最後のハンター   作:湯たぽん

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その4

グルルルル・・・・

 

手負いのラギアクルスが、先ほどまで闘っていたバルトから

大声で挑発を続けるエルモの方へと視線を向けていた。

 

 

 

(どちらが勝つにせよ勝負は一瞬・・・・)

腕組みをして、堂々と見守りつつも、バルトの頬には冷や汗が垂れていた。

当然である。大型モンスターの体躯は10メートルを大きく超す。

大きな建物と闘うようなものなのだ。

本来ならばハンターの中でも一握りの実力を持った者にしか勝つ事はできない。

 

 

 

(そもそも、ブレスとか変な遠距離攻撃されたら

 絶対避けられんだろうなアイツ・・・・)

ガードしても逆に動きを封じられて確実にトドメを刺される事もある。

盾を投げて押し付けたのは失敗だったか・・・・?

ガラにも無く本気でエルモジュニアの心配をするバルトだったが。

 

 

ズザザザッ!

 

幸運にも、ラギアクルスが選択したのは先ほどと同じ行動だった。

砂浜を掻いてやや後退すると、再び体当たりしてきた。

 

「おぉぉぉっ!!」

エルモジュニアはバルトの盾をしっかりと構えると、

足場の悪い砂浜を踏み固め反撃の槍を握りしめた。

 

 

 

ガキン!

 

そのまま脳震盪を起こしそうなほどの衝撃が盾を通じてエルモジュニアを襲った。

 

「くぅ・・・!」

しかし、あえて衝撃に逆らわず大きく後ろに跳んだ。

槍の握りもゆるんではいない。

 

父さん!

 

そのまま柔らかい動作で着地すると同時に、心の中で亡き父親に一言語りかけ

エルモジュニアは砂浜を力強く蹴り出した。

 

かなりの距離を吹き飛ばされてはいたが、槍の射程に入るのは一瞬だった。

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

槍は、見事ラギアクルスの口を貫いていた。

 

グッ・・・・オォォォォオオオオ・・・・

 

そのままゆっくりと倒れこむ父の仇。

同時に少年もその場にへたり込んでいた。

 

砂浜の向こうで無責任に見守っていた村人もあっけにとられて誰も動かない。

 

 

 

「こンのクソガキが!邪魔すんなって言ったのに

 人の獲物横取りしやがってどーゆーつもりだ!」

ラギアクルスが倒れるや否や動き出したのは、バルトだった。

ざくざくと砂浜を蹴り飛ばすように粗暴な歩き方で近づいてくると、

エルモジュニアの胸ぐらをつかみ引きずり起こした。

 

「あっ・・・・あっ・・・・」

口をぱくぱくさせて、今さら真っ青な顔色になっていた少年の体の各所を

乱暴にひっぱたき、怪我が無いか確認する。

 

「無事のようだな。運が良かったと思えよ!」

これまた乱暴に砂浜へ叩きつけた。

 

「ケッ、こんな辺境まで来てよぉ・・・・こんなクソガキに邪魔されて終わりかよ。

 二度と来るかこんなクソ村!」

チンピラのように砂を蹴飛ばすと、バルトはそのままの足で村の外へ歩き出した。

 

「あ、待っ・・・・盾を」

「いるかボケ!お前が使え!」

さらに怒声を上げると、速度を上げて村の外へ向かうバルト。

 

「あ、謝礼・・・・を・・・・」

「いるかボケ!あのガキにでも渡しとけ!」

村長の気弱な声も一蹴すると、さっさとバルトは村の外へ出た。

 

 

 

バリンッ!

 

 

 

村を出るや否や、あてつけるように村の出口、

門の杭に小さな小瓶を叩きつけるバルト。

憂さ晴らしを済ませたかのように、追いかけてきたエルモジュニアを無視して

足早に立ち去って行った。

 

 

 

『フフ・・・・器用な事だな』

村を十分に離れたところで、不意に頭の上から野太い声が降ってきた。

 

「何のことだ」

二日ぶりの旅の相棒、棘竜のエスピナスの言葉に、とぼけるバルト。

 

『あと一撃で倒れるように調整するなんて、なかなかできる芸当じゃないぞ』

「偶然だろ。なんで俺がそんな事しなきゃならん」

憮然と答えるバルト。ふと、気づいたようにエスピナスのほうを向き

 

「話を聞いていたのか?今までどこに潜んでいた」

問い詰められた棘竜は、フフンと鼻を鳴らすと得意げに答えた。

『あそこの山の上だ。飛龍の聴覚をなめてもらっては困るな』

 

「くそ・・・・盗み聞きしてんじゃねぇぞ」

『村の出口で叩きつけた小瓶も、

 古龍の血と火竜の煌液を混ぜ合わせたものだろう?

 最高級のモンスター避けだな。私もあの村へは今後近づきたくないな』

「うるさいっ!お前にもぶっかけるぞ!」

ハンターと飛龍、奇妙な旅連れは

仲良くケンカしながらジャングルの中を歩いて行った。

 

 

 

が、そんな時だった。

 

 

 

『ガハッ・・・・グアァッ!!?』

突然、エスピナスが大きく体を震わせ口から血を吐きだした。

 

 

 

「なっ・・・・!?おいどうした!」

慌ててかけよるバルト。

胸元に入ったモンスター避けの小瓶は・・・・割れてはいない。では何故?

 

 

 

『グ・・・・ついに来たか。思ったより早かったな』

なんとか持ち直し、立ち上がるとエスピナスはジャングルの向こうを鼻で指した。

 

 

 

『バルト・・・・旅を急ぐぞ。あの・・・・山の向こうだ』

 

 

 

 

 

 

『竜の谷へ。あの地が私を待っている』

 

 

 

 

 

 




これにて、第三章終了です。

ちなみに、この章のサブタイトルと少年の名前は、
船員の守護聖人セントエルモに関するお話から思いついたものです。

帆船のマストが光り輝くと、それをセントエルモの火と呼び
平時では凶兆として恐れられ、
しかし嵐の中では船を導き、また嵐を鎮めるという奇跡なのだそうな。

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