最後のハンター   作:湯たぽん

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序章 称号の秘密
その1


「・・・・私の称号?」

 

籐の椅子に優雅に腰掛け、パイプを手に持ったその初老の男性は、

ちらと疑いの目を見せながら聞き返してきた。

 

先生、というイメージにふさわしい堅いタイトルの本がずらりと並ぶ棚をバックに、

しかしその老人は奇妙なほどに筋肉質の、頑健な身体を椅子に押し付けていた。

筋肉質といっても分厚くはなく、鋼が鍛え上げられて細く鋭くなるように

無駄のない極上の筋肉だけを搭載した感のある見事な身体だ。

 

本棚のまわりもよく見れば、壁に幾振りもの剣や盾、重厚な大剣、弓などが掲げてある。

飾りではない。どの武器の柄も、ちょうど手の高さにある。

明らかに、選びやすいように、手に取りやすいように工夫された配置の仕方だ。

 

 

 

だが片腕が無い。片眼にも大きな傷があり、見えていないのは明らかだ。

 

 

 

覇竜に腕を吹き飛ばされ、迅竜に眼を潰されても

ハンターである事をやめなかった、伝説のハンター。

それこそがこの老人であることを、この部屋の訪問者は知っていた。

 

 

 

 

 

・・・・ちっ、やはり話したがらない項目だったか。

老人の反応に内心舌打ちをしながらも、向かいに座った記者は

身を乗り出し、話を続けた。

 

「そう。あなたは教官として、後進の育成に取り組んでいる。

 あなたの下から優秀なハンター、言うなれば

 “次世代のハンター”が幾人も出ているというのに・・・・」

 

記者は一度言葉を切り、話し相手の顔色を窺いながら慎重に次の言葉をつないだ。

 

「・・・・あなた自身は“最後のモンスターハンター”、と呼ばれている。

 その矛盾には何か深い理由と、物語があったのではないかと思い・・・・

 伺ったわけです」

 

 

しばし、沈黙が流れた。

 

老人は壁の大剣をじっと見つめていた。

60を過ぎても飛竜を狩り続けたこの伝説のハンターも、

手を顔の前で組み背を丸めてうつむき悩む姿は年相応に見えた。

眉間には普段見せないしわが深く刻まれている。

悩ませてしまったか。記者が罪悪感を抱いてしまうほどの苦悩の表情を浮かべ、

老人は天井をにらんでいた。

 

 

 

「・・・・バルト先生?」

バルト・リース。伝説とともに語られるその名。

押しつぶされるような重い沈黙に危機感を感じたのだろうか、

記者は懸命にその名を喉から搾り出した。

 

老ハンターは厳しい顔を正面に向けるとテーブルにひじをついた。

そのまま記者のほうへ詰め寄るように近づくと、耳打ちするような声音でささやいた。

 

「記者さん、これは見所のある生徒にしかしてこなかった話だ。

 その意味も考えて記事にしてくれるとありがたい」

 

記者がゆっくりと、そして力強く頷く。

老人は満足したように椅子に深く腰掛けると、

天井を見上げながらパイプ片手に慎重に話し始めた。

 

 

 

「あれは、私が片腕を失った直後だったな・・・・」

 

 

 

 

 


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