「ヒビキ、どうしたの?」
「ん?」
「疲れた顔してる。」
「・・・ちょっとだけね。それよりもどう?進捗は。」
「うん!!ちょっと見て!ほらっ!!
えへへ、すごいでしょっ!!」
ヒビキはタマモと修行中。
今日は木登り修行の次段階、水面歩行の行である。
「・・・うん。いいね。乱れがほとんど無い。」
「すっごい練習したもんっ!」
内気なタマモにしては珍しく感情が表に強く出ている。
よっぽどうれしいということだろう。
「上出来。」
「・・・もっとほめてくれても・・・」
「ん?」
「別に。」
「いきなりどうしたのさ?
やっとできて喜んでたのに・・・」
「・・・うん、うれしいよ。うれしいけど・・・ヒビキ、あまり喜んでくれないんだね?」
「・・・僕が喜ぶのは変・・・でもないか。
先生役してるものね。・・・うん、嬉しいよ?」
笑顔を浮かべようとして、うまく笑顔になれないことに気づくヒビキ。
ここにきて始めて笑顔を作る機会がないことにも気づいた。
だからだろう。ぎこちない笑顔になったヒビキを見てタマモは不満そうな声をあげる。
「・・・うぅぅぅ。」
「お、お祝いにお団子買って食べようか。」
「ほんとっ!?」
そういえば子供ってこういうところあるよね、とか思いつつヒビキは苦笑した。
子供じゃなくてもめでたいことはたとえ人事でも多少なりともリアクションしてほしいと考えるのは普通のこと。
あわてて食べ物で釣ってみたのだが、うまく誤魔化せたようである。
やはりこのくらいの子供は花より団子なのかもしれない。
「それはそうとヒビキ。」
「何?」
「最近、怖い顔ばっかりだよ?どうかしたの?悩み事?私、力になれる?助けれる?」
「大丈夫。たまたまだよ。・・・こういうたまの鋭さも子供特有のものか・・・」
「ん?」
「ありがと。でも大丈夫。」
「・・・そう?」
☆ ☆ ☆
じっくりと仮称「ゼツの胞子」の位置を確かめ、丹念に火影宅への侵入ルートを模索していたところ。
とある重大なミスに気づくヒビキ。
「久しぶりに付き合ってくれるのか。」
「・・・まぁね。」
久方ぶりにイタチと組み手である。
今日も今日とて彼の力量チェックだ。
「それはそうとヒビキ。お前はどうして本気を出さない?
俺の力が足りないからか?」
「・・・っ。」
なんとか驚きを飲み込むヒビキ。
タマモが相手の時は素が出ていても、イタチを相手するときは自然身構える状態になる。ゆえに無口無表情のクールな美少女然とした演技も自然と違和感が無いものになる。
表情に出なかったのは僥倖だ。
すっとぼけようと思ったが、ヒビキが力を隠していること。
これがばれていることがミス、というわけではない。
イタチがこちらの隠したがっているのを見たがっているならば見せてやればいいのだ。
むしろこれはチャンスだ。
「・・・別に。」
「すでにヒビキが写輪眼であることもわかってる。組み手だから使わないのか?」
「・・・深い意味は無いよ。」
「・・・だから、今日は本気でやろう。お互いに。」
そういって写輪眼になるイタチ。
完全な写輪眼である。
ヒビキはいまだ、4歳のときに開眼しておきながらも中央の瞳の周りを囲む三つの小瞳孔は二つまでしかない。
この時点でヒビキとイタチの絶対的な差を見せ付けられている気がした。
とはいえ、ヒビキの写輪眼が不完全なのは理由があるのだが。
「お互いもう少しで卒業だ。
成績上、一緒の班になる可能性は低い。だからこそその前に本気でやってほしい。」
「・・・わかった。」
わかったという言葉は当然うそである。
この空気で嘘をつけるはずもなく、またつく理由もないだろうというイタチの思考の裏をかいたつもりである。
