東方黒黒狼 作:東方大将軍
「…あ」
風が頬を撫でる感触が過ぎ去って、空へと消えていく。髪の毛の先をもてあそばれてこそばゆいのを、俺は呆然とした表情で無意識にあたりを見渡した。
森。森だ。そうだろう。圧倒的な緑色の海が風に揺られてさざ波を起こし、葉と葉の擦れる音が耳に心地よい。土の濃厚な匂いが鼻を刺激して、さらした肌を冷たい湿った空気が包み込む。
森林。それもかなり深い森だ。
「…なんだこれ」
しばらくしてようやっと口に出た言葉は、そんな至極当たり前な疑問だった。
「…俺、確か普通に布団に入って、寝てた…はず、だよな…」
そう、俺は、影縫夜一(かげぬいよいち)は、今年齢16歳で年齢=彼女いない歴の普通の男子高校生の俺は、普通に志向のおふとぅんの中にもぐりこんで眠っていたはずなのだ。それが俺が思い出せる最後の記憶で、今、俺が困惑している最大の原因の一つでもあるわけだ。
が、目を覚ましたら森の真っただ中でした、と。
「…あるぇ。これ、どういう状況?いっつざドッキリ?ドッキリなの?」
なんてとぼけてみるが、帰ってくるのは森の静寂のみ。
「お、おいいいいい!ドッキリなんだろ!?ドッキリなんだよねこれ!?誰かなんか言えよおおおお!看板もってドッキリでしたっつって俺に右ストレートかまさせろおおおお!」
静寂に耐えかねて叫んでみるも俺の声はただただむなしく木々の間を響いて消えていく。
「…マジで勘弁しろよぉ…」
始まりはクライマックスでした。まる。
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あれから数日が経って、俺はやっと今の状況を正しく理解できた。
俺、なんだか転生したっぽい。
いきなり何言いだしてやがる、だって?いやいや、だってそうとしか思えないし、そう思わせるような要因が俺の目の前にじゃんじゃん登場してくるんだから仕方がない。
まず俺の見た目が思い切り若返っていやがった。
いや、まだ花の高校生な俺が何を言ってやがるんだって話なんだが、事実、俺のこれといった特徴のない冴えないフツメンフェイスや長身猫背の卑屈さの現れた体形はどこぞへと消え去り、残ったのは黒髪ちびっこの中学生くらいのショタボーイだった。
元々黒かった髪の毛はなぜだか一段とその黒くなり、目は丸くなって、印象が大分元の俺のものと変わっていた。丸くて釣り目。まるで野良猫のような目元となっていた。色は、髪の毛と同様に光も通さないような夜を溶かし込んだかのような黒色へと微細ながらに変化していた。しかし肌はそれと相反するように陶磁器のように真っ白で、赤ちゃんのようなつるぷやスキンへと変貌を遂げていた。まるで本当につい最近に生まれ落ちたかのような、そんな若々しさが、俺のお肌に宿っていたのだ。世の女性の嫉妬が怖い気がする。
身長は145~150くらい…だと思う。いかんせん鏡もない現時点では、これ以上の情報を得るにはいささか足りないものが多すぎた。
今はちょっと歩いた先で見つけた泉で姿を簡単には確認出来はするが、正確さには欠けるだろう。まあ、自分の姿を見るには十分すぎるが。
そして服だ。服はなぜか和服にすり替わっていた。靴は下駄。両方ともなぜか妙にしっくりくるのは気のせいだろうか。
和服の色は真っ黒だ。俺の髪の毛や目と一緒。まるで影を編み込んだかのような黒色をしていて、所々に白い糸で刺繍でシンプルなアクセントをつけていた。
だが、一番の変化はこれだ。
俺、腹が減らない。
さらに大体10mくらいの段差をひょいひょい上って行けたり、岩を持ち上げれたりした。
…うん?何を言っているのかよくわからないって?俺もわからないからどうか安心してほしい。なんだこれ。
つまり、今までの情報をもとに推測するにだ。
俺、人外的な何かに転生して異世界にて候。
って、ことになるんじゃないか?
まだここに来て数日…下手したら一週間いってるかもだが…まあ、たったの数日。
見つけた泉を中心に森を見て回ってみたりしたが、未だに出口は見つけられず。
というかこの森、全体的に色々とおかしい。木一本一本の幹の太さが庭付き一戸建ての家が建てるくらいの太さだし、天に届かんと言わんばかりの高さだし。
ただ、一度試しにそれを利用して木の天辺まで登って出口を探そうと画策したのだが、案の定というかなんというか、木の天辺には、緑色の大地が地平線まで延々と続いていただけだった。
そして俺は確信した。あ、この世界多分異世界だな、と。
そして大よそ80mはあるだろう木を難なく登り切った俺の体は、多分人外のソレなんじゃないかと。
…これからどうなるよ、俺。いやマジで。