バカとテストと召喚獣~バカの婚約者はグラビアアイドル~ 作:オーズ・ジャニケル3
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僕は…ただ、近づきたかったんだ…。
もう遠のいてしまって…釣り合わない彼女に並びたい。じゃなきゃ、僕は…、僕は……
「吉井君?」
「…っ!…」
ハッと意識を取り戻し、辺りを見渡すと鉄人と月夜さんが何事かとこちらを覗き込んでいた。
…いけない、せっかく月夜さんから話しかけてもらってたのについぼーっとしちゃった…。
「大丈夫ですか?何だか顔色が優れませんよ?」
「…ごめんなさい…。ちょっと頭の中がぼーっと」
「吉井にしては珍しいな」
「にしてはは余計ですよ!?」
僕と鉄人の何時ものコントもどきが起こる隣で月夜さんが微笑ましそうに笑っていた。偽りのないその笑みは、とても嬉しそうで…とても切なく感じた。
「そうだ吉井、聞きたいことがあった」
「はい?」
「……机に置いてあったあのプロテインは何だ?」
「……、…、あれは雄二が「吉井、坂本より」とわざわざ置き手紙があったが?」
…完全に忘れてた。最近筋肉が衰えて無いかなあと…雄二と一緒にバレないように置いたんだった!!くそ、何で雄二が居ない時に…
「吉井、歯を食いしばれ」
「ちょっと待って下さい!?何ですかそのオーラ!?目が光ってますよ!?」
多分、何かしなかったら僕は潰れたみかんのようになるだろう。
顔を引きつらせ後ずさりをしていると鉄人がどんどん迫って……――来ない
「宗一さん…すぐに暴力を振るっては駄目ですよ」
「……ぬぅ」
月夜さんに押さえられてるというか、太い腕が大きな谷間へと収まっている。流石の鉄人も顔が赤く染まり焦っているように見えた。
「…ごほん……何だ、今日は許してやる」
「色々とごめんなさい」
「言うな……余計に恥ずかしくなる」
…気まずい…。
鉄人の珍しい一面を見て面白い筈なのに何故か謝ってしまった…。
夫婦のイチャイチャを見てしまったからか…?
「…宗一さん、生徒さんとちゃんと仲が良いんですね」
「え、どういうことですか?」
「月夜、お前はまた…余計な」
鉄人と僕は仲が良いと言われれば腐れ縁的なものに近い。でも、鉄人は生徒から信頼される部分があるし、何だかんだ言っても指導が良い…それは去年から学んでいる僕が分かっている、分かっているけど…月夜さんの言葉に聞き返さずにはいられない。
「…宗一さん…噂では暴力教師やいじめの主犯、悪いお手本、…死んでほしい教師一位……なんて言われてるんです」
「…………っ…先生?」
「…ああ、本当だ」
胸が酷く痛んで、不意に顔が歪んでしまった。ああ、そうか…月夜さんから何で切ない気持ちが見えたのか分かった気がする。
暴力は…僕らが殺しにかかる勢いだからやむを得ないし…他の生徒にはしていない…第一、鉄人の教え方は上手いし…僕だって悔しいけどお手本にしている…。
…何なんだよ…。どういうことだよ?何で……
「吉井…」
「…ずっと黙ってたんですか?」
「……お前には関係がない」
「何でだよ!?悔しくないのかよ!?だって、だって…鉄人は……そんな風に見られる先生じゃないじゃんかよ!」
「…………」
「何か言え!!…僕は……僕はこんなの信じるもんか!」
拳が出るのをぐっと堪え、震える体を無理やり座らせる。
悔しくて、手のひらに爪が食い込むくらいにまでぎゅっと握りしめた。
「………ありがとうございます吉井君」
「………え」
「私の主人の為に…誰かの為に怒ってくれる人なんて…優しい人なんですね」
「違いますっ…僕は…」
「誰かの為に怒って…誰かの為に泣いて……普通の人なら…簡単には出来ません…そうですよね?宗一さん」
「………すまないな吉井。俺が不甲斐ないばかりに」
…何で謝るのさ?
謝るのはこっちなのに…
鉄人は苦笑いをした後、月夜さんに何かを取りに行って貰うよう頼んでいた。
「俺のことは俺が何とかする、お前は関わるな」
「鉄人…」
「さて…本題に入る前にだ。まあ見て分かるだろうが……月夜の脚を見て…何か気がついたか?」
…言わないでおこうと思った言葉を鉄人は無理やり吐き出させようとしている。
それはきっと、鉄人が何故家に招いたか…その答えに繋がる…。けど、言い出せば切ない気持ちに支配されるかもしれない。
「…どうして…月夜さんは…」
――どうしてあの人は車椅子何ですか?
言ってしまったことに後悔が乗っかって来る。もう遅いのは明らかなのは分かっている。
月夜さんは…ずっと…さっきも車椅子を押して移動している。まるで、もう一生歩けないように…飛び立てない鳥のように…月夜さんから感じた切なさの他に悔しささえも見えた。
鉄人はその言葉を聞いて暫く黙っていた。月夜さんが戻って来ない間…空虚な時間が続く。
「吉井、…俺は…」
次に出た言葉に、僕の全身の血液が頭に駆け上がって来るような感覚が襲った。
「―――彼女の自由を奪った」