最後のハンター   作:湯たぽん

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その3

海辺のその村は、見た目こそ南国の陽気で開放的な作りではあったが、

どこか沈んだような、活気のない沈んだ空気が漂っていた。

なるほど、モンスターの侵入を考えていないらしい

簡素な造りの木の杭で囲んだだけの無防備な外見で

しかし今は襲撃に恐れているかのように静まりかえって、家の外に人影は少なかった。

 

「あ、エルモジュニア!どこ行ってたんだよ村中探したんだぞ!」

村の入り口で、門番らしい若い男にとがめられた。

後ろを歩く見知らぬハンターには目もくれず、

とりあえず少年のほうに怒鳴り声をあげる。

 

「村の外のモンスターを退治しに行ってたんだよ!

 もう少しでイー・・・・ランポスを仕留めるってところを邪魔されたんだ」

後半言葉を濁しながら、エルモジュニアは後ろを歩くバルトを示した。

 

「あぁ?モンスター退治だ?嘘つけ。

 どうせギルド派遣のハンターを見物しに行っただけだろうが」

門番の男はバルトのほうを無遠慮にじろじろ見ると、身をひるがえした。

 

「村長呼んでくるわ。ハンターの兄ちゃん門を見張っててくんねぇか」

さらに身勝手な一言を残し、男は村の中心へ走って行った。

 

 

 

「・・・・ここの村の人たちはヨソ者が嫌いなんだ」

走り去っていく男の背中を見つめながら、エルモジュニアはぽつりとつぶやいた。

革帽子のひさしのせいで、バルトの位置からは

その表情をうかがうことはできなかったが、

その言葉はバルトに対する謝罪というよりも、村人への軽蔑の気持ちが感じられた。

 

 

 

 

 

 

「いやいや、失礼な事をしましたな。ハンター殿」

先ほどの門番を連れて、村長が門まで出てきた頃には、

夕日が沈みそうな時間になっていた。

ゆうに2時間は門の外で待っていたバルトは、

槍を気にしていたのか何故かそばを離れないエルモジュニアと

一言も交わすことなくただ突っ立っていた。

 

「なんとなく状況は推察することができるが・・・・」

村のまわりを観察しながら、バルトは口を開いた。

 

「誤解の無いように、先に言っておく。

 俺はギルドが派遣したハンターじゃない。村を守る気は無いからな」

 

「なんと!」

大げさに驚く村長。

ちらりとエルモジュニアのほうを向くが、少年は首を横に振る。

 

「そもそも、この槍の持ち主がいるんだろ?このガキの父親と聞いたが」

 

「ん?槍の持ち主ですと?」

村長は妙に甲高い声だった。

村の外で二時間も待たせた今でも、一向に村の中へ招き入れる様子は見せない。

良い印象をはじめから持てなかったこの老人だが、さらに無遠慮な事に

 

「この子の父親、エルモですな。彼なら先月モンスターに食い殺されましてな。

 そのモンスターが近辺に巣食ってしまい、

 今まで村には近づかなかったモンスターも徘徊し始めてしまいました。

 それでギルドに新しいハンターの派遣を要請しておったのです」

実の息子がいる前でとんでもない事を言い出した。

いくら事実であろうが、年端もいかない子供に聞かせる言葉ではない。

エルモジュニアがビクン、と全身を震わせるのが見えた。

 

(・・・・ち。ガキに気を遣うのは性に合わないんだがな)

バルトは心の中で毒づくと

「まぁ・・・・条件次第じゃモンスターを狩ってやらないこともない。

 困ってんだろ?詳しく話聞かせろよ」

後ろからエルモジュニアを小突いてどかすと、

村長を促して勝手に村へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

「しみったれた村だぜ・・・・」

予想通り、村長の出した条件はろくでもないものだった。

申し訳程度に出された簡素な食事を食い散らかし、

バルトは真っ暗になった中、村長の家を出た。

 

宿すら用意されなかった。

「村の木のそこかしこに昼寝用のハンモックがつるしてあるでしょう。

 好きにお使いください」

なかなかオツなものですよ、と気を利かせた風を装った厄介払い。

バルトはどうにもこの村の雰囲気が好きになれなかった。

 

 

 

適当に村の中をぶらついていると、村はずれあたりで小さな焚火を見つけた。

 

