最後のハンター   作:湯たぽん

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エスピナスとバルトの、生と死をめぐる旅の最後です。

第三章から更新期間があいてしまった理由。
終章の執筆途中で、私の職場の先輩が亡くなりました。
自ら命を絶って。

その事実、またそこに立ち会った同じ職場の仲間達の気持ち、
先輩の事を知らずとも、落ち込んでいた私に声をかけてくれた友人の声。

それら私自身の「生と死をめぐる体験」も物語に取り込む事となってしまいました。
少し時間がかかってしまいましたが、バルトの旅の結末にて
私が出した生と死の意味をご覧ください。

ちなみに、終章にて結末を迎えた後も
挿入話がいくつか入り込む事になります。よろしければ、読み終わった後もたまに覗いてやって下さい。


終章 最後のハンター
その1


旅の終わりが近い。

 

バルトはそう感じとっていた。

 

 

 

「大丈夫か・・・・?」

 

『あぁ・・・・すまんな』

薬草を詰めた布をエスピナスの巨大な脚に巻き付けると、

バルトは焚火の準備を始めた。

鬱蒼と緑が生い茂った密林の真っただ中ではあるが

2人が出会った密林とは植物の姿が全く異なっていた。

ずっと北を目指して旅をしてきたので、気温も低い。

ギルドの管轄下から遠く離れ、

ハンターの開拓前線:フロンティアからも外れた僻地。

 

その上、エスピナスの身体には異変が起きていた。

 

「いつからなんだ、この脚・・・・?」

エスピナスは脚を引きずって歩くようになっていた。

エルモの村を出てから、2人はエスピナスの明かした目的地、

「竜の谷」を目指していた。

吐血して以来、多少ふらついてはいたようだったが。

 

『いや、脚の方はさほど問題ではない。つまづいてひねっただけだからな。

 問題はつまづいた原因のほうだ』

エスピナスは相変わらず野太い、不思議な声で冷静に自分の身体の事を語り始めた。

 

『平衡感覚がかなり弱っている。消化器官にも異常があるようだ』

そういえば先ほど吐いていたが、

嘔吐物の中には昨日口の中に放り込んでおいたこんがり肉が

ほとんど未消化のままあった。

 

(・・・・ブレスとして吐いていたら相手のハンターはラッキーだったのかも、な)

毒肉だけど。と、心の中で舌を出しながらバルトは

焚き火にかけられた鍋に目を落とした。

心なしか鍋の中身も嫌な色ががかって見える。

 

「で、その竜の谷とやらに行けば助かるんだな?」

鍋をかき回しながらも、エスピナスの脚を気にかけるように

ちらちらと視線を左右に振るバルト。

 

『あぁ・・・・もう目と鼻の先なんだが。この脚ではかなり時間がかかるだろうな』

無理に虚勢を張るでもなく、冷静に自分の状態を語るエスピナス。

密林に入ってしばらく経つ。

進む道の左右には山がそびえ立ち、峡谷を作り出しているのが

この位置からでも分かる。

 

 

 

旅の終わりが近い。もう一度、腹を括るようにバルトは心の中でつぶやいた。

 

 

 

「ふんぬぅぅぅぅぅぅぁあ!!!」

翌朝。静かな密林にバルトの怒号が止め処なく響き渡っていた。

エスピナスを腹から支え、全長20メートルを超える巨大な飛竜の

体重のほとんどを自分の背に引き受けながら、共に歩いているのだ。

四足歩行であるエスピナス。

尾も引きずっているのでバルトの足含め7点で体重を分散させてはいるが

それでもバルトが負う重さはトンを下らない。

 

『やれやれ・・・・これがつい最近まで死にたいなどと言っていた男の力とはな』

上のエスピナスも、呆れたような声をあげている。

だが表情は苦しそうだ。

バルトの位置からは表情は見えていないが、荒い息遣いが聞こえてくる。

脚に巻いた薬草は効いているはずだが、消化器官へのダメージに対しては

ほとんど処置が出来ていない。

体力はもう尽きかけていた。

 

「へ、へへ・・・・このくらいガノトトス一本釣りに比べればマシな方さ」

ハンターは時に、エスピナスよりもさらに大きい

30メートルクラスの水竜を竿一本で海から引っ張り上げて狩猟する。

滝のような汗をかきながら語るバルトの言葉には、

エスピナスと違って多少の虚勢が含まれているようだが、

しかしハンターの無尽蔵の体力とどんな超重武器でも振り回す膂力は、

しっかりとエスピナスを助け支えていた。

 

『すさまじいな。古龍一本背負いなんて荒業を行うハンターも居るとも聞くが、

 バルトもそうなのか』

 

「鋼龍までならな」

 

『・・・・出来るのか・・・・』

 

「大老殿のクソじじいは老山龍投げ飛ばしたらしいぜ」

どうでもいい話をのんきにしながらも、

コケに覆われた密林の柔らかい大地に、エスピナスをかついだバルトの足は

深く深く飲み込まれていっていた。

両側を山で挟まれた峡谷。目的地と目される場所は話してる間にも

近づいてきていたが、この状態では走り寄るのは叶わない。

 

 

 

「・・・・ところで、エスピナス。今さらなんだが」

相変わらず恐ろしいまでの超重量をその背に受けながら、普通に話しかけるバルト。

信じられない事にエスピナスの体重に慣れてきたようだ。

エスピナスのほうはずっと辛そうだが、竜の谷へ近づく速度は上がっていた。

 

『なんだ?』

 

「竜の谷。もうそこに見えているあそこだが、飛竜がいっぱい居る、のか?」

 

『・・・・あぁ、恐らくはな』

 

「恐らくは・・・・って行った事無いのか!?」」

思わず足を止めて、エスピナスの顔を見上げると

もはや首にも力が入らなくなっているようだ。

焦点の合っていない眼だけは必死に前方の目的地を向いてはいたが、

うなだれるように顎が下がっていた。

 

『本能・・・・と言うのか、これは。ただ、あの場所へ・・・・

 竜の谷、あの峡谷にある洞窟へ

 行かなければならない・・・・。そう、ずっと感じているのだ・・・・』

行った事のない場所のはずなのに、

どこか懐かしそうな顔でエスピナスは楽しげだった。

 

「飛竜の巣窟・・・・俺、行けるのか?」

逆に不安そうに、バルト。

そういえば、初めてエスピナスに会った時『死の意味がわかったその時に、

殺してやろう』と言われていた。

これが、そうなのか・・・・?

 

『いや、そこは問題無い・・・・だろう』

微妙に言いよどむエスピナス。

 

『襲われるような事はないはず・・・・だ。

 まだ距離はあるが、谷のほうに危険な気配は感じないし、な』

 

 

 

『何より、バルト。お前にこそ竜の谷を見て欲しい。

 その為にここまで付き合ってもらったのだから』

 

 

 

目的地まで数百メートルまで近づいたところで、

ようやく告げられたエスピナスの本意を聞いて。

 

 

 

(エスピナス・・・・まさか、な・・・・)

バルトの脳裏にある疑念が芽生えていた。

 

 

 

 


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