ARIA †Rilanciare la Colore†   作:自分不器用ですから

2 / 13
第2話 その瞬く星々に・・

 

 

 

 

 

その夜、アリシアさんと灯里ちゃんの2人と一緒に夕食をとった。

やはりお世話になるというのに何もしないというのも悪いので泊めてもらうお礼に今

晩の夕飯を作らせてもらう。こう見えても炊事洗濯は得意分野なんだ。

 

「はい、簡単だけどピラフとスープ、それとサラダです。ドレッシングはお好みで」

 

ドレッシングもゴマ、梅シソ、中華を作ったけどこれって案外、簡単で美味しいんだ。

 

「どうぞ」

 

「「いただきます」」

 

考えてみると自分で食べられるレベルなので人に作ったのは案外初めてだったりする。

とりあえず美味しいと思うんだけど人に食べてもらうのって緊張するんだな。

 

「・・・・お」

 

灯里ちゃんがうつむきながら何かを言ったのだが聞こえない?まさか不味かった?

 

「おいしいぃ~~!」

 

「ぷいにゅ~~~!」

 

アリア社長と灯里ちゃんが瓜二つなポーズをとりながら美味しいと言ってくれた。

アリシアさんの方も美味しいと言ってくれて3人の食はどうやら進んでくれている

ようで初めてながら僕は自分の料理を美味しいと言って貰えて内心嬉しかった。

 

「味もそうだけど盛り付けの色合いもとても美味しそうで勿体ないくらいね♪」

 

「い・・一応は美術学校生なので色合いとか見た目は気にするんですよ」

 

それから僕はこのアクアに来た目的や、2人からおすすめの場所などの話を聞く事

が出来てこれからの作業にとっては助かる情報ばかりだな。

 

「さっきのアリア社長の絵を見せてくれる?」

 

「あ、はい、どうぞ」

 

アリア社長が描いてくれとアピールした後に描いた社長のスケッチを2人に見せる。

 

「うわ~♪とっても綺麗に描いてくれてますよ、アリア社長~!」

 

「ぷいにゅ~!」

 

「あらあら、うふふ♪」

 

絵を喜んでくれている3人を見ると何だか胸の辺りが変な感じがする。

こう、こそばゆいと言うか・・・なんだろう、随分と久しぶりに感じる気持ちかもし

れない。こうやって絵を先生以外に見てもらうのも本当に久々だったかな。

それに僕自身もこの社長の絵はいつもと違っていると自覚出来ていた、何故かこの絵

と女の子の似顔絵から絵のラインが生きていたんだ。

自分で描いていても前の絵はただ線を引いていただけ、そんなレベルだったんだ。

 

「(あの子は何だったんだ・・?何で【あの色】が見えたんだ・・・?)」

 

「カイトさん?」

 

灯里ちゃんがいつの間にかすぐ近くにまで顔を近づいて覗き込んでいた。

 

「あぁ・・ごめん!ちょっと久しぶりなんだ、こういう絵が描けたのって。前までは

 生きてる絵が全然描けなくてさ、自分でも何で描けたのかよく分からないけどね」

 

ただ何となくだけどあの子の似顔絵を描いていた時は今までになくゆったりとした

心だったような気がする。あの瞳を見て少し取り乱したけどでも確かにあの瞬間の

彼女とのスケッチは落ち着いた気持ちで絵に向き合えていたのかもしれない。

 

「それはあなたが描きたいって思ったからじゃないかしら?」

 

アリシアさんがふと口を開く。

 

「僕が・・・描きたい?」

 

「そう、なんでもやらなくちゃ、やらなくちゃって思ってやるのとやりたい、やりた

 いって思ってやるのとでは全然気持ちが変わってくるものよ?あなたが今まで自分

 の絵に不満を持っていたのにその絵はとても生き生きとしてる。不思議よね?その

 時、その場に居合わせるあなたの気持ち次第でこんなにも変わってしまうんだもの」

 

思ってもいなかったことを指摘された。

絵をただ描くのではなく、目的を持って自分で描きたいと想った絵だからいいんだ・

・・もっといい絵を描かなきゃ、こんな絵じゃダメだ、そんな事ばかり考えていた。

 

「そういえば本当にふっとこの子を描こうって肩肘張らずにペンを持てたっけ」

 

ああ・・僕って描きたい絵を描いてなかったから「線の絵」だったのか。色で絵を染

めてもそれは「色を塗った絵」、「生きた描写」にはなるはずもないんだ。

 

「ははっ・・ここに降り立った時、素直に感動出来て、いい絵を描けるかもって思っ

 てたんだけど・・でも遅いかな。今頃、こんな事を教えられてるようじゃ」

 