「おう、エルモ」

バルトは近づくと、膝を抱えて小さくなっている赤毛の少年の横に座った。

エルモジュニアはちらりと横を見るが、すぐに炎に目を戻した。

 

「・・・・オレはエルモジュニアだよ。エルモは父さんだ」

 

「俺はお前の父親なんか知らん。ジュニアなんて付けて呼ぶの面倒だ」

 

 

 

「お前もそのうち父ちゃんを超えたらエルモって名乗るんだろ?」

ハッ、と。若きエルモがバルトのほうをはっきりと向いた。

 

しかし、またすぐに目を伏せ焚火のほうに向き直ると

「・・・・その槍、盾も一緒に無いとおかしいの?」

バルトが背中につるしている、奇妙な杖状の槍を指した。

 

「あぁ。ランスは盾とセットで使うのが本来のスタイルだ」

バルトは立ち上がると、背中から槍を外しエルモジュニアの前に突き立てた。

 

「返すぜ。父ちゃんの形見だったのか。盾は見つからなかったのか?」

エルモジュニアは無言で頷くと、槍を抱え込んで動かなくなった。

 

 

 

「・・・フン」

バルトは立ち上がると、砂浜に面した木につるされたハンモックを見つけ

そちらに向かった歩き出した。

 

 

 

「明日お前の父ちゃんを倒したっていうモンスターを狩る。

 話を聞く限り、相手はラギアクルスの亜種だ。

 本来こんな場所にいるモンスターじゃあないが、恐らく海で戦うことになるだろう」

肩越しに語りかけてくるバルトの言葉を、

エルモジュニアは焚火を見つめながらぼんやり聞いていた。

 

「・・・・父さんはあの時、病気だったんだ。

 村の人には何故か何も言ってなかったし、黙っているよう言われてたんだけど」

ぽつりと、そんなことを言ってくる。

確かに。バルトは息子に叩き込んだであろうあの体術を思い出していた。

村の近隣にモンスターが近寄ってこなくなっていたことを考えても、

相当の実力を持ったハンターだったのだろう。

 

「言い訳だな」

しかし、バルトはわざと冷たく言い放った。

不意に浴びせられた言葉に、エルモジュニアから危険な気配が発せられたが

「ランスなんて盾の防御の陰で

 ちくちく刺すしかできないようなハンターじゃたかがしてるな。

 明日、俺が格の違いってものを見せてやるぜ」

 

目的のハンモックに飛び乗ると、寝っころがった状態で大声で続けた。

 

「村長には明日、この砂浜で戦うと告げてある。

 海から上がってくる頃のラギアクルスじゃあ相当弱ってるだろうし

 砂浜中に罠を張り巡らせているから村は安全だ。

 砂浜を遠巻きに見物しておくといい、だが決して砂浜には入るなと言ってある」

あくびをしながら軽薄な声音で、しかし的確な情報を盛大な独り言でわめくバルト。

エルモジュニアもいつの間にか焚火から目を離し、身を乗り出して聞いている。

 

「ま、砂浜の罠ってのは邪魔されないための嘘なんだけどな。

 良いか、つまり明日のこの砂浜は

 誰にも邪魔されないお前の父ちゃんの仇との決闘場なんだよ」

 

 

 

そこまで言ったところで寝返りを打つと、バルトは声のトーンを変えた。

 

「だから、邪魔するなよ。ガキ」

 

「・・・・・・」

そのまま大げさにいびきをかき始めるバルト。

エルモジュニアは、赤毛を震わせ抱え込んだ槍をぐっと握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・と。昨日言った通り、砂浜には近づくなよ。

 勝手に罠にかかってラギアのエサになっても知らんし、

 先に罠を使い果たされちゃ村破壊し放題だからな」

翌朝、村人を集めてバルトが狩りの説明をする間、

エルモジュニアの姿はその中にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「いたな・・・・へへ」

海岸線の岩場で、目的の竜を見つけた。

巨大な白いワニ。遠目からはそう見えた。

 

グオオォォォォォォオオ!!!!

