最後のハンター   作:湯たぽん

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その2

「こっちか・・・・ん?」

 

海辺の林を、少年が逃げて行った方向へ歩いて行くと

そう何分も行かないうちに、前方から闘争の気配が感じられた。

 

「ちっ・・・・あのガキ、またか・・・・!」

 

拾った槍は背負っている。

左手の盾から本来の武器である片手剣を抜くと

バルトはマングローブ林の邪魔な枝根を器用に避けながら疾走を始めた。

 

 

 

「く・・・・っ!来るなら、来い!

 今度は逃げやしないぞ」

 

林を抜けると、少年がモンスターと対峙しているのが見えた。

震えながらも両足をしっかりと踏ん張り

槍の代わりであろう長めの木の棒を握りしめていた。

 

 

 

クェクェクェ・・・・

 

少年の目の前には、ランポスが突っ立っていた。

青い鱗が特徴的な、小型の鳥竜種である。

鳥とは行っても翼は無く腕も短い。

両足の巨大な爪で飛びかかり蹴倒す、攻撃的なモンスターだ。

だが、今目の前にいるランポスは子供なのだろうか。

頭の先から尻尾の先まで1メートルちょっと、という程度。

のしかかられてもすぐに弾き飛ばせそうだ。

 

 

 

クェ?クェクェ・・・・

 

しかもどうやら子ランポスには襲う気もないようだ。

バルトがひとまず飛びだすのをやめ、様子見をしているうちに

青鱗のモンスター、ランポスは革鎧の少年をもの珍しそうに、

まわりを回りながら品定めしはじめた。

 

「・・・・っ!」

 

赤毛の少年はランポスの一挙手一投足にいちいち過剰反応しながら、

しかしワンテンポ遅れて向き直っている。

気合の入ったいでだちとは裏腹に、あまりにもお粗末だ。

 

まずいな。バルトが危険を感じ、のそりと出て行こうとしたその時、

 

 

 

「おぁっっ!」

 

赤毛の少年が、意外に確かな身体さばきで踏み込み、棒を突き出した。

 

ランポスが首を横にそむけ、片目だけで相手の全体を見定めようとした瞬間だった。

敵の死角へと大きく一歩踏み込むと、

さらに死角となるランポスのクチバシのアゴ部分を狙う下からの突きだ。

 

 

 

ゲェェッ!

 

当然、油断していたランポスに避けれるはずもなく

大きく後ろへのけぞった。

 

「ほぅ!」

 

バルトが一声うなるほどの一撃。

棒を持った少年も手ごたえを感じたのだろうか、蒼くなっていた顔に血の気が戻り

遠目にも落ちついて見えるようになった。

バルトも抜いていた片手剣を鞘(盾と一体化している)に収めた。

 

 

 

が、しかし。

 

クアッ!

 

「わあっ!?」

ようやく少年を敵と認識した子ランポスの、混乱が収まらぬままの単純な体当たり。

しかし赤毛の少年にとっては予想だにしない攻撃だったようだ。

完全に避けるタイミングが遅れ、長い尻尾でしたたかに背中を叩かれた。

 

 

 

「この・・・・っ!」

 

グェッ!

 

 

 

ケエェッ!

 

「痛っ!」

 

自分の攻撃の時だけ妙に鋭い踏み込み、身体の動きを見せる少年だが

何故かランポスの攻撃を避けることはまったくできていない。

間合いも読めず、攻撃パターンも把握できていないようだ。

子供とはいえ、ランポスと人間では体力に違いがありすぎる。

互いに攻撃を避けられないドッグファイトを続けていれば、

どちらが先に倒れるかは誰の目にも明らかだ。

 

 

 

「う・・・・っ!」

ついに棒を飛ばされ、少年は地面に尻餅をついた。

ランポスは油断なく一旦距離を取ると

少年に次の一手がない事を確認してから大きくジャンプし、

一直線に少年目掛けて飛びかかった。

 

「くそ・・・・っ!!」

 