先生どころか絵をやっていないアリシアさんにこんな事を気付かされてるようじゃ僕

はもう遅すぎたのかもしれない。

長年染みついたマイナス思考というのは厄介で結局、僕はまた下を向いてしまう。

 

「それは・・違うと思います」

 

だが灯里ちゃんが膝に置いた僕の手をとって自分の方を向かせると話を始める。

 

「確かに遅いスタートなのかもしれないです。だけどカイトさんはまたチャレンジし

 たいって思ったんですよね?そのためにこのアクアに来たんですよね?」

 

「う・・うん」

 

「だったら何時でも何時でも何度でもチャレンジしたいって思った時がカイトさんに

 とっての、まっ白なスタートなんです」

 

まっ白なスタート・・・その言葉に僕は感じるものがあった。

 

「だからカイトさんが諦めなければ、自分で自分をおしまいにさえしなければきっと

 本当に遅いなんて事はないんです、わたしは絶対にそう思います」

 

真っ直ぐに僕の眼を見つめて彼女の想うままの言葉を僕に投げかけてくる。

 

「だったらカイト君はもうスタートを切ってるわね」

 

そういったアリシアさんが柔らかい笑みを浮べて僕にスケッチノートを手渡した。

 

「それがあなたのまっ白なスタートライン。もうスタートも切れてるわ、うふふ♪」

 

「えっ?」

 

「あなたが自分で描いて、いいと想えた絵なんですもの。だったらまず一歩を踏み

 出せたのだからこれからあなたのまっ白なキャンバスにその眼で見たもの、感じ

 たものを全部綺麗な色で染めていけたらとっても素敵な事だと想わない?」

 

僕はスケッチブックの少女の絵を見つめる。僕が描いて本当に数年ぶりに納得して

よく描けたと想う事が出来た、たった1枚の似顔絵。

まだ色を染めていないラフスケッチだけどこれは僕の大きな一歩なのかもしれない。

 

「ありがとうございます、何となくですけど少しだけ整理出来た気がします」

 

「あらあら、どういたしまして。うふふ♪」

 

「はひっ♪」

 

「ぷいにゅ~」

 

何故だろう、この人達といると自然と笑えている。こんなに笑ったの何年ぶりだろ?

それから僕は久しぶりに美味しい夕飯を食べる事が出来たんだ。

 

「どうぞ~」

 

「ありがとう」

 

その後、アリシアさんは自宅の方に戻り、灯里ちゃんに寝床に通されたのだが・・・。

 

「ええっ!?ベッドって1つしかないのぉ!?」

 

「はい、そうですよ?」

 

いや、そうですよ?じゃなくて普通まだ知り合って間もない男を何の疑いも迷いも

なく自分の寝床で一緒に寝ようとかいうの?いや別に何もしないけどね。

なんだろう・・・この子は少し別の意味で不思議な感じを受けるのは気のせいかな。

 

「?」

 

というより邪なのは僕か・・?灯里ちゃんは素直に寝床を貸してくれているだけな

んだから別に気にする事はないんだ、僕が考えすぎているだけだ。

 

「とりあえずお邪魔します」

 

「どうぞ~」

 

そうして布団に入ったのだが何だろ?なんかほんのり温かくていい匂いがする。

 

「今日は天気が良かったので外でお布団を干したんです。お日様の良い匂いですよね~」

 

「お日様の匂いか・・・うん・・・悪くないかも」

 

このアクアだと当たり前の事なのかもしれないけど地球育ちの僕からするとこんな事

でも妙に感動してしまう。なんか僕も子供っぽいな、まだ・・・(苦笑)

 

「それに見てください、上」

 

「?」

 

灯里ちゃんが指差す方向を見上げる。そこには天窓があってその先を見つめる。

 

「・・・・・あぁ・・・・」

 

そこに広がっていたのは満点の星空。とても澄み切った空には1つ1つ微妙に色合い

が異なる星々が鏤められ、そして月が太陽とは違う、静かな光で部屋を照らしている。

街から離れた場所にあるこの場所は余計な光もない。

だから余計に月の光の静かな色と夜空に瞬いている星々の色を引き立たせていた。

 

「凄い・・・。こんな風景・・映像でしか見た事なかった。ここは手が届きそうだ」

 

「わたしも地球育ちなので最初来た時はとっても驚きました。今でもここから見える

 夜空はとっても素敵でここはわたしの特等席なんですよ♪」

 

「ははっ・・いいの?その特等席に僕を連れてきちゃって」

 

「はひっ。カイトさんにも見てもらいたいと思いましたから。この空はとても綺麗な

 星を描いた素敵なキャンバスですから。絵のお話聞いたらそう思って♪」

 

