組み手から数日。
ヒビキはお茶を飲みつつのんびりしていた。
「ほぅ・・・おいし。」
ほっと息を吐き、ゆっくりとする。
妹はまだ生まれたばかりで母親のミコトはそちらにかかりきりだ。
1人でのんびりとお茶を飲む。
学校ではイタチの観察と効率的な修行の考案。
家でも大抵は外で修行の毎日。
今日は久方ぶりの何も無い休日だ。
イタチの現在の力を見るにこうしてたまには休んでもいいだろうとの判断をしたのだ。
ちなみに家や修行中は常に写輪眼の状態である。
もちろん理由があり、写輪眼もしょせんは忍の道具。
その忍の道具の扱いを誰よりも上手くなるためにも常に写輪眼を使っているのだ。
事実、うちはマダラは常に写輪眼を使っていた。
自然に写輪眼で居られる状態まで持っていくのが理想である。
「ヒビキ?」
「・・・何?」
「ちょっと買出しに行ってきてくれないかしら?」
「・・・ん。」
ミコトからおつかいを頼まれ、頷き、立ち上がる。
母親からおつかいを頼まれる。
なんと平和な世か。
戦争を経験した、と言っても忍者学校(アカデミー)にも通っていなかったヒビキはソレを間近で経験した人間たちと比べると意識の違いが顕著だが、それでもあの全体的に空気がピリピリした里は嫌だった。
たまに里に入り込んだ敵忍が殺された場面に出くわしたこともあるし、恨みがましい目で死んでいくその目は咄嗟に目線を逸らすには十分に醜悪だった上に、悲しかった。
それが今や無い。
もちろん戦争の傷跡はそこかしこに色濃く残っている。まだ2年しか経っていないのだから。
戦争で各地の治安が乱れたためか難易度の高い任務が多いと聞くし、引退していたミコトまで借り出されることもある。
まったく、平和とはかくも大切なものだったのかと気づかされる。
そしてこの平和を守るためにも自分は負けられないのだ。
そう改めて気を引き締め、おつかいに行く。
「気をつけてね。」
「ん。」
ミコトの挨拶にヒビキはまたも頷きで返し、おつかい―――キョウカのオムツを買いに行くのだった。
☆ ☆ ☆
「あ。」
「ん?」
文字通り、あっと驚く、というよりは見かけてつい声を上げてしまった風な声の方向へ顔をめぐらせると、そこには同じクラスのもう1人のうちは。
「・・・名前は?」
「う、うちはタマモです。」
「タマちゃん。」
「た、タマちゃん?」
「何か用?」
はっきり言うと自分の家族を守るのが精一杯なヒビキとしては他のうちはに情をかけづらいし、かけたくない。
ちっぽけな同情心で救えるほどヒビキの手は広くないのだ。
情が移れば罪悪感を感じることになる。
助けたいのに助けられない自分の無力さに。
そんなのは御免だし、四歳の時に自分は思いのほか精神的に弱いらしいことが分かったヒビキとしては抱え込む荷は少ない方がいい。
そっけなく応対する。
「あの・・・それ写輪眼ですか?」
「あ。」
こんどはヒビキがあっとした番だ。
確かに写輪眼のままだった。
基本的にうちは一族には写輪眼が使えることを教えていない。
ギタンも他の一族に自慢はしていなかった。彼の性格からして、したかっただろうがそんなことになれば忍になれと他のやつらから言われることが分かっていたからだ。
わずか4歳にて写輪眼を開眼。
放って置く選択肢は無い。
さらに今の自分は戦争後で忍が大量に死んだ後。
知られれば小さいことは度外視で、すぐに下忍とされてしまう。
それは遠慮したい。
母親の話によると人手が足りないばかりに実力の割に酷な仕事を任される下忍が多いらしく、そんなことになれば再起不能になり、最悪死にざまをさらすことになる。
ヒビキは確かに早く強くなりたいが、それで無茶して怪我しては本末転倒なのだ。
それにもう少し。いつになるかは分からないがイタチが10前後の時に木の葉の里を九尾が襲う、九尾事件が起こる。
あと2、3年だ。
これがおそらく一番楽してマダラを倒しうる絶好のチャンス。
なにせ九尾を捉えに来たマダラ相手に四代目火影と共闘できるのだ。
できればその時に確実に潰したい。
そのためならば多少の修羅場をくぐるべきとも思うが、如何せん難しい選択である。
いっそのこと四代目に話して修行を付けて貰おうかとも考えている。
「秘密にしておいて。」
「その・・・あのイタチさんと互角に戦って、写輪眼も使えるなんて凄いんですね。」
