蓋を開ければ
「うし、そんじゃ準備はいいな、三人とも。」
掲げた手から二つのぬいぐるみを垂らすのはうちはシスイ。
彼はにこりと笑ってそういった。
☆ ☆ ☆
ヒビキは当然のごとく下忍となり、下忍となって初の活動。
それがサバイバル演習。カカシもやっていたソレである。
ちなみにこのサバイバル演習。もといアカデミーの卒業生をさらに振り分ける二次試験。
メンバーはイタチ、ヒビキ、タマモである。
当然、偶然ではなく作為的な物であるし、しかし止むを得ない事でもある。
写輪眼の扱いを教え、鍛えるのは同じうちはの班長をあてがうしかいない。
しかし、戦争後であることと、さらには九尾来襲によってさらに減った忍の穴を埋めるために優秀なうちはは特に頼られ、殆どが任務の消化に当たっている。
そうなれば当然うちはを分けてそれぞれうちはのいる班にうちはの上忍をーというのはいささか以上に非効率的である。結果。
一つにまとめて、優秀どころのうちはを当てるという方針になった。
「さて。今回はこのぬいぐるみを二つ。とってもらう。」
「・・・。」
「・・・ぬいぐるみ?」
「・・・かわいい。」
イタチはただ黙して、ヒビキはぬいぐるみに怪訝な表情を浮かべて、タマモは単純に紐につながれた小さな猫と犬のぬいぐるみの感想を述べていた。
「ちなみに取れなかったやつはアカデミーに出戻りってことで。」
「・・・。」
「・・・む。」
「・・・ど、どうしよう・・・」
「と、なるはずなんだが、まぁ時期が時期。上からその辺は融通を利かせろとの命でね。
というわけではじめからこの試験の目的を言っちまおうか。この試験の目的、それはチームワークの重要性の再確認だ。」
それを聞いて言われるまでもないという顔をする二人と、なるほど、と納得するタマモ。
「だからわざと仲間割れするように2つに・・・」
「そういうこと。そしてそれを自身で気づかせるのが試験官の役割・・・なわけだけど・・・」
「言ってよかったのですか?」
イタチが口を開く。
「ああ、問題ない。今は可及的すみやかに戦力の補充が重要とされてるからな。その辺は知っていれば、再確認すればそれだけで済む話。
とはいえ、いくらなんでもそのまま合格させる、というわけにはいかない。
お前らも知っているな?
戦争後しばらく経過したとはいえ、まだあぶれた忍がある種の盗賊としてはびこってるのを。」
「はい。」
「そういったやからから最低限、逃げるだけの力は持ってもらわないと里の外の任務なんてこなせない。てなわけで、その力試しもかねてるのがこの試験だ。
お前らの目的は俺の持つわんこのぬいぐるみをとること。それも無傷で、だ。」
「・・・。」
「・・・厄介な。」
「・・・大丈夫かな?」
うちはシスイ。
瞬身のシスイとも称えられるその彼からぬいぐるみを奪うこと。
それがヒビキたちの目的となるらしい。
「準備をしたらすぐに開始だ。
特に必要ないならこのまま続けるが・・・」
「大丈夫です。」
「僕も大丈夫。」
「わ、私も大丈夫です。」
「よし、なら・・・開始だ。殺す気で来てくれてかまわないからな。ただし絶対にぬいぐるみには傷をつけないように。」
☆ ☆ ☆
とりあえず僕とイタチで攻めることにする。
少なからず一緒に組み手をしてきた相手である。
動きをあわせるのはたやすい。
まずはにっくきイタチが手裏剣を投げ、そこに追従する形で僕も攻める。
体術でシスイの身のこなしを見てどれだけの忍術をどんな風に避けるかの検討をつけるためだ。
これによってぬいぐるみに傷を着けない、かつシスイに通用する忍術というバランスを取る。
イタチも瞬身でシスイの背後に回りこんでパンチを繰り出した。
僕は・・・
「木の葉烈風っ!!」
