戦争で焼けてしまった姿でさえも、私は美しいと感じた。
貴女達に時間があるかは分からないけど、是非訪れて欲しいものね。
意識を手放したと思った先には、いつものあの夢があった。
夢の中では馴染みのある男女の姿もそこにある。
女が赤子を抱き、それを男が覗き込む。
いつもと同じ光景が、そこに広がっている。
「かわいいわ。どうして子供はこんなにかわいいのかしら。ね、あなた?」
「さあ、どうしてだろうな。」
私の知っている家では無い。まるで遠くにある人の住む家のようなこじんまりとした邸宅だが、その装いには全くもって覚えが無いのだ。
それを認識して、いつもの夢と違う部分があることに気づく。
いままでの夢の中では、私は彼女たちの顔しか見ることができなかった。
そう、まるで2人の中心にいる赤ん坊の中に入ってしまったかのように。
それがいまは、妙な浮遊感を伴って室内を俯瞰して見ているのだ。
夢を喰う妖がいるという話は聞いたことがある。我がスカーレット、その上に立つ吸血鬼本山のツェペシュの領内にそのような妖がいるのかどうかは定かではないのだが、こうも同じ夢を見るのはなんらかの原因があると思って間違いないと思う。
努めて冷静に私は分析する。いままでのパターンからすれば、夢で考えていたことや記憶は覚醒した後も私の中に残っている。こういうのも変な話ではあるが、起きた後の私に期待していまは情報整理に専念すべきだろう
恐ろしいほどに私は冷静だった。
(・・・あれ?いままでの夢って、こんなに長かったっけ)
微かな違和感。同時に、チクリと頭が痛む。
その痛みを封殺し、こちらには気にも留めず、何気ない幸せそうな2人の会話を記憶に刻みつける。
「・・・それで、名前はどうするの?」
名前。重要なキーワードかもしれないが、まず夢の外に繋がりそうな話ではない。
「ああ、もう決まっているんだ。君と、他でもないこの子が気に入ってくれるといいな」
早く次の話題になれ。その子の名前なんて、私には関係ない。こちらの事情など知る由もないと分かっていながら、私はそう念じていた。
まあ、無理もない話だと思う。私はその次に訪れる衝撃に備えていなかった。
「名前はーーーーーーー■■■■」
そこの部分は聞こえなかった。何故か。
その瞬間、先ほど感じた頭痛が、何百倍、何千倍にもふくれあがり、他でもない私に襲いかかってきたからに他ならない。
(ガッーーーーー!!!!!!!!)
声にならない声を押し殺す。意識が遠のく。視界が黒くなっていく。痛みが膨れ上がっていく。
全てが真っ暗に染まったとき、太い血管が切れるような、ブチリという音ともに最大級の痛みが私に襲いかかった。
刹那、私は意識を手放し、そのまま闇に溶けていった。
「・・・レミリア様?」
目が覚める。見知った天井、見知った顔が目に入り、私は夢が終わったことを知る。
先ほどの痛みがまだ微かに残っている気がする。それに頭から背中、腕にかけて、体内がとても熱い。
「・・・私はどれくらい眠ってた?」
「ほんの半刻ほどてす。そんなに長い時間ではありません。それよりレミリア様、大丈夫でしょうか?顔色も優れないようですし。・・・あっ」
心配そうなリリアを横目に、私は寝かされていたベットを後にし、机へと向かう。
「心配かけたわね、リリア。私はもう大丈夫よ、お母様にもそう伝えておいて頂戴」
「・・・そう、ですか。分かりました、なにかあったら呼んでください、直ぐに行くように先生に言われていますので」
「ん、ありがとう。」
彼女は特別心配性というわけでもないし、お母様に至っては私の心配なんてしたのは初めてのことではないだろうか。
それほどにヤバい倒れ方だったということか。
ドアが軋みながら閉じたのを確認して、私は机に目を戻す。
時間的には先ほどになるだろうか、『守護魔法の心得』というページを開きっぱなしの魔道書をよけて、紙とペンを取る。
夢の記録を残すためだ。
ふと、気づく。
(守護魔法の・・・心得?)
何かがおかしい。おかしいはずだ。
違和感の正体を探る。
魔 導 書 の 文字が 読 め て
(ヒイッ)
読める。先ほどまでは読めなかった文字が読めている。恐ろしく不気味である。
お母様に何かされたのだろうか?いや、そんな素振りは一切なかった。
リリアに何かされた?寝ている間は分からないが、あの人はそういったことをするような人間ではない。
何か変わったことはあったか?
そうだ。今までになかったのはあの手拭い。
アレが何かあったのか?
微かに痛みの残る私の脳が回転を始める。
今しなければならないことは夢日記、手拭いの回収、そして魔導書を読み進めることだ。
フル稼働した頭が優先順位を高速で決めていく。
私は高速で夢日記を片付け、およそ一刻ぶりに母の部屋へと向かうこととなった。