最後のハンター   作:湯たぽん

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三章 セントエルモのステッキ
その1


「う・・・・後ろ!危ないっ!」

 

数瞬。状況の把握に時間がかかった。

何の危険もないのに突然横から叫び声が聞こえたのだ。

 

尾槌竜の重厚な鎧を身につけながらも、

兜は被らず視界を確保して警戒しながら海岸沿いの涼しげな林を歩いていた。

ハンターという職業柄、バルトは常にまわりに気を配っている。

周りには危険な気配は一切ない。声の主の気配にも気がついていたが、

しかし危ないと言われても・・・・。

 

 

 

「・・・・あ。」

 

ふと、思い当たるふしにぶち当たり、バルトは立ち止まった。

 

 

 

『・・・・む。』

 

後ろから似たような声が聞こえてきた。

バルトの旅の連れ、棘竜のエスピナスだ。

 

 

 

(エスピナスを見て声をあげたのか・・・・!)

 

今さらであるが飛竜と共に旅をする異常さに気付き、

バルトは失った左腕に括りつけた盾を振りかぶった。

 

「うおぉぉぉっ!」

 

真後ろへ向けて振り向きざまに叩きつけた。

 

 

 

グオォォォ!!

 

 

 

後ろのエスピナスも、辛うじて盾をかわしはしたが、

バルトに同調してわざと大げさにのけぞった。

 

 

 

(変に思われなかったか・・・・!?)

ヘタな芝居に赤面しながらバルトがようやく声の聞こえてきた場所を見やると、

声の主は少年だった。

 

「は、早く離れな!」

 

敵対を装って構えるバルトとエスピナスに向けて

少年は間の悪い事に何故か駆け寄ってきた。

10歳を少し越えたくらいだろうか。ある程度は伸びた手足を、

しかしばらばらに動かしてどたどたとこちらに向かってくる。

簡単な革鎧と、長めの赤毛がはみ出た革帽子。

そして手には少年の身体には不釣り合いな長い棒。

 

少年はつんのめるようにしてぎこちない手足をばたつかせると、

手にした棒をエスピナスめがけて投げた。

 

 

 

「ちぃ・・・・っ!」

 

近くを通り過ぎ、エスピナスへ向かう棒を、反射的にバルトはつかんだ。

そのまま片手で頭上一回転させると、改めてエスピナスへ穂先を向けて構える。

 

 

 

「ひ、飛竜か!覚悟しやがれ!」

そしてこちらもぎこちなく、エスピナスとさも戦おうとしているかのようにバルト。

覇竜との戦闘で失った左手には片手剣が納めてある小型の盾がくくりつけてあるので、右手の棒はとりあえず槍のように小脇に抱え、構えた。

 

(・・・・む、本当に槍だな、これは。)

バルトは、つかんだ棒が奇妙な形をしている事に気がついた。

 

単なるまっすぐな棒かと遠目には見えたが、

柄全体には細かい彫刻がびっしりと施され、

しかもその彫刻が美しさだけでなく全体の微妙な凹凸により

手に吸いつくような滑りどめの効果がある事がつかんでいるだけで分かる。

先端には丸い刃が2枚、敵に向けてバツの字を突きつけるような形に取り付けてあった。

 

棒ではない。機能的には明らかに槍だが、見てくれは杖のような

そんな奇妙な形の武器であった。

 

 

 

「余計な・・・・事をっ!」

ともかくも、エスピナスと戦うわけにはいかず

少年を戦いに巻き込むわけにもいかない。

バルトは肩越しに少年を確認すると、エスピナスと少年の間に入った。

 

槍を投げたままの姿勢でいる少年をよく見ると、小刻みに震えていた。

 

(チッ・・・・足がすくんでやがる)

 

このまま少年が動かなければ、

エスピナスと対峙しているだけで何もすることはできない。

バルトは小さく舌打ちすると、すぅっと息を吸い込み───

 

 

 

「───邪魔すんなガキが!お前こそさっさと逃げろ!」

 

「わっ・・・・わあああああああああああ!!!?」

 

バルトが怒鳴ると、ようやく我に返ったのか少年はビクンと全身を震わせ、

次の瞬間脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

・・・・ふぅ。

 

お互い構えだけはとかずに、少年が駆けていく後ろ姿を眺めるエスピナスとバルト。

 

 

 

「・・・・ま、芝居なんかしなくても、

 お前とまた戦えるんならそれも良かったんだけどな」

 

不敵な笑みを浮かべながら、槍をエスピナスに向けてバルト。

 

『フフン、そうだな。

 死にたいなどと言っていたあの頃が嘘のように元気になったじゃないか』

 

エスピナスも芝居っけたっぷりに足で地面を掻いている。

しかし、すぐに真顔に戻ると構えを解いてバルトに近づいてきた。

 

『まだ・・・・死にたいのか?』

 

同時に構えを解いたバルトは、

軽薄に肩をすくめると特に考えることなく答を返してきた。

 

「どっちでもいいな。生きる目標っていうほどの情熱はないが、

 この旅も楽しくなってきた。

 左腕が無くなったっつっても、こうやって盾をくくりつけて戦う

 片手剣やランス、ガンランスなら扱えるしな。・・・・っと」

 

ふと、自分の手の中に残った奇妙な槍を思い出し、

バルトは少年が駆けて行った方向を見つめた。

 

「しまったな。あのガキにこの槍返さなきゃな」

 

『そうだな。結局あの少年は何だったのだろうな。

 まぁ、久しぶりの人里だろう。私を狩った事にして行って来い』

 

あっさりと自分の敗北を宣言すると、

エスピナスはさっさと翼をはためかせて飛び上がった。

 

 

 

「・・・・子供は苦手なんだがな・・・・」

 

バルトは深く嘆息すると、少年の村を探しに脚を踏み出した。

 

 

 

 

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