イタチがそれを見破っているのかは定かではない。
ヒビキは写輪眼になって、イタチと相対する。
ここであえてヒビキの実力を誤認させることができれば儲け物だ。
そうすれば彼と戦う日が来た時に役立ってくれるかもしれないのだから。
「一本勝負だ。」
「・・・。」
ヒビキはうなずく。
☆ ☆ ☆
結果はヒビキの勝ちである。
とはいえギリギリと呼べるものだったが。
ヒビキとしてはもちろん勝つつもりは無かった。
イタチが殺す気か!?と思えるほどの本気モードで攻めてこなければ加減もできたろうに。
逆に言えば”本気を出させ得るほどに差が小さい”ということに他ならない。
加減する余裕など微塵も存在していなかったのだった。
「・・・くそ。」
何を罵ったのか。
珍しくイタチの言葉が荒れていて、驚愕と悔しさで入り混じった表情を浮かべながら帰っていった。
くそはこっちの台詞である。
「・・・はぁ。」
ため息をつく帰り。
当然、うちはの区画にすんでいるため、イタチの偵察がてら家の前を通ることもある。
なんとなく様子が気になったのであえて遠ったのだ、そこでありえない光景を目にした。いや、十分ありえる光景ではあるのだが。
正確に言えばありえてほしくない光景を目にしてしまったのである。
「・・・っ!?」
イタチがいた。
もちろんただイタチがいるだけというなら何も驚く必要は無い。
驚いたのはイタチが抱えているものに対してだ。
「サスケ・・・世界は広いんだな。」
抱えているもの、すなわち赤子にそう語りかけているのはイタチである。
それともうひとつ。
サスケ?
サスケといったか?
写輪眼による読唇であるからしてまず間違いない。
いつ?
いったいいつごろにサスケは生まれていた?
重大なミス。
それは修行にかまかけてサスケに注意がいってなかったことである。
そう。ナルトとサスケはおそらく同い年。
サスケは早生まれでナルトは多少遅い。
もし、サスケが生まれてだいぶ経っていたとしたら・・・
「っ!?」
それがフラグに。
それがきっかけになったかのように起こる悲鳴、ついで怒号。
見たくない。
まだ準備は終わってない。
まだ猶予はあるはず。
あって・・・ほしい!!
そう願って振り返るとそこには里をつぶす九尾の姿があった。
「くっっそぉっ!!」
すぐに駆ける。
目指すはあたりをつけていた出産場所付近のいくつか。
なんのコネも持たないヒビキにとって原作知識だけではさすがの限界があった。
マダラ事件の際の介入ポイントは大きく分けて4つある。
まずひとつはナルト出産直後。
これはもはや手遅れである。
ナルトを人質にとらせない。それだけでもずいぶん楽になるはずだったのだが。
二つ目は九尾を取り出す瞬間。
どんな人間も目的のものを手に入れた瞬間が一番の弛緩時。
マダラクラスともなればその一瞬はまさに瞬く間であろうが、それでも狙う価値はあった。
しかしこれも九尾が出てきている以上いまさら何を言おうと仕方がない。
三つ目はミナトとマダラの戦闘時。
これもまたミナトと事前に打ち合わせができなかったことからむしろ気を散らす要因になりかねない。
ミナトクラスならばその動揺も押し込める、という可能性も無きにしも非ずだがもしものことを考えると行動に移せない。
四つ目は当然九尾の再封印である。
「間に合ってくれよ・・・」
もはやマダラをしとめることはあきらめる。
どの道いずれはミナトの意思を継いだナルトが倒してくれるだろう。
しかし、うちは一族の悲劇を避けること。
これはナルトではなく、ミナトにしかできないことだ。
ぴりぴりと肌に刺激を与える九尾の驚異的なチャクラを全身で感じ取りながらヒビキは向かう。
おそらくの最終決戦の場所へ。