ」

「あなたこそ……俺だってあなたに聞きたいことが山ほどある」

 

 エミリオたちは二体のゴーレムに挟まれた位置取りになっている。自然とエミリオとウィルは背中を合わせ、ゴーレムの襲撃に備えた。

 

「ゴーレムの弱点は頭部の魔術刻印だ」

「大丈夫です。ここに来る前にフレッシュゴーレムと戦ったんだから……」

「そうか。倒してくれたか……彼らを葬ってくれたか……」

「そっちの一体はあなたたちに任せてもいいですか?」

「構わん。……神の折檻というものを化物の身体に刻み込んでくれる」

 

 エミリオの耳に背中越しにウィルが何かをポソポソと口ずさんでいるのが聞こえ、その直後、エミリオは自身の身体に少し熱が宿ったことを感じた。不思議とそのぬくもりはエミリオの身体に活力を与え、目に見える光景をクリアにし、視界を広げ周囲の認知力を高めた。

 

「法術“父の激励”だ。身体に力をみなぎらせる神の奇跡の模倣だ」

「信仰心はなんとか持ち直したんですか?」

「そうでなくては聖騎士は務まらん」

 

 ゴーレム二体が近づいてきた。エミリオは再度“魔女の憤慨”を構え、その切っ先を目の前に向ける。ズシンズシンと足音を立て、体中から土塊や石をボロボロとこぼしながら、同時に周囲の土を自身の足に取り込みつつ、ゴーレムが二人に歩み寄ってくる。

 

 ウィルは再度神の奇跡の物語を口ずさむ。ソーンメイスが三度輝き、“叫喚の折檻”が発動したことを周囲に知らしめた。

 

『エミリオさん』

「ん?」

『がんばって』

「大丈夫。一回戦ったんだから」

 

 たった一度戦っただけで慣れるはずもない、異形の者との戦い。“魔女の憤慨”を握る手が恐怖で震え、手のひらは手汗でびっしょりと濡れていたが……それが自称リーゼにさとられぬよう、努めて気丈に振る舞うエミリオだった。

 

 

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