少年は頭だけは守ろうと左手で覆う。

気丈にも右手は地面の石を握り、

来るであろう衝撃・・・・反撃の瞬間・・・・そして恐らくは死・・・・に

身を硬くしていたが。

 

 

 

「・・・・?」

その瞬間はいつまでも来なかった。

疑問符を浮かべながら少年が皮帽子からそっと周りをうかがうと。

 

 

 

「───反応の鈍さが致命的だな。敵と自分の状況くらい常に把握しておけ」

皮帽子のひさしからこっそりと覗いた大きな目がとらえたのは

その胴体を貫いたまま、子ランポスを槍で持ち上げているハンターの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「おら、さっさと立て。助けてくれてありがとうくらい言えねぇのか」

ランポスの死体を乱暴に放り投げると、

バルトは地面に座りこんだままの少年に声をかけた。

海、林、南国の風。

ランポスが好む環境が全て整っているこの場所に、

子ランポスが一頭だけで居るはずがない。

はやくここから立ち去る必要があった。

 

 

 

「・・・・余計なことすんなよ」

しかし、うつむいたままの少年の口から聞こえてきたのは、

バルトの予想とは違い感謝の言葉ではなかった。

海岸沿いの林らしく、湿った風が吹く中

乾いた少年の声が喉から絞り出されるように響いた。

 

「イーオス・・・・くらい・・・・オレ一人で簡単に倒せたんだよっ!」

右手の石を精一杯の力で握りしめ、左手で一度強く地面を叩くと

勢いよく立ちあがった。

 

背伸びまでしてバルトを威嚇するように顔を近づける少年に、多少気押されながら

「・・・・イーオスは海辺には居ねぇ。こいつはランポスだ」

今度は抑え気味の声で返した。

 

「・・・・!?わ、分かってるよンな事ぁ!言葉のアヤって奴だよ!」

自分の髪の毛と同じくらい顔を真っ赤にして、少年。

「・・・・こんな所にまでモンスターが来たもんで、ちょっと驚いただけだ」

むくれっつらで言う少年の言葉を聞くと、

バルトは槍を地面に突き立て、考え込むように腕を組んだ。

 

「・・・・お前、名前なんてんだ」

「エルモジュニア。あんたは?ハンターみたいな格好してるけど」

うさんくさそうな顔をしながらも、一応少年、エルモジュニアは素直に名乗った。

バルトは聞き返された事には応えず、腕組みしたまま質問を続けた。

 

「お前、モンスター見るの今日が初めてだろ」

「・・・・っ!」

 

「このあたりは見たところかなり豊かな土地のようだな。

 モンスターがそこかしこに縄張りを作ってておかしくないはずなんだが」

本来どこにでも生息しているはずの、

もっとも弱い肉食モンスターに対して初見というのはあまりにもおかしい。

 

 

 

「・・・・父さんが睨みをきかせてたおかげで、

 このあたりはほとんどモンスターが棲んでなかったんだよ」

赤く紅潮していた顔を曇らせ、何故かうつむきながらエルモジュニア。

 

しかしすぐさま顔を上げると、バルトの持つ槍を指さし再び詰め寄ってきた。

 

「それよりもその槍、返せよ。父さんのなんだぞ」

ランポスを貫いたまま立ち話をしていたおかげで、

バルトの手まで血がしたたり落ちてきていた。

 

ドサッ

 

バルトは黙ったまま、ランポスの死体を落とすと

槍を少年には渡さずじっくり眺め始めた。

 

「なかなかの業物だな。盾はどうした」

 

「盾は無いよ!いいから返せよ!」

通常、ハンターが扱う槍は盾とセットだ。

返せ返せと言いながら背負った槍を奪おうとするエルモジュニアを適当にさばくと、

 

「本来の持ち主に直接返す。村に案内しろ」

バルトは言い放ち、一人勝手な方向に歩き始めた。

 

「あ、勝手に決めんなよ返せよ!もうなんで村の方向知ってんだよッ」

少年も慌ててバルトの前に立ち、大股で村への案内を始めた。

 

 

 


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