「何言ってんだ!?」
塔の崩壊が間近なのにも関わらず、爆弾を持ちながらも
跳ぼうとしないチャチャブーに向けて、バルトは声を荒げた。
「俺も届いたんだから俺より軽い奴が届かないはずはねぇだろ!
多少ジャンプ力が足りなくても、その爆弾があればいけるって!」
「・・・・バく弾って、こレ?」
チャチャブーは手に持った2つ目のタルを掲げた。
「あぁ、早く点火してこっちへ───」
しかしチャチャブーはなおも点火せず、タルを地面に置くと首を振った。
「コれはね・・・・睡眠爆弾なんダ。バく風は発生しないヨ」
「!!?お前、なんで!」
話している間に、塔の崩壊は急に加速しはじめた。
どんどん低くなっていく塔の上で、チャチャブーは穏やかにバルトに語りかけ続けた。
「サっき話したよネ。ボクの秘宝はバルトにお願いするっテ」
「馬鹿野郎!そんなの真に受ける奴があるか!
しかもお前嫁さんの秘宝はどうするつもりだ!」
穏やかに話すチャチャブーとは対照的に、声を限りに怒鳴るバルト。
もう崖側からは膝をついて身を乗り出さないと見えないほどに
チャチャブーの乗る塔は沈んでいっていた。
「ダい丈夫、バルトがボクの秘宝と一緒に植えてくれれば、
ボクが生まれ変わった後自分でお嫁さんのを植えるヨ」
自分の死の瀬戸際になって、なんとも悠長な話をするチャチャブー。
奇面族チャチャブーは、死ぬ時に遺す秘宝をその親しい者が地面に植えれば
十数年後に生まれ変わりとして生えてくるのだ。
「だからって、お前・・・・!それ覚悟で俺を先に跳ばしたのか!」
声を枯らし、ほとんど涙声になりながら
崖から身を乗り出し手を伸ばし、叫ぶバルト。しかしその手が届くはずは無く
「───馬鹿野郎!俺は死にたかったんだぞ!そんな奴の命助けてんじゃねぇぞ!」
ただバルトは泣き叫ぶしかなかった。
バルトの怒声に、少し驚いたように顔をあげるチャチャブー。
「・・・・ソの腕のことだネ」
「あぁ!こんなんじゃ生きててもやる事ねぇよ!」
既に枯れ果てた声で、崖の上から手を差し出したまま叫ぶバルトに対し
チャチャブーはあくまでも穏やかに語りかけてきた。
「ソれでも、生きるしかないんだヨ。生きられるんだかラ」
「チャチャブーがそうサ。ドんなに辛く悲しい事があっても、秘宝は残ル。
ツらいから死んでリセット、なんてボクのトモダチは許さないはずだヨ。
・・・・ソしてボクは生まれ変わル」
「・・・・!」
一瞬、バルトはチャチャブーの言葉に心奪われたが
「・・・・ソろそろ限界のようだネ。バルト、秘宝は頼んだヨ・・・・」
塔の崩落はもはや最後の段階に来ていた。
今まで塔の頂上が平行を保っていたのが不思議なくらい、塔の基部は崩れていた。
急に加速していく塔の沈下。
「待て!まだだろチャチャブー!話は終わっちゃ・・・・!」
崩落の轟音にかき消され、バルトの叫びは自分の耳にすら届かなかったが。
塔が崩れ落ちる最後の瞬間、聞こえるはずのないチャチャブーの声が、
バルトの耳にかすかに聞こえた───
「マた、いつカ・・・・会えるヨ・・・・」
『バルト!無事だったか』
崖をつたって塔の崩落場へ降りる途中、エスピナスが羽ばたいて迎えに来た。
「あぁ・・・・エスピナス。チャチャブーが、塔の中に・・・・」
『やはりか・・・・。乗れ』
エスピナスと共に崖から降りると
塔が建っていた場所は、がれきの山かと思いきや
建材が全て化石樹であったことが幸いしてか、ほとんど粉じんになっていた。
バルトには感覚で分かっていた。
何の迷いもなく粉じんの中の一点に向かって歩いていき、
チャチャブーの秘宝を取り上げた。
『それが、チャチャブーの秘宝か』
「あぁ・・・・」
奇妙な温かみのあるその種を手に、バルトはしばし立ちつくした。
「また会おう、だってさ。チャチャブーの奴・・・・」
『そうか、奇面族の秘宝について聞いたか』
「気楽な、もんだな」
『そうとも言えるな。
しかし、お前はまた会ってやらねばならんのではないか?』
「・・・・」
『また会おうと言われたのだろう?』
十数年後まで、この身体で生きていられるか・・・・?
・・・・生きて、いたいか?
十数年後の生まれ変わりを信じてたやすく人に命を譲ったチャチャブーと
身体の一部を失っただけで、その十数年の生に疑問を持つバルト。
バルトは、チャチャブーと自分の生死の違いに戸惑いつつ
二つの秘宝を丁寧に丁寧に、陽のあたる地面に植えた。
第二章、チャチャブーとの交流、これにて終了です。
チャチャブーには明確なモデルが居まして。
最後の台詞はほぼそのままとなっています。分かる方も多いはず。