木の葉旋風の上位版とも言うべき蹴りだが、とどのつまり全身で滑り込むように繰り出す物凄い回転ローキックのことだ。
それがシスイに当たるという瞬間、シスイが消える。
さすがというべき身のこなし。
イタチも僕も写輪眼を使っているからこそ見失うとまでは行かない物の、瞬時に距離を取ったシスイに驚かざるを得ない。
イタチも驚いているかまでは分からないけど、多分驚いているだろう。
写輪眼だから気づけるくらいの小さな表情筋の動きが見て取れたし。
そんなことを考えてると、タマモが火遁を使う。
木の葉烈風を避けるためにジャンプし、空中にいるシスイには身動きが取れない。
「火遁 龍炎弾!」
サスケがイタチに対して使った豪龍火の術の下位に値する忍術で、ファンタジーゲームに有りがちな炎の弾を飛ばすファイアーボールをそのまま龍の頭に変えたような忍術である。
威力は低く、炎の勢いも弱いが、出が早く弾速自体も早いために当てやすい。頭にでも当てない限り大したダメージにはならないが、牽制や、目くらましには最適な忍術だ。
何だかんだでタマモも豪火球くらいは使えるはずなんだけれど、ぬいぐるみを気遣って使う術を変えたと言ったところか。
なかなか良いアシストだ。
僕は僕でクナイや手裏剣を龍炎弾の影に潜ませるように投げる。
イタチはイタチでお得意の当て投げ手裏剣で多角的に攻めていた。
当然、それらはどれもがシスイの腰にぶら下がってるチワワのぬいぐるみに当たらないような角度だ。
相変わらずすごい器用具合。
「こ、こいつらマジで下忍か!? てか、本当に遠慮が無いな!」
とかいいつつも余裕そうに弾くこの人もこの人だと思うが。
龍炎弾を同じく龍炎弾を使って弾き、その余波で僕の投げた手裏剣も弾かれる。
結構たたみかけているつもりでもこれ位だと普通に対応される。
ならば。
写輪眼の幻術を使うまで。
いまだ不完全な写輪眼でうちはでも優秀なシスイをどれだけ止めれるかは分からないが、なにはともあれ試して見る価値はある。
九尾の動きを止める、までは行かなくても緩慢にすることが出来た僕ならやってやれないことはない。
「っ!?」
シスイの動きが止まり、そこにイタチが接近していく。
これで決まり、か?
「イタチならともかく、未だ未発達の写輪眼に数秒とはいえ幻術をかけられるとはな。」
「がっ!?」
止まった状態から回復したシスイがイタチを蹴り飛ばす。
そのままこちらに向かってくるシスイ。
これは中々、難航しそうだ。
「お返しだ。」
「っ!?」
シスイの手にはいつの間にか無骨な槍が握られている。
それを飛ばしてくるシスイ。
当然、写輪眼を使える僕に避けれないはずが無い。
どこから槍を取り出したのかは後で考えるとして、普通に避ける。
が、それは直角に曲がって僕に突き刺さる。
あまりにあり得ない軌道に不意を取られ、血しぶきと同時に激痛が腕に走る。
「づあああっ!?くっ!?」
痛みに絶えかね、膝を突きそうになるがクナイで切りかかってくるシスイがそれを許してくれない。
すぐさまクナイを抜いて、受け止めたとき、ようやく気づいた。
僕のクナイをすり抜けて僕を切り裂くシスイのクナイ。
幻術にかけられているのだ。
今のあり得ない槍の軌道も不意を打たれて気づけなかったが、気づいておかしくない一撃だ。
「この・・・っ!!」
クナイできられた胸が熱をもち、じわじわと痛みが増していく。涙を出しそうになるも、それをぐっとこらえる。
これは幻術だ。
これは幻術。
痛みは錯覚。
飛び散る鮮血も幻に過ぎない。
気のせいだ。
幻術だ。
目を凝らす。
じっくりと目を凝らす。
現実を見切るように写輪眼をフル稼働させる。
が。
そう思い込みつつも、チャクラを乱しても幻術から出られる気配が無い。
これは本当に幻術なのか?