何だろう・・・何故か、その時、僕は自然とこんなセリフを吐いていた。

 

「恥ずかしい台詞禁止!」

 

「えぇ~~」

 

「でも夜空のキャンバスか・・うん・・・確かに綺麗で素敵だよ、自然の風景画だ」

 

そういうと灯里ちゃんが起き上がって僕を見ながらこう言った。

 

「カイトさんは自分をそんなに悲観的に見る事ないですよ、だって」

 

「?」

 

僕は灯里ちゃんの方を向いた。だけど僕は息を呑んだんだ・・眼に映った「絵」に。

 

「素敵な人の眼には、世界は素敵に映ってくれるんですよ?だからこの空を素敵と

 思えたカイトさんもとっても素敵な人なんです、自信を持ってください」

 

天窓から指す月の光、そして側面の窓から見える星空を描いた夜空のキャンバス。

そしてそれを背景に座り笑みを浮べる灯里ちゃんが自分の視界に入った瞬間にそれ

が1枚の「絵」になっていた。

その一瞬が僕の眼には鮮烈に焼き付いて僕の中に突発的な感情が生まれたんだ。

 

「ご・・ごめん、灯里ちゃん。ちょっとそのままにしてて!」

 

「は・・はひっ?」

 

寝床に置いていたスケッチブックとデッサン用の鉛筆を持って床に座り、その構図

をすぐに頭と目に焼き付ける。その一瞬を見逃したら描くことが出来ないんだ。

 

「ごめん、ちょっとの間、じっとしててくれる。この絵を描きたいんだ、どうしても」

 

「・・・はい、わかりました」

 

そういって微笑んで承諾してくれた灯里ちゃんに笑い返して僕はデッサンに集中する。

 

「(星は際立たせながら目立たせ過ぎず・・灯里ちゃんは柔らかいタッチで・・月

  の光の淡さは・・・これか・・?いや、描くならこの方法がいい)」

 

それから黙々と描き続けた僕が気付いた時には1時間が経っていた。

その間、灯里ちゃんは何も言わずに微笑んでずっと描き終わるのを待ってくれていた。

 

「で・・・出来た・・・・」

 

描き終えた僕は大きく一息を吐く。

すると灯里ちゃんとアリア社長も僕の両隣に並んで描き終えた僕の絵を見る。

 

「わぁ~~~・・・・♪」

 

「ぷいにゅ~~・・・♪」

 

 

 

そのスケッチブックには眼に焼き付けた月光に照らされる灯里ちゃんと夜空のキャ

ンバスを描いた、ただ無心で描きとめた現実で見た「絵」がそこにあった。

初めてだった。こんなに衝動的な行動を取ったのは。

さっきのアリシアさんの言葉があったかもしれない。「自分の描きたい」という気

持ちに気付かされたからこそ見えなかった一瞬に気付けたのかもしれない。

 

「ありがとう、灯里ちゃん!灯里ちゃんのおかげだよー!」

 

「わひっ!?あわわっ・・・カイトさん」

 

「へ?」

 

嬉しさのあまり彼女に抱き着いて・・・何やってんだ、僕はぁあああ!?

 

「ご!ごめん!?あの、これは故意はなく!あの、嬉しさのあまりというか!」

 

「だ、大丈夫ですよ!気にしてませんから!?嬉しいと喜びたくなりますもんね」

 

そういって灯里ちゃんが顔を赤くしている。

あぁ~・・・僕はなんて事を。あって間もない女の子に抱き着くって。嬉しいから

ってもう少し考えるべきだったよ、それからお互いに気まずい雰囲気になってしまう。

 

「と・・とりあえず」

 

そういってスケッチブックを胸に抱えながらあの微笑みを浮かべて言った。

 

「また増えましたね、まっ白なあなたのページに。素敵な世界が」

 

「・・・・うん、そうだね」

 

それから僕と灯里ちゃん、そしてアリア社長でその絵をずっと見つめていた。

このアクアに訪れて僕は変われるかもしれない。

まだ「あの色」を見る事は出来ないけれど・・・でも一瞬を見る事が出来るよう

になった。気付けなかった世界の瞬間美、灯里ちゃんとアリシアさんに教えても

らった「描きたい」と想う気持ち、止まっていた僕の大きな一歩だった。

こうしてアクアでの最初の夜、僕にとって忘れられない1日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 




次回、ARIA the STORY†Rilanciare la Colore†
 
    第3話 その水の妖精逹との出会いに・・・

「はじめまして」と言う時ってきゅんってなりますよね。
 人と人が出会うのは素敵な奇跡。
 だからその瞬間を宝物にして、とっておきたくなっちゃうんですね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。