最後のハンター   作:湯たぽん

4 / 16
その3

カランッ

 

突然、標的に達する前にバルトの太刀は後ろに落ちた。

同時にバルト自身も片膝ついて動きを止める。

 

「マヒ毒・・・・付きのブレスだと・・・・」

よく見ると体液を浴びた皮膚がひどくただれてきている。

全身もしびれてきて動けない。二重の毒ブレスだったのだ。

 

『勝負あり、のようだな』

エスピナスがゆっくりと近づいてきた。

速効性のマヒ毒ではそう長い間動けない状態は続かないだろうが、

これほど近づかれた状態では

動けるようになったところで生死は完全に相手に掴まれたようなものだ。

 

「ち・・・・まぁここまでやれただけで良いさ。

 最後の狩りとしては満足だ。やれ」

 

『ふむ・・・・また”最後”と言ったな。』

またも理解できないという風に、首を振りながらエスピナス。

 

「・・・・あぁ、こんな身体じゃあハンターはもうやれないからな」

ひじから先が無い左腕を指し示すバルト。

全身の痺れは取れてきたが、戦意はもはや失っていた。

太刀を拾わずにゆっくりと立ち上がると、エスピナスの方を向いた。

 

『だから死ぬ、か?』

目の前まで顔を近づけて、静かな声音で語りかけるエスピナスに対し

 

「俺はハンターだ!ハンターでなくなるわけにはいかない!」

バルトは激昂していた。今さら腕を無くした事を後悔するかのように、

苦悩の表情で全身をわなつかせている。

 

 

 

だが、そんなバルトにエスピナスはなおも静かに語りかけ続けた。

『違うな。お前はハンターではなく、人間だ』

 

『人間ならばハンターでなくとも生きていけるはずだ。何故その道を探さない』

だが、バルトは急にうなだれると、再び座り込み力なくかぶりを振った。

 

「人間かどうかなんてどうでもいい。

 ハンターでないのなら俺に生きている意味はない・・・・」

 

 

 

『では、死ぬことに意味はあるのか?』

 

 

 

ふ・・・・っと、バルトが顔を上げた。一瞬目に迷いの色が走るが

「・・・・意味なんてねぇよ。生きるのが嫌になったら死ぬだけだろ。

 お前なら、俺をハンターのまま死なせてくれると思ったのによ」

 

 

 

ふむ・・・・

エスピナスがゆっくりと、納得するように息を吐いた。

鼻息で目の前のバルトの髪がくしゃくしゃになる。

 

バルトが髪を直しているうちに、エスピナスは背を向けて歩き出した。

 

 

 

『生きる意味が分からなくなったのなら

 私について来るが良い、哀れなハンターよ』

肩越しに投げかけられた言葉に、バルトが戸惑っていると

再び立ち止まり、少しだけ振り向いてエスピナスは続けた。

 

『死の意味が分かったその時に、殺してやろう』

 

「・・・・」

 

エスピナスの言葉の意味が分かったわけではない。

ただ、その言葉の奥に秘められた不思議な響きにつれられて

 

 

 

バルトは太刀を拾い、立ち上がった。

 

 

 

 




これにて、最後のハンター第一章終わりです。
この後、バルトはエスピナスと共にいろんなモンスターと出会う旅をする事になります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。