感じてる痛みは錯覚で、飛び散る血しぶきはただの幻。
本当にそうなのか?
もしかしたら自分の知らない忍術でただ穿たれただけなんじゃないか?
そんな不安がさらに僕のチャクラを乱し、より幻術への耐性を弱めていく。
どんどんと深みにはまっていくのを頭では理解していても、それを受け止めてくれずパニックを起こす感情。
そう思考してる間にも体は切り刻まれ、痛みが増えていく。
あまりの連続した痛みに脂汗をかきつつ、涙がにじみ出る。
「うちは一族を殺しきるなんてこの程度でよく言えたものだな。」
「・・・っ!?」
なんでそれを彼が・・・いや、違う。
これは幻術だ。
幻術というのは基本的に相手に働きかけるもの。
相手の想像(イメージ)を利用して使う忍術である。
よく考えれば分かるが、どういう幻術をかけるかをリアルタイムで考えていたら幻術を使う術者はそれ以外、何もできない。
ゆえに目の前のシスイは僕の想像が作り出した幻影。
うちはを、抹殺するのを目的としていることを知っていても不思議はない。
本体は当然イタチとタマモとやりあっているはずなのだから。
「殺しきるためにも下忍になるんだ。だからこんな幻術・・・すぐに出て・・・」
「出てどうする?
死にに行くのか?」
「・・・あんたと話す暇は無い。」
結局のところ幻術なぞ夢同然。
夢の中での会話なんてのは自分の世界で語っているに過ぎないのだから。誰かと接しているわけではない。ゆえに意味が無く不毛なものだ。
「第一、これは試験で死ぬわけじゃ・・・」
「結果的な話をしてるのさ。
ここでシスイ一人にてこずる用じゃ、勝てないといってるんだ。」
「・・・だまれ。」
「結局四代目火影も死んだ。
グダグダだったよな。漫画や小説のように何もかもうまくいくと思ったら大間違いだ。
あれでお前はわかったはずだろ?
諦めが肝心だって。」
「だまれ。」
「幻術というのは相手にある程度の指向性を持たせて夢の中に閉じ込める術のことを言う。
今回の術は・・・この感じからして心を折りにきてるな。それも割と本気だ。
さっきの幻術でつい本気になってしまったのか・・・それとも性格が悪いのか、何かほかの意図があるのか。単純に厳しい人だってだけの話なのか。何はともあれ幻術というのは大まかな方向性のみを術者が決め、対象がそれに対して過敏に反応するってだけ。」
「・・・だ、だまれ。」
「今回のことを例にとるなら、『心を折るように』とかけた幻術ならばそれを無意識に受け取ったお前は自分が心を折られるならどういうことをされたら折れるだろう?と考え−−−いや、考えさせられる。
そしてその結果が今の幻術だ。元日本人であり、いまだ実戦経験の乏しい自分のこと。
強い痛みで心が折れるだろう。
そしてそこに漬けこむように言葉責めをしてしまえばいいだろう。
そう考えた。結果が俺のセリフだ。」
「だまれっ!!」
それ以上言ってはだめだ。
言ったらもう・・・
「俺はお前だ。もっと正確に言えば深層心理が顕れた存在だ。
その俺が言ってるんだ。
お前は意識的にではないにせよ・・・すでに死ぬことを認め、ゆえに母親のミコトとキョウカのことも諦め−」
「だまれぇええええええええええええええええええっ!!」
認めない、認めたくない。
認めたら動けなくなるから。
だから何でもいい。
何でもいいから目を背けたい。
目の力を誇る一族に生まれておきながらもその目を背けたいと感じてしまうとはどんな皮肉だろうか。
このとき、僕の写輪眼が完全に開眼した。