 

背中に生えた鋭い突起を震わせ、

さらに鋭い牙をむき出しにして咆哮するラギアクルス。

 

覇竜に左手を吹き飛ばされたとはいえ、

無い左手には盾を括り付け、右手には大業物の片手剣。

本来の姿で戦えるバルトに気負いはなかった。

 

「海中は苦手だからちょいと手こずるかな・・・・。

 だが30分後には砂浜に逃げ込むだろ。

 俺は泳ぎが苦手だから追いつくのに時間かかるけどな。

 逃げ込んだ先で覚悟して祈ってろ!」

わざと、周りに聞こえるように大声を出して斬りかかって行った。

岩陰に、エルモジュニアが槍を握りしめて潜んでいたのを知っているかのように。

 

 

 

 

 

 

「・・・・うわ、来たぞ本当に」

「しっ・・・・!気づかれたらどうするんだ」

「大丈夫だろ。あのあたり一帯罠だらけなんだろ?

 むしろ騒いで誘導すりゃいいんだよ」

本当にきっかり30分後、砂浜に弱ったラギアクルスが脚を引きずりながら現れた。

村人達は言われた通り砂浜には近づかず、しかし物見高く隠れて見物していた。

海竜は牙を砕かれ尻尾も切られ、背中の突起も何本かへし折れている。

だがそれでも、全身を青白く発光させながら怒りをぶちまけ砂浜を掻いていた。

 

と、そこへ

 

「うわあああああ!!!」

岩陰から、父エルモの槍を抱えたエルモジュニアが突進してきた。

槍を構えての突進ではない。槍を抱えてはいるが半分パニック状態のまま、

必死に足をばたつかせているだけだ。

 

奇襲でもなんでもないその突進に気付くと、ラギアクルスは向き直り、

片腕のハンターに良いように斬りつけられたいらだちをぶつけるかのように

 

ゴォォォォォォォ!!!

 

大咆哮した。

 

「ヒッ・・・・!」

思わず突進を止め耳をふさぐエルモジュニア。

 

「ば・・・っ!ジュニア!なにやってんだあの馬鹿!」

村側から小さな、しかし無責任な罵声が飛ぶ。

さらに無責任なことに、砂浜に仕掛けられているといわれた

罠に怖気付いて救けに行く者もいなかった。

 

 

 

ズザザザッ!

 

ラギアクルスは砂浜を掻きやや後退すると、

助走をつけて生意気な赤毛の少年めがけて体当たりをぶちかました。

 

「うわ、わわわわっ!?」

かろうじて槍を離すことなく、横に身を投げ出してかわすエルモジュニア。

 

振り向きざまに叩きつけられる尻尾を、なんとか槍で抑えるが

攻撃なぞとてもできそうにない。

慌てて距離を取ると、震える膝でなんとか立ち上がった。

 

 

 

「なにやってんだこのクソガキ!後ろ見てみろ!」

不意に、海のほうから怒声が聞こえた。

バルトだ。海から半分身をだし、わめいている。

 

「え、え!?後ろ!?」

エルモジュニアが振り返ると、すぐ足元に盾が半分埋まっていた。

海からあがったばかりのバルトを見ると、右手に片手剣を握ってはいるが、

何故か左手にくくりつけていたはずの盾がない。

 

ラギアクルスがバルトに凶暴な目を向けている間に、小さなエルモは盾を拾った。

もう片方の手には父親の形見である槍。

 

「こっちだ!オレは、エルモはここにいるぞ!オレも倒してみろよ!」

急に落ち着きを取り戻したエルモジュニアは、竜に対して挑発を始めた。

 

 

 

「バカ!ジュニア、子供に勝てるようなモンスターじゃないぞ!」

相変わらず近づこうともしない村人から、無責任な声がかかる。

ただし、無責任ではあるが正しい指摘ではある。

 

「負けない!アイツを倒さなきゃ・・・・!」

それを無視して、勝手に闘志を燃やすエルモジュニア。

勝ち目の全く無い強力なモンスターを目の前に、

小さなハンターを奮い立たせるものは

 

「あんな村を救うのなんて興味ないけれど!」

村人達を救おうという使命感ではなく。

 

「父さんが病気になった時、ああなることは覚悟してたけど!」

父の仇への憎悪でもなく。

 

「父さんのこの槍なら、なんだって倒せる事、示さなきゃ!」

父の強さの証明だった。

 

 

 

「おう。ならお前が見せてみろ、エルモ。

 俺はお前をジュニアなんて付けて呼ばないからな」

未だ海から出たばかりのその位置で動こうとせずつぶやくと、

バルトは腕を組み、厳しい目つきで少年と海竜を見つめていた。

 

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