「それで?何が言いたいの?」
「あ、いえ・・・その・・・」
ヒビキはそっけないまま。
「私は落ちこぼれだから・・・ヒビキさんなら分かると思いますけど。」
「知らない。見てないもの。」
「そ、そうですか・・・そうですよね。私なんて・・・」
どうも自分に自信が無い子のようだ。
ヒビキはため息を吐いて、タマモに向き直る。
その顔は自虐で塗り固められていた。
笑っていればさぞかし可愛い顔立ちであろうに。ちなみに髪はウェーブのかかった肩くらいのもの。
うちはでクセっ毛とは珍しい。
毛に注意が行っていたのが分かったのか、そのことに対してタマモが答えた。
「私は純血のうちはじゃなくて・・・」
「聞いてないよ。」
「は、はい。すいません。」
別にどうでもいい話だ。
半分とは言え、うちはの血が入っていては彼女も抹殺対象だろう。
「家を追い出されたとか言うユクモの娘?」
ありがちなのだが、こういった血統に誇りを持つ一族は一族間で結婚するのを当たり前とする。
その辺の馬の骨に惚れたのが遺憾で、追い出されたとかいった所。ヒビキもさわり位なら聞いたことがあった。
別に珍しくは無い話らしいのだが、今まではうちはの血を守るために殺していたそうだ。
木の葉の里に腰を落ち着けた今となってはそうした風潮は廃れて行ったらしいが、やはり風当たりは辛いのだろう。
事実この娘を今まで家の近くで―――うちはの区画で見たことが無かった。
うちはと名が付いてはいてもうちはの家紋を付けてもいない。
「は、はい。ユクモは父さんの名前です。死んじゃいましたけど。」
泣きそうになるタマモ。
なんだか苛めているようだ。
というか泣き始める。
「忍が泣くな。」
「でも・・・お父さん、帰ってくるっていったのに」
その時のことを思い出したのか、泣きじゃくり始めたタマモ。
そんなのは自分の家だってそうだ。
いつもと変わらず特に気負いもせずに父親のギタンは「すぐに帰ってくる。」とにこやかに笑ってそのまま逝ってしまった。
涙をハンカチでぬぐってやりつつ、ヒビキはそのまま翻る。
このままだと雰囲気に当てられて自分も泣きそうだった。
「またね。私、おつかいがあるから。」
「ふぇ・・・は、はい!」
何が嬉しかったのか満面の笑みを浮かべるタマモだった。
☆ ☆ ☆
「へぇ、タマモちゃんに会ったのね。」
キョウカにお乳を上げながら、晩御飯を食べるミコト。
「知ってるの?」
「聞いてただけだけどね。お父さんのユクモさんはパパの親友の1人で、結構やり手のうちはだったらしいよ?
私から見たらただのチャラ男だったんだけどね。なによりパパにキャバクラを教えた野郎だし、ぶち殺したいくらいなんだけど。」
「ふ、ふうん。」
殺気が溢れていた。
殺しはしないにしても本気で殴るぐらいはしそうだ。
というか多分したのだろう。
「ねね、タマモちゃんは可愛かった?」
「うん。まぁ。」
「そう!見てみたいなぁ!!
あ、でも、ヒビキとキョウカには叶わないでしょうけどね!ねぇ、きょうかぁ?」
「あぶ。」
撫でながら乳を懸命に吸うキョウカに向き直るミコト。同意を求めるような口ぶりに不機嫌そうに声を上げる。
ちょっと興奮して動いたせいか乳が口からはずれ、みっともなく口の周りを汚していた。
「あら、ま、ごめんねぇキョウカ。今、フキフキするからねぇ。」
にこやかに笑いながらキョウカの口の周りを拭くミコト。
それを見て微笑むヒビキ。
「今度、お家につれてきなさいよ。」
「え。」
「嫌なの?」
「いや、別に・・・」
「貴方、今までずっと友達らしい友達を作らないんだもの。母親としては心配なのよ?
ぜひとも見てみたいわ。ヒビキの友達がどんな子なのか。」
「・・・わ、分かった。」
友達というには気が早いし、もともと仲良くなるつもりは無かったのだが、母親にいらぬ心配をさせていたとは初耳である。
ただでさえ今の母親はたまの忍としての仕事と子育てや夜鳴きで心身ともに疲れている。
要らぬ心配はかけたくなかった。
それにうちはの家紋を付けることを許されていないというならばギリギリ彼女はセーフな気もする。
もともとうちは抹殺はクーデターを阻止するため。
ダンゾウのことであるから監視くらいはするだろうが、それでも殺すまでとはいかないだろう。
ちょっとだけ友達になってもいいかなぁと思い始めていたヒビキだった。