百合短編集   作:煉音

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固い表面と甘い内面 全2話
1話


 家に帰るとなんかとても寂しい。今日はせっかく誕生日だというのになんだろこの感覚、とっても気持ち悪い。

 

 カチャッと鍵をかけ、トボトボとワンルームの部屋に行き、ベッドにボタッと倒れる。枕に顔をうずめると自然と涙がたくさん出てきた。

 

 今日は、この部屋で彼氏に祝ってもらうはずだったのに、直前でドタキャンされ、仕方なく繁華街を見て回っているところ彼氏を発見、しかも隣には同じ大学の同級生がいて、腕くんで楽しそうにしていた。そこから先はよくある通り、その場で問いただすと女に叩かれ、彼氏には別れを宣告されるという仕打ちだ。

 

 好きだったのに、もう信じられなくなって家に帰ってきたしだいだ。帰る途中に一通だけメールが来たけど、罵倒と別れの短文メール、もう仕方がないとわりきったのはいいけどなんだか落ち着かない。

 

「ひっく……ぐすっ」

 

 寂しい空間に響く自分の声がさらに嫌で、イライラもたまるばかりだ。せめてだれかとなりにいてくれたらもうちょっと安心できたかもしれない。

 

”ピンポーン”

 

 急のチャイムで顔を上げた。今は夜の9時だけど約束とかは何もしてないはず……。

 

”ピンポーン”

 

 また鳴った。居留守を使おうか迷ったけど、そもそも電気つけちゃってるし出ないとまたならされるかもしれない。とりあえずチェーンをかけて応対しよう。

 

「はいはーい」

 

 自分の出した声が思ったより小さくてびっくりしたけど、とりあえず涙を拭い玄関に行った。

 

 トントンと薄暗い廊下を歩いていき、ドアにチェーンをひっかけて、鍵を開けた。

 

「こんばんは、大月さん」

 

 そこにいたのは高校からの付き合いの親友だった。もともとは仲はそれほど良くなかったけど、大学の志望がたまたま一緒になり、絡むようになった。名前は長部青菜、高校での評判は友達が少なく根暗な雰囲気だったけど、実際話してみると明るく物知りな性格だった。おまけに強い研究精神があるため、先生や教授にとにかく気に入られやすい。今はなんだったかな……IT普及と事務職縮小の意味とかそんな内容だったと思う。

 

「こんな夜遅くにどうしたの?」

 

 長部さんは身長が155程度と低めで髪は短い、目はどちらかといえば鋭い顔つきで、微妙に子供っぽい雰囲気がある。でも性格はかなり真面目で、現に私の名前を絶対に苗字でしか呼ばない。たまにからかうようにあだ名で呼ぶときもあるけど、名前は呼ばないのだ。おまけに結構敬語で喋ることが多い。

 

「実は明日、ゼミの集合が朝早く、電車では厳しいため今日一日泊めてほしく思いまして、もちろんただで、とは言いません」

 

 大月さんは家が遠く、こちらまで2時間以上かかるところから電車通勤だ。本人が言うには、最寄りに開発推進が良い大学が少ないという理由だそうだ。

 

 どっちにしろ、今の私からすればちょっとでも愚痴を言える人と一緒にいたかった。

 

「いいよ。別になにも手伝わなくてもいいし。泊まるならどうぞ」

 

 そう言ってチェーンをはずし、彼女を招き入れた。またドアを閉め部屋に戻ったのだった。

 

ーーーー

 

 青菜は少し部屋をキョロキョロと見まわした後、机の前にチョコンと座り、バッグからノートパソコンを取り出して作業を始めた。彼女の体系には似合わない大きめのノートパソコンは明らかに3万程度のものじゃないのがわかる。そういえば彼女はパソコンが大好きだったっけ。

 

 私も彼女に前に座ると、彼女は唐突に作業をしながら口を開いた。

 

「大月さん、何か嫌なことでもありましたか?」

 

「え?」

 

 急なその言葉に一瞬戸惑うと彼女はつづけた。

 

「枕が濡れています。汗にしては今日の気温的にはかきすぎですし、目元が少し赤いですよ」

 

 淡々とつげる彼女は不愛想だ。高校の時にうまく周りとなじめないのはこれが原因なんだろうな。まぁ、でも愚痴とかいうならこのタイミングがいいのかな。

 

「まぁ……うん、今日彼氏と別れたの」

 

 そういうとカタカタとキーボードを鳴らしていた彼女の手が止まった。

 

 パタンと音がして、彼女はノートパソコンを閉じた。相変わらず彼女の目線はまっすぐだ。

 

「ごめんなさい大月さん。そんな大変な時に私……無神経なことを」

 

 そう言って彼女は頭を下げようとしていた。相変わらず真面目なところもなんか変わらないな。

 

「あ、いや。別に……その……よかったら聞いてくれる?」

 

 長部さんはパソコンを閉じてそのままにし、私の横に四つん這いで隣まで来てくれた。高校のときは人柄がなってないとみんなに言われてたけど、今思えば全然そんなこともない。むしろ情にかなり厚いくらいだ。

 

 正座で聞き入るような体制の彼女に、もっと楽にしていいよと促して向かい合う。

 

「えっとね……今日、私の誕生日でね……ずっと前から彼氏に言ってたんだけど、昨日ドタキャンされて、仕方なく繁華街で一人ショッピングしてたら、偶然彼氏を見つけたんだけど、他の女の子と一緒でね……」

 

 小さく頷きながら真剣に彼女は聞いてくれた。”そうなんだ”とか相槌を打つでもなく、とにかく真剣な目で私の話を全て聞いてくれた。なんだか全部打ち明けられただけでもすっごく気が楽になってきて、ふと目元がウルウルとして彼女の顔が崩れる。

 

「そうだったんだ……災難だったね」

 

 長部さんはポケットからハンカチを出して、渡してくれた。

 

「ひぐっ……うぇ……」

 

 長部さんはそのあと私の背中を何度も何度も撫で、私が落ち着くのを待ってくれた。だけどそのまま私は泣き疲れて寝てしまったようだ。

 

ー次の日

 

 パチッと目が覚めると見慣れた天井があった。あれ、昨日何してたっけ。

 

 あ、そういえば……と思いバッと起き上がり隣を見ると、ベッドの骨組みに背中を預けて座って寝ている長部さんを発見。なんともまぁ彼女の意外なところに驚いていると、彼女も目を覚ましたらしい。目をこする動作のあとこちらを振り返った。綺麗な顔だった。

 

「おはよう、大月さん」

 

 私の方が早かったのに彼女が先に返事をしてしまった。

 

「おはよ、昨日はごめんね」

 

 そう言って謝ると、彼女は首を振って立ち上がり、洗面所に行ってしまった。

 

 私も立ち上がり、今日の予定を確認する。そういえば彼氏との予定のために今日は講義も何も入れてないから暇だったのだ。なにをしようかな。

 

 そうこう考えてると長部さんが携帯を耳に当てながら戻ってきた。

 

「けほっはい、すみません。お願いします」

 

 ポンポンと携帯の画面を押した後、私に視線を戻し言った。

 

「今日は暇でしたね?私のおごりです、遊びに行きましょう」

 

 そのときの彼女はなんだか慈悲に満ちた笑顔だった。

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